他人になった妹は、俺の裏垢調教志願者でした 作:ドン・ドナシアン
居間と呼ぶには殺風景すぎる六畳間に、妹と向かい合って座っていた。
この家に客なんて来るはずもなく、座布団は一枚しかない。その一枚を妹が正座で使い、直樹は妹の正面で胡座をかく。部屋には食卓すらないので、ふたりでなにも挟まずに向かい合っているかたちだ。
背後には古いテレビと、埃をかぶった戸棚と食器棚──。
台所は襖一枚の向こうだが、料理をしたものは、パソコンを並べている自室に持っていくだけなので、この部屋は素通りするだけであり、部屋になにもないのだ。
正座した美咲の短いスカートの裾がわずかに乱れていた。
細い太腿の内側に、白い下着の端がほんのり覗いている。
陽の光を受けた肌はすべらかで、膝小僧から太腿の付け根へ向かうほど、柔らかそうな質感が生々しく感じられた。
さっきから意識しないようにしても、勝手に目が行く。
ひとつ息を吐いて視線を戻そうとしたが、すぐに視線が吸い寄せられる。
SNSで送らせていた写真の輪郭が頭の奥で重なり、喉が微かに鳴った。
「……そんなに見るなら撮ってもいいよ……。SNSのときみたいに」
妹──黒崎美咲は、わざとらしく膝をずらしながら、小さく笑った。
黒崎美咲──。
一年半前まで妹だったはずの女。
今月に高校を卒業したばかりの十八歳……。
一方で直樹は、あの裁判で親子関係が否定されて、父の戸籍から外された。
それまでの姓は父のもので「黒崎」だったが、裁判のあと、実母の姓に変え、いまは「影山直樹」だ。
それはともかく、ひとりで暮らしているはずのこの古い家に、まさか、SNSの向こう側の《WARASHIBE17》が押しかけてくるなんて──。
改めて目の前の美咲を見た。
整った輪郭に、睫毛の長い瞳。地方にいた頃よりも大人っぽく艶っぽくなっている。
こっちは相変わらずだ。
一方で、直樹は不摂生で小太りのまま、ろくに運動もせず、髪も伸びっぱなし。
鏡を見るたびに、苛めの標的にされた理由を思い知る。高校で苛めの対象になったのも、この冴えない外見が要因のひとつだ。
──なのに、こいつは……。
こんな美少女が……こんな顔をして、縋ってくるなんて。
SNSでは、何度も服の上からも、服を脱いだ写真でも、何度も「命令」して送らせている。
顔出しこそしなかったが、胸の膨らみや腰のラインもしっかりと頭にこびりついている。
とにかく、服の上からでも、確かに同じ身体とわかる。
だが、まさか、その身体が血の繋がらないとはいえ、妹だったなんて──。
「……影山直樹さん。赤の他人なんだから、遠慮しないでね? 一番、短いスカートをはいてきたの……。ふふ……」
美咲の唇の端に、わずかに悪戯っぽい笑みが浮かんだ。
そして、小さく笑ったまま、ぐっと背筋を伸ばす。
スカートの裾がわずかに持ちあがり、太腿の付け根がさらけ出される。
白い下着の端が、座布団に正座した太腿の間にほんのり食い込んでいるのが見えた。
それでも、美咲の肩のあたりがかすかに震えている。
こいつが唇を結び直しているのは、緊張を堪えている証拠だ。
「……お前、なにやってんだよ?」
視線を逸らしきれず、喉の奥で舌打ちする。
無理に冷たく言葉をぶつけたはずが、声が妙に掠れていた。
美咲はわずかに目を伏せて、首を傾ける。
「え? だって、お兄ちゃん、見たいんでしょう……? SNSのとき、もっと下まで撮れって、命令したじゃない……? もっと恥ずかしい命令だって……」
「まさか、妹なんて思わなかったんだよ──。ああ、本当に《WARASHIBE17》って、お前だったのかよ。なにが“命令した”だ……」
「妹じゃないよ。他人でしょう。まさか、お兄ちゃんと血が繋がってないなんて知らなかったから、諦めようと思って、酷い態度したかもしれないけど、ずっとお兄ちゃんが大好きだったの。妹だけど、血は繋がってなくて、他人で、《WARASHIBE17》で、お兄ちゃんの性奴隷よ。なんの問題があるの?」
