クリームキスから始まる関係 ~甥っ子の同級生のボーイッシュ少女と過ごす夏休み~ 作:上上上上上上上
「はい、チーズ!」
子供たちがテーブルに並べた料理を前に各々好き勝手にポーズを決めて、俺のスマホのレンズにスマイルを向けてくる。
パシャッ!
「よし、じゃあ食べてくれていいよ!俺は次の料理の用意してくるから」
スマホをしまってキッチンに取って返すと、
「いっただきま~す!」
「たか兄ぃありがとー!」
といった子供たちの声が次々に上がった。
冷房が効いた居間のテーブルを囲むのは甥の翔斗とその同級生、男子と女子4人ずつの計8人。
料理人志望の俺は姉ちゃん一家が住むこの郊外の一軒家の借家に時々料理の練習でキッチンを借りに来てるんで、翔斗の友達の中には既に俺と面識があるやつもいる。
というのもこの築30年ほどの小さな二階建て一軒家のキッチンには、俺と両親が住む賃貸マンションにはないビルトインタイプのオーブンレンジが付いてるからだ。
なんだかんだ言ってこれは子供の誕生日パーティだ。
今日テーブルに並べたものは遊びながらつまめて子供が好きそうな簡単料理に、焼くか揚げるかレンチンするだけの冷凍食品、そして市販のお菓子が大半だ。
例えば一口サイズのサンドイッチにピザ、フライドポテトだのキャラメルポップコーンだの……おっと翔斗のリクエスト通り、ちゃんと唐揚げも作ったぞ。
そんな料理ばかりで料理人志望のプライドはないのかって?
あいにく忙しくてそれどころじゃないんだよ、手を抜けるとこは徹底的に抜いていかないとな。
何せまだ出す料理は残ってる。
一つ大皿を盛り付けては居間に運び、その度に子供たちが何かやらかしてないか目を光らせ、後で姉ちゃんを通じてママさん達のグループチャットに流してもらうためのスナップ写真を撮っては、台所に戻って調理道具を片付けて、次の料理に取り掛かる。
つまり今日の仕事は料理だけやってりゃいいわけじゃないってことなんだよね。
そんなルーチンを
「たか兄ぃ……さん、だよね?」
「ん、そうだよ。
最後の一品を仕上げながら顔を上げると、いつの間にかキッチンのドアの脇に今日のゲストの中でも一際目立つ正統派美少女って感じの子が、ドア枠に片手を掛けて立っていた。
白いふんわりワンピースに淡い色のサマーカーディガンを羽織って、小学生のくせにウエーブがかったほんのり茶髪のロングヘアに、薄化粧まで決めてるっぽいな。
「たか兄ぃさん、お料理上手なんですね!翔斗くんがいっつもたか兄ぃのからあげサイコー!って言ってたから楽しみにしてたんだけど、ほんっと、美味しかった!」
「へ~、そりゃありがとう」
実は姉ちゃんからこの子は要注意だって聞いてたんだよな。
ただからあげを褒めに来てくれただけなら良いんだけど、何か胸の前で手を合わせてもじもじしてて、本題は別にありそうなんだよなぁ。
「ところでね、たか兄ぃさん、今日写真とってくれてるじゃない。もし良かったらだけど、ってゆーかタイミングが合えばでいいんだけど、私と翔斗が二人だけのときがあったら、上手いこと写真とってもらえないかな~って……お願いしていいかな?」
なるほど、そーゆーことね。
「お、おう。出来る限りのことはやってみるよ。でも写真の腕は期待しないでくれよな」
「わぁうれしい!たか兄ぃさんありがと!」
声のトーンを上げながらぴょんと小さく跳ねて笑顔を見せると、莉子っちは居間にくるっと踵を返していった。
あざとい子だなぁ。
自分で自分が可愛いの分かってて、喋り方とか仕草も全部演出してやってるよ、絶対。
繰り返しになるけど翔斗はモテるらしいんだが、あの歳にしてああやって外堀からじわじわ男子を落としに行く術を身に着けてる女の子に目を付けられてるんだな。
あらかじめ姉ちゃんからあの子のことを色々聞かされてなかったら、随分かわい子ぶった美少女だなぁ程度にしか思わなかったろう。
今のところ害はなさそうだから様子見だ。
いかにロリコンの俺でも、そんな子は離れて見てるだけというのがちょうど良いスタンスだろう。
と、莉子っちと殆ど入れ替わりのように、ハンカチで手を拭きながらトイレから戻ってきた侑希が声をかけてきた。
「あれ~?もしかしてたか兄ぃ、莉子っちに何か変なこと言われたんじゃない?」
こいつは色んな意味で莉子っちとは正反対のタイプだよな。
声を潜めてさっきの会話を教えると、
