他人になった妹は、俺の裏垢調教志願者でした 作:ドン・ドナシアン
地下街の通路に、美咲は置き去りにされてしまっていた。
あとを追ったが、お兄ちゃんの背中は完全に人の波に埋もれて見えなくなった。
「ああ……」
美咲は引きつった表情のまま、思わず溜息を漏らす。
人の流れは切れず、視線は常に動いている。
その中に立っているだけで、立ち止まっていること自体が浮いているとわかる。
とにかく、お兄ちゃんが消えていった方向に向かう。
ディルドは革帯の内側で暴れ回っている。身体の奥で続いている振動が歩幅を壊す。脚に余計な力が入り、足先が揃わない。乱れを隠そうとするほど、動きが不自然になる。
周囲の誰もが、こちらを見ていないとは思う。
それでも、見られていないと断言できない距離がずっと保たれている。
視線が当たるたび、胸の奥がひやりと冷える。
「あっ、ああ……ひ、ひどいよ……お兄ちゃん……」
美咲は涙目で呟く。
脳天を貫くような衝撃に、美咲はまたもや崩れ落ちそうになっていた。
床の案内表示が、改札口の方向を示している。駅地下に連接されたいちばん近い改札だ。お兄ちゃんが先に向かうとすれば、そっちだろうか。
とにかく、美咲は必死に足を前に進める。
だが、いくら気力と体力を振り絞っても、身体の変化はどうしようもない。
それまで繰り返されていた刺激と衝撃が、甘い快感となって確実に下肢を駆け抜ける。
お兄ちゃんの言うとおり、つくづく自分はどMなのだと思う。
やっと、一番近い改札口に着いた。
そこに辿り着いた瞬間、振動が静止する。
「えっ、お兄ちゃん……?」
思わず小さく声をあげ、刺激が消えた理由を探す。
近くにいるの?
視線を上げて、お兄ちゃんを必死に探す。
でも、姿はない。柱の影、券売機の列、改札を抜ける背中──。どれも違う。
違うとわかるたび、胸の内側が締めつけられる。
もしかして。まだ後ろ側──?
少なくとも、改札口を越えた向こう側にはいなさそうだ。そう思って向きを変え、地下街の流れを逆に辿ろうとした瞬間、またもや、振動が襲った。
「あっ、ああ──」
叫びながら、横の壁を咄嗟に手を伸ばす。
ディルドに加えて、クリトリスに当たっている革帯の内側の突起まで動き出したのだ。
身体が跳ね、反射的に膝が崩れた。
もう一度探そうとする。ほんのわずか首を動かしただけで、今度は、アナルプラグまでが激しく振動を始めた。
「だ、だめっ」
三箇所の淫具責めに、さすがに立っていられなくて美咲はその場にしゃがみ込む。
便意に襲われている下腹が乱され、凄まじいほどの苦悶が走った。脂汗が一気に噴き出す。
まさか、アナルプラグまで振動するなど──。
「くっ──」
しかし、振動は突然に終わった。
ほっとしたが、周囲の視線が美咲に集まり始め始めていることに気がつく。足を止める人がいる。視線が集まり、距離が詰まる。
なにが起きたのかと見るのは当然だ。
慌てて立ちあがる。
とにかく、お兄ちゃんを──。
改札口に数歩進みながら、再び周りを見る。
「あんっ」
だが、そこにまたしても、三箇所同時の淫具の刺激──。
膝が折れたところで、振動は静止したが、さすがに美咲にもわかってきた。
偶然ではない。探そうとした瞬間だけ反応が返る──。
美咲は視線を落として、床の模様に焦点を合わせる。
人の足が横を通るたび、距離が近すぎると感じる。立ち尽くしていることを誰かに理由を問われる気がしてならない。人を待っている素振りをしるために、改札口の横に移動しようとした。
「くうっ……お兄ちゃん──」
そこに振動が襲いかかる。
またしても膝が折れる──。
しかも、振動が止まらない。声が出そうになり、必死に口を手で押さえる。
だが、やっと美咲にも逃げ道がないことを理解した。
探しても、探さなくても結果は同じだ。判断そのものが許されていないのだ──。
許されているのは、「命令」に従うことだけ──。
残っているのは、最初に与えられた「環状線に乗れ」という指示と一枚の切符だけ──。
切符を握る。指先に伝わる紙の感触が現実を突きつける。
必死に身体を反転させて、改札口に身体を向けた。すると、振動が一斉に静止した。
気怠さに崩れそうになるのを耐える。
だが、やっとこれでわかる。
お兄ちゃんに従順に従えばなにもなく、逆らう行動だと淫具の罰が襲うということだ。
お兄ちゃんは見えないが、確実に見られている。確実に管理されている。
その理解が胸の奥に沈んだ直後、遅れて身体が熱を持ち始め、とろりとろりと果汁が果唇の奥から湧き出してくるのがわかる。
お兄ちゃんに支配されている──。そう思うだけで、悦びの雫が美咲の股間に締められた革帯の隙間からとめどなく滲み出て、スカートの中を性感が支配する。
美咲は改札口を通って、駅の構内に入る。
振動はない。
正解なのだ──。
自制心を総動員して、環状線のホームに向かう。
ただ、内回りと外回りでホームが違う。