「問題ありあり、だろう……、それと、性奴隷じゃねえ」
直樹は頭を抱えた。
「言っておくけど、ここ以外に住むところないの。出ていかないわ。お兄ちゃんを色仕掛けで墜とすつもりできたんだから」
吐き捨てるように言うと、美咲は小さく肩を揺らして笑った。
太腿をちょっと開けて、さらに下着を見せるようにして座り直す。
「……なにが色仕掛けだよ、馬鹿が……」
言いながらも、また視線が勝手に滑っていく。
薄い太腿の内側と、SNS越しに見慣れていた白い布の縁が、脳裏で重なる。
美咲の肩がまた小さく震えた。
誘うようでいて、切り取られたような緊張の匂いが部屋に充ちる。
それはともかく、SNSの裏タクでは、《WARASHIBE17》は、主婦だと自己紹介をしていた。肌が若いから二十代ではないかと想像していたが、まさか、高校三年生で、ましてや、妹とは思いもしなかった。
しかし、考えてみれば、あの裸身は十代だろう。
だが、顔も、名前もわからない相手だと思うからこそ、かなり剥き出しの性癖を剥き出しにしたし、過激なことも要求してみたりした。
しかし、まさか……。
「……なあ、美咲。それよりも、お前、そもそも、いつから……」
自分でも声が少し掠れていた。
さっきまで無理に張っていた強がりが、喉の奥で剥がれ落ちていくのがわかる。
美咲が直樹の言葉を最後まで言わせずに、すっと瞳を細めた。
「いつからって……。もしかして、お兄ちゃん、あたしが相手がお兄ちゃんかって、知らないでやってたんじゃないかって、思ってる?」
声が少し低くなる。
美咲は、ちょっと唇を尖らせて、じっと睨むように直樹を見る。
「……違うのか?」
「違うよ、最初から、お兄ちゃんが相手だと知っていたに決まってるでしょ。あたしがお兄ちゃん以外に、あんな恥ずかしいこと、するわけないじゃない」
小さな肩が呼吸に合わせて、かすかに震える。
怒っているというより、拗ねているような気配が滲んでいる。
「お兄ちゃんだから送ったの。お兄ちゃんだから、言われた通りにしたの。ほかの誰か相手だったら、絶対にやらない……。馬鹿みたいに思ってたの? あたしがそんな軽い女に見えるの?」
目の奥が潤んでいるのに、声はちゃんと怒っていた。
「……いや、そんなつもりじゃ──」
慌てて否定しかけたが、美咲はぴしゃりと視線を合わせて、口元をきゅっと結んだ。
「お兄ちゃんって、ほんと馬鹿だよね……。まあ、あたしは、もっと馬鹿だけど……」
そう言って、美咲はわざとらしく太腿を開いたまま、裾を引っ張ってみせる。
その仕草がかえって、露わになった白い下着の縁を引き立てていた。
「じゃあ、どうやって、SNSで、《Lupin20》を見つけたんだ?」
それが疑問だった。
《Lupin20》は、直樹ネットでプレイをするときのハンドルネームだ。
身バレするようなミスはしてないはずだ。
「もちろん、偶然じゃないよ。お兄ちゃんのことなら、なんでも知っているよ。隠していたけど、お兄ちゃんのこと大好きだったの。だから、知っていたの」
「……どういうことだよ?」
直樹の問いに、美咲は座布団の端に手を置いて、ほんの少し身を乗り出した。
膝の間から覗く太腿の奥に視線が滑りかけるが、すぐに逸らす。
「お兄ちゃんのこと……。ずっと見張っていたの……。《Lupin20》のことだけじゃない。ほかのアカウントも突き止めた。投稿している内容も……。全部見てたの。どこで暮らしてるか、どんなことが好きか、どんな言葉で命令するか──。知りたかったから、情報を盗み出す方法を勉強したの。お兄ちゃん、ちょっとだけ……セキュリティが雑だもん。もっと気をつけた方がいいよ」
「えっ、お前……探ってたのかよ……。つまり、ハッカー?」
思わず唇の端が歪む。
腹の奥が冷たくなるくせに、どこか笑えてきた。
「かなりセキュリティの厚いところでも、侵入できると思うよ。だけど、お兄ちゃんの場合、SNSで匂わせすぎ。わかりやすいもの……。それに、エッチだったし……」
