南の海を渡る船の甲板で、飯島啓太はぼんやりと水平線を見つめていた。都会の喧騒と終わらない仕事に心をすり減らし、彼はすべてを終わらせるためにこの離島へ来た。最後の十日間だけ、何も考えずに過ごそう――それが彼の決めたことだった。
古びた民宿で彼を迎えたのは、孫娘の九条立佳。小麦色の肌に潮風で揺れる黒髪、少し大人びた瞳をした中学生だ。
「この島で何か面白い遊びないかな?」
力なく笑う啓太に、立佳はいたずらっぽく笑った。
「ケータに、私が教えてあげるよ」
翌朝から、二人の日々は動き出す。堤防での釣り、透き通る海での素潜り、亜熱帯のジャングルを抜けて辿り着く秘密の滝。最初は戸惑っていた啓太も、立佳の無邪気な笑顔に引っぱられるように、次第に童心を取り戻していく。波に足をすくわれて手をつないだ瞬間、心臓が跳ねる。夕焼けの浜辺で並んで座る。
潮の匂いを含んだ風が、古い民宿の縁側を抜けていく。
「ケータ、ぼーっとしてると日焼けで真っ赤になるよ?」
麦わら帽子を揺らしながら、九条立佳が笑った。小麦色の肌に白い歯が映える。その無邪気さに、啓太は一瞬言葉を失う。
「……立佳は毎日こんな海見てるのか。贅沢だな」
「そう? でもね、毎日だと当たり前になっちゃうんだよ」
彼女はそう言って、素足で桟橋を歩き出す。啓太はその背中を追いながら、不思議な感覚に包まれていた。終わらせるために来たはずの島で、胸が少しずつ温まっていく。
翌日は釣り。立佳は手際よく餌をつける。
「はい、ケータ。こうやって、優しく投げるの」
「優しくって難しいな」
「力入れすぎ。ほら、そんな顔してたら魚も怖がるよ?」
からかわれ、啓太は苦笑する。会社では常に張りつめていた表情が、いつの間にかほどけていることに気づいた。
海に飛び込めば、水しぶきの向こうで立佳が笑う。
「ケータ、遅い!」
「待てって、中学生に負けるのは悔しいんだぞ」
「へへ、じゃあ追いついてみて?」
振り返った瞬間、目が合う。陽射しを透かした瞳に、どきりとする。立佳は慌てて視線を逸らした。大人の男性とこうして二人きりで過ごすのは初めてだった。背の高い肩幅、低い声。自分の知らない世界を知っている人。その存在が、胸をくすぐる。
夜、縁側で花火をしながら、立佳がぽつりと言う。
「ケータってさ、大人だよね。なんでも知ってそう」
「そんなことないよ。知らないことばかりだ」
「うそ。私なんか、学校もちゃんと行けなくて……」
言いかけて、唇をかむ。啓太は静かに問いかけた。
「何があった?」
立佳は少し迷い、やがて打ち明ける。本島の学校での酷いいじめ、不登校になったこと、ここで祖母の民宿を手伝っていること。
「みんなみたいに、ちゃんとできなかった」
「ちゃんと、って何だろうな」
啓太は夜空を見上げる。
「俺もさ、ちゃんとした大人になれなくて逃げてきたんだ」
その言葉に、立佳ははっとする。
「逃げ、てきたの?」
「ああ。仕事が嫌で、全部投げ出したくなった」
立佳は少し怒ったように眉を寄せる。
「でも、ケータは何もしないで終わる人じゃないと思う」
真っ直ぐな瞳。計算も打算もない、ただの本心。啓太は胸を衝かれる。都会で出会ってきた大人の女性たちにはない、透明な光。
(こんなにも、まっすぐな人がいるのか)
一方の立佳も、隣に座る啓太の横顔を盗み見る。疲れを滲ませながらも優しく笑うその顔に、憧れが滲む。
「ねえ、ケータ」
「ん?」
「十日間って言ってたよね。そのあと、どうするの?」
問いかけは軽いふりをして、指先はぎゅっと花火の柄を握っている。
啓太は答えに詰まる。だが、今はもう“終わり”だけを考えてはいなかった。
