他人になった妹は、俺の裏垢調教志願者でした 作:ドン・ドナシアン
婚約者だと──?
射精をしてもなお勃起を保っていた股間が力を失っていく。
直樹は、まだ火照りの残る性器をパンツにしまいながら、妹──美咲から一歩距離を取る。
「婚約者……? ……お前、なに考えてるんだよ」
声が低く沈んだ。
怒鳴りはしなかった。
けれど、胸の奥には、怒りと、困惑、そして──なにより自分自身への嫌悪が残っていた。
ほかに男がいるなら、最初から言えよ……。
しかも婚約者だと?
冗談じゃない。
そのあいだも、美咲のスマホから着信音が鳴り続けていたが、床に放り投げておいたら、やがて振動も音も止まった。
背後で、美咲が小さく震えている気配がした。
「お、お兄ちゃん、違うの……」
後手に手錠を掛けたままの状態で、美咲が正座をして、こちらを見上げてきた。
その沈黙を、スマホのバイブ音が再び破った。
──“岸谷謙一”。
畳の上に転がったスマホの画面に、さっきと同じ名前が浮かぶ。
「しつこい奴だな。出てやれよ」
「……無理……。必要ない……」
美咲は、それだけを言った。
声はかすかに震えていたが、視線だけは真っ直ぐだった。
床のスマホが静かになる。
直樹の中で、なにかが微かに軋んだ。
だが、また着信。けれど数秒で止まる。
その繰り返しが苛立ちを煽る。
「……クソが」
手を伸ばして、机の上の手錠の鍵を取った。
美咲の両手を背中で繋いでいた手錠。それを外そうと、無言で手をかける。
「……もう終わりだ。これは……間違いだった」
鎖に触れた……。その瞬間だった。
「やだっ、いやっ、やめてえっ」
美咲の声が跳ねた。
震える叫びが、部屋の空気をひりつかせる。
直樹の手を必死に避けながら、美咲が身体を反らせる。
逃げようとしているのではなかった。
──解かれたくないのだ。
「お願い……っ。解かないで……。婚約者だけど、婚約者じゃないの。あたし……無理矢理に婚約させられたの。気持ち悪かった……いやだって言ったのに──」
手錠の鎖がかしゃりと鳴る。
美咲が、解かれるまいと後ずさるたびに、金属音が弱々しく響いた。
「無理矢理? 馬鹿か。お前、小説のお姫様かよ。いまどき、無理矢理の婚約とかあるかよ。お前が承知したから、婚約になってんだろうが。とにかく、一度、やめだ。手錠を外すから来い」
「だって、本当に無理矢理に婚約者にされたんだもの──、お父さんの事業が傾いて、融資をする条件にって……。でも、気持ち悪いの。調教とか、躾とか……。襲われそうにもなったし」
「融資の条件? 調教? 躾? ──なんか、不穏だな。まあ、とにかく、話を聞いてからだ。いいから、手錠を外せ」
「いやああああ──。外さなくていい──。お父さんに言ったの──。でも、“女のくせに逆らうな”って、怒鳴られて。お母さんも、“我慢しなさい”しか言わなくて……」
美咲の目尻に溜まっていた涙が、ぽろぼろとこぼれだす。
それでも、美咲は視線を逸らさない。
「逃げてきたの。も、もう戻らない。都内の大学に行かせてもらうのを条件に、形だけ……受け入れたふりしてただけ。そんな気なんて、最初からないの──」
「よくわからねえなあ……。じゃあ、本当に無理矢理に婚約者にされたと言ってんのか? お前が嫌がったのに?」
「そうよ。クソ親なの──。お父さんも、お母さんも、あの岸谷の馬鹿も──」
美咲は興奮して叫んでいる。
そのとき、またもや、スマホの画面がまた震えた。
だが、今度も誰に取られることなく、またもや虚しく消えた。
直樹は、手錠の鍵を持ったまま動けなかった。
美咲は、解放を拒んで泣いている。
「わかったよ……。じゃあ、婚約を破棄しろ。電話に出て、破棄すると言え。そしたら信用してやる」
「無理よ──」
美咲が首を横に振る。
直樹はかっとなった。
「なんで無理なんだよ。お前、婚約したまま、直樹に調教されるつもりか?」
「……ちがっ、そうじゃなくて……だってさ、あいつ、婚約破棄したら──お兄ちゃんがいまの会社で働けなくなるように嫌がらせするって言ってきて」
「は? 俺の会社って……あの清掃バイトのことか?」
苦笑いした。
一応、表向きには、駅前の公共施設清掃のバイトを続けている。しかし、それが収入のすべてじゃない。
だが、もしかして、美咲はそれを知らないのか?
