他人になった妹は、俺の裏垢調教志願者でした 作:ドン・ドナシアン
015 それはあたしのよ。触るな、年増
「身体くらい、自分で洗えるよ──。手錠、外してよ、お兄ちゃん──」
美咲は背中に回された両手を動かしながら、苛立ちのまま声をあげた。
大理石のような床と泳げるほどの浴槽のある大きな浴場だ。
そこで、美咲はお兄ちゃんと、ふたりきりになっていた。貸し切り状態だ。
一見すると、街中にある入浴施設を思わせるが、それだけでないとわかるのは、付帯する設備だ。
壁一面の鏡──。天井にはレール。滑車や鎖──。湯漕の中心には、古代ギリシャ風の神殿柱のようなものもある。
そして、よくあるライオンの口から出るお湯の設備の代わりに、裸の少女像が四体。しゃがんで股を開いて──四つん這いで片脚をあげて──小便小僧像のように立って股間を前に出すように──ブリッジのような姿勢で──放尿のように股間の部分からお湯を湯漕に注いでいるのだ。
どう見ても普通の施設ではない。
おそらく、特殊な目的で使われる場所なのは間違いない。
だが、美咲の頭の中にあるのは、この奇妙な建物のことではない。
怒りの原因は、さっき現れたあの女だ。
浣腸をされて街中を徘徊させられた美咲がついに、おむつの中に粗相をしてしまったとき、偶然に出逢ったあの女である。
お兄ちゃんが、美咲の身体を洗う場所を借りたいと言った途端、あの女は嬉しそうに笑った。
そして当然のように、お兄ちゃんの腕に抱きついてきた。
あの距離感も、あの視線も、あの表情も、どう考えても、ただの知人ではない。絶対に、男女の距離感だ──。
三十歳くらいだろうと思う。でもとんでもない美人だ。背が高く、自信に満ちていて、お兄ちゃんに対して妙に馴れ馴れしい。
しかも、お兄ちゃんも平然としていた。
さらに、遠慮などなにもなく、お兄ちゃんはその女に、美咲の身体を洗う場所を提供するように命じた。
そして、案内されたのがここだ。
考えれば考えるほど、頭に血が昇る。
お兄ちゃんが誰と付き合おうと自由だ。
自分に口を出す資格なんてない。
お兄ちゃんに、ほかの恋人がいたとしても、美咲のことさえ受け入れてくれれば、それでいいはずだった──。
頭では理解している。
そうでなければならないとも思う。
それでも、胸の奥だけは納得してくれなかった。
「ばーか、マゾはマゾらしく、大人しく洗われてばいいんだよ。もう一度、身体を洗い直してやるよ」
だが、お兄ちゃんは、まともに相手にしてくれない。
シャワーで美咲の身体についた汚物をきれいにすると、手錠をかけて、一度湯船に浸け、今度は裸の美咲を、真ん中が大きくくくり抜かれている洗い椅子に座らせた。
そして、自分も同じ椅子を持ってきて、美咲の正面に座る。
お兄ちゃんも美咲同様に全裸であり、開いた脚のあいだからは、大きくなっている男根がそそり勃っていった。
美咲の裸に欲情をしてくれている証だと思うと、腹がたっているとはいえ、それはそれで嬉しい。
いつもだったら我慢できなくて、お強請りをしているかもしれない。だけど、いまだけは、そんな気になれない。
広い浴場に、四体の少女像から注がれるお湯の音が響き続ける。
「じゃあ、さっきの年増女は誰なのよ。いい加減に教えてよ」
美咲は唇を尖らせた。
怒る権利などないのはわかっている。
自分でも子供っぽいとは思う。
お兄ちゃんに女がいたとしても、文句を言うのは間違っている。そんなのはわかっているのだ。
けれど、どうしても腹立たしかった。
「ヒミコのことか?」
お兄ちゃんが笑う。
まるで、美咲の苛立ちを愉しんでいるかのようだ。
それもまた、腹がたつ。
「ヒミコっていうの、あいつ? 邪馬台国?」
「源氏名っていうやつだな。本名じゃねえ。有名な女王様なんだぞ」
「女王様? ええっ、お兄ちゃん、変態なの?」
「お前に言われたくねえよ。それよりも、また、一からやり直しだ。もう一度洗ってやるぞ」
お兄ちゃんは湯に溶いた特性のローションをスポンジに含ませて、それですっと美咲の肩口をまた洗い始めた。
「うんっ」
美咲はそれだけで、身震いしてしまった。
今日は一日中、お兄ちゃんの仕掛けた玩具に翻弄された。街中でも羞恥調教され、心身ともにヘトヘトになっていた。
必死にお兄ちゃんの「野外調教」に耐え抜いてきた身体は、異常なほどに敏感になっている。
しかも柔らかいスポンジが、余すことなく、美咲の性感帯を掘り起こしてくる。
未知に近い刺激に、美咲はどうしても反応してしまう。
「うう、ひ、卑怯よ、お兄ちゃん。あ、あたし、怒ってんだから」
「なにを怒っているんだ。俺にセフレがいたことにか?」
直樹が苦笑する。
「はああ?」
美咲は声をあげていた。
しばらく絶句する。
セフレ──?
美咲は一瞬硬直する。
いま、セフレって言った?
