2020年4月。父隼人39歳、母綾38歳、長女愛菜18歳大学1年生、次女さくら15歳高校1年生、三女結絆3歳。僕たち家族は全員コーヒー好きだった。結絆はまだジュースだが、毎週日曜日の朝食後は、近所のスターバックスでカフェタイムを過ごすのがルーティーンだった。4月のある日曜日、いつものようにみんなでスタバでコーヒーを飲んでいると、突然隣の席から「先生」と声をかけられた。僕たちは驚いて、その声の方向を見た。そこにいたのは30歳くらいの若い女性で、「
綾が「あ、久しぶりだね」と話し出した。愛菜とさくらは、突然の展開にびっくりして、何事かとばかりにきょとんとしていた。綾が「あ、私のイラスト担当編集者の水野さん」と紹介してくれた。僕はZoomで綾と水野さんが会議をしているのをパソコン越しに見たことがある程度だったので、ほぼ初対面だった。愛菜やさくらも、綾がイラストレーターで、イラストの仕事をしていることは何となく知っている程度だった。
水野さんは僕たちを見て、「先生、ご家族ですか?」と尋ねた。綾が「ええ、初めて会うね」と答えた。水野さんは愛菜とさくらにも丁寧に「先生にはいつもお世話になっています」と挨拶してくれた。
「先生、来月の個展、お願いしますね。また、後でメールします」。
水野さんはそう言って席を立った。
「ママ、先生って呼ばれているの?」愛菜がびっくりした目で聞いてきた。「ママ、すごいじゃん!」とさくらも興奮気味に食いついてきた。
「まあ、一応先生ね。パパよりも稼いでいるし」と、綾はちょっと得意げに答えた。
「えー、そうなんだ!ママ、お金持ちー!」と愛菜が驚いて僕を見た。僕はちょっと面目丸つぶれだった。
「じゃあ、今日はおごってもらおうかな、ねえ、先生」と、僕はとぼけて綾にお会計伝票を渡した。
「はーい、今日だけね」と綾が笑いながら言い、レジで支払ってくれた。綾のスマホから「ペイペイ」と決済完了の音がした。
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2020年5月。父隼人40歳、母綾38歳、長女愛菜18歳大学1年生、次女さくら15歳高校1年生、三女結絆3歳。5月のゴールデンウィーク。綾の初めての個展が開催された。綾は本名ではなくペンネームの「愛桜」で活動しており、顔出しはしていなかった。会場は渋谷のラフォーレ原宿だった。
僕と綾は、愛菜、さくら、結絆を連れて会場へ見に行った。入場30分前に到着すると、会場の外にはすでに多くの人だかりができていて、数百人もの入場の順番待ちの列ができていた。愛菜は手で口を押え、「すごい……」とだけつぶやき、驚きを禁じ得ない様子だった。さくらも、初めてのポップアップイベントのせいか、とても緊張しているようだった。僕たちも列に並び、入場を待った。
しばらく並んでいると、担当の水野さんがそっと近づいてきて、綾の耳元でささやいた。「先生、大盛況です。1週間の期間限定では足りなかったですね」。そう言うと、彼女は会場の中へ入っていった。やっと入場できた時には、すでに会場は満員で身動きができなかった。客層は20代から40代の女性が多かった。
綾の得意なイラストは動物で、特に犬、その中でも柴犬のイラストがファンから絶大な人気を得ていた。柴犬と人物との絡みのイラストも好評だった。各イラストには値札が付いており、それぞれ大きさに応じて1万円から5万円の値がついていた。しかし、始まって1時間で既に半分くらいに「売約済み」の札が掛けられていた。水野さんが言うには、1人で10点も買い占めた熱狂的な女性ファンもいたらしい。当初は販売する予定はなかったそうだが、初の個展開催の情報が解禁されると、編集部に「愛桜先生のイラストを買いたい」という電話やメールが殺到したため、急遽販売することにしたのだという。各イラストブースでは、「素敵ね」「かわいい」「欲しかったのに、もう売れちゃった」といった声が多く聞かれ、綾のイラストの人気ぶりが肌で感じられた。
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順路に従って進むと、奥にひときわ多くの人だかりができているブースがあった。「きれい」「憧れるね」「なんか感動するね」といった声があちこちから上がっていた。やっと近づいてそのイラストを見ることができた。それは、「家族」のイラストだった。
僕はそのイラストを見た瞬間、「これは、結絆が生まれた病院を退院した朝のイラストだ」と直感した。2月13日、家族みんなで病院の玄関で撮影した写真。その写真をもとに綾が描いたのだった。隣で愛菜とさくらが、目に涙を浮かべていた。絵の中には、ママが小さな赤ちゃんを抱っこし、その隣にパパがいる。手前には2人の女の子。ママが抱っこする赤ちゃんのお姉ちゃんたちだ。まさに、あの朝の僕たち「家族」そのものだった。
「こんな家族に憧れるね」「愛桜先生の人物だけのイラストって珍しいね。欲しいけどダメみたい」と、若い女の子のグループが話しているのが聞こえた。タイトルは「家族の絆」。そのイラストの下には、大きく「非売品」の札がかかっていた。
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会場の外に出ると、作者である綾の写真が飾ってあった。顔出ししていないので後姿だけだが、僕たち家族は、その後ろ姿が綾であるとすぐに分かった。しかし、会場に来ていたお客さんたちは、まさかこの会場に「愛桜」本人が来ていたことに気づいた人は誰もいなかった。
電車で帰宅する途中、愛菜が言った。「ママってやっぱすごいね。あんなにたくさんの人たちをイラストで感動させることができるんだもの」。そう言って、愛菜は綾の手をぎゅっと握った。さくらは「あのイラスト、全部売れたら幾らになるの?」と無邪気に笑っていた。
松原隼人:1980年5月12日生まれ 1998年7月5日(18歳2か月)初体験 システムエンジニア 月収40-50万円 身長175cm
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松原 綾:1981年7月5日生まれ 1998年7月5日(17歳)初体験 桑都八王子東高校新体操部キャプテン イラストレーター ペンネーム
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松原
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松原さくら:2004年11月10日生まれ(次女)K大学付属K女子高校1年 新体操部 産婦人科医志望 身長155cm Bカップ 2020年3月(15歳)ファーストキス
____________________________________________松原
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松原忠晴:1950年8月31日生まれ 2006年7月7日死去(55歳) 隼人と綾の父
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松原清美:1952年3月10日生まれ 2006年6月15日死去(54歳) 隼人と綾の母
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小川
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小川真一郎:1961年生まれ 結翔の父 区議会議員
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小川由美子:1964年生まれ 結翔の母 専業主婦
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吉田有紗:1964年生まれ 弁護士 K女子中学校高校出身 K女子高校同窓会長
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高畑みずき:1964年生まれ K女子高校養護教諭
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30年前の妹:1970年生まれ みゆきの母 2014年乳がんで死去(44歳)
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山田美咲:綾の桑都八王子東高校の同級生 新体操部副キャプテン ケーキ作りが趣味
____________________________________________水野さん:2020年当時30歳くらい 綾のイラスト担当敏腕編集者