直樹のパソコンのセキュリティを突破して潜入し、情報を抜いたというようなことを口にしていたが、どうやら、美咲は直樹が使っている四台のパソコンのうち、ダミー用の端末にしか侵入を果たしていないのか……。
ちょっと、ほっとした。
「うん。でもさ……お兄ちゃんがもし働けなくなっても、大丈夫よ。あたし、いま、お兄ちゃん養えるくらいのバイト、探してるとこだから。そしたら、破棄しようよ。それまでは騙せばいいから」
「……はあ?」
「だから、ちょっとだけ待って? ちゃんとお金貯めて、そしたら──お兄ちゃんが就職できなくなっても平気になるから」
「お前、俺をヒモにする気かよ……。言っとくけどな、俺にもそれなりの稼ぎはあるんだよ?」
「大丈夫だって。お兄ちゃんは、あたしに任せとけばいいの。中卒扱いでいろいろ苦労してんの、ちゃんとわかってるから」
わかってんなら、もっとまともな話をして欲しい。
でも、これで確信した。
美咲は、まだ直樹の全部の秘密には到達していない。潜入を果たしたのは、直樹「のダミー用端末ともいえる、清掃業務や知人との連絡用に使っている端末だけだ。
「大学通いながらでも働けるとこ、いくつか候補あんの。ガチで稼げそうなとこ……。お酒飲むお店とかで、ちょっとだけ触られるの我慢すれば、けっこう稼げるんだよね」
「……お前……。それ、いわゆる“お触りバー”とかだろ。絶対ダメに決まってんだろ」
「えー、でもさ。触られるだけだし? 大丈夫だって。どうせ、お兄ちゃん以外には身体なんか預けないし。なんだったら、貞操帯つけてもいいよ」
「なにマニアックなこと言ってんだよ……。というか、俺は、婚約中の女になんか手出さねえっての」
「違うもん。あいつは“男”じゃない。“婚約者”なだけ。ぜったい触らせてないし、これからも触らせないし」
「胸を張って言うなよ、そんなことを──」
「……お兄ちゃんに調教してもらって、あそこの毛、ツルツルにしてもらって……んで、そこに“お兄ちゃんの名前”の刺青、入れてもらう予定だし。だったら、手を出さないでしょう」
「お前さ……ときどきマジで耳年増すぎんだよ。どっから仕入れてんだ、そんな知識」
「ネットだよ、ネット。……調べたら、ガチで色々出てくるし。レビューまであんの」
「もう二度と見るな──ネット禁止。てか、スマホ没収だ」
そう言って、直樹が畳のスマホを拾い上げようとすると──。
「いいよ。それ、言質ね?」
「……は?」
美咲は急に表情を和らげて、どこか嬉しそうな顔を見せた。
「スマホ没収ってことは、あたしを“管理”するってことでしょ? お兄ちゃんが、あたしの生活、ぜんぶ把握してくれるんだよね?」
「いや、そこまでのつもりじゃ──」
「ううん、ダメ。そこ、もう言っちゃったんだから。お兄ちゃんが管理して」
手錠の鎖が揺れる。
「……お前、スマホなくなったら困るだろ。連絡とか──」
「困らないよ。っていうか、むしろありがたい。あの岸谷って男の連絡先、全部そのスマホに入ってるし。ブロックしても番号変えて何度もかけてくるんだもん。しつこくて、ほんとムリ。アドレス消してないのは、かかってきたときに出ないようにするためだもん。ブロックしたら別の電話でかけてくるから、間違って出ちゃうかもしれないじゃない」
「お前、徹底してんのな。そこまで避けてんのに、かけてくるって……ストーカーかよ」
「だって、あいつ、けっこうガチな資産家なんだよ。タワマン住みで、会社もやってる。三十歳。見た目はまあまあだけど、中身が無理」
「三十……。ひと回りも上かよ……」
