他人になった妹は、俺の裏垢調教志願者でした 作:ドン・ドナシアン
「だ、だめよ、お兄ちゃん──」
美咲は必死に声を殺す。
凄まじいほどの便意を辛うじて押し留めているものが、挿入されているアナルプラグであることは、美咲にもはっきりわかっていた。
それを外側から確かめるような仕草を向けられた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
抜かれる──。
そう思っただけで、思考が止まり身体だけが反応する。
恐怖に包まれ、美咲は後ろへ逃げるように腰を引きながら、必死にプラグを締めつけようとした。
しかし、くすくすと耳元で小さく笑う気配がして、触れていたお兄ちゃんの手はあっさりと離れる。
とりあえず、ほっとした。
だが、ほんの束の間のいまの動作だけで、美咲は冷や汗で全身をべっとりと濡らしてしまった。
「くくっ、美咲……。必死だな……。その無様さが可愛いぞ……。ところで、覚えているか。俺が最初に言ったことを?」
お兄ちゃんが美咲の耳もとに口をつけてささやく。満員電車の軋む連結部分の喧噪のなかだが、お兄ちゃんの声は聞き取れた。
また、電車が減速を始めている。
駅に停まるのだろう。満員電車の人の波も少しずつ動き始めた。お兄ちゃんの背中が押され、美咲の背中にお兄ちゃんの身体が押し潰されるように密着する。
それはともかく、最初に言ったこと──?
答えを探そうとしても、頭が追いつかない。
この満員電車の状況では振り返ることもできない。そもそも、美咲は手錠で手摺りに両手を繋がれているのだ。
「……無理だ──できない──ということを無理矢理にさせられる。いまは、お前はただ受け入れるだけだ……ってな……」
お兄ちゃんが含み笑いの混じった口調でささやく。
そうだった。
たしかに、そう言われた。
思い出した瞬間、胸の奥が沈む。
「……できるとか、できないとか、そういう話じゃない……」
その言葉は、命令というより、事実の確認だった。
反射的に身を強張らせる。
それが抵抗にならないことを、美咲自身が理解してしまった。
美咲は両手に力を込め、手摺りを強く握り締める。
電車が一度揺れて駅に停まる。扉が開く空気音がして、人が入れ替わっていく気配がした。しかし、出ていく乗客よりも、入ってくる乗客の方が多いようだ。
電車の中の混雑がさらに酷くなる。
「……覚えておけ。美咲に選ぶ権利はない」
言葉が続くたびに、逃げ道がひとつずつ消えていく。
美咲は、返事をする代わりに、わずかに頷く。
ホームに流れる発車の音楽とともに扉が閉じた気配がした、電車が動き出す。
車内放送で車掌の声が響きだす。
「……だが、その理不尽さが快感になる……」
お兄ちゃんの言葉が続く。
電車は再び加速していく。
背後から落ちてくるお兄ちゃんの声は低く、車内の喧噪に紛れているはずなのに、耳の奥に直接届く。
美咲は俯いたまま、息を殺す。
身体の内側に張りついた感覚が、なにかの合図を待つように膨らみ続けている。
手錠に繋がれた両手が、反射的に手摺りを掴む。
力を入れているはずなのに、支えている感覚はない。
この姿勢のまま、ここから動けないという事実だけが、静かに固定されていく。
「こういうこともされても、いまのお前には防ぐ手段もねえ。声を出す自由もない……」
お兄ちゃんの手がスカートの中で美咲の前側に回った。革帯を外された美咲の股間は下着すらない剥き出しだ。
その股間を指で愛撫される。
「あっ」
美咲の口から漏れた音は、声と呼ぶには小さすぎた。
お兄ちゃんがゆっくりと美咲の股間を愛撫する。肉襞をくつろげ、クリトリスを繰り返して皮を剥く仕草をして、膣の中にも指を入れていく。
二本──。
お兄ちゃんの指が美咲の恥ずかしい蜜でまみれるのが見えなくてもわかる。羞恥で身体が竦む。また、痺れるような快感がせり上がってくる。
「くっ、んんっ」
大きな波が美咲を支配して、力が抜けていく。
必死に手錠のかかっている両手で縦の手摺りにしがみつく。
