童貞魔女(♂)オーウェンはチンチラ奴隷を嫁にする 作:ケロリビドー
「妻……ですか? それは……ザジと婚姻を結びたいということでしょうか」
「む、ぐ。そ、そこまでじゃないんだ……ただ、妻がいる、という身分でいたほうが何かと都合がいいから、妻の振りをして欲しいだけで……」
婚姻と言われてオーウェンはぎくりとした。こんな可愛い娘が自分と婚姻!? と改めて思うと、その言葉の強さに怖気づいてつい「そこまでじゃない」などと言ってしまう。脳裏に一瞬ふわふわのドレスを着てブーケを手に微笑むザジが浮かんで、オーウェンは頭を振ってそのイメージを振り払う。やめろ、身勝手な妄想は。この娘は金で買った奴隷だ。そう自分に言い聞かせた。
「アタシの仕事は女を相手にすることが多いんだ。かあさんが生きてた頃……アタシがガキの頃はまあ特に問題はなかったんだが、アタシももう23になったし、かあさんもいなくなったから、独り身の大の男は信用されづらくてね……。娼館に商品を届けに行くたびに誘われることも妻を伴えば減ってくるだろうし……頼めないかねぇ」
「オーウェン様の仰せのままに」
ザジは微笑んで答えながら、頭の中ではオーウェンが思いのほか若かったことに驚いていた。23って。年下じゃないの。と。
ザジが自分の歳を奴隷商人に告げたとき、奴隷商人も同じように驚いていた。奴隷商人は少し悩んだが、見たまま受ける印象の年齢ということで売ることに決めた。
子供の奴隷をペット感覚で買って我が子のように育てる金持ちなどはまあまあいて、その場合は特に仕込みなどすることはなく売りつけるのだが、ザジの場合大人として体が出来上がっているので、無茶をする変態向けの玩具奴隷として調教を施してから売られることになった。
(こういう感じなんだったらあたし、あんなことずっとされる必要なかったじゃない……)
よくわからない怒りのような感情がザジの心に沸き上がってきた。この男、ぜったいに堕とす。自分の体に溺れさせてぐずぐずにしてやる。
ザジがそんなことを考えているとは露知らず、オーウェンは申し出が受け入れられたことに胸をなでおろしていた。
「そうと決まればさっそく仕事についてきておくれ。その耳と尻尾は隠したほうがいいかもしれないね。長いスカートに着替えて……渡した服の中に頭巾があったろう。あれを被ってみて欲しい」
「かしこまりました。少々お待ちください」
ザジが着替えている間、オーウェンは梱包した商品をカバンに詰めた。今日の仕事場はさっき話に出た娼館だ。卸す商品はスライムスキン、月の障りにあてがうスライムパッド。それと植物の根を煮て作った潤滑液だ。これらは全部母であるエウェンが開発し、遺したものだった。最寄りの娼館はこれらの商品をとても頼りにしており、ずっとお得意様になってくれている。
「お待たせしました。おかしいところはないでしょうか」
着替え終わったザジが後ろから声をかける。振り向いたオーウェンは目を見開いたまま固まった。
母の服を渡したのだから当然と言えば当然なのだが……、その恰好はかつて母が生きていた時の仕事着で。
(さあオーウェン、今日も一日頑張ろうかねえ)
「いや、おかしくはない。尻尾も耳も隠れて、人間に見えるよ」
一瞬気持ちが子供のころに引きずられるような感覚がして、オーウェンは慌てて視線を逸らした。
「出かけよう。また飛んでいくから、昨日のように前に乗っておくれ」
オーウェンが指笛を吹くと、立てかけてあった箒がぴょんと動いて浮き上がる。荷物を柄の先端に引っ掛けると、その上に座るようにザジを促す。
裸足のまま飛び乗るオーウェンをちらりと盗み見て、ザジは「この男は靴を履かないのか?」と細かいことが気になった。昨日の時点では、この男は部屋では靴を脱ぐタイプなのだと思っていたが、昨日からずっと彼の靴は箒の穂にくくりつけられたまま外されることはなかったので、何か理由があって靴を履かないのだろうと思った。
(まあそんなこと別に知らなくてもいいか……聞きすぎる奴隷は身を亡ぼすしね……)
主人が乗るのを待ってから、箒は滑るように飛び出した。