妹がくすくすと笑う。
背中に冷たいものを感じた。
いすれにしても、《Lupin20》としての直樹を知っているのは間違いない。
SNSでの“あの時”のメッセージが甦る。
『もっと恥ずかしいことして欲しい』『まだいやらしくできる』──。
あれを送っていたのが、血の繋がらないとはいえ、妹だったなんて。
「……で、目的はなんだよ。本当のことを言えよ。また、俺をからかいに来たのか。だったらもう帰れ。そもそも寮がどうとか──」
途中で言葉を止めたのは、美咲がすうっと裾を指先でつまんだせいだ。
下着に縫い付けた銀のリング……。
これこそが、妹が《WARASHIBE17》だったことに間違いないというなによりの証拠だ。
「……帰らないよ。お兄ちゃんを、ここで繋ぐために来たんだもん。さっきから、本当のことしか言ってないよ。あたしはお兄ちゃんを墜とすために来たの……。お兄ちゃんが好きなの」
声は甘いのに、奥にあるのはどこまでも冷たい熱だ。
「SNSでずっと言ってたでしょ? “本物のSМのパートナーが欲しい”って。なら、わたしがそうなるしかないじゃない。裏垢で練習して、身体もちゃんと作ってきたのに……。……なのに、いざ会ったら、ぜんぜん本気で見てくれないんだもん」
視線が絡む。
ふざけてるのか、真剣なのか。
でも、その太腿の内側の小さな震えだけが生々しかった。
「……お兄ちゃんが全部教えたんだよ? あたしがどうされたいか。どうなりたいか。いまさら拒否なんて……ズルいよ、直樹さん?」
妹……美咲が妖艶に微笑む。
どきりとしてしまった。
すると、美咲がゆっくりと膝を開き、スカートの裾をつまんだ手をあげていく。
あの下着が全部露出する。
美咲の指先はわずかに震えている。
「……ねえ、お兄ちゃん、覚えてる? あたし、最初に送ったの……、普通のパンツの写真だったよね……」
小さく笑いながら、美咲は伏し目がちに言った。
脳裏に、あの時のDМ画面が鮮明に甦る。
白い下着を履いた股間を、ぎこちない角度で写した写真……。
何度も何度も送り直させた。角度も光も、はみ出した小さな膨らみまで……。
「普通……じゃなかったな……。すっごく、エロかった……」
「……だったら、嬉しいかな……。ほんと……あのときは緊張した……。でも、お兄ちゃんが『もっと脱げ』って命令したから……全部脱いだの……」
美咲の声がかすかに震える。
座布団の上で、膝をさらにずらし、下着の奥をわずかに指先で撫でた。
「……オナニーの写真も……いっぱい撮らされた……。怖かったのに……。でも、恥ずかしいのに……。お兄ちゃんだから、平気だったの……」
思わず唾を飲む。
SNSで、《WARASHIBE17》が送ってきたのは――間違いなく、妹の身体だった。
あのときの、画面から感じた小さな震えと声が、いま目の前で生々しく再現されている。
「……指だけじゃ足りないって、言ったのはお兄ちゃんだよ……? だから、バイブも買ったの……。お兄ちゃんが選んだやつ……『お兄ちゃん2号』って呼んだの……ずっと……」
「……あっ、2号って、あれか……」
バイブのことも覚えている。
呟いた声が、妙に乾いていた。
だけど美咲は、小さく首を振った。
「本物じゃないから、2号……。お兄ちゃん2号……」
「馬鹿か。ふざけた名前。だいたい、なんで主婦って……」
「別にあたしが最初に言ったんじゃないよ。SNSでお兄ちゃんが“主婦か”って訊ねて……。そうよ、って答えただけで……」
「そう……だったか?」
喉の奥が詰まった。
そんなやり取りがあったかどうか記憶にはない。
まあ、あったのだろうが。
「……うん……。それと、お兄ちゃん、家にいたときに、冷たくしてごめんなさい……。お兄ちゃんに気持ちがバレたらダメだと思ったし……。妹じゃ恋人にはなれないし、結婚もできないし……。だから、忘れようって……。本当に、ごめんなさい……」
小さく、息が混じった声だった。
