他人になった妹は、俺の裏垢調教志願者でした 作:ドン・ドナシアン
「くっ」
思わず小さな声を漏らしてしまい、美咲は咄嗟に俯いて顔を隠すと、片手でしっかりと自分の口を塞いだ。
喉の奥からせり上がってくる吐息が、そのまま音になってこぼれ落ちそうだった。
横を見ると、教授の念仏のようにしか聞こえない講義に、同じ情報科の奈々は机に頬を預けたまま舟を漕いでいる。美咲の異変に気づく気配はなかった。
窓の外では、講義棟の並木に残った葉桜が春風に揺れ、淡い緑の影がガラス越しに床へと落ちている。
それにしても、さすがはお兄ちゃんだ。
家を出てからずっと身体を強張らせてすごしていたのに、何時間もなにもされず放置され、股間に埋め込まれたディルドは沈黙したままだった。このまま今日は動かさないのかもしれないと油断した、その瞬間だった。
そこを襲われたのだ。
内側で、低く唸るような振動が走る。
美咲は太腿を強く閉じ、腹に力を入れて腰が跳ね上がりそうになるのを必死に押さえ込みながら、歯を食いしばって耐える。
じわじわと熱が溜まり、身体の奥が勝手に応えようとする感覚が広がっていった。
そして、ふっと振動が止まる。
肺に溜め込んでいた息を静かに吐き出し、美咲は一瞬だけ力を抜いた。
だが、間髪入れずに再び震えが走る。
今度はさっきよりも強く、深く、内側を抉るように。
美咲は声が漏れそうになるのを噛み殺し、俯いたままさらに太腿を締め上げた。背筋が硬直し、腰がじりじりと前に押し出されそうになる。
血の繋がっていないお兄ちゃん──影山直樹とのふたりきりの生活が始まって、そろそろ一箇月になろうとしている。
夢にまで見た、お兄ちゃんに受ける調教も、いまは美咲の新しい日常になりつつあった。
毎日満たされる感覚は、嘘みたいに確かだ。
お兄ちゃんの家に押しかけて、自分から縋りつくようにして始まったこの生活は、美咲にとって紛れもない充実期だった。
なによりも嬉しいのは、大好きだったお兄ちゃんが想像していた通りにエッチだったことだ。──いや、想像以上だ。どエッチだった。
優しいだけではなく、容赦もない。毎日のように美咲を調教し、犯し、満たしてくれる。
怖いと思ったことは一度もなかった。
毎日、目を覚ますと、身体の奥に残る感覚で、昨日なにをされたのかがすぐにわかる。
シャワーを浴びるとき、歩くとき、椅子に腰掛けたとき──。
ほんの些細な動きで、身体が勝手に反応するようになっていくのが、はっきりと自覚できた。
変わっていく自分の身体が嫌じゃない。
むしろ、誇らしかった。
それは全部、お兄ちゃんに仕込まれたものだと思うと、胸の奥がじんわりと熱くなる。
だからこそ、ずっと思っていた。
一度でいいから、大学でと──。
その話を切り出したとき、お兄ちゃんははっきりと難色を示した。
大学での遊びは、美咲の勉強の妨げになると言ったのだ。
だが、美咲は粘りに粘った。今日は教養科目だけの日だから問題ないと、お兄ちゃんを説得した。
出席さえしていれば内容なんて誰も気にしないし、試験も大丈夫だと、美咲はそう繰り返して説明し、言葉を選びながら一生懸命に説得した。
結果として、折れたのはお兄ちゃんの方だった。
だが、やるなら本格的にしてやるとも告げられた。
そう言って準備されたのは、リモコンで信号を飛ばす程度の簡易的な遠隔操作ではなかった。
スマホを使い、距離の離れた場所から細かく制御できる仕様の、本格的なものだった。
挿入されたディルドも、見せかけの代用品ではない。
お兄ちゃん自身の男根の大きさと感触にできるだけ合わせて用意された、現実そのものの形だった。
美咲はそれを、心の中で「お兄ちゃん3号」と呼んでいる。
それを縁にワイヤーのある革の下着で固定され、脱ぐことができないように施錠もされた。大学へ送り出されたときには、足が少し震えた。
怖かったわけじゃない。
まるで、歩くたびにお兄ちゃんに犯されているみたいだったから。
バスの中でも──。
電車の中でも──。
大学の構内を歩いているあいだも──。