昨日はフードを目深にかぶっていたのでザジに景色を見る余裕などなかったが、びゅんびゅんと風を切って飛ぶ箒の乗り心地は改めて乗ってみるとなかなか刺激的で楽しく感じた。
「オーウェン様、風が気持ちいいです」
「そうかい。アタシもこの移動手段は好きさ」
すれ違う街の人たちが驚いて見ている。「魔女野郎が女を乗せてるぞ」という声が聞こえて、あっという間に遠ざかって行った。
「あらら、その娘見ない顔だねえ。オーウェン坊は弟子を取るようになったのかい」
「きゃ~、可愛い。子供をこんなとこに連れて来ちゃだめじゃない?」
「オーウェン坊が初めて来たときも子供だったじゃないのさ」
「違いない、ぎゃはは」
娼館の裏口から中に入ると、開店前で自由時間の娼婦たちがわっと寄ってきた。近い近い、離れとくれとオーウェンが女たちをあしらっていると、奥から女主人が姿を現した。
「いつも済まないねえオーウェン坊。ちょうどスライムスキンの在庫が心もとなくなってきてたとこだったんだよ」
「そりゃそりゃ……。パッドと潤滑液も追加を持ってきたよ。女たちに孕んだのはいないかい? スライムスキンも確実ではないからね……」
「エウェンさんに言われた通り、障りから日にちを数えて客を取らせてるからね。今の所いないよ」
「アネさんが管理してる限りしくじりはないとは思うが……わからないからね。おかしなことがあったらすぐ言っておくれ」
女主人と仕事の話をするオーウェンの横顔を、ザジは無表情に見つめていた。ザジがちょっと迫っただけであたふたと赤面する彼と、女の体の困りごとについて熟知しているような彼の姿にイメージの乖離があったからだ。
(バランスの悪い男……)
商品を受け取り、皮袋に入った代金をオーウェンに渡した女主人はそんなザジに気が付いたようだった。
「そういえばその娘は? 今日初めてだよね? 随分と頑是なさそうな様子だけど?」
「この娘は、その……。アタシの……ええと……嫁だよ」
もごもごとオーウェンが告げると、物陰から興味津々で覗き込んでいた娼婦たちが色めき立つ。
「やっぱり!! オーウェン坊のお嫁さんだってさ!!」
「きゃーっ!!! オーウェン坊って少女愛好だったんだ!?」
「そりゃウチらが迫っても袖にされるはずだわぁ~」
「うるさいよあんたたち!! 自分らの分を取ってさっさと夜の準備しな!!」
女主人が一喝すると、娼婦たちはオーウェンの持ってきた品を受け取り、蜘蛛の子を散らしたようにわらわらと引っ込んでいった。
「はじめまして嫁御さん。この娼館の主人のライザだよ。これから長い付き合いになるだろうけどよろしくね」
「ご丁寧にありがとうございます。オーウェン様の妻のザジと申します。以後お見知りおきを」
「あら、ずいぶんと言葉が綺麗なんだねえ。ちょっとオーウェン坊。どこでこんなお嬢さん見つけて来たのさ」
「それは……まあいいじゃないかい……縁だよ。その。縁があったんだ」
細かい設定を全然詰めていなかったオーウェンは、言いづらそうにもごもご答えた。
「ふぅん……あたしゃてっきりオーウェン坊はダリアちゃんと婚姻するもんだと思ってたんだが……ダリアちゃんも出て行っちゃったし、坊が一人きりなのを心配してたんだよ。なんにせよよかったよかった」
「ねえさんのことは言わないでおくれよ。嫌だねぇ……年増女は頼みもしないのにみんなそういうことを言う」
「あん? 何か言ったかい? まったく。ねえ嫁御さん。オーウェン坊はどんな風にあんたを抱くんだい? 喜ばせてくれるのかい?」
「は!? やめとくれよ!! 変なこと聞くのは!!」
意趣返しとばかりにザジに品のない質問をする女主人を制止するオーウェンだったが、ザジは目を伏せて頬に手を当て、うっとりするような表情を浮かべた。
「オーウェン様はとても優しいだんな様です……」
嘘は全く言っておらず、どうとでも取れるような返答だったが、先ほどの質問の返事としてはオーウェンがどう女を抱くかの答えのように聞こえる絶妙な言い方で、散ったはずの娼婦たちが再び黄色い声できゃあーっ!!! とはしゃいだ。
「きょ、今日はお暇するよ!!」
いたたまれなくなったオーウェンはザジの手を掴み、真っ赤になって娼館の扉から外に出たのだった。