ちょっと戸惑った。
もしかして、無理矢理に婚約させられたというのは本当なのかもしれない……。
美咲は……性格は……いままで知らなかったが、結構”あれ”だけど、見た目だけなら、超一級の美少女だ。
金にものを言わせて、手に入れたいと思うくらいの女だというのは認める。
「そう──。ほんとそれ──。“結婚したらしっかり躾けてやる”とか平気で言うし。“毛は剃る派か残す派か”とか普通に聞いてくるの。気持ち悪くない?」
「ド変態だな。いや……。俺も、人のこと言えないか……?」
自嘲気味に苦笑した。
「でも、大学行きたいって言ったら、“婚約者がいる身で、都会の男に触れるな”とか言われて──。だから、入学するのも内緒にした。いま、たぶん必死で居場所探してんだと思う」
「……そりゃあ、しつこく電話もするわな」
「でも大丈夫。ここにいることは絶対バレない。大学入って逃げきるから。勝ち逃げするから、あたし」
「甘いな。どうせ隠したって、いずれはバレる。向こうは資金力も情報もある。とにかく、一度ちゃんとケリつけてこい。話はそれからだ」
「絶対ムリ。逃げきるって決めたんだから、もう譲らない──」
美咲は強く首を振った。
「いや、無理だろ……。そもそも、親は大学も知ってるだろう? 居場所がわかるのは時間の問題だ」
「知らないよ。手続きはあたしがしたし、大学名なんてあのクズ親が興味持ってないって。実家に書類残してないし──。向こうに連絡したら、あたし、終わっちゃうもん。下手したら連れ戻される。あたし、もう、あっちにに戻りたくないの」
「……お前なあ」
「あっ、そうだ。本当にスマホ、壊しちゃおう。それいいね。親には手紙書くよ。スマホ、壊れたって。連絡できなくなるし、まさか、お兄ちゃんのところに転がり込んだなんてわかるわけない」
「そうかあ?」
「それに、お兄ちゃんに調教されて、既成事実ができてしまえば、そのときには、いまはお兄ちゃんに調教されてるって言う──。言い訳ができるし。“ごめんなさい、お兄ちゃんの奴隷になっちゃいました”って言えばいいの」
「ふざけんな」
もっとも……怒鳴ったものの、胸の奥にあるのは怒りだけじゃなかった。
こいつは──本気で狂ってる。
改めて見れば、美咲は背中にかけられた手錠を、直樹から隠すように身体ごと向きを変えていた。
外されないように、無意識に逃げている。
直樹に捕まらないように立って距離をとったまま、上目づかいでこちらを睨むように見つめている。
やっぱり、綺麗な女だ。……悔しいけど。
中学でも高校でも、何人もの男子から告白されていたのを知っていた。
こいつが誰からも好かれる“理想の女の子”であることくらい、とっくにわかっていた。
それに比べて、俺は──。
小太りで、不摂生な腹。髪も伸びっぱなしで、髭も剃らず、肌もくすんでいる。
背も高くない。声も通らない。自信もない。
──でも、それでも。
直樹は、美咲を“女”として見ていた。
血が繋がっていないと知ったときから──ずっと。
でも、距離をとったのは、直樹じゃなかった。
「……お前、俺のことが好きなのか?」
震えるような声で訊くと、美咲は涙をこぼしながら、即答した。
「好きに決まってるよ。……ずっと、大好きだった」
「……不細工なのに?」
「あたしにとっては、不細工じゃない」
「女に相手にされないような、全然モテない男だぞ」
「あたしには、モテてる」
「……隠れてSМ雑誌読んで、オナニーしてるような変態だぞ?」
「あたしも負けないくらいの変態だよ。──あたし、《WARASHIBE17》だよ。忘れたの?」