ずっと、緊張と欲情が途切れなかった。
たったいま振動されるまで、いつになっても動かないことが、美咲をじわじわと追い詰めていた。その沈黙に怯える時間さえ、お兄ちゃんに支配されている証のように感じられ、股間は自分でも呆れるほどに濡れまくってしまっている。
いまも、革帯でも押さえきれない蜜が、とろりとろりとワイヤーの縁の隙間から滲み出てくるのがはっきりとわかった。
美咲はトートバッグからハンカチを取り出し、周囲に気づかれないようそっと短いスカートの下へ差し込む。
その瞬間だった。
内側で、いやらしく震えが走る。
「んっ」
美咲は思わず全身を突っ張らせ、机の縁を強く握り締めた。
それからは、ずっと翻弄され続ける時間になった。
一度始まると、さっきまでの静けさが嘘のように、お兄ちゃんは遠隔でディルドに振動と蠕動を繰り返させるようになった。
だが、動くのはほんのわずかだ。長くても十五秒も続かない。
ほとんどは数秒だけ震えて、すぐに沈黙する。それが何度も、何度も繰り返された。
焦らされ、昂ぶるばかりで発散を許されない疼きが、じわじわと美咲の身体を蝕んでいく。
腰の奥が勝手に締まり、蜜がさらに溢れ出てくる感覚に、美咲は唇を噛み締めるしかなかった。
「美咲、終わったよ」
奈々に声を掛けられて、はっとする。
いつの間にか講義は終わっていて、周囲ではすでにほかの学生たちが荷をまとめたり、教室から出て行こうとしていた。
「あっ、ごめん。ぼうっとしていた」
美咲は椅子に座ったまま、スカートの中に差し込んでいたハンカチをそっと抜き取り、トートバッグに押し込んでから立ち上がる。
「ランチ、どうする? また学食でいい?」
椅子を引いて通路に出たところで、奈々が身体を寄せてくる。
派手な見た目をしているけれど、奈々も美咲と同じ、女子学生の少ない情報科の専攻だ。自然と距離が縮まり、こうして一緒にランチをとることも多かった。
ただ、今日は午後の講義がない。
このまま大学に残る必要はなかった。
家に帰って、お兄ちゃんに襲ってもらうか、それとも、もう少し大学に残って、この状態のまま、お兄ちゃんの淫具責めを愉しむか……。
その選択を思い浮かべた瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
──そのときだった。
「あっ……」
美咲は思わず、腰を落としそうになってしまった。
股間を締めつけられている革帯にはディルドが抜けないようにしているだけでなく、ちょうどクリトリスに当たる内側部分の小さな突起があったのだ。
その刺激もまた、ずっと美咲を悩ませていたのだが、突然にそれが振動をしたのだ。
そこが動くと思っていなかった美咲は、さすがに声を出してしまった。
「どうかした、美咲?」
奈々が怪訝そうに声をかける。
美咲は足を踏ん張るようにしながら、小さく首を振る。
「ううん……なんでも……。あっ、ちょっと待って──」
振動が止まると同時に、ポケットのスマホが反応したのだ。
お兄ちゃんからは、調教のあいだは、スマホでメッセージを送るので見逃すなと「命令」されていた。すばやく開く。
思わず顔が綻ぶ。
やっぱり、お兄ちゃんからの伝言だったからだ。
しかも──。
“公園に出てこい──。Lupin20”
ぞくぞくした。
いつもやり取りをしているメッセージアプリじゃない。
お兄ちゃんが持っている裏垢を使ったメールだ。
“Lupin20”──このネームは、美咲がまだ高校生のとき、家を出て行った直樹に妹であることを隠して、遠距離調教をしてもらったときに、お兄ちゃんが使ってきたものだ。
美咲が使っていたのは、“WARASHIBE17”──。
わざわざ、裏垢のネームを使ってきたのは、容赦のない調教をするという合図にしか思えなかった。
美咲は、スマホの画面を見ながら、満面の笑みを浮かべていた。
「なに? 嬉しそうね。恋人?」
奈々がかまを架けるように訊ねながら、美咲の手にするスマホに顔を寄せようとする。
美咲は奈々に応じることなく、スマホを隠す。