「……まだ決めてない。でも、もう少し考えてみるよ」
「そっか」
立佳はほっと息をつき、笑う。
波音の中で、二人の距離はゆっくりと縮まっていく。大人に憧れる少女と、純粋さに救われる青年。触れそうで触れない距離が、かえって胸を高鳴らせる。
最後の日まで、あと8日、。南の島の夜風が、そっと二人を包み込んでいた。
啓太と立佳の奇妙な共同生活が始まった。昼下がりの砂浜で二人は素潜りを楽しんでいた。沖合で浮き上がる際に足を引っ張られた立佳が啓太にしがみつく。「おいっ!危な……」「ごめん!でもこれしか泳げなくて……」濡れたTシャツ越しに感じる柔らかな曲線。
啓太が反射的に腕を回すと、驚いた立佳が見上げた。
「ケータ……?」
「大丈夫か? 怪我は?」
湿った髪が額に貼り付いた少女の顔。目の奥で動揺が揺らいでいる。啓太は咄嗟に目を逸らした。
民宿に戻り日没後の縁側。啓太は缶ビールを開けたが立佳は冷たい緑茶。「あのさ」と切り出した声は波音に消えそうに小さい。
「今日……ケータの腕の中で思ったんだけど。私のこと子ども扱いしてる?」
問いに詰まりながら答える。「違う。年齢は問題じゃない。大事なのは……気持ちだろ?」
立佳はグラスを置き膝を抱えた。
影の中でも頬が紅潮しているのが分かる。「でも私……どうしたらいいのか分からない。ケータのこと……好きなのかもしれない。けど、“好き”ってどういう感じなのか分からなくて」
沈黙。遠くで打ち寄せる波。啓太は彼女の前に膝をつき、震える指を取った。触れた瞬間互いにびくりとする。
「目を見てごらん」
促され顔を上げると潤んだ瞳が蛍光灯に光る。
ゆっくり顔が近づく──唇が軽く触れた時、立佳は小さく息を飲んだ。すぐに離れようとすると背後から強く抱き寄せられ二度目のキスは長く深かった。
「……っ……」
唇が離れても胸の鼓動が止まない。立佳は涙ぐんだ。「これ……これが“好き”? 息ができなくなるくらい苦しいのに……嬉しくて……」
啓太は額を合わせ囁いた。「苦しくても離れない。それが恋だと思う」
初めての夜のキス。二人はただ黙って肩を寄せ合い水平線に沈む三日月を見つめた。波音はいつもより静かだった。
翌朝からの二日間は一層親密さを増した。しかし表向きは変わらず無邪気に遊ぶ。釣りや潮干狩り。時折ふざけて水を掛け合ったり土手に寝転がり青空を仰いだり──。
「ねぇケータ!」立佳が突然大声を上げた。
「私ね昨日の夜考えてたの。もし恋人同士なら……もっと色々あるよね?」
意味を悟った啓太が苦笑い。「立佳はまだまだ早いんじゃないか?」
「早くなんてないもん!」頬を膨らませ立ち上がった少女は草履を脱ぎ捨て裸足で岩場を駆け出す。啓太が追いついた時には既に海へ飛び込んでいた。
水しぶきの中で振り返り笑う姿は眩しい。そして不意に真剣な眼差し。「ケータが……私の体見てどう思う?」
挑発とも祈りともつかぬ台詞に鼓動が跳ねる。午後の木陰で初めて二人は衣服を解いた。
麦わら帽子だけ残し白いワンピースを脱ぎ落とした立佳は貝殻のように淡い肌を晒す。啓太の喉仏が動くのが見えた。まだ幼さを残した凹凸の少ない体、しかし、妖精のような美しさがあった。
「綺麗だ」思わず漏れた呟きに彼女は恥ずかしそうに腕をクロスさせるも引きはがされた。
「恥ずかしいから早く触って……!」
強張る背中にそっと手が添えられる。熱くて硬い掌が肌を撫でると肩が震えた。乳房には触れず腰骨から脇腹へ滑らせお尻を撫でるだけで全身が燃え上がる。
「っ……ひゃあっ……!」
首筋に吸い付かれた瞬間立佳の脚が崩れ落ちた。啓太は支えつつ微笑む。
「急がなくていい。俺達のペースで進めよう」