周囲の気配は途切れず、誰もこちらを見ていない。なによりも、お兄ちゃんの身体が隠してくれている。それでも美咲の意識は逃げ場を失っていた。
お兄ちゃんの指が股間を抉り、クリトリスを執拗に揺らす。その指の動きが深く、細かくなるにつれ、美咲を包む甘い感覚は、美咲の上体を跳ねさせ、膝を打ち震えさせる。
美咲は漏れそうになる声を全神経を結集して押し殺し続けた。
「……わかるな? これが調教されるということだ」
言葉と同時に、スカートの中から手が引き上げられた。
連結部の壁に額を押しつけるようにして、突き刺さる感覚に必死に耐えていた股間からお兄ちゃんの指が離れる。
その瞬間、安堵が走る。それでも、お兄ちゃんの責めが終わってしまったことに、わずかな物足りなさを覚えてしまう。
うう……なんて、淫らなんだろう……。
我ながら呆れてしまうが、多分、相手がお兄ちゃんだからだ。
誰にでも、淫乱なわけじゃない。
自分に言い聞かす。
また、指が離れた股間からは、いつまでも熱が引かなかった。
悪戯は終わったのに……。
そう思った。
いま、お兄ちゃんの両手は連結部の扉の美咲の頭の両横に置かれ、美咲の身体を覆うように位置している。守っているようにも見えた。
美咲は改めて歯を喰いしばる。
便意はいまも襲い続けていた。
美咲は、必死にアナルに力を込める。
しかし、違和感が遅れてくる。
やっぱり、熱が引かない。
いや、逃げない──。
じわじわと、質の違う火照りに変わっていく。
愛撫されていた場所が、甘いうねりを伴って疼き始める。
膣の周囲、奥──そして、クリトリス──。
熱い……。疼く……。
じわじわとそれが大きくなる……。
電車が加速から減速に入る。
その揺れに同期するように、疼きが急に強まった。
えっ──?
違和感が正体を現す──。
襲ってきたのは、股間に加わる圧倒的な掻痒感だ──。
なにこれ──? 痒い──。
掻きたい──。
じっとしていられないほどの掻痒感だ──。
反射的に手を股間に動かしかけたが、がちんと金属音が鳴り、手錠で阻まれた。
「あっ……お兄ちゃん……これって……」
愕然とする。
さっきの愛撫は、ただ触れられていたのではなかったのだ。
おそらく、掻痒感を呼ぶ媚薬クリームが、お兄ちゃんの指にあり、それを股間にたっぷりと塗られてしまったのだと思う。
理解した瞬間、過去の記憶が蘇る。痒み責めを受けて放置され、泣き叫んだ、あの恐怖が──。
電車が次の駅に停まり、乗客が大きく入れ替わる。
その流れに紛れて、お兄ちゃんは一歩、距離を取った。
背中に密着していた体温が別の乗客のものに変わる。複数の女の気配だ。
お兄ちゃんがいるのは、目と鼻の先ではあるが、美咲には手は届かない位置だ。
痒みが、さらに広がる。
美咲はその場で太腿を擦り合わせ、手錠を掛けられた両手で手摺りを強く握った。
止める術はない。
ただ、羞恥の密度だけが増していく。
便意の苦悶に重なって、新たに仕込まれた掻痒が一気に噴き上がる。
美咲は満員電車のなかで、抑えきれずに足踏みを繰り返した。腰骨の奥から、ずきん、ずきんと脈打つように、痒みが込みあがってくる。
痒い──痒い──痒い──。
思考はほどけ、感覚だけが残る。
連結部の扉に額を押しつけ、身体を固めるしかない。
掻きたい衝動と、決壊寸前の便意が同時に迫り、呼吸が浅くなる。
でも、動けば目立つ。
止まれば耐えきれない。
熱は逃げず、疼きは広がり痒みは増す。
電車は進み、車内の密度だけが増えていく。
終わらない。
逃げ場はない。
電車が次の駅に停まる。
人は入れ変わるが、お兄ちゃんは美咲のそばには来ない。微笑みながら見るだけ。
環状線を一周するのは、まだまだかかる。
美咲は泣きじゃくりたいのを耐え、必死に足踏みしながら、太腿を擦り合わせて苦悶に耐えるしかなかった。
だが、腰を動かすと、追い詰められている便意がさらに膨れあがる。
動くことも──。
じっとしていることもできない──。
美咲は絶望に襲われた。