「ごめんねー。何かの話のついででうっかり私が翔斗の誕生日パーティに行くこと話したら、私達お友達よね~とか言って3人組で強引に付いて来られちゃった」
苦笑いでがっくり横に頭を垂れる侑希だ。
「いいよいいよ、これくらいなら大して手間は変わらないから」
「うわさで聞いたよ。たか兄ぃは彼女にフられたばかりなんでしょ。
「ばっか、振られたんじゃねーよ!あ・れ・は・お互い合意の上で別れたんだよ!つーか何だよ、ニヤニヤしやがって。そんなに人の不幸が面白いのか?」
俺には学内サークル間の
この春に俺が就職活動をせず料理人になるため専門学校に進学する決心したことを打ち明けたのをきっかけに、将来のビジョンが合わないって話になって、別れたばかり。
別にケンカどころか口論の一つもあったわけじゃない。元々ここんとこ倦怠期っぽい雰囲気もあったし、まあ円満に前向きなお別れと言って差し支えないんじゃないかな。
でもこんな夢のない恋愛事情は小学生の女の子相手に話すことじゃないわな。
つーかその噂の出所はどこなんだ。
「ん~……女の子ってみんな恋バナ好きなんだよ。翔斗達にはオトコオンナとか言われてても、私もふつうに女の子だからさ!それよりこれが最後の料理?運ぶの手伝う?」
いつの間にか侑希は俺の腕にしがみついて顔を見上げながら、皿に並べたお菓子にチラチラ目をやる。
かなりの偏食家の翔斗はパンやクリームは好きなくせに何故かスポンジケーキやカステラのようなものが大嫌いなので、バースデーケーキの代わりに市販のクッキーにこれまた市販のチューブ入りホイップクリームを一つ一つ絞りつけて、スプレーチョコだのアラザンだの缶詰のフルーツだのを乗っけた……いわばバースデークッキーを最後のデザートに出すわけだ。
「もうちょっとで出来上がるから、
「いいよ、見てる。な~んかイマイチあの子達とはノリが合わない感じがしてさ~。翔斗と仲良くなりたいんなら、私みたいにいっしょにサッカーでもやれば良いのにね」
「つってもあの子の『仲良くなりたい』ってのはそういうのじゃないだろ」
「うん、分からないわけじゃないけどね?」
侑希が後ろで手を組んで食器棚にもたれかかると、膨らみはじめのささやかなおっぱいの形がTシャツに浮き上がって、いい目の保養だ。
滅多に他人を悪く言うことのない気の良い侑希だが、活動的で女子より男子の友達の方が多いこいつの言い分もまあ分かる。
「それより思ったんだけど……もしかしてたか兄ぃ……今日めっちゃ女子の写真ねらってとってない?」
ぎっくうぅぅぅ!!侑希のジト目が胸に刺さって痛いのなんの。
そうその通り。俺は実は普通にスナップ写真を撮るフリをして、普通のカメラアプリと無音カメラアプリを密かに使い分けて、今日集まった初夏の薄着姿がそそる4人の
だが俺はあくまで冷静を装って答える。
「ははっ、何だそりゃ。んなわけないじゃん」
「本当にそうかな~。いつもだってたか兄ぃ、私の胸とかおしりとか足とか、ジロジロ見てるでしょ。エッチ♪」
「ま~さか!ないない、お前らみたいな子供の体見ても面白くねーよ」
そんな言い方でクッキーをデコる手を止めないながらも、俺は内心ヒヤヒヤだ。
「それじゃどんな写真とってるのか見せてもらおっかな~」
と侑希はテーブルの端に置きっぱなしになってた俺のスマホに手を伸ばした。
「ちょっ、やめっ……!」
慌ててホイップのチューブを置いて侑希を止めようと割って入った。
ドン、ガチャガチャッ!
手首を掴んで押し戻そうとすると、つい足がもつれて侑希を背後の食器棚に押し付けてしまい、いわば壁ドンに似た姿勢が出来上がってしまった。
身長差の大きさに、俺の懐にすっぽり収まって殆ど垂直に俺を見上げる侑希と見下ろす俺は、ただ黙って視線を交わし合う。
ちょっと怯えたように大きく見開かれた大きな瞳は吸い込まれそうに真っ黒で、魅入られた俺はそのままどうしていいか分からなくなってしまった。
互いの体温と息遣いだけでなく心臓の鼓動までが伝わり合うんじゃないかと思うほどひどく胸に響く。
そんな風に密着して向かい合ったままの気まずい沈黙が30秒ほども続いただろうか、先に口を開いたのは侑希だった。
「……痛いよ、たか兄ぃ」
「あっ、ごめん!」
はっとして一歩退きその細い手首を放すや、逆に侑希は俺の手首を掴み返してきた。
「クリーム、付いてるね」
さっきテーブルにホイップを置いたときに人差し指と中指の背に付いてしまったようだ。