だが当の本人は既に昂っていた。膝立ちになり啓太のベルトに手をかける。「立佳?」「教えてくれたんじゃない。こうすれば男の人だって喜ぶんでしょ?」困惑する啓太をよそにジッパーを下げれば隆起したモノが現れた。
「大きい……痛くない?」
好奇心と不安が入り混じった様子に啓太は諭した。「無理しなくていい。まずは触れてごらん」
恐る恐る指を這わせた途端自分がしたことの重大さに気づく。その時初めて男性器を凝視した彼女の瞳は潤んでいる。
「ドキドキしてきた……ケータは平気?」
答え代わりに頭を撫でると勇気づけられたように舌先が触れた。鈍い快感と罪悪感がない交ぜになり啓太は天を仰ぐ。
一方立佳は未知の感触に戸惑いながらも夢中になり始めていた。歯磨き粉の味が残る口内で温かい塊を弄ぶ。
「んんぅ……ふぅっ……」
唾液で濡れる屹立。初めてなのに必死で奉仕する姿が愛らしくもあり哀しかった。
しかし限界が近づくにつれ啓太は腰を引き離す。
「ごめん。これ以上は理性保てなくなる」
「……だめ?」
「ダメじゃないけど……俺が壊しちまいそうだ」
立ち上がりズボンを上げた啓太に対し半裸のまま拗ねる少女。
「ケータのバカ! 私だってちゃんと考えてるのに!」
だが心臓の早鐘を抑えきれぬ二人はしばし呆然と対峙した。遠くでヤシの実が枝を揺らし風に運ばれる香りさえ淫靡に思えた。
翌日の午後、嵐が過ぎ去った後のような静寂。屋根裏部屋の薄暗い布団の上で啓太は緊張した面持ちで正座していた。
扉が開き立佳が入ってくる。浴衣の裾から覗く素足が微かに震えている。
「準備できた?」
「……うん」
俯いたまま畳へ正座。布団を挟んで向かい合う奇妙な距離感。
「怖いか?」
問われてゆっくり首を振るが睫が小刻みに揺れている。
啓太は立ち上がりそっと肩を抱いた。触れた部分から電流が走り身体が反応してしまう。
「嫌だったらすぐ言えよ?」
「言わない! ケータだから……したいの」
震える声に導かれ口付け。今度は深いものだった。舌を絡めながら押し倒せば浴衣が乱れ白磁の肌が露出する。
胸元に埋められた吐息。「すごい音……」
「立佳こそ鼓動、。暴れてるぞ」
冗談めかして言いながら乳首を摘まむと鋭い嬌声と共に弓なりに背筋が伸びた。
「あぁんッ!そこ……やぁっ!」
敏感すぎる反応に驚きつつ指使いを緩める啓太。だが痛みではなく悦びだと理解し甘噛みへ移行すると甘い嗚咽が耳朶を打つ。
「も……ダメぇ……変になる……!」
「じゃあもっと変になろうか?」
低く囁けばショーツ越しでも分かるほど溢れた蜜。慎重に下穿きを剥ぎ取り膝を割ると産毛のように薄い陰毛の下で秘裂がひくついている。
「綺麗だな」
「見ないで!汚いよぉ!」
顔を覆い号泣する立佳。しかし止められず愛液を啜る啓太の舌技によって絶頂へ導かれる。
「ひぃっ!やっ!やめ……んぁあっ!」
ガクガク痙攣しながらも膣口から新たな潤いが噴出する。充分に拡がったそこへ指を挿入しようとした瞬間腰が跳ねた。
「いっ……た…っ!?」
傷一つない処女膜に爪が掠めただけでも鋭い痛みが走ったらしい。それでも立佳は唇を噛み締め耐えた。
「続けて……お願い」
健気な要求に応えつつ肉壁を探る。やがて一点で絞るように締まり甘美な喘ぎへ変わる箇所を見つけた。「ここ良いのか?」「わかんな……いけど……気持ち良すぎておかしくなっちゃうぅ!」
準備完了。啓太も遂に全裸になると自らの剛直を眼前に晒す。立佳は惚けた眼差しでそれを凝視し再び口中へ招き入れた。
「んむぅ……んっ……」
拙いながらも懸命に舐めしゃぶり硬度を増す屹立。十分すぎるほどの愛撫を受けた女体も待ち焦がれるように収縮している。
「いいか?」
