クリームキスから始まる関係 ~甥っ子の同級生のボーイッシュ少女と過ごす夏休み~ 作:上上上上上上上
という訳でマスターが牛串を焼いてる傍らで、フランクフルト用の機材だけ一足先に軽く片付け。
「じゃ、俺そろそろ回ってきますね」
「マスター、ごちそうさま~!」
すっかりマスターと打ち解けてジュースもう一本と牛串まで奢ってもらった侑希はニコニコ手を振った。
そしてさも当然のように俺と手を繋いで盆踊りの会場に向かって歩き出す。
小さくて柔らかい手……こないだはこの手が俺のチンポを握って……おっと、こんな人目のある場で思い出し勃起してる場合じゃない。
「いや~ラッキーだったな~。少~しでもたか兄ぃといっしょの時間がほしいな~って思ってテキトー言ってこっちに残ったら、まさかお祭りデートになっちゃったんだもんな~♪」
侑希は俺の腕に頭をもたれかけさせて、小声で鼻歌でも歌うように弾みをつけて話しかけてきた。
今の状況をこんなに素直に喜んでくれてるのにいかがわしいこと考えちゃってごめん、と心の中で謝る俺。
「これが大人のデートだったら、私達も帰りにホテルとかに寄って〝ご休けい〟してくのかな~」
……俺の謝罪返せ。ってか、これもパパママのスマホで仕入れた性知識なのかな。
だがそれはそれとして、俺はやがてじっとりとしてくる繋いだ手の感触を二人共有してることに仄かな幸せを感じてきてる自分に気づいた。
今日お料理教室を休んだお詫び分もうちょっと奢りたくてオムソバやらかき氷やらを勧めては、そんなに一度に色々食べられないよと断られたり。
とある飲み屋の軒先に吊り下げられたどデカいお祭り提灯の前で肩を寄せ合ってツーショット自撮りしてみたり。
何気ない一つ一つに胸が暖かくなるのを確かに感じる。
俺は10歳も年下の侑希へのこの気持ちにどうケリをつけるべきなんだろう。
楽しさと憂鬱さを胸に渦巻かせながら、侑希と一緒に公園への短い道のりに並ぶ露店を1件1件眺めつつ、ゆっくり、ゆっくりと、歩みを進めていった。
それでもこの小さな商店街、そんな2人の時間は長からず終わってしまう。
盆踊り会場の公園に踏み入るや、一緒にお祭りに来たグループの女子の一人が侑希を見つけて手を振り呼びかけてきた。
送り出してやろうと侑希と軽く目を合わせると袖を引っ張ってきた。
何だろうと侑希と同じ高さに身をかがめると、侑希は俺の耳に口を寄せて囁き声。
「たか兄ぃ、ありがと。好き、だよ❤」
不意打ちを食らって顔に血が上ってくるのを隠し、無言で背中を軽く叩いて送り出してやった。
先日言ってたのはこれのことか……とっさにこうやって誤魔化すしかできなかった、侑希に対する自分の不誠実さが歯がゆい。
そして今回もママ友グループチャットに流してもらうための盆踊りに興じる翔斗達の写真を数枚撮って、俺はもと来た道を引き返したのだった。
21時を回ってお祭りのプログラムは全て終わった。
帰り客は次第にまばらになっていき、30分も経つと商店街にいつものしんみりした静けさが戻りつつあった。
俺達はマスターの軽ワゴンに機材の積み込みを進めていた。
翔斗や侑希達がなかなか通らないので、混雑を嫌って別ルートで帰ったのかな、と思いながら路上を掃除していた矢先のことだ。
あいつらが戻ってくるのがやっと見えてきた……だが様子がおかしい。
侑希が胸元を押さえて涙をぼろぼろこぼしながらこちらに歩いて来ていて、他の子達がハンカチでその涙を拭き拭き慰めているという、あまりにも見慣れない光景。
あいつらの方から近づいてくるのなんて待ちきれず、俺は思わず駆け出した。
「どうしたんだ!侑希、何があった!?」
予備のタオルを差し出す俺に侑希は何かを訴えようとするが、えぐえぐ泣きじゃくって上手く答えられない。
「あっ、たか兄ぃ!それがさ……」
代わりに周りの子達が盆踊りの会場で起こったことを教えてくれた。
それは元々は本当にただの事故のように見えたらしい。
同じくらいの年頃のガラの悪そうな男子グループとぶつかって、その一人がいくつも持ってた食べ物のソース・ケチャップ・マヨネーズが侑希の浴衣の胸にべったりとこびりついてしまったと。
侑希はしばらく呆然とした後……翔斗たちから見てもそれはかなり意外なことだったそうだが、やがてこんな風に泣き始めたのだという。
そりゃそうだ。いつもなら男子に混じってわんぱくに外を駆け回って、転んで服を汚すどころか肘や膝を少々擦りむいたところでまるで気にも掛けず遊び続ける侑希のことだ。
始めはどちらが悪いにせよ服の汚れなんか気にも留めず、まず一言謝るくらいのことは出来る子だってことも俺はよく知ってる。
それが今夜ばかりはこの様相。
そしてそれだけならまだしも、相手の男子は泣きじゃくる侑希に詫びの一言も入れるどころか、肩を小突いたり悪態をついたりを繰り返した末に、止めに入った翔斗たちを押しのけて立ち去ってしまったそうだ。
