童貞魔女(♂)オーウェンはチンチラ奴隷を嫁にする 作:ケロリビドー
『みんな、旦那を見たらびっくりするだろうからオレが先に行って話してくる』
フリオは荷台から飛び降りて、見えて来た集落の方に走って行った。
「サシー、ワ、ブエルト!! サシー、ワ、ブエルト、コンス、マリド!!」
「あれはなんて言ってるんだい」
「ザジの横にいるのは不審者じゃないから警戒しないでくれって言ってます」
「嘘つくんじゃないよ、ニヤニヤしやがって。さすがにアンタが嘘ついてるのくらいはなんとなくわかるわ」
前歯を見せて憎たらしい笑顔でうそぶくザジのほっぺをオーウェンはむにりとつまんだ。
ケイト族の集落は日干し煉瓦でできた小さな家が集まって、オーウェンから見ればおとぎ話の小人の町のようだった。ザジはもういいでしょ、とかぶっていた頭巾を脱いで、大きな耳を見せていた。集落の方から同じような大きな耳の、長い髪を二つに結んだ女がフリオと一緒に走って近づいてくる。
「エルマナ! サシー! エルマナ!!」
「ビビアナ!! テーエーチャドデメノース!!!」
ザジはぴょんと荷台から降りて駆け寄り、彼女と抱き合った。
「オーウェン様、妹です!!」
「あ、ああ。おら、み、やも、オーウェン」
自己紹介をしていると、あとからあとから背の小さいケイト族たちがぱたぱたと駆けてくる。夫婦と見られる、髭の生えた男と少し老けた印象の女と、年はわからないが男女の二人。
「もしかして、ザジの家族かい?」
「パパ! ママ! チータ! デシ!!」
ザジは彼らに駆け寄って、抱き合いながら泣き出した。それを見てオーウェンは彼女をやっと故郷に連れてこられてよかったと心から思った。
「エシエルトケーレッセルマリドデサシー?」
「ご、ごめん。言葉はわからないんだ。困ったな」
ザジの妹、ビビアナが何やら聞いてくるが、ザジの通訳がないとわからない。ザジに助けを求めようとしてそちらを見ると、ザジは両親と話をしている。言葉の端々に「カルラ」という単語が聞こえるのでカーラの話をしているのだろう、父親に何か言われて、デシと呼ばれたザジの弟が駆けて行った。
「ぐしっ、ずず。オーウェン様。紹介します。うちの両親です」
ザジが夫婦二人を連れて戻ってきた。オーウェンはその場にひざまづいて視線をケイト族に合わせて、今日何度目かの「おら」で挨拶をした。オーウェンのことを不審そうに見ていた他のケイト族たちも、ザジの口からなにやら説明されて段々と警戒を解いていった。
山羊や鶏や犬やロバ、それとちょっとオーウェンは見たことない首の長い獣などがうろうろしている道を歩いて、ザジの実家へ連れてこられた。扉も天井も小さいので、這うようにしてお邪魔する。
ザジの母親がお茶の用意などをしている間に、また新たな家族がやってきた。どうやらカーラの家族らしかった。
ザジがカーラは生きているが、向こうで子供を産んだばかりなので今回は連れてこられなかった、子供は望まれて生まれた子供たちで、今は優しい人の所で保護されているというようなことを説明すると、カーラの両親は泣き崩れた。オーウェンが後で聞いたら、諦めて葬式をするべきか考え始めていたところだったらしい。
「トマウナタサデテ」
「あ……ぐ、ぐらしあ、す?」
ザジの母親に暖かいお茶を手渡され、オーウェンは一口口に入れた。知っている香りも知らない香りもする、異国のハーブ茶だった。
『あなたが娘の恩人だと聞いた。娘を連れてきてくれてありがとう』
カーラの家族が帰った後やっとザジが戻ってきてくれたので、通訳してもらいながら父親と話すことになった。オーウェンはここに来て急に緊張してきた。ここの集落の人たちはみんなどうやら家族の仲がいい。ザジとの婚姻を許してもらえるかどうか不安になってくる。ザジが攫われてから帰ってくるまで何があったかを父親に詳しく話す。その間にビビアナとフリオがどこからか帰ってきた。二人はお互いに二人ずつ赤ん坊を抱えていた。
