※この作品はR-18です。

他人になった妹は、俺の裏垢調教志願者でした   作:ドン・ドナシアン

2 / 16
002 お兄ちゃんを色仕掛けで墜とすつもりで

 居間と呼ぶには殺風景すぎる六畳間に、妹と向かい合って座っていた。

 この家に客なんて来るはずもなく、座布団は一枚しかない。その一枚を妹が正座で使い、直樹は妹の正面で胡座をかく。部屋には食卓すらないので、ふたりでなにも挟まずに向かい合っているかたちだ。

 

 背後には古いテレビと、埃をかぶった戸棚と食器棚──。

 台所は襖一枚の向こうだが、料理をしたものは、パソコンを並べている自室に持っていくだけなので、この部屋は素通りするだけであり、部屋になにもないのだ。

 

 正座した美咲の短いスカートの裾がわずかに乱れていた。

 細い太腿の内側に、白い下着の端がほんのり覗いている。

 陽の光を受けた肌はすべらかで、膝小僧から太腿の付け根へ向かうほど、柔らかそうな質感が生々しく感じられた。

 さっきから意識しないようにしても、勝手に目が行く。

 ひとつ息を吐いて視線を戻そうとしたが、すぐに視線が吸い寄せられる。

 SNSで送らせていた写真の輪郭が頭の奥で重なり、喉が微かに鳴った。

 

「……そんなに見るなら撮ってもいいよ……。SNSのときみたいに」

 

 妹──黒崎美咲は、わざとらしく膝をずらしながら、小さく笑った。

 

 黒崎美咲──。

 

 一年半前まで妹だったはずの女。

 今月に高校を卒業したばかりの十八歳……。

 

 一方で直樹は、あの裁判で親子関係が否定されて、父の戸籍から外された。

 それまでの姓は父のもので「黒崎」だったが、裁判のあと、実母の姓に変え、いまは「影山直樹」だ。

 

 それはともかく、ひとりで暮らしているはずのこの古い家に、まさか、SNSの向こう側の《WARASHIBE17》が押しかけてくるなんて──。

 

 改めて目の前の美咲を見た。

 整った輪郭に、睫毛の長い瞳。地方にいた頃よりも大人っぽく艶っぽくなっている。

 こっちは相変わらずだ。

 

 一方で、直樹は不摂生で小太りのまま、ろくに運動もせず、髪も伸びっぱなし。

 鏡を見るたびに、苛めの標的にされた理由を思い知る。高校で苛めの対象になったのも、この冴えない外見が要因のひとつだ。

 

 ──なのに、こいつは……。

 こんな美少女が……こんな顔をして、縋ってくるなんて。

 

 SNSでは、何度も服の上からも、服を脱いだ写真でも、何度も「命令」して送らせている。

 顔出しこそしなかったが、胸の膨らみや腰のラインもしっかりと頭にこびりついている。

 とにかく、服の上からでも、確かに同じ身体とわかる。

 だが、まさか、その身体が血の繋がらないとはいえ、妹だったなんて──。

 

「……影山直樹さん。赤の他人なんだから、遠慮しないでね? 一番、短いスカートをはいてきたの……。ふふ……」

 

 美咲の唇の端に、わずかに悪戯っぽい笑みが浮かんだ。

 そして、小さく笑ったまま、ぐっと背筋を伸ばす。

 スカートの裾がわずかに持ちあがり、太腿の付け根がさらけ出される。

 白い下着の端が、座布団に正座した太腿の間にほんのり食い込んでいるのが見えた。

 それでも、美咲の肩のあたりがかすかに震えている。

 こいつが唇を結び直しているのは、緊張を堪えている証拠だ。

 

「……お前、なにやってんだよ?」

 

 視線を逸らしきれず、喉の奥で舌打ちする。

 無理に冷たく言葉をぶつけたはずが、声が妙に掠れていた。

 美咲はわずかに目を伏せて、首を傾ける。

 

「え? だって、お兄ちゃん、見たいんでしょう……? SNSのとき、もっと下まで撮れって、命令したじゃない……? もっと恥ずかしい命令だって……」

 

「まさか、妹なんて思わなかったんだよ──。ああ、本当に《WARASHIBE17》って、お前だったのかよ。なにが“命令した”だ……」

 

「妹じゃないよ。他人でしょう。まさか、お兄ちゃんと血が繋がってないなんて知らなかったから、諦めようと思って、酷い態度したかもしれないけど、ずっとお兄ちゃんが大好きだったの。妹だけど、血は繋がってなくて、他人で、《WARASHIBE17》で、お兄ちゃんの性奴隷よ。なんの問題があるの?」