「……でも……血が繋がってないってわかったのは……あとから……。お兄ちゃんがあの家から……出ていくなんて思わなかった……。あのときだけは……後悔したんだよ……。冷たくしたの……間違いだったって……」
言い終えた美咲は、スカートをたくし上げたまま直樹を見つめた。
「……でも……すぐに思ったの。お兄ちゃんが家族じゃなくなったなら……今度こそ恋人になれるって……。だから……十八歳になるまで……ずっとSNSで繋がって……準備してた……。……全部……お兄ちゃんのため……。お兄ちゃんを逃がさないように、お兄ちゃんの端末にも入った。いっぱいトロイが入っているよ。あたしを受け入れてくれたら全部消す。でも、拒絶するなら、あたし、なにをするかわからないから。お兄ちゃんのパソコンのデータにウイルスばらないで消しちゃうかも」
それは、異様に純粋な声だった。
でも直樹には、狂気にしか思えなかった。
美咲はそっと自分の太腿を撫でた。
膝から太腿の付け根にかけて、薄い皮膚が赤くなり、白い下着の端に縫い付けられた小さなリングが光っている。
「……お兄ちゃん……思い出して……。お兄ちゃんにSNSで、言われたこと……あたし、ずっと練習してきたの……」
美咲の声が、痺れたように甘い。
「……全部……お兄ちゃんに……見せたくて……。ううん。見せたくて……送ったんじゃなくて……お兄ちゃんに命令されたから……送ったの……」
直樹の喉が乾く音が部屋に響いた気がした。
ふと、美咲の瞳が直樹の腰元を見た。
「……お兄ちゃん……、ところで、そこ……すごく……大きく……なってる……」
美咲の唇が淡く開いたまま、妖艶な表情を浮かべる。
そこに残るのは、十八歳の“妹”の顔じゃなく、《WARASHIBE17》の──あの夜にだけ現れた、直樹の性癖をすべて知っている女の姿だった。
SNSでは顔はなかったが、ネットの会話を通して気持ちは伝わっていた。
目の前の美咲は、間違いなくあの《WARASHIBE17》だった……。
「お兄ちゃん……。触らせて……」
直樹が息を呑んだのがわかったのか、美咲は座布団の端から、すっと膝を滑らせる。
畳の上を、ゆっくり這うように距離を詰めてくる。
胸元が近い。太腿がすぐそこだ。
甘いような、どこか鉄の匂いが混じった汗の匂いが鼻をついた。
「……お兄ちゃん……我慢しなくていいよ? あたし、お兄ちゃんの《WARASHIBE17》だから……」
囁くような声。
美咲の指先が、そっと直樹の膨らみかけた股間に触れた。
「……あたしに……奉仕しろって……命令して……?」
潤んだ瞳が真っ直ぐに見上げてくる。
「……お前、どこでそんな言葉、覚えたんだよ……」
「お兄ちゃんからよ……。あたしは、あの《WARASHIBE17》……だよ。ご主人様……」
妹の言葉に、理性が一瞬だけ削がれる音がした。
喉の奥、情けない声が洩れる。
「……奉仕しろ……よ……」
気がつくとそう口走っていた。
「うんっ。わかった──」
思わずそう言った途端、美咲は一転して大きな声で返事をする。そして、花が綻ぶみたいに、嬉しそうに顔が歪んだ。
指先で器用に直樹のズボンのチャックを下ろし、下着をずらす。
息がかかる距離。
勃起したものが、無様に晒される。
そのときだった──。
美咲の目がぱちりと見開かれた。
次の瞬間、小さく悲鳴のような声が漏れた。
「……なにこれ……違う……全然……大きさが違うよ……お兄ちゃん……。お兄ちゃん2号で……あんなに練習したのに……こんなに……大きいなんて……」
美咲の言葉にならない言葉が、喉の奥で途切れた。
「お兄ちゃん2号って、あの玩具のことか?」
「そうだよ。お兄ちゃんがあれを買えって、言ったんじゃない。てっきり同じ大きさだと信じてたのに──」
美咲は悲鳴のような声をあげた。
「同じサイズと言った覚えはないぞ。まあ、小さめを勧めたのは確かだけど……」
「ひどいよ、お兄ちゃん──。あたし、あれで口の使い方を練習してきたんだよ──」
顔をあげた美咲が直樹に抗議の視線をぶつけた。
涙目で……。