クリームキスから始まる関係 ~甥っ子の同級生のボーイッシュ少女と過ごす夏休み~ 作:上上上上上上上
日が暮れはじめの商店街のオンボロスピーカーからぴいひゃらどんどんと
いくつになってもお祭りというものには心を浮かれさせられる。
今年は売り手として露店に立つ側を初体験できるとなるとなおさらだ。
普段は人通りの少ないシャッター商店街に、この日ばかりはほんの20件ちょっととはいえ露店や屋台が並んで、人が行き交っていた。
本職のテキ屋は2~3件しかいない。
殆どが地元の自営業者や中小企業、そして何かしらの有志団体による出店の、手作りの縁日だ。
そして毎年この夏祭りの日はマスターの洋食屋も臨時休業にして、露店でこの地元の小さな夏祭りに参加しているという。
「マスター、こんな本格的なフランクフルトと牛串がこのお値段って、利益出てるの?」
「いつもギリギリかな。まあこれは地域のボランティア活動みたいなもんだから」
藍染の甚平とタオルバンダナを巻いたエプロン姿に、小柄ながら本職のテキ屋よりテキ屋っぽいコワモテ髭坊主で牛串を焼いてるマスターは俺の疑問を笑って受け流した……あ、こりゃハナから採算度外視なんだな。
ちなみに今日はフランクフルト担当の俺もマスターに借りた甚平とタオルバンダナでおそろいなんだが、俺の身長にはやや寸足らずな上に貫禄不足ときては、てんでサマになってる気がしない。
「そうそう、うちはここいらじゃ新参者だから、こーゆー行事は儲け関係なく積極的に参加しないとね」
と背後でビールケースに座布団敷いて座ってる丸顔プリン髪のおかみさんもフォローを入れる。
ちなみに新参者とは言うけれど、マスターがあのノスタルジックな作りの店舗で開業したのは20年近く前のことだと聞いている。
「それにしても今年はたか君がいてくれて助かったわよ~。
そんなわけで昨夜遅くにマスターから電話をもらって、早朝から設営だの仕込みだのから俺が手伝うことになったんだよな。
先約の侑希とのお料理教室は事情を話してお休みにさせてもらった。
別の学区ということでこのお祭りを知らなかった侑希も、急遽いつもの遊び仲間たちを誘って遊びに来てくれるそうだ。
しかも浴衣で来る子もいるから自転車じゃなくわざわざ私鉄に乗って来るという。
お詫びと言っちゃ何だが侑希にはがっつり奢ってやらなきゃな。
マスターのフランクフルトはいつも店の仕入れで利用してる肉屋に毎年特注してるものだという。
牛串もマスターが独自に仕込んだタレとハーブ塩の2種類だ。
ほんっとこの人変なとこで凝り性なんだから、とおかみさんは笑っていた。
この味を知ってるご近所さんが入れ代わり立ち代わりアルコール片手に食べに来てくれて、マスターとのおしゃべりも弾んでなかなか客足が途切れない。
やがておかみさんは今夜はもう腰がヤバいからと早々に引き上げてしまい、司令塔を失った俺は慣れない仕事にてんてこ舞いだ。
「うっそだろ。フランクいつも通り仕入れたのに、このままじゃかなり早めに売り切れっちまうぞ」
マスターも嬉しい悲鳴を上げている(ちなみに後でおかみさんから知らされたことだが、仕入元の肉屋がSNSで〝今夜ここでしか食べられない限定品〟などと宣伝してくれたおかげらしい)
そこに翔斗や侑希達のグループがやって来た……誕パのときの女子も一緒の、例の8人組だ。
そのうち侑希と莉子っち、あと男子2人は浴衣姿。
翔斗は何やらベタベタ莉子っちにまとわりつかれてるようで、なんつーか……お疲れさん。
侑希はというと白地にポップで鮮やかな花柄の浴衣だけでなくでっかい花の髪飾りまで着けて、こんなに女の子らしさを前面にアピールした服装でいるところを見るのは珍しい。
素で美少女の莉子っちの浴衣姿よりも、侑希のいつもとのギャップに俺のハートはわし掴まれてしまった。
「来たぞ~、たか兄ぃ!」
「おう翔斗、楽しんでるか?」
子どもたちが次々と返事を返してきて、最後に侑希の意味ありげな流し目と視線が絡み合う。
「フランク残り少ないから、食べたいなら今のうちに食ってけよ」
「俺牛くし食べる、タレで~!」
「あ、私は塩でお願いします」
などと注文を取る。
「侑希、今日は料理教室中止にしちゃって悪かったな。お詫びに奢るよ。どれが良い?」
「じゃフランクフルトちょうだい、たか兄ぃ」
「おっ、そっちのお嬢さんが例の料理教室の?今日は悪い事しちゃったな、たか君借りちゃって。おじちゃんからもお詫びな」
事情を知るマスターも足元のクーラーボックスから自分達の水分補給用の缶ジュースを取り出して侑希に手渡した。