 

「問題ありあり、だろう……、それと、性奴隷じゃねえ」

 

 直樹は頭を抱えた。

 

「言っておくけど、ここ以外に住むところないの。出ていかないわ。お兄ちゃんを色仕掛けで墜とすつもりできたんだから」

 

 吐き捨てるように言うと、美咲は小さく肩を揺らして笑った。

 太腿をちょっと開けて、さらに下着を見せるようにして座り直す。

 

「……なにが色仕掛けだよ、馬鹿が……」

 

 言いながらも、また視線が勝手に滑っていく。

 薄い太腿の内側と、SNS越しに見慣れていた白い布の縁が、脳裏で重なる。

 美咲の肩がまた小さく震えた。

 誘うようでいて、切り取られたような緊張の匂いが部屋に充ちる。

 

 それはともかく、SNSの裏タクでは、《WARASHIBE17》は、主婦だと自己紹介をしていた。肌が若いから二十代ではないかと想像していたが、まさか、高校三年生で、ましてや、妹とは思いもしなかった。

 しかし、考えてみれば、あの裸身は十代だろう。

 

 だが、顔も、名前もわからない相手だと思うからこそ、かなり剥き出しの性癖を剥き出しにしたし、過激なことも要求してみたりした。

 しかし、まさか……。

 

「……なあ、美咲。それよりも、お前、そもそも、いつから……」

 

 自分でも声が少し掠れていた。

 さっきまで無理に張っていた強がりが、喉の奥で剥がれ落ちていくのがわかる。

 美咲が直樹の言葉を最後まで言わせずに、すっと瞳を細めた。

 

「いつからって……。もしかして、お兄ちゃん、あたしが相手がお兄ちゃんかって、知らないでやってたんじゃないかって、思ってる?」

 

 声が少し低くなる。

 美咲は、ちょっと唇を尖らせて、じっと睨むように直樹を見る。

 

「……違うのか?」

 

「違うよ、最初から、お兄ちゃんが相手だと知っていたに決まってるでしょ。あたしがお兄ちゃん以外に、あんな恥ずかしいこと、するわけないじゃない」

 

 小さな肩が呼吸に合わせて、かすかに震える。

 怒っているというより、拗ねているような気配が滲んでいる。

 

「お兄ちゃんだから送ったの。お兄ちゃんだから、言われた通りにしたの。ほかの誰か相手だったら、絶対にやらない……。馬鹿みたいに思ってたの? あたしがそんな軽い女に見えるの?」

 

 目の奥が潤んでいるのに、声はちゃんと怒っていた。

 

「……いや、そんなつもりじゃ──」

 

 慌てて否定しかけたが、美咲はぴしゃりと視線を合わせて、口元をきゅっと結んだ。

 

「お兄ちゃんって、ほんと馬鹿だよね……。まあ、あたしは、もっと馬鹿だけど……」

 

 そう言って、美咲はわざとらしく太腿を開いたまま、裾を引っ張ってみせる。

 その仕草がかえって、露わになった白い下着の縁を引き立てていた。

 

「じゃあ、どうやって、SNSで、《Lupin20》を見つけたんだ?」

 

 それが疑問だった。

 《Lupin20》は、直樹ネットでプレイをするときのハンドルネームだ。

 身バレするようなミスはしてないはずだ。

 

「もちろん、偶然じゃないよ。お兄ちゃんのことなら、なんでも知っているよ。隠していたけど、お兄ちゃんのこと大好きだったの。だから、知っていたの」

 

「……どういうことだよ?」

 

 直樹の問いに、美咲は座布団の端に手を置いて、ほんの少し身を乗り出した。

 膝の間から覗く太腿の奥に視線が滑りかけるが、すぐに逸らす。

 

「お兄ちゃんのこと……。ずっと見張っていたの……。《Lupin20》のことだけじゃない。ほかのアカウントも突き止めた。投稿している内容も……。全部見てたの。どこで暮らしてるか、どんなことが好きか、どんな言葉で命令するか──。知りたかったから、情報を盗み出す方法を勉強したの。お兄ちゃん、ちょっとだけ……セキュリティが雑だもん。もっと気をつけた方がいいよ」

 

「えっ、お前……探ってたのかよ……。つまり、ハッカー?」

 

 思わず唇の端が歪む。

 腹の奥が冷たくなるくせに、どこか笑えてきた。

 

「かなりセキュリティの厚いところでも、侵入できると思うよ。だけど、お兄ちゃんの場合、SNSで匂わせすぎ。わかりやすいもの……。それに、エッチだったし……」

 