「それで怪我はなかったのか?」
「うん、おれらが見てた分には、ちょっとどんってかたを押したりしたくらいだから何ともないと思うけど……」
それだけは一安心したが……
そこでやっと侑希の口から意味のある言葉が絞り出された。
「浴衣っ……こんな、よごれた、のっ……!」
「大丈夫だよ、早く帰って洗濯してもらおう」
「だれかが……洗っても……落ちない、よごれだって……聞こえてっ……」
どうやら軽く取り乱してるようだ。
そこにマスターも駆けつけてきて、俺に店の合鍵を握らせた。
「たか君、片付けはもう良いから侑希ちゃんを店に連れてって浴衣洗ってやんな。俺のコックコートいつも真っ白だろ。うちのカミさん洗濯名人なんだ。電話で教えてもらうと良い」
◇◆◇◆◇
「はい、ありがとうございました。侑希も落ち着いたし、軽く乾かしたら引き上げます」
先に自宅の方に帰っていたおかみさんに電話で指示を仰いで、洋食屋の奥の洗面所で侑希の浴衣のシミ落としに見事成功。
マスターも腰を痛めたおかみさんの様子を見るため、店に露店の機材を置きに戻らず直接帰宅してしまったので、もう今夜この店にいるのは俺と侑希の二人だけだ。
ともかく休憩室の座椅子で俺のタオルで涙を拭いながら待ってた侑希にこれで良い報告をしてやれる。
「良かったな侑希、浴衣キレイに洗えて。おかみさんが昔クリーニング工場で働いてたおかげで色々教えてもらえて助かったよ」
「うん、パニクっちゃってごめんね、たか兄ぃ」
安心した侑希はやっと笑顔を見せてくれたが、泣き腫らした目は未だに真っ赤で、鼻もグスグスすすっている。
侑希の浴衣は子供が自分一人でも着付けができる上下セパレートの簡単浴衣。
休憩室のエアコンのドライ設定を〝強〟にして、その正面に張られた洗濯紐に洗った
今夜の侑希は浴衣の下にTシャツなどは着ていなかったため、いつものグレーのスポブラを着けた肩が丸出しという、ちょっとちぐはぐな着こなしになってしまっている。
「それにしても侑希、そんなにあの浴衣がお気に入りだったんだな」
話しかけながらもう1つの座椅子を引き寄せて、侑希のすぐ傍らに腰を下ろした。
「だって、たか兄ぃがほめてくれたんだよ!カワイくて、にあってるって!それで私、ものすっっっっっごくうれしかったから」
「えっ……」
侑希は俺のほんの軽口をそんなに深く受け止めてくれてたのか?
「それがソースとかでべちゃ~ってよごれて、びっくりして動けなくなっちゃってたら……誰かが『あ~あ、あーゆーよごれはなかなか落ちないんだよねー』って言ってるのが聞こえてきて、それで頭真っ白になっちゃって……」
そこから後のことはよく覚えてないそうだ。
ハッとした。頭ぶん殴られたような気分だ。侑希に謝らないと。
「だとしたら……俺も半分悪いじゃねーか」
「何で?」
「だって侑希が俺に浴衣姿を褒められたことそんなマジに受け取って喜んでくれてたから、その浴衣が汚されたのが悲しかったんだろ。そんなの俺が呪いをかけたみたいなもんだ」
きょとんとする侑希に、俺は自分に苛ついてなおも続ける。
「特別なカッコなんかしてなくたって、お前はカワイイんだよ。お前が自分のこと見てって言わなくても、もう俺にはお前しか見えないんだよ。俺がウダウダしてないでそれをはっきり言ってたら、浴衣なんか関係なくお前は俺の特別だって言ってれば、ソースで汚れたくらいでお前はそんなに傷つかずに済んだんだよ!」
俺は言葉の勢いに任せて膝立ちで侑希に正面から向き直って抱きしめた。
「ちょっ、たか兄ぃ……」
「ごめんな、はっきり言うよ。侑希、お前のことが好きだ!」
俺達2人の間に沈黙が流れる。
侑希を慰めるためでもあるとはいえ、告白のタイミングもシチュエーションも赤点レベルじゃないだろうか。
でも侑希はそんなこと気にせず、要点をちゃんと受け止めてくれた。
「……私とたか兄ぃが両思いってこと?」
「ああ、だからもう泣くな!あの浴衣がなくても、俺はちゃんとお前を見てるから!」
「そう……なんだ……うれしい……」
侑希の手が俺の背に回され、強く抱き返してくるのが分かる。
「……うふっ、うふふふふふふ……」
さっきまで泣いてたカラスがもう笑った、の喩え通り。忙しいやつだ。
「じゃあね、たか兄ぃ、お願いがあるんだけど」
「何?」
「今ならね、大人の人が恋愛したらエッチしたくなる理由がよく分かるんだ」
俺の胸に埋もれた侑希の口からくぐもった声が聞こえる。
「だから、こないだ大雨のときたか兄ぃにしてもらったみたいに、私のこと気持ち良くしてほしいな。そしたらきっと今夜のイヤなこと、ぜ~んぶ帳消しにできると思うから」
エピソード数だけで言えば今回が折り返し点です。
今回から更新ペースを月水金の週3に上げてちょっと早足で進めていきます。
残り夏休みシーズンいっぱい侑希と一緒に〝夏の夜〟を楽しんで貰えますように。