「侑希だけずっけー!」
翔斗は文句を言うけど、お前にお詫びしなきゃならんことは何一つねーかんな。
「浴衣カワイイじゃん、侑希。似合ってるな」
みんなに商品を手渡しながら言うと、侑希は目を見開いてあからさまに顔を赤くした。
「あ、ありがと……ホントはこーゆーの苦手なんだけど、いとこのお下がり、ママが一回くらい着てみたらって……言うから……」
「え~っ、こいつがオンナ服着てるの変じゃん!」
すかさず翔斗が横から割り込んでくる。
「そんなことないよ。侑希っちカワイイよね~っ」
「どこがだよ~」
ありゃりゃ、男子と女子で完全に意見が二分して喧々諤々が始まっちゃったな。
そうしていると、商店街のスピーカーからチャイムとともに、高齢男性の声で案内放送が流れ始めた。
「ご来場の皆様にご案内申し上げます。間もなく◯◯神社の隣、◯◯◯公園で盆踊り大会が始まります。お楽しみ抽選会もこちらで開催中です。皆様こぞってご参加ください。繰り返します。ご来場の……」
ナイスタイミングだ、俺は話を逸らしてやることにした。
「ほれお前ら、抽選補助券だ。全員分の合わせたら抽選1回分できるだろ」
「おー!たか兄ぃサンキュ。みんな、ぼんおどり行こうぜ!」
「行ってら~。あっ、走るなよ。人が多いんだから!」
翔斗たちはまとまって公園に向かおうとするが、侑希は5~6歩歩いたところでふと立ち止まった。
「あっ、みんなごめん。やっぱ私ちょっとここに残って、たか兄ぃのお仕事見ていきたいんだ。後で行くから!」
二言三言交わして、翔斗たちは手を振って行ってしまった。
一人残った侑希にマスターが手招きする。
「お嬢さん、そこは人が通るし、どうせ見てるならこっち入んなよ」
侑希は売り場の折りたたみ机を回って、マスターに勧められるまま俺の後ろの座布団ビールケースに腰掛けた。
俺が仕事に戻るや膝裏をつつく感触に振り返ってみると、侑希は俺を見上げながらさっき渡したばかりのフランクフルトの先っぽを口に含んでぺろぺろ、ちゅぱちゅぱ、むぐむぐ。舌先で、唇で、口腔で弄ぶ。
フランクフルトの先端は侑希の唾液にまみれて照明に照らされヌラつき、生々しく男根を連想させた。
その姿は俺の陰にいて道を通るお客さん達からは見えないはずだが、いつ誰に見咎められてもおかしくないヤバい行為。
そんなこと分かっちゃいるけど俺の下半身には先日の先っぽぱっくんの熱いヌメリがフラッシュバックして、つい腰をビクッとさせてしまう。
「ちょっ、食べ物で遊ぶんじゃないよ」
小声の建前で侑希を諌めると
「へへ~っ、さっき浴衣をほめてくれた〝お礼〟だよ」
と小さく横ピースで囁き返してきた。
そんなこととはつゆ知らず、マスターが牛串を焼きながら侑希に声をかけてくる。
「どうよ、お嬢さん。たか君見てて料理に興味持ったって聞いてるけど、ただ肉焼いてるだけのとこなんか見てて面白いかい?」
「屋台をこっち側から見るの初めてだから面白いよ!あとおじょうさんだなんて恥ずかしい、侑希でいいです!」
侑希って老若男女別け隔てなく、するっと打ち解けちゃうんだよな。
早速フランクフルトが美味しいって感想を入口に、マスターと侑希の世間話が広がり始めたよ。
人付き合いが得意とは言い難い俺にとっては羨ましい。
こんな子が何故俺のことをここまで慕ってくれるようになったのか、不思議なくらいだ。
侑希とマスターの他愛ないお喋りを傍で聞きながらそんなことを思ってると、ものの15分もかからず。
「はい、フランクフルト、ラスト出ました。どうもありがとうございました~!」
「うぉ~……マジで売り切れちゃったよ。たか君お疲れさん」
まだ20時にもなってないのにフランクフルトが完売してしまった。
「やったね、たか兄ぃ!いぇーい」
侑希が手をかざしてきたので、つい乗っかって3人でハイタッチを交わし合った。
「さてたか君。そろそろ人通りが落ち着いてきたし、片付けたら他を回って見てくるかい?」
「良いんですか?」
「だって売りものなくなっちゃったんだもん。どうせ侑希ちゃんもお友達と合流するんなら、ついでに送ってもらいなよ」
「は~い、そうする!」
ここぞとばかりに俺の袖にしがみついてぐいぐい引っ張る侑希だ。
第4話(1)ど頭、クマゼミをアブラゼミに変更しました。
クマゼミは昼下がりにはあまり鳴かないんですね…リサーチ不足でした。
え、そんなんどうでもいいって?
それはともかく、故有って来週から本作の更新を月水金の週3回に変更します。
よろしくお願いします。