「ごめん。ちょっと用事できた。お昼、今日はパスで」
「あっ、そう……。あれっ、美咲って、今日の午後は授業なしだっけ?」
「そう。じゃあ、また明日」
美咲は奈々を置いて、足早に教室を出た。
もう頭の中にはお兄ちゃんのことしかない。
このまま、お兄ちゃんに責めてもらえる──。
それだけが胸いっぱいに広がり、ほかのことを考える余裕などなかった。
だが、階段を小走りに降りようとした、その瞬間だった。
ディルドの存在を忘れて勢いよく動いたことで、ずんとした衝撃が内側を貫く。さらに、突起がクリトリスを直撃し、鋭い刺激が重なった。
「うっ……つっ……」
思わず太腿をすり寄せるようにして、その場にしゃがみ込んでしまう。
でも、早く行かないと──。
お兄ちゃんに叱られる──。
美咲は歯を食いしばり、立ち上がろうとした。
だが今度は、クリトリスに走る振動がなかなか終わらない。鋭い愉悦が全身を駆け抜け、腰にまるで力が入らなかった。
手摺りに掴まろうと、手を伸ばした、そのときだった。
視界に、突然、誰かの手が差し出される。
ぎょっとして顔をあげた。
「だ、大丈夫……?」
そこにいたのは、最近なぜか視線を感じていた男子学生だった。
名前までは覚えていないが、同じ学科の一年先輩らしく、新入生オリエンテーションで顔を合わせたことがあるらしい。
共通授業のときに声を掛けられ、「覚えているか」と聞かれて、記憶にないとは言えず、曖昧に頷いた。
そのときの満面の笑みが、正直気持ち悪かった。
それ以来、ときどき話しかけられてはいたが、美咲は最低限の返事しかしなかった。
それでも、視線を向け続けているのははっきりとわかっていて、ずっと不快だった。
いま、その男子学生は密着するほど近くに身体を寄せている。
──触られる。
その瞬間、ぞっとした。
お兄ちゃんに責められているいまの身体を、他人の手で触れられるなんて、耐えられなかった。
「触らないで」
気づいたときには、思いきりその手を叩いていた。
後悔はなかった。
ちょうどその拍子に振動が止まり、身体に力が戻る。
美咲はよろめきながらも立ち上がる。
早く、お兄ちゃんのところへ行かなければ──。
頭の中はそれでいっぱいで、さっきの男子学生がどんな顔をしているかなど、もう気にも留めなかった。
それからも大変だった。
お兄ちゃんは、美咲が公園に辿り着くまでのあいだ、幾度も幾度も、ディルドによる刺激とクリトリスへの刺激を繰り返してきた。
さすがに、少しずつ衝撃への耐性はできていったが、慣れるということはなかった。なによりも、燃えさかる甘美な疼きは押さえられなくなってきた。
振動が加わるたびに、四肢に鋭い愉悦が響きわたり、身体を震わせて必死に声を耐えなければならなかった。しかも、一回の振動は短いので、刺激をするだけして発散はさせてくれない。官能への飢餓感が強くなるだけだ。
公園にやっと到着したときには、もう美咲は立っていられなくなっていたほどだ。
お兄ちゃんは、大学南門に隣接する大きな公園に入ってすぐのところにあるベンチに座っていた。
すでに、美咲を見ていて、片手でスマホを持ち、視線を真っ直ぐに美咲に向けている。
「お兄ちゃん──」
美咲は足を速めながら声を掛ける。
「遅かったな、
すると、お兄ちゃんが片手でスマホを操作した。
「ひいっ、いやっ」
美咲の身体が震え、鋭い悲鳴が噴きこぼれた。
衝撃への耐性ができてきたというのは錯覚だった。単に手加減をされていただけだったとやっとわかる。これまでの振動とは比べものにならない高速でディルドが動き出したのだ。
「ああっ、いやっ、こ、これは無理──」
腰の力が抜けていく快感に、美咲は短いプリーツスカートの裾を押さえてしゃがみ込んでしまった。
さすがに通行人が美咲に視線を向けるのがわかる。
「立てよ、美咲。さもないと、これだぞ」
さらに、クリトリスに当たっている突起がバイブレーションを始める。これもまた、いままでと比べものにならないくらいに振動が激しい。
「た、立つから──お兄ちゃん──」
美咲は必死で言った。