その名を聞いた瞬間、息が止まった。
「あたしね、お兄ちゃんの写真でオナニーしてる。SNSで命令されたときの音声を、AIでお兄ちゃんの声に変えて、繰り返し流しながら……」
「……確かに、変態なら負けてねえな」
少し笑ってしまった。
でも、その笑いもすぐに引き攣った。
「だったら……なんで、あんなに冷たくしたんだよ。……俺は、傷ついたぞ」
美咲が唇を噛む。肩が小刻みに揺れる。
「……だって、お兄ちゃんだと思ってたんだもん……。だから、諦めようって。ちゃんと、普通の妹になろうって──でも、できなかった……。気持ちが消えなくて。……それで、もっと距離を取らなきゃって思ったのに……でも……」
ぽろぽろと涙がこぼれる。
「……お兄ちゃんなのに、もう“お兄ちゃん”じゃないって、自分に言い聞かせてた……。それが、ぜんぜんできなかった……」
「じゃあ、なんで……ずっと、なにも連絡してこなかったんだよ──。俺が籍抜かれたことで、血が繋がった兄妹じゃないって、わかったろう──」
「だって……冷たくしちゃったのに……。絶対に嫌われてると思ったの……。怖かった。連絡なんて、できなかった……」
美咲は嗚咽まじりに、言葉を継いだ。
「だから、SNSで裏垢つくって……近づいて……。でも、もう限界だった。無理だった。もう……離れたくなかったの……っ。あんな変態に婚約させられるなんて、いやぁあああ……」
泣き叫ぶ声が部屋に響いた。
直樹は……頭を抱え。
「……俺は……変態だぞ。SM好きの、ただのオタクだ。……妹だったお前を、何度も何度も──オナニーのおかずにしてきたような、最低の男だ」
「だから、あたしもって言ってるでしょっ……」
美咲が叫ぶ。声を震わせ、涙で濡れた顔で、まっすぐに直樹を見る。
「いいから……お兄ちゃんのものにしてよ……。お願い……結婚してくれなんて言わない。婚約者でも……恋人でも、セフレでも、妾でも……なにか名前がついてなくてもいい。……あたし、なにでもいいから、お兄ちゃんのそばにいさせてよおおお……」
美咲は、手錠のまま上体を崩して泣き伏した。
その背中が子供みたいに震えていた。
──わかってる。
こいつが泣くたびに、直樹のなにかが、壊れていく。
直樹も、もう限界だった。
「……俺に……責任、取れるかな……」
「責任なんて、とらなくていい……。あたしがお兄ちゃんの面倒を見る。大学行かないと稼げないから通うけど、バイトして、卒業したらなるべく稼げる会社に入って……お兄ちゃんに貢ぎ続ける……。お兄ちゃんは、家にいて、あたしを調教してくれればいい」
「お前、さっきもそう言ってたな」
直樹は苦笑した。
「……あたし、本気だよ……」
美咲は嗚咽交じりに、涙目で直樹に挑むように睨む。
大きく嘆息した。
「わかった……。待ってろ」
美咲を置いて一度部屋を出ていく。
洗面所に向かい、洗面器を持ってきた。
再び、部屋に戻る。
美咲は、同じように立ったままでいる。
床から、美咲のスマホを手にとり、カバーを開いて、基板を露出させる。それを洗面器に放り込んで、洗面器を床に置く。
「なら、お前の言葉が嘘じゃねえ証に、それに小便かけろ。基板をびしょびしょにすれば、間違いなく壊れるだろう。そしたら、お前の言葉を信用してやる。とりあえずは、セフレだな。ちゃんとした、俺用のドMに仕上がったら、恋人への格上げも考えてやる。さっきの婚約者もどきのことも、なんとかしてやるよ」
「す、する──」
美咲が顔を真っ赤にして破顔した。
そう即答した美咲は、にやっと笑った。
