他人になった妹は、俺の裏垢調教志願者でした 作:ドン・ドナシアン
「はあ、はあ、はあ……」
縄掛けされたまま、畳の上に両膝をついてしまった美咲が肩で息をしていた。
微かに喘ぐ声と股縄が喰い込んだショーツから漂う女の匂いが直樹の腹の奥を痺れるように震わせる。
「それにしても、その程度で、いってしまったのかよ、美咲」
わざと皮肉っぽく、美咲の耳元でささやくように言った。
「だ、だって……こ、こんなに感じるなんて……思わなかったし……。た、多分、お兄ちゃんだから……。じ、自分でやったときとは全然……」
美咲は恥ずかしそうに俯く。そして、床に両膝をつけたまま、背中を小刻みに揺らしていた。
──まったく、感じすぎだよ。
直樹は、妹のその姿を見下ろしながら微笑む。
自分でやったときって、自慰のことだろう……。だが、直樹に縄で縛られただけで、縄酔いどころか、感すぎて達してしまうとは異常だろう。
しかし、そこまで全身で直樹に劣情しることを表現してくれれば、嬉しくないはずがない。
こいつは、もしかして、魔性の女かな……。
そんなことを思った。
いまの直樹にはもう、「妹だから」という言い訳は効かない。
最初から血は繋がっていない。
それを自分に言い聞かせることが、これほど卑しい自己正当化に思える日がくるとは……。
間違いなく、直樹は──美咲にのめり込むだろう。
そう確信した。
「立てよ、調教はこれからだぞ」
直樹はできるだけ冷たい口調で声をかける。
だが、内心では激しいくらいに動機が胸を内側から叩いている、股間は熱く勃起していた。
「う、うん……」
美咲がまだ力が入らない感じの腰をあげ、片足をあげて身体を起こしかけた。
「あっ、ひんっ」
だが、その動きで股縄が股間を抉ったのか、びくんと身体を跳ねさせて、また脚を落としかけた。
「ほら、しっかりしろ、美咲──」
直樹は手を伸ばして、軽くスカートの上から平手で美咲の尻を一度だけ叩く、
ほんの軽くだ。
「あんっ、お兄ちゃん──」
だが、美咲はその一打で、目元を蕩かせて涙目になった。これは雌の顔だな。
ほくそ笑んだ。
美咲がよろよろとだが立ちあがる。
美咲のミニスカートの裾は、縄掛けのために捲れあがっていた。
その捲れたスカートの奥で、白いショーツに喰い込んだ麻縄が、股間を抉るようにくっきりと圧迫している。いましがた締め上げたばかりのそれは、肉の谷間に深く埋もれ、隙間から漏れた大量の蜜が太腿を伝って滴ってもいた。
両腕は背中に縛られている。
高手小手──後手縛りの基本形から、さらに胸元へ縄を回し、膨らみを持ち上げるように締めた。服の上からではあるが、その布地ごと持ち上げられた乳房が、苦しげな息遣いに合わせて、波のように揺れていた。
下着の染みは、さっきよりさらに広がっている。吐息にまぎれて洩れた嬌声と震えが、ほんの数分前のこととは思えないほどに、生々しい。
唇が、勝手に動いていた。
唾を、飲み込む。
──これは、もう妹じゃない。
そう思った。
いや、初めから、本当の妹じゃなかった。
あいつが血を分けた存在じゃないことは知っていた。けれど、妹だった、でも、もうそれを言い訳にできない自分が、いまこの場にいる。
もう躊躇いはなかった。
ただ美咲の反応を見ている。
悲鳴と、縄の快感に震えて昂ぶる、目の前の「女」を……。
直樹は、縄と一緒にあらかじめ持ってきていた箱を開けた。
中には、SMグッズが収められていた。
そこから、赤い革の首輪を取り出す。人間用に作られた本物の支配具だ。嵌めるのは簡単だが、外すのは鍵なしでは外せない。