「セフレ──。セフレって、あのセフレのこと──?」
やっと声が出る。
「ほかにセフレってあるのかよ。まあ、いろいろとあってな」
「あいつ、セフレなの──? お兄ちゃんの?」
「そんなものだな。それよりも、ここの性感帯だろ?」
お兄ちゃんが背中に回している腕の隙間から、腋の下にスポンジを走らせてくる。
「あんっ、やあっ」
美咲は身体をくねらせて、ガードを固めようとした。しかし、ただお兄ちゃんに普通になぞられるだけなのに、気持ちがよすぎる。
広い浴室に、美咲の声が響きわたった。
「だ、だいたい、あの女、どう見ても、三十過ぎでしょ。お兄ちゃんに相応しくないわよ」
美咲は声をあげる。
「あら、酷いわねえ。直樹のクズ家族のひとりのくせに?」
そのときだった。
からからと浴場に入る扉が開いて、さっきの年増女は入ってきたのだ。
車輪付きのトレイになにかを載せてきたが、一糸まとわぬ全裸だ。陰毛さえも隠してない。
本当に美人だし、スタイルもいい。
またもや、かっと血が昇る。
「勝手に入ってこないでよ。あたしとお兄ちゃんが使っているのよ」
美咲は声をあげた。
「勝手にって……。一応、ここはあたしの店なんだけど」
女──ヒミコが笑った。
「……ところで、なんで入ってきたんだ、ヒミコ? 貸し切りにしてくれんじゃなかったのか?」
お兄ちゃんがヒミコに言う。
「貸し切りにしたじゃないのよ。でも、せっかくのクズ家族に会ったんだもの。ちょっとお仕置きくらいしたくてね」
「お仕置き──? なんで、あんたにお仕置きをされないとならないのよ──」
美咲は声をあげた。
「煩いわねえ──。直樹を家から追い出したくせに、今更、集ってきた蠅の分際で偉そうにするんじゃないわよ──」
すると、ヒミコが一転して口元の笑みを決して怒鳴った。
びくりとなるが、美咲も負けるわけにはいない。
「な、なによ──。それは悪かったと思っているわよ──。だから、あたしはお兄ちゃんに償いするの──」
「償い? まさか、直樹の調教を受けるのが償いとか、眠たいこと言ってんじゃないでしょうねえ。耳掻きと耳はどっちが気持ちいいかわかってる?」
「うわっ、喩えが、だるウザ」
「はああ?」
「とにかく、お兄ちゃんの調教はあたしの趣味よ──。放っといて。あたしとお兄ちゃんはセフレよ。あんたはもうお呼びじゃないの」
「な、なによ、この娘──」
ヒミコが目を剥く。
「とにかく、大学卒業して就職したら、お兄ちゃんにはヒモになってもらって、あたしが養うんだから──。約束してんの」
美咲は声をあげた。
「ばか、なにがヒモだよ。ふざけるなよ」
お兄ちゃんが呆れたように笑う。
だが、ヒミコが呆気にとられたような顔になる。
「ヒモ? あんた、直樹をヒモにするの? あんたがじゃなくて?」
ヒミコが不思議そうな表情になる。
「もしかして、お兄ちゃんが清掃員バイトだから、小馬鹿にしてるの? お兄ちゃんはお金にならなくても、立派な清掃員なんだから」
美咲は怒鳴る。
だが、ヒミコは不思議そうな顔になる。
「……清掃員って……。直樹、そうなの?」
ヒミコがお兄ちゃん見る。
勝ったと思った。
このヒミコは、事情を知っているような物言いだったが、お兄ちゃんの仕事すら知らないのだ。
ちょっと溜飲がさがる。
「……ヒミコ、余計なことを言うなよ。美咲はまだ、なにも知らないんだ」
すると、お兄ちゃんが困ったようにヒミコに告げた。
なにも知らない……?
どういう意味?
なんか、またむっとなる。
「……それよりも、せっかく来たんだ……。なら、三人で遊ぶか。その時間はあるんだろう?」
お兄ちゃんがヒミコを見る。
「もちろんよ。なんだか、面白そうな娘じゃない。客なんて、キャンセルするわ。直樹が相手をしてくれるならね」
すると、ヒミコが誘うような目をして、お兄ちゃんのそばにしゃがみ込む。
しかも、お兄ちゃんの脚のあいだに、手を入れてすっと触ってきた。
「うああ──それはあたしのよ──。触るな、年増──」
美咲は怒鳴りかけた。
「年増、年増って、あんたねえ……」
ヒミコが美咲を睨む。
「なあ、仲良くしろよ……。まあいい。身体を洗うのは中断だ……。美咲、もう一度湯船に入れ。とりあえず、真ん中の柱に両手を繋いでやる」
お兄ちゃんが美咲の腕をとって、立ちあがらせた。
「へえ、じゃあ、まずは先にわたしに味見をさせてよ。いいでしょ、直樹?」
ヒミコがお兄ちゃんに媚びを売るように擦り寄る。
「だめよ。あたしの身体は、徹頭徹尾、お兄ちゃん専用よ──」
美咲はヒミコを睨んだ。
「ほう、ならいいぞ。責めさせてやる。ただし、十五分間な。それまで美咲が耐えたら終わりだ。今度は美咲にヒミコを責めさせる」
直樹が笑った。
美咲もびっくりしたが、ヒミコは眼を丸くしている。
「……へ、へえ……。なら、いいわ。その代わりに、十五分以内にこの娘が極めたら、そいつの陰毛を全部もらうから」
「いいだろう。じゃあ、美咲、頑張れ」
お兄ちゃんが笑う。
美咲は絶句してしまった。