得意げで、どこか勝ち誇った顔だった。
だが──そのまま、数秒。
まるで、言葉が遅れて自分に刺さってきたかのように、表情が変わった。
笑っていたはずの口元が、ゆっくりと閉じていく。
紅潮していた頬が、さらに赤く染まる。
目を伏せ、呼吸が浅くなる。
「……やば……。あたし、なに言ってんの……」
思わず零れた独り言が、かえって響いた。
恥ずかしさが、いまさらのように襲ってきているのだ。
足元に置いた洗面器のなかには、直樹が開いたスマホの基板が沈んでいる。
そこに──小便をかけろと命じた。
彼女自身が「やる」と言った。それも満面の笑みで。
けれど──現実に、その行為を目の前にした瞬間、さすがの美咲も、動けなくなっていた。
「……お兄ちゃん、見てないで……。そんなの、ガチで見られたら、……さすがにムリ……」
そう言って、美咲は目を潤ませた。
だけど、その目は直樹から逸れてはいなかった。
恥ずかしい、でも命令なら──という、屈折した承認欲求の火が、そこに揺れていた。
「……じゃあ、やめるか?」
直樹が訊ねると、美咲はすぐさま、首を振った。
「やだ……。やる……。だって、あたし、“そういう子”だもん……。お兄ちゃんの命令なら、なんだって、できる……」
口調は震えていた。
だが、声音には、なにかに抗うような、意地のようなものがあった。
この娘は、恥ずかしいことをされたいんじゃない。
恥ずかしいと思いながらも、それを受け入れて、命令に従う自分に、価値を見出そうとしている。
──そうか。そういう変態なんだな、こいつも。
美咲は小さく息を呑んだまま、洗面器の前で立ち尽くしていた。
小刻みに震えながら、ミニスカートの裾を片脚ずつに割るようにして、ゆっくりと広げる。その下──後手に回した手が腰にかかる下着を探る。指先で布地をたぐると、ぐっしょりと濡れた感触が指に絡みついた。
引き下ろしたショーツには、半透明の糸がまとわりつくようにして、太ももに粘つくように伸びた。甘く火照った体が漏らした痕跡は、彼女がどれほど昂っていたかを、何よりも雄弁に語っていた。
パンツが足元まで落ちると、美咲は一度、硬直する。
恥じらいに歪んだ顔をして、視線を泳がせながら、洗面器の縁に内股気味の両脚を寄せた。ふるふると震える膝。閉じかけた唇が、小さく何かを呟こうとしたが──言葉にはならなかった。
やがて、美咲の身体がわずかに沈む。
その瞬間、部屋の空気が、ぴんと張り詰めた。
美咲は、洗面器の前で硬く膝をついたまま、じっと俯いている。
後手に繋がれた手錠の鎖が微かに揺れた。
スカートの裾がめくれ、脚の間に挟まれた素肌が露わになっている。
恥ずかしさに肩をすくめた美咲の肌が、ほんのりと火照っていった。
沈黙の中、張り詰めた空気が揺れた。
やがて、かすかな音がした。
──しゅっ。
その直後、洗面器の中で小さな水音が弾けた。
音が広がる。
しぶきが跳ね、沈んだスマホの表面に雫が踊った。
直樹は意地悪をして、黙って洗面器の端を掴み、少し引いた。
「……あっ、なにするの……お兄ちゃん──」
美咲の声が裏返る。
「ほらほら……。ちゃんと、洗面器に小便を狙えなきゃ、調教してやらねえぞ。小便しながら歩け」
直樹はゆっくりと洗面器を引いていく。
「わっ、わっ、ちょっと、お兄ちゃん」
美咲が慌てて脚を開き、姿勢を調整する。
しゃがんだままの情けない格好で、それでも彼女は顔を真っ赤にしながら、必死そうに放尿しながら、しゃがみ歩きをする。
そんな無様な格好に──直樹の奥底で、熱がまた激しく灯った。