 妹がくすくすと笑う。

 背中に冷たいものを感じた。

 いすれにしても、《Lupin20》としての直樹を知っているのは間違いない。

 SNSでの“あの時”のメッセージが甦る。

 『もっと恥ずかしいことして欲しい』『まだいやらしくできる』──。

 あれを送っていたのが、血の繋がらないとはいえ、妹だったなんて。

 

「……で、目的はなんだよ。本当のことを言えよ。また、俺をからかいに来たのか。だったらもう帰れ。そもそも寮がどうとか──」

 

 途中で言葉を止めたのは、美咲がすうっと裾を指先でつまんだせいだ。

 下着に縫い付けた銀のリング……。

 これこそが、妹が《WARASHIBE17》だったことに間違いないというなによりの証拠だ。

 

「……帰らないよ。お兄ちゃんを、ここで繋ぐために来たんだもん。さっきから、本当のことしか言ってないよ。あたしはお兄ちゃんを墜とすために来たの……。お兄ちゃんが好きなの」

 

 声は甘いのに、奥にあるのはどこまでも冷たい熱だ。

 

「SNSでずっと言ってたでしょ? “本物のSМのパートナーが欲しい”って。なら、わたしがそうなるしかないじゃない。裏垢で練習して、身体もちゃんと作ってきたのに……。……なのに、いざ会ったら、ぜんぜん本気で見てくれないんだもん」

 

 視線が絡む。

 ふざけてるのか、真剣なのか。

 でも、その太腿の内側の小さな震えだけが生々しかった。

 

「……お兄ちゃんが全部教えたんだよ? あたしがどうされたいか。どうなりたいか。いまさら拒否なんて……ズルいよ、直樹さん?」

 

 妹……美咲が妖艶に微笑む。

 どきりとしてしまった。

 すると、美咲がゆっくりと膝を開き、スカートの裾をつまんだ手をあげていく。

 あの下着が全部露出する。

 美咲の指先はわずかに震えている。

 

「……ねえ、お兄ちゃん、覚えてる? あたし、最初に送ったの……、普通のパンツの写真だったよね……」

 

 小さく笑いながら、美咲は伏し目がちに言った。

 脳裏に、あの時のDМ画面が鮮明に甦る。

 白い下着を履いた股間を、ぎこちない角度で写した写真……。

 何度も何度も送り直させた。角度も光も、はみ出した小さな膨らみまで……。

 

「普通……じゃなかったな……。すっごく、エロかった……」

 

「……だったら、嬉しいかな……。ほんと……あのときは緊張した……。でも、お兄ちゃんが『もっと脱げ』って命令したから……全部脱いだの……」

 

 美咲の声がかすかに震える。

 座布団の上で、膝をさらにずらし、下着の奥をわずかに指先で撫でた。

 

「……オナニーの写真も……いっぱい撮らされた……。怖かったのに……。でも、恥ずかしいのに……。お兄ちゃんだから、平気だったの……」

 

 思わず唾を飲む。

 SNSで、《WARASHIBE17》が送ってきたのは――間違いなく、妹の身体だった。

 あのときの、画面から感じた小さな震えと声が、いま目の前で生々しく再現されている。

 

「……指だけじゃ足りないって、言ったのはお兄ちゃんだよ……? だから、バイブも買ったの……。お兄ちゃんが選んだやつ……『お兄ちゃん2号』って呼んだの……ずっと……」

 

「……あっ、2号って、あれか……」

 

 バイブのことも覚えている。

 呟いた声が、妙に乾いていた。

 だけど美咲は、小さく首を振った。

 

「本物じゃないから、2号……。お兄ちゃん2号……」

 

「馬鹿か。ふざけた名前。だいたい、なんで主婦って……」

 

「別にあたしが最初に言ったんじゃないよ。SNSでお兄ちゃんが“主婦か”って訊ねて……。そうよ、って答えただけで……」

 

「そう……だったか?」

 

 喉の奥が詰まった。

 そんなやり取りがあったかどうか記憶にはない。

 まあ、あったのだろうが。

 

「……うん……。それと、お兄ちゃん、家にいたときに、冷たくしてごめんなさい……。お兄ちゃんに気持ちがバレたらダメだと思ったし……。妹じゃ恋人にはなれないし、結婚もできないし……。だから、忘れようって……。本当に、ごめんなさい……」

 

 小さく、息が混じった声だった。

 

