男を知らない姫騎士が【聖母体質】になり変態メイドと強欲貴族に快楽堕ちさせられる話 作:月見ハク
三日後、アリシアはティクリーヌの手配した馬車に乗っていた。
すでに王都からは離れ、王国領の最西端にある辺境伯領へと入っている。
うっそうと生い茂る大森林。その奥に目的の別荘はあるらしかった。
(お父様が許してくれて、よかった)
アリシアは窓から外を眺め、緑の風景に癒されていた。
父——国王が、お転婆な自分に手を焼いていたことは知っている。
王女でありながら、社交にはほとんど参加せず、騎士団長として無法者を成敗する日々。
父としても、そんな危ない橋を渡る娘を心配していたのだろう。数カ月も田舎で大人しくしていてくれるなら、と思ったのかもしれない。
それにティクリーヌの実家が、王家とゆかりの深い辺境伯だったことも大きい。
ドメオン辺境伯家。
当主であるドメオン卿は、元々王の外戚として国家運営に深く関わっていた。かつては膨大な魔力と武によって、戦争の最前線で指揮をとっていたこともあるという傑物だ。
しかしアリシアの生まれる少し前、突然失脚し、辺境伯として領地に引きこもるようになったのだという。
娘であるティクリーヌは失脚の理由を知っているのだろうが、アリシアはそれを聞くほど無粋ではない。
彼女の家にどんな後ろ暗い過去があろうと、ティクリーヌはティクリーヌ。この世で一番信頼する侍従には変わりないのだから。
対面に座るティクリーヌを見つめる。
(あれ……)
実家への帰省だというのにメイド服を身にまとっている美女。その輪郭がぼやけて見えた。
(なんだか……ふわふわする。これは……お香の匂い?)
花蜜を発酵させたような香りが、いつの間にか馬車内に充満していた。
そんな匂いなど気にもしないという様子で、ティクリーヌが小首をかしげる。
「アリシア様、この森を抜ければ到着ですよ」
(どうして……まぶたが、重い)
抗いようのない眠気に襲われ、視界が閉じていく。
そのさなか、目の前のメイドが布で鼻下を覆っているのが見えた。
(ティクリーヌ……)
両のまぶたが下ろされた瞬間、アリシアは意識を失った。
「ぐっすりお休みになってください」
夢うつつに、ティクリーヌの愉悦じみた声が聞こえた気がした。
◇
寝息すら立てずに眠り込んでしまったアリシアを、ティクリーヌはじいっと眺めていた。
目を細め、無防備になった主人の姿を愛でる。
「ああ……アリシア様、なんてお可愛いの」
衝動に抗えず、アリシアの隣へ場所を移す。顔を近づけて美麗な横顔を見つめれば、首筋やうなじからは甘い芳香が漂っていた。
「ハァ、なんていい匂い。アリシア様の香り……」
熱に浮かされたような顔で、主人の金髪へと顔を埋める。
今までアリシアには見せたことのない表情だったが、これがティクリーヌの本性だった。
十年前、父——ドメオンと共にお忍びで訪れた王都の記念式典。
そこに現れた王女アリシアは、ドレスではなく騎士服に身を包んでいて——息をのむほどに美しかった。
まだ幼さの残る顔は、遠くから見てもはっとするほどに整っていて、ぴんと胸を張る姿は姫としての可愛らしさと、同時に凛々しさを兼ね備えていて。
ティクリーヌは一瞬で魅了されてしまった。
隣に立つ父を見れば、自分と似たような歪んだ眼差しをアリシアに送っている。
——ティクリーヌ、お前はアリシア姫の侍従になるんだ。
——ええ、私も同じことを思っていましたわ。
執着の対象が同じ。このとき初めて親子の絆めいたものを感じた。
五年後、晴れてアリシアの専属メイドに抜擢されたときは、天にも昇る心地だった。
「ティクリーヌ、私の独断で専属にしてしまったけれど……迷惑ではなかったかしら」
「……いいえ、嬉しいです。アリシア様」
「そう、よかった」
年ごろの娘のようにほっと胸を撫で下ろすアリシアを、思わず抱擁したくなった。