『ビビアナ、アカチャン産んだの!?』
『うん、サシーがいなくなる直前にもう妊娠してたみたいで、そのあとお腹にいるのがわかったのよ』
驚くザジに、母親がそう教えてくれた。
『それはそうと、あなたはサシーの夫なのか?』
「あ……、はい、親御さんたちに話を通すまで婚姻はしないということにしてましたが、ぼくらはそうなりたいと思っています」
『そうか……なら、できてなかったビビアナたちの分と二組分の婚姻の式をしないといけないな……』
父親が何と言ったのかザジに通訳してもらってその言葉を理解したオーウェンは目を丸くして驚いた。
「え!? いいのかい!? そんな簡単に!?」
「いいって言ってるんだからいいじゃないですか」
「そうだけどさあ……」
『パパ、それでね。あたし、あっちでオーウェン様の仕事を手伝ってるし、またカルラちゃんを連れてこないといけないしで婚姻したら向こうで暮らしたいんだ。駄目?』
『そうか……おまえは「旅組」になるのだな。それも神の思し召しだろう。好きにしなさい』
『やった! パパ大好き!!』
ザジがばっと飛び上がって喜ぶが、言葉のわからないオーウェンは置いてきぼりである。
「なんて?」
「婚姻したらあっちで暮らしていいってさ」
「いいのかい? なんかとんとん拍子過ぎて拍子抜けしちまうねえ」
「もともと集落を出て新天地で生活するケイト族は珍しくないんです。一度にたくさん子供が生まれるから、そうじゃないと集落が溢れちゃうから」
「そりゃそりゃ……」
『でも、本当に久しぶりに会ったんですもの。何日かはここに居られるんでしょう?』
母親が寂しそうに言う。奴隷船が最終目的地から戻ってここに寄港するまで何日かあるので、その間は滞在したいと言う希望を伝えると、とても嬉しそうに涙ぐんだ母親はまたザジを抱きしめた。
(かあさんか……。なんかぼくもかあさんが恋しくなったな)
ザジに家族との再会を思う存分やって欲しいので、話がすんだらオーウェンは休ませてもらうことにした。『ここに人間が来ることが全くないわけではないけど、オーウェン様は人間の中でもかなり大きい方なので、お客さんをこんなところで寝かせるのはもうしわけないが……』と言いながら父親が案内してくれたところは納屋だった。
「まあ、あの安宿もこの納屋もそんなに変わりはないからな……」
夜は冷えるということで、急いで片付けたらしい納屋の中には寝具が多めに用意されていて、オーウェンはその上にゴロリと寝ころぶと少し眠った。
「オーウェン様、オーウェン様。ごはん」
「んが……、ん、ああ……」
ザジに揺り起こされて起きると、オーウェンは手を引かれて彼女の実家の方に歩き出す。体の大きいオーウェンに配慮したのか、外にテーブルや椅子が並べられ、食事の準備が行われていた。
「手伝おうか」
「お客さまなんだから座っててください」
「う~落ち着かねえ」
小さい椅子に体を縮こまらせて座りながら待っていると、やがて料理が並べられてザジの家族とフリオが揃った。
「食事の前にお祈りをするんですよ」
「何に?」
「オーウェン様は大いなるものでいいんじゃないですか」
「まあ、じゃあそうする……」
しばしお祈りの時間を取って、食事が始まった。
「これ、アンタが初めてうちに来たときに作ってくれたやつじゃないかい?」
「覚えてたんですか?」
「アンタが初めて作ってくれた料理をぼくが忘れるわけないだろ」
「ふへへえ」
「プエデベベラルコール?」
「なんだって?」
独特な料理をごちそうになっていると、父親が話しかけてきた。ザジに聞くと、酒は呑めるかと聞かれているようだった。呑めると答えると父親は喜んで器に酒を注いでくれた。トウモロコシの酒だという。
「あ! あたしも久しぶりに呑みたい!!」
「アンタは呑まなくていい!!」
「ノーティエンスクェベベール!!」
オーウェンと父親の声が同時に響いた。言葉はわからないが、同じことを言っているのがわかって、つい笑ってしまったオーウェンだった。