最初は、ただの偶然だった。
母さんのスマホがリビングのソファに置きっぱなしになっていて、画面に通知が光っていた。
「バッテリー減ってるな」なんて自分に言い訳しながら、僕は手を伸ばした。
いつもならパスコードがかかっているのに、そのときはなぜかロックが解除されたままだった。
軽い気持ちで写真フォルダを開いた。
猫の写真、空、夕飯の唐揚げ――よくある主婦のスマホだと思った。
でも、ページをめくっていくうちに、目に飛び込んできたのは、
鏡の前で下着姿の母さんがこちらを見つめている一枚だった。
心臓が跳ねた。
現実感がなかった。
目の前にあるのは間違いなく母の姿で、でもそれは“母親”ではなく――“女”だった。
慌ててスマホを戻したけれど、
それからしばらく、僕の中では何かが壊れたままだった。
母さんは変わらず明るく、夕飯を作ってくれていた。
「ごはんチンして食べなさいよ〜」なんて、いつもと同じ声で。
けれど僕の目には、彼女の表情も仕草も、前とは少し違って見え始めていた。
数日後、僕は再び母のパソコンを開いた。
見てはいけないと思いながら、やめられなかった。
そして、また――見つけてしまった。
あの夜の写真よりも、もっと挑発的な、もっと深い何かが滲み出ている写真を。
僕は、それをポケットに保存してしまった。
自分でもわかっている。
それが一線を越えているということくらい。
それでも、何度も見返してしまった。
止められなかった。
まるで、母さんが僕に“見せている”ようにさえ思えた。
そして気づいた。
母さんもまた、僕が見ていることに、気づいていたのではないか、と。
ある晩、布団に入ってから、僕はリビングの明かりが消えたのを確認して、母さんの部屋に向かった。
何をするつもりだったのか、自分でもわかっていなかった。
ただ、何かを確かめたくて――引き返せない場所まで来てしまっていた。
布団のそばで立ち止まった僕に、母さんは気づいていたと思う。
それでも彼女は目を閉じたまま、動かなかった。
「……お母さん」
そう声をかけたとき、彼女は微かに指を動かした。
まるで、答える代わりに“委ねる”ように。
何かが崩れた。
僕も、彼女も。
その夜、言葉はほとんどなかった。
ただ静かに、触れ合った。
夢の中のように、でも確かに現実で――
母さんが僕を拒まなかったことだけが、すべてだった。
次の日、母さんはいつも通りに目玉焼きを焼いてくれた。
僕も、何事もなかったように朝食を食べた。
でも、ふたりの間の沈黙は、以前とは違っていた。
何も話さなくても、互いに“知ってしまった”ことが、ずっと空気に滲んでいた。
それからの母さんは、少しぎこちなくなった。
けれど、ときどき、僕の視線を意識しているような仕草もあった。
ある夜、ふとしたタイミングで手が触れたとき、母さんはそのまま動かなかった。
罪悪感に潰されそうになる日もあった。
でも、それ以上に、もう彼女を“母親”だけでは見られなくなった自分をどうすることもできなかった。
ある夜、台所で音がした。
そっと起きて見にいくと
母さんがスマホを手に、自分自身を撮っていた。
それは僕にとっての“始まり”だった最初の自撮りを思い起こさせた。
僕はその場面を見てしまった。
いや、もしかしたら――母さんは見られることを期待していたのでは?
母さんは、その写真を削除しようとしていたようだった。
しばらく画面を見て考えていたようだ。
でも、できなかった。
明日になれば僕はまたその写真を見ることになるだろう。
ならば・・・
僕は着ているものを全部脱ぐと母さんに近づいて行った。