「きて……ほしい」
承諾を得て膣口に照準合わせ挿入開始。メリッと膜が破れる感覚と共に少女の喉から叫びがあがった。
「ぐぅあぁッ!! 痛い!!!」
全力で拒絶するような締め付けにも拘らずゆっくり前進し完全結合。啓太自身も耐え難い圧迫感と快感に脂汗が滲む。
「ごめん……辛いか?」
「うんっ……でも嬉しい……私…ケータと繋がってる……!」
血塗れの結合部からは鮮血が流れ枕元を汚したが立佳は幸せそうに笑う。
徐々に律動を始めると鈍痛の中に新たな快楽が芽生えてくるのが伝わる。「んっ……くぅ……ふあっ!」
激しさを増す抽送。押し広げられ傷ついた媚肉が疼きながらも慣れていく奇妙な調和。啓太は最奥を突きながら同時にクリトリスを擦り上げた。
「~~~ッ!!」
声なき絶叫と共に絶頂に達し潮吹き。それに伴い強烈な吸引を受けた男根も限界に達する。
「くそっ……出すぞ!」「なかに……来てぇぇっ!」
ドビュッドビュッ
最後の一突きと同時に大量の精液が子宮口へ叩きつけられた。
あまりの量に逆流し敷布を染めていく。
果てた直後でも二人は抱き締めあったまましばらく動けなかった。汗と愛液と血液と精子の混合物で濡れた肌から放たれる濃厚なフェロモン。
「立佳……本当にありがとう」
「こちらこそ……私ケータ無しじゃ生きていけないかも……」
幼さとは裏腹な完成された女性としての魅力を放ち始めた少女の肉体。このままではいずれ妊娠させてしまう危険性すらある。
けれど今は何よりも幸福感だけを求め続けた。
四日目以降は箍が外れたかのごとく貪欲な性交に耽溺した。朝も晩もなく求め合う獣じみた営み。
林の中で獣の体位で繋がったり波打ち際で臨海交尾。木の幹に押し付けられた尻たぶを掴み後方から貫けば少女の羞恥心と解放感が頂点に達し淫猥な笑みを浮かべて絶頂した。
「もっとっ!もっと激しく!」「壊れても知らないぞ?」
パンパンという打擲音と水音が入り混じる異常空間。
汗と海水でベタつく肌を重ね続けることでどちらがどちらの境界線かも曖昧になっていく。
五日目にはついに昼間の民宿玄関前ですら欲望を満たそうと試みた。バレないよう柱陰に隠れ啓太の剛直を咥え込む立佳。唾液塗れの肉棒を突き出し跨った彼女が自ら上下運動を行う痴態は想像以上に刺激的だった。
「声殺せよ!聞こえるだろ?」
「っ……んふぅ……むりぃ……!」
抑えきれぬ快感に溺れるあまり嬌声を漏らしてしまう。幸い通りかかる人はいなかったものの危険極まりない情事。しかしリスクすら快楽へと変換されてしまった二人にとっては最高のスパイスとなった。
六日目夜には寝室で特別なプレイを試みる。目隠しした状態で足指まで丁寧に舐められビクビク震える立佳。次第に啓太も興奮して両手を拘束。擬似的SMに近い行為であるにも関わらず少女は陶酔し口角から涎を垂らしながら喘いでいた。
「あはぁ……すご……またイクぅ!」
連続絶頂により意識朦朧となりつつも求める声は止まらない。「ケータだけ欲しいの!もっとちょうだい!」その刹那啓太の中で凶暴な支配欲が渦巻くがギリギリ踏みとどまり慈愛あるセックスへ戻した。
〔やばい、立佳はまだ子供なのに、俺の支配欲がやばいことになっている)新鮮な果実のような幼い肉体に自らのものをねじ込みながら啓太は独占欲を募らせていた。
「立佳❤️」彼女の細い足を淫らに開かせて弾むように腰を振る啓太!その内面にある独占欲はエスカレートする。「ああぁぁっ!」
立ちバックで貫く。灯りに照らされる肢体は神々しくもあり淫靡だった。聞こえる悲鳴じみた歓喜。
「啓太の女にされる…!孕んじゃう……!」
「孕めよ!俺の子種で!」
ドビュッドビュッーーーーーーー!