中央通路で、試すように外回りの表示へ身体を向ける。
「うあっ」
股間の淫具が激しく振動した。
慌てて、内回りのホームに身体を向けると、振動がなくなった。
やっぱり見ている──。お兄ちゃんの姿を探そうとして躊躇する。それは許されていないと思い出したのだ。
美咲はやっとのこと内回りのホームに辿り着いた。
通勤帰りの男女でホームはごった返していた。
電車がホームに滑り込んでくる。
美咲は人の大波に押されるように、すぐにやって来た電車に乗り込んだ。ディルドの振動はなかった。
満員の車内で、美咲は人の圧に押し潰されそうになっていた。
四方から体温が迫り、息を吸うたび、空気が薄くなる。背中に当たる誰かの胸、腰に触れる肘、揺れに合わせてぶつかる肩。避けようとするほど、身動きが取れなくなる。
股間とアナルに異物があるという事実が、余計に意識を引き裂く。
触れられていないのに、触れられている感覚が先に立ち、周囲との距離を測る判断が遅れる。
とにかく、少しでも人に触れない場所へ行きたかった。
車内の奥へ進む。連結部の前の車両の継ぎ目に近い位置になんとか辿り着いた。身体の前を壁に押しつける形で、ようやく立てる場所を確保する。
背後からは、なお人の圧が続く。逃げ場はないが、正面が塞がれているぶん、視線は受けにくい。
一周だけ耐えればいい。
そう言い聞かせ、近くのポールに手を伸ばす。指に冷たい金属の感触が伝わる。揺れに合わせて握り直し、力を入れる。背中側から、さらに押される。背中と尻が前へ押し出され、姿勢を保つために、握る力を強めるしかない。
ところが、その瞬間、短い金属音が鳴った。
えっ──?
手首に重さが加わった。
理解が追いつく前に、もう片方の手首が引かれ、ポールの向こう側へ導かれる。次の音は、より近い位置で鳴る。
外す動作を考える前に、美咲は手錠によって、両手首を手摺りのポールに固定されてしまった。
息が止まる。
声が出かかり、喉の奥で引っかかる。
「……お、お兄ちゃん?」
思わず声をあげる。だが、連結部分の騒音で美咲の声は完全に打ち消されてしまう。
また、視線を動かさず、慌てて身体で手錠のかかっている手元を隠した。いずれにしても、背後から伸びた腕の感触は、見知らぬものではなかった。お兄ちゃんの腕だとわかった。
だから抵抗はしなかった。抵抗するという発想が浮かばなかった。
「騒がなかったのはいいことだ……。さて、まさか、このまま一周して終わりとは、思ってねえよな?」
耳元で、お兄ちゃんの低い声が囁かれる。
ほんの聞き取れるかどうかの声だ。車内の喧噪の中では、ほかの人には聞こえないだろう。
お兄ちゃんに背後を守ってもらっているという事実に、腰が抜けそうになるほどの安堵を覚えるが、一方でお兄ちゃんの声には愉悦と意地悪な嗜虐の響きがあった気がした。
「……」
「脚を少し開け」
言葉の内容を受け取る前に、背中の圧が変わる。逃げようとする余地が完全に消える。
美咲が自然に脚を開くと、お兄ちゃんの片脚が差し込まれた。これで脚を閉じられない。美咲に緊張が走る。
一体全体、なにをされるのか……。
すると、車輪の音が一定のリズムで続くとともに軋みだした。次の駅名が、車内放送で淡々と流れる。
美咲は、ポールを握ったまま身体を固めた。
そのとき、腰の後ろで小さな金属音が鳴った気がした。
さらに締めつけていた革帯が緩んだ。
「あっ」
さすがに声をあげるが、それもまた電車の騒音でかき消される。
ディルドがついたまま、重みで革帯が完全に真下に外れて、背後のお兄ちゃんによって、抜き取られてしまう。
「んんっ」
ディルドが抜かれる刺激で甘い声が出そうになる。
愕然とした。
まさか、電車の中で──?
しかし、お兄ちゃんは淡々とした手付きで、スカートからディルド付きの革帯を抜き取り、素早く準備していたトートバッグに隠す。
もう、残っているのは、アナルプラグだけ──。
押さえつけている革帯はもうない。
「んぐっ」
慌ててアナルを締めつける。
便意は波を繰り返しながら拡大し、いまは切迫するような圧が内側から襲っている。
アナルプラグひとつだけで、これを阻止できる気がしない。
美咲は懸命にアナルを締めつける。
「その調子だ。絶対にアナルの力を緩めるなよ。多分、力を抜いたら飛び出るかもな」
すると、お兄ちゃんがスカートの上からお尻を撫でてきた。
「あっ、いやっ」
反射的に腰をよじって悲鳴をあげる。
だが、その声も騒音で消される。
また、電車は駅に停車するための減速を開始していた。
「……ほら、どMの美咲……。抵抗したくても、できない気分はどうだ……?」
お兄ちゃんがくすくすと耳元で笑いながら、今度はスカートの中に手を入れて、外に出ている部分を使って、お尻からアナルプラグを抜く仕草をする。
愕然となった──。
「む、無理いいっ──」
美咲はお尻を後ろに突き出すような格好をしながら、必死に首を横に振った。