童貞魔女(♂)オーウェンはチンチラ奴隷を嫁にする 作:ケロリビドー
カーラの出産が済んで、オーウェンは倒れるように娼館に割り当てられた部屋のベッドで眠った。新生児たちが人間よりも小さかったので施術はスムーズだったが、四人連続で子供を取り上げるのは初めての経験でとても緊張したのだ。時々ザジが来て様子を見ていったり、遠くで赤ん坊の泣き声や慌てる娼婦たちの声などが聞こえていたがねばつく眠気には抗うことができなかった。
まどろみの中で夢を見る。ふんわりとした朝の光の中、エプロンを身に着けて赤ん坊を抱いたザジがこちらを見て幸せそうに微笑んでいる。それはまばゆいばかりに輝いて、それが自分にもたらされていることを感謝しながら抱きしめようと手を伸ばすと、突然外は真っ暗な夜闇に変わり、黒い茨のような紋様がザジと新生児のやわらかな肌を覆いつくしてしまった。
目を覚ましたオーウェンは自分が悲鳴を上げているのに気が付いた。
「どうした!? オーウェン坊!!」
「オーウェン様!!」
悲鳴に驚いたライザとザジがドアを開け放って飛び込んで来た。亡霊のような容姿の男が目を剥いて、虚空を掻き抱いて口を大きく開けているので、二人は一瞬オーウェンが死んだかと思った。
「……あっ……、おはよう……えっとね、怖い夢見た……」
ギロリと小さい黒目をこちらに向けてオーウェンの放った言葉があまりにたわいないので二人はがっくりと肩を落とす。
「なんだい! 人騒がせな!!」
「アカチャンか!!」
「ごめん……ごめん?」
ザジが持ってきた蜂蜜をたっぷり入れたあたたかい乳を飲み干し、オーウェンはやっと落ち着いた。
「睡眠は足りたかい? 今後の話をしないといけないよ。あの奴隷娘と四匹のちびをどうするかだ」
ライザが簡素な椅子にどっかりと腰を下ろし、脚を組みながら話しだす。
「拾った責任はあるし、出産の場所も提供したけど、このままここに居させるわけにはいかない。気持ちとしてはいくらでも居させてやりたいが、こっちも客商売だ。赤ん坊が四人もゴギャ泣きしてるようなとこで男を相手するわけにはいかないよ。スッキリ抜いて帰りたい客に夢見させてやらなきゃならないからね。一番ジャマだろ、赤ん坊の声なんてのは」
「アネさん、主人がいなくなった奴隷って世間的にはどういう扱いになるんだい?」
「あんたもザジちゃんのことを買ったんだろ? 契約書みたいなもの書かなかったかい? それに書いてあるんじゃないのかねえ」
「そういえば書いたな……どこやったっけ……」
「野良の奴隷を拾った者は奴隷商人のところに連れて行けば、そのまま主人になる契約をするかそうでなければ売値の半額で買い取ってもらえるはずですよ」
「……そうか。嫁御さんは奴隷市場にいたんだものね。そういうの見てきてるか」
三人は狭い部屋で膝をつき合わせて今後の動き方を考えた。そこに、純朴そうな娘が一人入ってきた。分厚い眼鏡をかけてもじもじと話し出す。
「おかみサン、今日のお店はどうするかってみんなで話してるんですが……どうなんですかねェ」
「チビ達の行き先が決まらないことには開けられないねえ……。ああ、そうだ。オーウェン坊、この娘はアメリアって言うんだが、最近田舎の方から売られてこの店に来たんだけどどうも奥手でね、まだ客は取らせてないんだ。雑用が得意なんでいろいろ働いてもらってるんだが、もしあんたがあの母子たちをどこかに預けるあてがあるってんなら、あたしからはアメリアを乳母に貸すってのはどうだい」
「へ!? ヘェ!? おかみサン!?」
急に水を向けられたアメリアはまだ話がわからず、目を白黒させていた。
「勝手に決めて悪いが、この店じゃなくてあたしが個人的にアメリアを乳母として雇うことにするよ。アメリアはその家に行ってチビ達の面倒を見て、その賃金はあたしが払う。それなら預けやすいんじゃないかい?どうだいアメリア、もっとおちんぎん欲しくはないかい?」