すると、ふたつの刺激が始まったときと同様に、不意に止まる。
美咲は荒い息をしながら、なんとか立ちあがる。
「お前が望んだ野外調教だ。どうだ? もう嫌になったか?」
お兄ちゃんがくすくすと笑う。
美咲はすぐに首を横に振る。
「こ、こんなの……なんでもないよ……。ちょっと……物足りないくらい……」
美咲は挑戦的な表情を作ってお兄ちゃんに向ける。
もちろん、そんなのは嘘だ。
大学の講義中に受ける刺激も、昼間の公園の人目の中での調教も、想像以上に恥ずかしかったし、強烈だった。だけど、こんなふうに強がれば、お兄ちゃんの嗜虐心が刺激されて、お兄ちゃんが悦ぶことがわかっている。
お兄ちゃんが望むなら、美咲は幾らでも変態女になってあげたい。
まあ、その通りの変態だし──。
「へえ、その割には、かなりたじたじになっていたじゃねえか。可愛いくらいにな」
お兄ちゃんがにやりと微笑んだ。
美咲はきょとんとなった。
「どこかで見てたの?」
「さあな。もしかしたら、お前を見張るために監視していたかもな。気持ち悪いか?」
「ううん──。お兄ちゃんならいいよ。あたしを監視して……。でも、それって、あたしを支配したいってことだよね。むしろ、嬉しいかも……。わっ、やばっ」
お兄ちゃんが美咲を監視していたと伝えられて、身体がかっと熱を帯びたようになる。
もっと管理して欲しい──。もっと束縛して欲しい──。
美咲は心からそう思った。
「じゃあ、本格的に遊んでやろうか? 俺の本気を見せてやってもいいぞ。もちろん、拒否してもいい。俺の本気なんて、美咲にはまだ早い気もするしね」
すると、お兄ちゃんが少し首を傾げるようにして、美咲の顔を下から覗き込むような仕草をする。
お兄ちゃんの本気──。
その言葉だけで、くらくらするような快感が美咲を包んだ。
「い、いいよ……。お兄ちゃんの本気……」
美咲は小さく喉を鳴らした。
「いいだろう。ど変態の美咲だ。忘れられない一日にしてやろう……。これをしろ」
お兄ちゃんは美咲からトートバッグを取りあげるとともに、ベンチの後ろに置いていたらしいリュックサックを出した。中からマスクと、大きな丸縁のサングラスを差し出す。
顔を隠せということだろう。
つまりは、それだけのことをするという意味でもある──。
美咲はお兄ちゃんから受け取ったマスクとサングラスを顔にかける。
「背中を向いて、親指を重ねろ……。だが、よく考えろよ。親指を重ねあわせて堅糸で縛るけど、それをすれば始まりだ。それから後は、拒絶しても無視だ。お前がとてもじゃねえけど耐えられないことをすると思え。それでもいいなら、背中を向けろ」
「も、問題ないよ……。お兄ちゃんなら……」
美咲はお兄ちゃんに背中を向け、親指を重ねる。
お兄ちゃんがその親指をまとめて掴む。
「いいんだな? 後戻りはなしだぞ。本気か? お前を裸にして、ここに置き去りにしたらどうする?」
「……前に言ったでしょう……。なにをしてもいいって……。あたしはお兄ちゃんを苦しめたくず家族のひとりなんだから……」
お兄ちゃんになら破滅をさせられてもいい。
それは美咲の覚悟であり、本心だった。
「いい根性だよ……。そのお前がべそを搔くのが愉しみだな」
お兄ちゃんが手に持っていたらしい糸で、美咲の親指の付け根をまとめて縛る。
美咲はそれだけで、うっとりとなるほどの被虐酔いのようなものを感じてしまった。
「公園を外周沿いの通路を歩け。できるだけ自然にな。まずはそれからだ」
お兄ちゃんが美咲の身体を軽く反転させると、指先でトップスのニットのボタンを上から順に外していく。そして、四つ目のところで止めた。
「お、お兄ちゃん……いぎっ」
胸元が大きく開き、ブラの縁がはっきりと覗いてしまう。驚いて、反射的に手で隠そうとしてしまい、背中で縛られている指縛りの糸が強く喰い込んで痛みが走った。
しかも、その身体を揺れで、胸元がさらに開放されてしまった。
美咲はせめて上体を屈めて胸を隠そうとする。
「もうギブアップか? もっとも、このゲームにギブアップはねえけどな」