「……でも……血が繋がってないってわかったのは……あとから……。お兄ちゃんがあの家から……出ていくなんて思わなかった……。あのときだけは……後悔したんだよ……。冷たくしたの……間違いだったって……」

 

 言い終えた美咲は、スカートをたくし上げたまま直樹を見つめた。

 

「……でも……すぐに思ったの。お兄ちゃんが家族じゃなくなったなら……今度こそ恋人になれるって……。だから……十八歳になるまで……ずっとSNSで繋がって……準備してた……。……全部……お兄ちゃんのため……。お兄ちゃんを逃がさないように、お兄ちゃんの端末にも入った。いっぱいトロイが入っているよ。あたしを受け入れてくれたら全部消す。でも、拒絶するなら、あたし、なにをするかわからないから。お兄ちゃんのパソコンのデータにウイルスばらないで消しちゃうかも」

 

 それは、異様に純粋な声だった。

 でも直樹には、狂気にしか思えなかった。

 美咲はそっと自分の太腿を撫でた。

 膝から太腿の付け根にかけて、薄い皮膚が赤くなり、白い下着の端に縫い付けられた小さなリングが光っている。

 

「……お兄ちゃん……思い出して……。お兄ちゃんにSNSで、言われたこと……あたし、ずっと練習してきたの……」

 

 美咲の声が、痺れたように甘い。

 

「……全部……お兄ちゃんに……見せたくて……。ううん。見せたくて……送ったんじゃなくて……お兄ちゃんに命令されたから……送ったの……」

 

 直樹の喉が乾く音が部屋に響いた気がした。

 ふと、美咲の瞳が直樹の腰元を見た。

 

「……お兄ちゃん……、ところで、そこ……すごく……大きく……なってる……」

 

 美咲の唇が淡く開いたまま、妖艶な表情を浮かべる。

 そこに残るのは、十八歳の“妹”の顔じゃなく、《WARASHIBE17》の──あの夜にだけ現れた、直樹の性癖をすべて知っている女の姿だった。

 SNSでは顔はなかったが、ネットの会話を通して気持ちは伝わっていた。

 目の前の美咲は、間違いなくあの《WARASHIBE17》だった……。

 

「お兄ちゃん……。触らせて……」

 

 直樹が息を呑んだのがわかったのか、美咲は座布団の端から、すっと膝を滑らせる。

 畳の上を、ゆっくり這うように距離を詰めてくる。

 胸元が近い。太腿がすぐそこだ。

 甘いような、どこか鉄の匂いが混じった汗の匂いが鼻をついた。

 

「……お兄ちゃん……我慢しなくていいよ? あたし、お兄ちゃんの《WARASHIBE17》だから……」

 

 囁くような声。

 美咲の指先が、そっと直樹の膨らみかけた股間に触れた。

 

「……あたしに……奉仕しろって……命令して……?」

 

 潤んだ瞳が真っ直ぐに見上げてくる。

 

「……お前、どこでそんな言葉、覚えたんだよ……」

 

「お兄ちゃんからよ……。あたしは、あの《WARASHIBE17》……だよ。ご主人様……」

 

 妹の言葉に、理性が一瞬だけ削がれる音がした。

 喉の奥、情けない声が洩れる。

 

「……奉仕しろ……よ……」

 

 気がつくとそう口走っていた。

 

「うんっ。わかった──」

 

 思わずそう言った途端、美咲は一転して大きな声で返事をする。そして、花が綻ぶみたいに、嬉しそうに顔が歪んだ。

 指先で器用に直樹のズボンのチャックを下ろし、下着をずらす。

 息がかかる距離。

 勃起したものが、無様に晒される。

 

 そのときだった──。

 美咲の目がぱちりと見開かれた。

 次の瞬間、小さく悲鳴のような声が漏れた。

 

「……なにこれ……違う……全然……大きさが違うよ……お兄ちゃん……。お兄ちゃん2号で……あんなに練習したのに……こんなに……大きいなんて……」

 

 美咲の言葉にならない言葉が、喉の奥で途切れた。

 

「お兄ちゃん2号って、あの玩具のことか?」

 

「そうだよ。お兄ちゃんがあれを買えって、言ったんじゃない。てっきり同じ大きさだと信じてたのに──」

 

 美咲は悲鳴のような声をあげた。

 

「同じサイズと言った覚えはないぞ。まあ、小さめを勧めたのは確かだけど……」

 

「ひどいよ、お兄ちゃん──。あたし、あれで口の使い方を練習してきたんだよ──」

 

 顔をあげた美咲が直樹に抗議の視線をぶつけた。

 涙目で……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。