「アネさん……」
「自分の意思で始めたことは自分が納得できるまでちゃあんとやる。あたしも若いころエウェンさんに言われたんだよ。ほんとはあたしが引き取ってやれればいいんだけどね。もうこの商売に骨をうずめる気でいるからさ……まったく、もうちょっと世の中が良くなればこんな仕事辞めて孤児院でもするのにね」
ライザは、この街の寄る辺のない女たちみんなの母親のようなものだった。彼女の心根が気に入ったエウェンは、女の困りごとを解消する道具のあれこれを彼女に融通することに決めた。ライザもまたエウェンを気に入り、その息子であるオーウェンを見守ってきた、また一人の母代わりだった。
「わかった。そこまで言うならアタシが預け先を探してみるよ。少しの間待っててくれるかい」
「客とる部屋から一番遠いとこにでもいてもらってなんとかするか。よしアメリア、みんなに店を開けろって言っておいで」
「は、ハイ!」
オーウェンとザジは数日ぶりに娼館を出た。箒はまっすぐ庵に戻るのではなく、いつもと違う道を進んだ。
「庵に帰らないのですか? オーウェン様」
「ちょっと……相談」
ザジは口をへの字に引き結んだオーウェンの顔を見上げた。別にこの人がここまですることないのにな……と思う。カーラはザジの同郷だが別にそんなに仲がいいわけではなかったし、別にカーラの子供の父親がオーウェンなわけでもないのになんでこの人はみんな背負いこんでいるんだろう。そんなことを考えていると、箒は見覚えのある森小屋に着いた。以前かじり木を貰いに来た木こりの夫婦の住まいだった。今日もエブリンが洗濯物を干している。
「あらオーウェン、ザジちゃん、いらっしゃい。最近よく来てくれるのねえ、とっても嬉しいわ。もうこの間の枝は全部かじっちゃったのかしら」
「おばさん!! 一生のお願いです!! 女一人と子供四人!! 預かってくれませんか!!!」
挨拶もそこそこに、オーウェンは目を閉じて大声で叫んだ。奥の方で作業をしてたらしいアランがなんだなんだと姿を見せる。
「え? どうしたの? 子供? ねえザジちゃん、オーウェン何言ってるの? 子供?」
「オーウェン様、落ち着いてください。オーウェン様がもんもん考えてた内容、口に出して言わないと誰も共有できないんですよ。とにかく、ちゃんと話しましょ、ね!」
悲壮感すら感じる勢いでいきなり切り出したオーウェンをザジがなだめ、木こり夫婦と二人はお茶の香気に満ちたテーブルを囲んでちゃんと話し合うことになった。
「なるほど、そういうわけね。別にその子供たちの父親がオーウェンってことじゃないのね。よかった……」
さすがに子供作っておいて引き取らずにうちに丸投げしようとしてるんならビンタくれてやらなきゃって思っちゃった! とエブリンはコロコロ笑った。
「子育てが終わってやっと二人きりで暮らしてるおじさんとおばさんにこんなこと頼むのは悪いとは思ってるんだ。だけどぼくには他に頼れる人がいない……。なにもずっと預かっててくれっていうわけじゃない。四つ児が船旅に耐えられるくらいの歳になるまででいいんだ」
「船旅?」
突然飛び出した今まで出たことのない単語に、ザジはオーウェンを見上げた。
「奴隷紋の問題がクリアしたら、あの母子たちを故郷に帰してやりたいと思ってる。もちろんアンタのこともだ。ザジ。アタシも一緒に行って守ってやるから」
見つめ合う二人を見て、エブリンはフフっと笑った。
「も~仕方ないわね……。アラン、どう? 預かってもいいと思う?」
「お前の好きにすればいい」
「ですって。もー、やんなっちゃう!! だってエウェンも今のあなたと同じ立場になったら絶対私を頼るもの!! 本当にオーウェンったらあの子にそっくりなんだから!! やだもう、フフフッ」