美咲は、直樹の動作をじっと見ていた。
顔は真っ赤に染まり、目尻にはまだ涙の残りが光っている。それでも、逃げようとはしなかった。
直樹は無言のまま、首輪を取り出し、美咲の喉元に当てる。
そのまま後ろ手で留め具を回し、首筋にぴたりと密着させた。
しっかりと締まる音が部屋に小さく響く。
「……これが、最後の確認だ、美咲」
直樹は静かに口を開いた。
低く、抑えた声で──けれど、言葉の一つひとつを噛み砕くように。
「……美咲は、俺に支配されたいと願った。ならば、そうしてやる。だがな、そうなれば、俺は徹底的にお前を束縛する。生活のすべてに掟を作り、それを強要する。衣食住──すべてにだ」
美咲は、息を呑んだように身体を震わせた。
だが、視線は逸らさない。
まっすぐ、直樹を見ている。
「……大学には通わせるつもりだ。でも、もしかしたら監禁するかもしれねえ。お前が身につけていいものも、俺が許可したものだけになる。髪型も、服も、下着も、全部だ。逆に俺が命令したものは、拒まずに身につけてもらう……。もっとも、拒ませることはないけどな」
直樹の指先が美咲の頬に触れた。
指で涙の跡をなぞりながら、さらに言葉を重ねた。
咲の身体が震えだす。
恐怖ではない。
欲情しているようだ。
まったく、こいつは……。
直樹は苦笑しそうになった。
「お前は、俺に隷属を誓え。一切の命令に、逆らわず従うと約束しろ。その代わり──お前の面倒は、すべて俺が見てやる」
「お、お兄ちゃん……」
絞り出すような美咲の緊張した声──。
直樹はそれを途中で遮って、言葉を続ける。
「もう一度言う……。これが分岐点だ。ここから先は拒絶を許さねえ。ただ、支配されるだけだ……さあ、どうする?」
それだけを言って美咲の返事を待つ。
ここで美咲が少しでも忌避感を示せば、解放するつもりだった。でも、こいつが本気なのであれば……だったら、本気で応えよう。
そう思った。
美咲は、口を小さく開きかけ、そして止まった。
しばらく目を伏せ、震える唇を押しとどめ、ぐっと奥歯を噛んだようにして、それから──。
「うん……お兄ちゃん……。誓う……」
声は小さく震えていた。
けれど、確かな熱がこもっていた。
「嬉しい……あたしを……支配して……。あたしを……お兄ちゃんの、奴隷にして……」
言葉のたびに涙が零れた。けれど、それは悲しみのそれではなかった。
美咲は、激しく首を縦に振った。
喉元で、革の首輪がきゅっ、と音を立てた。
その音が──すべての証だった。
「いいのか? 理不尽なことをさせられるぞ。恥ずかしいことも、いやらしいこともだ」
「う、うん……。いいの……。大丈夫だよ……。だった、あたし、お兄ちゃんの〈WARASHIBE17〉だもん……」
「そうだったな……」
直樹は、美咲の顎を摘んだまま、そっとその顔を上に向けさせた。
涙の残る頬。潤んだ目。赤らんだ唇──そのすべてが、直樹に許しを乞うように震えていた。
喉元に巻かれた赤い首輪が、ぴたりと肌に食い込んでいる。
鎖はまだ繋いでいない。けれど、すでにこの美咲は──直樹のものだ。
直樹は、美咲の唇に、そっと自分の唇を重ねた。
吸い取るように。
啄むのでも、奪うのでもない。
ただ、直樹の所有物として、直樹だけの女として、刻み込むように。
美咲が、かすかに啼いた。
「ん……んんっ……」
その瞬間、美咲の背筋がわずかに伸びた。
腕はまだ後ろに縛られたまま。逃げることも、抱きしめることもできない。
だからこそ、唇だけが、心を晒していた。
直樹は、美咲の唇を押し開くように、舌先をわずかに滑り込ませる。