だが、自分の狂った妄執を知られるわけにはいかない。
アリシアの周囲の者は、誰もが彼女に魅了されていた。年を重ねるごとに色香の増すアリシアに、下劣な情欲を募らせる輩も少なくなかった。
そういう者に限って、彼女の陰口をささやく。
姫でありながら騎士の真似事をするとはなんたることか、社交よりも野盗狩りに熱心になるなどはしたない、等々。
アリシアへの叶わぬ熱情を抱いてしまった反動なのだろうと、理解はできる。
そんな彼らをアリシアは咎めなかったが、次第に遠ざけるようになった。
だからこそティクリーヌは、アリシアの為すことすべてを肯定した。
ただし熱情は表に出さず、淡々と、涼やかに、変わらぬ笑みを浮かべて彼女にひたすら寄り添うように。
アリシアが心を開いてくれるのに、そう時間は掛からなかった。
唯一自分の思いを理解し、受け入れてくれるメイド。
そう振る舞うことで、アリシアはティクリーヌのことを姉か、ときには妹のように接してくれるようになった。
実際、ティクリーヌはアリシアのすべてを受け入れていた。
そう、すべてを。
朝、アリシアのベッドを直す際には、シワのついたシーツに顔を埋めて甘い残り香を吸う。脱いだ衣服や寝間着、ときには下着を鼻にくっつけ、芳醇な香りを鼻いっぱいに吸い込む。騎士の鍛錬後の肌着や下着などは、脳がイってしまうのではないかと思うほどの濃厚な匂いを味わえた。
アリシアが口をつけたティーカップを舐め、間接的な口づけを堪能したのなんて数えきれない。
美しく可憐で、孤高で、それゆえたまに寂しげな表情を浮かべるアリシア。
そんな彼女に死ぬまで付き従う。それだけでティクリーヌの生涯はバラ色に思えた。
だが——。
「やっぱり、少し大きくなってる……」
鏡の前で戸惑うアリシアに、ティクリーヌは固まってしまった。
麗しの主人が、聖母体質を発現したのだ。
聖母体質。
それは聖女の素質を持つ者が、ごくまれに発症する特異体質だ。
乳房が発達し、母乳を分泌するようになる。そしてその母乳には「万病を癒やす」効果があるといわれている。
——父の、不能が治せる。
父ドメオンは、昔は相当な性豪だったと聞く。しかしアリシアが生まれてまもなく、かつての古傷がたたって勃起障害となった。生殖器が機能しなくなったのだ。
正当な後継ぎを遺すことができなくなった父は、権力争いから退いた。以来辺境領に引きこもり、隠居生活を送っている。
父もアリシアに魅了され、欲しているだろうに——自分ばかりがアリシアの側にいることを、ティクリーヌは後ろめたく思っていた。
「……でも、アリシア様の——聖母のミルクなら、お父様を治せる」
そうしたら、あわよくば。
アリシアと「本当の家族」になれるかもしれない。
「ふふ……はやく屋敷に着けばいいのに」
アリシアの豊満な胸を、そっと揉んでみる。
「んッ……」
形のいい唇から、吐息混じりの可愛い声が漏れた。それだけでティクリーヌは全身が火照り、めちゃくちゃにしたい衝動がこみ上げてきてしまう。
肌着のような簡易服、その開いた乳房の谷間に指を滑り込ませる。露出したお腹に手を這わせ、なめらかで柔らかい感触を好きに味わう。
動きやすいからと、こんな露出度の高い服を着てくるから悪いのだ。
ティクリーヌとの二人旅で、別荘でも二人きりだと嘘の説明をしたから、油断したのだろう。久しぶりに人目を気にせず遠出ができると、いささか開放的になってしまったのかもしれない。
そういう年相応なところや、信頼した相手には警戒が薄くなってしまう迂闊なところも、なにもかもが可愛らしい。
「屋敷に着いたら、うんと可愛がってあげますからね……アリシア様」
わずかに紅の差してきたアリシアの頬に、チュと軽く口づけをする。
ティクリーヌは馬車が別荘につくまでのあいだ、ひたすらにアリシアの体をまさぐり続けた。