お兄ちゃんが意地悪そうに笑う。
「う、うう……。お兄ちゃんの意地悪……」
「そういうことだ……。ほら、歩け」
その瞬間、股間に挿入されているディルドと突起が激しく振動して、快感が一気に強まった。
「ひあっ、あっ」
腰の力が吸い取られるような感覚に、美咲は一歩も進めず、その場にしゃがみ込みそうになる。
すると、不意に振動が静止して、刺激が止まった。
ほっとして脚を前に出そうとした瞬間──。
再び、激しく振動が再開する。
「あっ……」
さっきの休息があったぶん、その衝撃は耐えがたかった。
美咲はまた立ち止まってしまう。
すると、ぴたりと、振動が止まる。
それで進もうとすると、すぐに刺激が襲いかかるのだ。
「お、お兄ちゃん……せ、せめて……もっと弱くして……」
さすがに美咲は震える声で訴えた。
これでは歩くことなどできるはずがない。
改めて、大学内での玩弄などかなり手加減されていたのだと思い知る。本当に歩けない──。少しでも刺激を緩めようと、美咲の腰が勝手に後ろに引き気味になる。
「これが本当の調教だ。弱音は認めねえぞ。忠告したはずだ」
お兄ちゃんの声は愉しそうですらあった。
股間の刺激に翻弄されながら、美咲はやっとのこと公園の外柵沿いの通路に辿り着く。もっとも、終わりではない。むしろ始まりなのだ。
少し離れた後ろから淫具を操作するお兄ちゃんに、追い立てられるように美咲は樹木に挟まれている通路をよろよろと進んでいく。
「そろそろ、我慢できなくなったろう。丁度、人目も少ない。一度、達したいか、美咲?」
すると、お兄ちゃんが後ろから声を掛けた。
思わず、耳を疑う。
この真っ昼間に──?
人目が少ないと言っても皆無じゃない。近くにいないだけで、遠目には視界に入っているはずだ。
振り返る──。
お兄ちゃんは微笑んでいたが、その眼は嗜虐心で欲情しているのがわかった。
その冷たい視線が堪らなかった。
お兄ちゃんが美咲の情けない姿に昂奮している。
それがわかったとき、美咲はもっと、お兄ちゃんを愉しませてあげたかった。煽ってあげたかった。お兄ちゃんが常軌を逸するほどに夢中になってもらいたかった。
「ほ、欲しいよ、お兄ちゃん……。美咲はもっとお兄ちゃんに苛めて欲しい……」
「じゃあ、いけ──」
お兄ちゃんが片手でスマホの外面を激しく操作した。ディルドが花芯に、突起がクリトリスに激しい振動を送り込む。
いままでで一番激しい──。
しかも、終わらない──。
美咲はしゃがみ込んだ。
腰の芯に突き刺さるような快感に、美咲は顔をのけ反らせる。
「お、お、お兄ちゃん……いくっ……」
必死に絞った声を震わせて、美咲は絶頂の高みに自分を解放する。
美咲は、昼間の公園の中でついに、達してしまったのだ。
頭が真っ白になるような衝撃で、美咲の思考は停止した。
振動がなくなる。
だが、すっかりと腰が抜けたようになった美咲はすぐには立ち上がれない。
すると、お兄ちゃんが美咲の片腕を掴んで強引に腰をあげさせる。
「……さっきから、離れてついてくる男がいる……。もしかして、お前と同じ大学かも……。そんな感じだ……。すまん。気付くのが遅れた……」
お兄ちゃんが耳元でささやくとともに、小さく舌打ちした。
「ついてくる男……? お兄ちゃん、あたしを隠して」
美咲はお兄ちゃんの胸に身体全体を預けるようにしながら、抱きかかえるようにしてもらった。腰に力が入らないのは本当なのだ。
身体を回転させ、お兄ちゃんの身体の隙間から、後ろを覗く。
少し距離はあるが、確かに男がいた。誰なのかすぐにわかった。さっき階段で声を掛けてきた男子学生だ。身体は樹木で隠しているが、見えている部分だけでわかる。
「ああ、確かにね……」
美咲は吐息をつく。
しつこい男だ──。
だけど、お兄ちゃんとの大事な時間に水を差すなんて、どうしてやろう……。
「やっぱり知り合いか? しまったな。調子に乗ったな……。見られてたろうな」
お兄ちゃんはちょっと落ち込んでいる様子だった。
美咲はくすりと笑う。
「見られてもいいよ。多分、言いふらす根性ないし……。むしろ、丁度よかったよ」
