※この作品はR-18です。

母のSNS   作:松田義和

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母さんスマホデビュー

最近のことだ。

母さんがようやくスマホに替えた。ずっと使い慣れたガラケーを手放そうとしなかったけど、さすがに不便だろうと思って、僕のバイト代でプレゼントした。

 

「こんな高いの、もったいないよ」

そう言いながらも、母さんはどこか嬉しそうだった。

 

ただ、問題はそのあとだ。

「使い方がわからないから」と、しばらくの間は箱にしまったままだった。

 

でもある日突然、心を決めたように言った。

「使い方、マスターしないとね!」

 

それからの母さんは毎日スマホをポチポチ。

LINEのアイコンを何度も押しては、「あれ?戻れなくなっちゃった」と僕に助けを求めてくる。

 

教えるたびに、「へぇ〜、便利なんだねぇ」と感心したり、失敗して「あらら、ごめんね」と苦笑いしたり。

 

そんな姿を見ていると、なんだか胸があたたかくなる。

僕の母さん、ちょっと不器用だけど、一生懸命で可愛らしい。

 

そんな毎日が、ちょっとだけ楽しい。

 

 

ある日、僕が学校から帰ると、母さんがスマホを手に真っ青な顔をしていた。

 

「ど、どうしよう……なんか、へんなところ押しちゃったみたいで……」

 

聞くと、何かの通知を消そうとしていたはずが、スマホの画面に「〇〇に500円送金しました」の文字が出たらしい。

 

「送金って……だれに!?」

慌てて見てみると、それはLINEのスタンプショップだった。

 

「これ、買ったの!?」「うそぉ!?え、こんなことでお金かかるの!?」

画面には、どう見ても母さんの趣味とは思えない、変なキャラクターのスタンプがずらりと並んでいた。

 

「これ……使うの?」と僕が聞くと、母さんは顔を赤くして首を横に振った。

「ちがうのよ、ほんとに……指が勝手に……」

 

まるで子どもの言い訳みたいなことを言う母さんが可笑しくて、僕は思わず笑ってしまった。

 

「まぁ、最初はみんなそんなもんだよ」と言ってあげると、

母さんはしょんぼりしながらも、ほっとしたように笑った。

 

その日の夜、「なんか届いたよ〜」と母さんからLINEが来た。

開いてみると、例のヘンなキャラクターがスタンプでポン。

 

――どうやら、送金ミスは無駄じゃなかったらしい。

 

 

ある晩、僕がリビングでくつろいでいると、母さんが顔を真っ赤にしてやってきた。

 

「ねぇ……これ、どうしたらいいの……」

手にはもちろんスマホ。そしてその画面を見て、僕も思わず吹き出しそうになった。

 

母さんが打ったと思われるLINEのメッセージはこうだった。

 

「今日は楽しかったです。またお願いします 」

 

しかも、送信先は――近所のスーパーのチラシ係・山田さん(60代後半・男性)。

 

「え……これ誰に送ったの……?」

 

「だからそれが、優奈さんに送ったつもりだったのに……!どうして山田さんになってるのよ〜!!」

 

どうやら「今日のお茶会たのしかったね」と送りたかったはずが、間違えて前にチラシの件で連絡した山田さんのトークを開いていたらしい。しかも、 マーク付き。

 

「山田さん、どう思っただろう……もしかして勘違いするんじゃ……?」

母さんは両手で顔を覆い、テーブルに突っ伏した。

 

「……まあ、大丈夫じゃない?山田さん、おおらかな人だし」

と僕は笑いながら言ったけど、内心、翌日のスーパーでどんな顔をされるのか、ちょっと楽しみにしていた。

 

それから母さんは、LINEのトーク画面の確認を何度も何度もするようになった。

「送る前に落ち着いて深呼吸」と、自分でメモまで書いて貼っていた。

 

でもそのうち、「ま、間違えたらそのときはそのときよね〜」とケロッと笑うようになった。

 

そうして、スマホのある毎日に、ちょっとずつ慣れていく母さんの姿が、なんだかすごく愛おしかった。

 

 

 

 

 

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