柔らかい──温かい──甘い。
美咲の身体が、びく、と震えた。
直樹の舌に、彼女の舌が触れる。
そして、おずおずと、絡めるように応え始めた。直樹の唾液を美咲の口の中に注ぎ、美咲の唾液を吸う。そして、直樹の口の中で混じったものをまた美咲の中に注ぎ、それを美咲の喉に舌で押し込んだ。
たっぷりと美咲の口の中を下で蹂躙してから、ゆっくりと唇を離す。
美咲が名残惜しそうに、顔を突き出してきた。離れた唇と唇に唾液の糸が張ったが、それがぱちんと切れた。
「……はっ、はっ、はあぁ……お兄ちゃん……。す、すごい……。大人のキス……」
美咲は小さく、呟くように言った。
その声音はかすれていた。
でも、確かに甘く濡れていた。
彼女の喉元で、革の首輪がふたたびきゅっと鳴る。
それが、隷属の誓いの口づけだった。
直樹は、指先で美咲の首輪を撫でる。
指が赤革をなぞるたびに、美咲の喉がかすかに震えた。
もう、逃がさない。
そして、美咲も──逃げようとはしていない。
直樹だけの女。
直樹の奴隷。
直樹の妹──だった存在。
これで、すべてが始まった。
「いや、ちょっと待って──。お兄ちゃん……。なんか、おかしいよ」
しかし、急に美咲の眼が険しくなった。
「おかしい?」
「うん、どうして、そんなにキスが上手なのよ──? なんで、そんな必殺のキスができるの?」
「必殺のキス?」
直樹は噴き出しそうになった。
「そうだよ。お兄ちゃん、上手すぎるよ──。そういえば、縄だって慣れているし……。縛られるだけで気持ちいいし……。どういうことなの、お兄ちゃん?」
「さあな」
直樹は、返事はせずに、美咲の喉元へ指を這わせた。
首輪の前側の金具に指を掛け、小さな金属の鎖を繋ぐ。
その音に美咲が身じろぎする。けれど、もう拒みはしない。
直樹は、そのまま……ちょっと強く鎖を引いた。
「ひゃいっ」
美咲が奇声をあげて引き寄せた。
だが、即座に歩き出せず、脚を内股に閉じてよろめいた。
顔を真っ赤にして、小さな呻きを漏らしながら、畳の上でへっぴり腰のまま脚を前に進めようとする。
「あっ、ああっ……ちょっと、待っ……」
「なんだよ、その歩き方……。まるで猿回しの見世物みたいじゃねえか」
直樹は鎖を引きながら、からかうように言った。
そして、鎖をもう一段階だけ強く引く。
「くっ──。だ、だって……。その、縄が……歩くたびに……当たって……擦れて……、ああっ、あっ」
美咲は泣きそうな声で言い訳をするが、その顔は快楽の火照りと羞恥の紅潮が交じり合っている。
構わず、居間を抜け、縁側の方へと進んだ。
この古屋の一軒家は、古民家の造りであり──ガラス戸の向こうに庭がある。
「……どこに行くの……お兄ちゃん……」
さすがに不安を感じた気配の美咲が後ろから喘ぎながら問う。
「お前は、性奴隷になるって誓ったよな。その意味を身体で味わってもらうだけだ」
そう言って、直樹は縁側の前で足を止めた。
障子を開け放ち。縁側に接する鴨居に手を伸ばし、用意しておいた別の縄を滑らせて通す。
その縄を、美咲の背中に縛られた後手の縄に結び直す。
「ちょ──お兄ちゃん、ま、待って……。外から……見えるよ……」
ガラス戸の外は庭だ。庭には人の胸ほどの高さのブロック塀があるが、その向こうは完全に外だ。小さな道があり、畠になっている。美咲にはそれが見えているはずだ。もっとも、目の前の畠は手入れする者がなくなり放置されている場所で、この前を人が通ることはまずない。
でも、美咲はそんなことまではわからないだろう。