「丁度よかった?」
「うん……。ねえ、そのまま、その建物の後ろに連れていって……」
美咲は頼んだ。
少し先に、公園の管理倉庫があり、その裏が高い生け垣の迫る狭い場所になっていたのだ。
「なにするんだ?」
お兄ちゃんは美咲を抱えるようにしながら訊ねる。
だが、そのまま美咲を連れて、その倉庫の裏に誘導をしてくれた。
「いいから……。ねえ、あいつ、ついてきてる?」
美咲はお兄ちゃんに身体を預けながら確認した。
「ああ……。一度、こっちに来そうだったけど、いまは距離を取ってついてくる……。どうするんだ?」
「見せつけてやるの……。あいつ、ストーカーみたいに見てきて気持ち悪いの……。あたしはお兄ちゃん一筋なのに」
「ひどい言い方だな」
お兄ちゃんが苦笑するような声を出す。
「お兄ちゃんは、もっと調子に乗ってよね。あたしに泣きべそをかかせるんでしょう」
「ほう、言ったな? あまり煽ると後悔するぞ」
「じゃあ、後悔させて」
美咲はくすくすと笑った。
公園倉庫の裏に着くと、美咲はお兄ちゃんの身体を横へ向かせた。あいつにちゃんと、美咲がお兄ちゃんがどんなに好きかがわかるようにだ。
後ろ手のまま、お兄ちゃんに身体を預けるように上を向き、爪先立ちで背伸びする。
「ほら、お兄ちゃん、キスしてよ」
横目の遠くに、樹木の陰からこちらを窺う人影が見えた。あの男子学生だと、すぐにわかる。
「お前、ほんとにえげつないな」
お兄ちゃんが低く笑いながら顔を寄せる。
唇が触れ合う。
一瞬の接触のあと、美咲は自分からさらに踏み込み、そっと口づけを深くした。
息が絡み、熱が伝わる。
胸の奥がきゅっと締めつけられ、脚が小さく震える。
大人のキスの仕方なんて、少し前まで知らなかった。
こんなふうに、触れるだけで身体の芯まで揺さぶられる感覚も、お兄ちゃんに教え込まれたものだ。
美咲は唇を離さず、もう一度強く口づける。舌でお兄ちゃんの口の中を蹂躙しながら、懸命に唾液を飲む。
わざと身体を密着させ、見せつけるように……。
視線の気配が刺さっているのを、はっきりと感じながら……。
すると、美咲を支えていたお兄ちゃんの片手がすっと離れた。訝しんだが、思念の余裕もなく、再び股間のディルドと突起が激しく振動を再開する。
「んふうっ」
たまらず、美咲はその場にしゃがみ込む。
跳ね回る淫具の刺激は止まらない──。
美咲はそのまま、がくがくと身体を震わせて絶頂してしまった。
「あ、ああっ、お兄ちゃん……」
美咲は小さく悶えた。
振動が止まり、お兄ちゃんの小さな笑いが上から振ってくる。
「しっかりと見られてたぞ。ここからでも、なんかショック受けているのがわかるぞ」
お兄ちゃんが低い声で言った。
「いいの……。ねえ、マスクとサングラス外して」
美咲はしゃがみ込んだまま、顔だけ上を向ける。
「いいのか?」
「いいの……」
「わかった」
お兄ちゃんが美咲の顔からマスクと眼鏡を外す。
美咲は隠れて覗いている男子学生に、顔を向けると微笑みかけた。
距離はあったが、視線が完全に合う。
すると、慌てたように、名前を知らない男子学生が背中を向けて立ち去っていくのが見えた。
「やっぱり、いい性格しているな」
お兄ちゃんが笑う。
でも、美咲は満足だった。
これで、ストーカーのようにつきまとわれる心配はない。
そのときだった。
ぎゅるるる、ぎゅるるる──。
ぬるま湯のような液体がお尻の穴から注入されるのを感じた。
「えっ、なに、お兄ちゃん──」
びっくりして立ちあがろうとしたが、お兄ちゃんに肩を押されて阻止される。いつの間にか、スカートを後ろからめくられて、管のようなものが差し込まれていた。
全く気がつかなかったが、お兄ちゃんが股間の革帯のアナルの部分にある穴から管を差し込んで、なにかを注入していたのだ。スカートから出ている管の先はお兄ちゃんが背負っていたリュックの中に繋がっている。
「たったの五十㏄だ。我慢できるだろう?」
五十㏄──って、もしかして、浣腸──?
美咲はさすがに、ぞっとなった。