中川先輩たちから吹奏楽部を引き継ぎ、私は部長になった。
先輩たちの姿を見ていたとはいえ、新入部員たちの面倒を見たり、部活動の目標を決めるのはやはり大変だ。
副部長の秀一やドラマメジャーの麗奈は協力してくれるが、この2人が相性が悪いのも悩みの種だったりする。
今までも部員同士の仲を取り持ったり、トラブルを解決してきた事から"黄前相談所"などと呼ばれているが、相談にのってほしいのはこっちの方だと言いたくなる。
今年も何かしらの問題は起きるんだろうなぁとは思っていたが、強豪校からの転入生が入部してくるのは予想外だった。
黒江まゆちゃん。担当楽器は私と同じユーフォニアム。
奏ちゃんも含めればユーフォニアムは3人になるので音に厚みを持たせられる事が期待出来ると思っていた。この時までは…。
府大会と関西大会を勝ち抜いて全国大会に向けてのメンバーとソリストのオーディションも迫ってきた日の事。
下校の最中にバイクによる引ったくりに遭い、体勢を崩して車道に倒れ込んでしまい、後続車両に轢かれてしまった。
そこで私は意識を失ってしまったようだ。
目が覚めると天井が見えたのでベッドに横になっていたことが分かった。
周りを見回すとお母さんにお父さん、それとお姉ちゃんが揃っていた。
お母さんは涙を流していて、お父さんやお姉ちゃんは悔しそうな顔をしている。
「みんな、どうしたの?」
『久美子!』
お母さんが抱きついてきた。
「苦しい〜」
いつかの浴衣の着付けを手伝ってもらった時の事を思い出しながら、右腕で背中をさすろうとすると感覚がない事に気付いた。
ゆっくりと視線を移すと、そこにはあるはずのものがなかった。
「…えっ?」
事故に遭うまでは確かにあった筈の右腕が無くなっていた。
「何、これ?何で腕がないの!?」
それからの私はパニックを起こして、看護師や医者に何かの処置をされたようだった。
みんながそのまま付き添って残ってくれた翌朝に私は担当医から事故の後の事を聞かされた。
病院に着いた時点で折れた右腕の骨が皮膚を突き破り、筋肉から神経、血管までズタズタとなっていたので緊急手術となったが、手の施しようがなく切断するに至ったらしい。
「それじゃあ、コンクールは?私、もうユーフォ吹けないの?」
突然の出来事に涙すら浮かんでこない。
『残念ですが…』
それから義手の勧めやリハビリなどの話もあったが、そんな事はどうでも良かった。
今まで積み上げてきたものも、あすか先輩から引き継いだものも全て無くなってしまった。