美咲の狼狽と緊張が伝わってくる。
しかし、直樹は無視して、鴨居の下に美咲を立姿で拘束していく。
美咲の身体が吊り気味に引き上げられた。
きゅっと縄が軋む音──。背筋が伸び、爪先立ちになって踵が浮く。
「あっ、お、お兄ちゃん……。こ、これじゃあ、脚が……」
美咲がもがきながら声を洩らす。
だが、直樹はさらに片膝を縛り、脚を一方に上げさせた。
──片足立ち。
「ああっ、いやっ」
その状態で、美咲は縁側の中心に立たされた。さすがに、美咲は悲鳴をあげた。
スカートはめくれ上がり、白いショーツと縄が露わにさらされている。
直樹は、美咲の前の庭に面するガラス戸をゆっくりと開け放っていく。
「や、やだ、やだよ、お兄ちゃん──外なんて……っ」
美咲が狼狽の声をあげる。
けれど、直樹はもう笑っていた。
「言ったはずだろ。俺は理不尽に恥ずかしいことをさせるってな」
風が庭の草を揺らす。
木々の隙間から差す陽光が、美咲の脚に影を落とす。
「……さて、じゃあ、俺は昼飯を買ってくる」
「え──?」
「多分、一時間くらいかな。そのまま大人しくしてろ。あまり人は来ないが、絶対じゃない。万が一、誰かが通ったら……覗かれるかもな……。いや、間違いなく覗くだろうな」
「や、やだっ、やだよ……そんなの……!」
美咲が必死に首を振る。
だが、その首には直樹がつけた赤い首輪がある。
直樹は、首輪の鎖を外してから、懐から黒いアイマスクを取り出して、無言のままそれを美咲の目元にあてがう。
美咲の両眼がめ隠して覆われた。
「お兄ちゃん──やだ……やだ……。どこ行くの、置いていかないでっ」
哀願の声──。
それを無視して、直樹はポケットに忍ばせていた小型のローターを取り出す。
そして、美咲のショーツの股間にそっと差し入れた。
「ひんっ」
蜜で濡れた布越しに、それはぴたりとクリトリスに張りついた。
「ひあああああっ──」
美咲の身体が、がくがくと跳ねる。
だが、直樹はすぐに手を引き、ローターのスイッチを──最弱に入れた。
「んぐふうっ……くっ……」
息を殺すような声が、美咲の喉から洩れた。
片足立ちのまま、がくがくと震える身体。
背を向けながら、最後に一言だけ、命令を残した。
「命令だ。……俺が戻る前に、勝手にいくな」
静かに言った。
早くも喘ぎだした美咲の両眼がかっと見開く。
「い、いくなって──む、無理いいっ──。だ、だって、いまでもいきそうだもの──。無理いい──」
「大声で叫ぶなって。そういうのはな──絶望に顔を歪めて、ひっそり喘ぐのが“様式美”なんだよ。……とにかく、狂いながら、死に物狂いで我慢しろ。俺の性奴隷ならな」
「様式美って、なによおお──。いやああ、ああっ、あああ──」
ローターの刺激に全身を震わせる美咲が歯を喰いしばったまま嗚咽を洩らす。
その声が、直樹の背中に甘く絡みついた。
直樹は、足音を立てて縁側を離れた。
後ろからは、もう美咲の声は聞こえなかった。
ただ、あの小さな震えと、ローターの微かな振動音だけが──すべてだった。
直樹は美咲を置き去りにして、縁側を離れて玄関に向かう。
そのまま、鍵さえも閉めずに、昼食の調達のために、住まいの一軒家から離れた──ふりをして、こっそりと庭に回り、縁側で片足立ちで拘束されて放置されている美咲を離れて見守る。
──見ものだな。
ローターの刺激に必死に耐えて震えている美咲の姿を遠くから眺めながら、直樹はその姿がどんな愛撫よりも淫らに直樹を昂らせることを、はっきりと自覚していた。
さて、じゃあ、見せてもらおうか──お前のマゾとしての素質を──。