理性などとうに消え去った雄叫びと共に膣内へ解き放たれる白濁液。子宮を叩く勢いで注入される衝撃で意識が飛ぶ立佳。
中だしされ、大股開きとなり膣穴を露わにする少女へ。
頭が沸騰しそうになるほど異様な興奮状態。開放感と背徳感が融合した時間に酔いしれた。
最終日に島で自殺をしようと言う思いはいつの間にか消えていた。
しかし、もう一度東京に戻って、仕事をやり直す勇気は無い
そして、いよいよ明後日には、島を去る日が近づいていた。
南の島の約束
「啓太さん」
民宿の老婆・千代が庭先に佇む啓太を呼び止めた。干潮時の海を眺めていた啓太は振り返る。
「お話があります」
夕食の支度を終えた千代が啓太を客間に案内した。八畳ほどの畳部屋に陽が差し込み、立佳の描いた壁の落書きが目に入る。
「お茶でも飲みながら話しましょうか」
湯呑みを差し出す千代の手は皺だらけだった。
「実は……」
声を詰まらせた千代は、ふと窓の外を見た。立佳が宿の前の砂浜で貝殻を集めている。遠くからでもわかる無邪気な笑顔。
「あの子のことなんです」
啓太は息を飲んだ。
「事故のことは……」
「聞いています」
「夫婦仲は良かったんです。でも三年前……大型トラックに撥ねられて」
千代の目尻に光るものがある。
「保険金で家計は立て直せましたが、それ以来あの子は塞ぎ込んでしまって。学校にも行けなくなりました」
啓太は拳を握りしめた。立佳が以前、「逃げてきた」と告白した時を思い出す。
「啓太さんが来てくれて、本当に感謝しています。あの子に笑顔が戻ってきた。だけど……」
老婆は湯呑みを両手で包むように持った。
「私ももう七十歳。いつまで面倒を見られるかわかりません」
啓太は視線を落とす。
「啓太さん。あなたさえ良ければ……この島に残ってもらえませんか?民宿の手伝いをしながら……立佳と一緒に」
予想もしなかった提案に啓太は言葉を失った。千代は静かに続ける。
「立佳はあなたのことを慕っています。『ケータみたいな大人になりたい』と言っています」
ふと部屋の隅に目をやると、小学生時代の立佳の写真が飾られている。家族三人で旅行に行った時のものだろう。
「もちろん無理強いするつもりはありません。ただ……あの子の未来を考えると……」
啓太の脳裏に、都会での孤独なオフィスワークが蘇る。電車のラッシュアワー、無機質なコンピューター画面、上司の冷たい視線……。
「時間が欲しいです」と啓太は言った。「立佳とも話し合ってみます」
その夜、海岸線に面した縁側で啓太と立佳は並んで座っていた。波の音だけが響く静寂の中、啓太が切り出す。
「千代さんから話は聞いたか?」
「うん……」立佳は膝を抱え込んだ。「おばあちゃんが心配してるのわかってる」
夕闇の中でもわかるほど耳が赤くなっている。
「立佳はどうしたい?」
「え?」
「俺がこの島に残ることについて」
少女は長い間沈黙した。やがて小さな声で言う。
「ケータは……東京に帰っちゃうの?」
「それは……」
「もし帰るなら……私も連れて行って!」唐突な叫びが波音を切った。
啓太は驚いて身を乗り出す。
「冗談じゃないぞ。中学生が一人で東京へ行くなんて無理だ」
「だって……離れたくない!」立佳の目に涙が溜まる。
啓太は深く息を吐いた。
「俺も正直に言う。最初は十日間で全て終わらせるつもりだった。でも……今は違う」
月明かりが二人の間に落ちる。
「立佳と会えて良かった。こんな気持ちになれるとは思わなかった」
立佳は俯きながら尋ねた。
「ずっと一緒にいられる?」
「俺はこの島に残るよ。」
啓太は決意を固めた。砂浜に立つニ人の姿を月明かりが黄金色に染める。
もう迷いはない。彼は明日だけを見つめていた。