「やぁ、よく来てくれた」
先生がゲヘナへ出張してはや3日。寂しさを募らせていた所、トリニティ三大分派が一つサンクトゥス分派首長百合園セイアより、お茶会の招待を受けることと相成った。
度々新しい友人と遊びに出かけることが多く、お泊り会以外でのお茶会は暫くぶりとなる。
っと、考えに耽ると背後より声が聞こえてくる。
「やっほ~☆ナギちゃん!セイアちゃん!きたよ~!」
「おぉ、ミカも着いたようだね。早速…」
お茶会を始めようじゃないか。
「さて、ナギサ。その後何をもって返礼としたんだい?」
ケーキを食べる手が止まる。
二人にはかつて先生より頂いた花束の返礼品の相談を持ち掛け、ことの顛末を話していなかった。
行儀悪く頬杖をつき、にんまりと笑顔を浮かべ、此方を見つめるセイアに、漸く目線を返す。
確かに相談はした。二人に助言を乞うたのは紛れもない事実。
まず、手作りのお菓子を提案されたが、普段からしばしば味見だの称して渡していたため、特別感がないと却下。次に絵画をシャーレに寄贈してはどうか案が出たが、飾る場所などなく、よしんば倉庫で眠るだけだろう。ほかにもいくつか案を提供してくれたもののしっくりくるものがなく、悉く却下され青筋を浮かび上がらせる頃、相談を持ち掛けたが黙して語らず、腕組みをしたままだったミカが口をついに開いた。
「もうナギちゃんをあげちゃえば☆」
「ミカ!?」
親友が乱心した。
「いや~だってさ…もうそれしかなくない?このままだと不毛すぎてセイアちゃん憤死しちゃうよ?」
「し、しかしですね…ミカさん…それは流石に…」
この期に及んで未だ踏ん切りのつかない様子のナギサ様。とはいえこのまま何にも決まらず、ただ無為にセイアの案を斬り捨て御免して終わってしまう。大切な友人の相談事故に、真摯に向き合って案を出し続けてきたが、却下が続くとなると態度を改めざる負えない。
それを察してか二の句を継ぐミカ。
「それならさ!これはどう☆」
そう鞄から取り出すは、トリニティの校章が印された一冊の古い書物。頁を捲り、目当てのものを見やる。今の相談ごとに最適な文言が書いてあった。
ふむふむ…最高クラスの勲章、褒章等には羽を模したものが用いられたと…なるほどこれは一考の余地がある。
先生への返礼品に羽根飾りを用意すれば頂いた花束に報いることができそうです。
「ミカさん…ありがとうございます。セイアさん非礼をお詫びします…」
「まぁ…いいさ。本気の迷いがあったんだろう?それなら別段怒りを顕にするようなことじゃないさ」
「青筋浮かべて他の誰だっけ☆」
いつもの口喧嘩が火蓋を切り、喧騒が戻る。
そう、この時は未だその考えに至っていなかったのだ。羽根飾りを贈ることに決めたものの、どのようなデザイン、素材を厳選するかなど準備には時間がかかる。
それから数日後、忙しい日々が続き疲れがたまっていたとはいえ、血迷ったか抜けた自身の羽を見て、これを使おうと加工に着手し始めた。
そうして出来上がった羽根飾り。しかしこれだけでは寂しいので、チェーンを通してネックレス仕様にし、これにて返礼品は出来上がった。
まさかあれが如何様な意味を持つとは知らずに、私の羽を素材に作り上げたネックレスを先生へと贈り、大変愛を注がれた後、このお茶会のお誘いが届き、今に至る。
「あれだけ人の案を却下してミカの提案を飲んだんだ。さぞかしいい物を贈ったんだろう?」
「…あのもしかして怒ってます?」
笑顔で此方を見つめるセイアは再度口を開く。
「まさか、待てど暮らせど報せがないもんだからね。まぁ結果は上々だったんだろう?先生は喜んでいたか、気にはなっていたんだ」
「申し訳ないです…相談したからには結果を報告するべきですよね」
しょんぼりするナギサ様。そう相談するだけして結果を報告していなかったのだ。
「まぁまぁそれで?結果どうだった☆先生の反応は?」
ミカにも促され、結果を伝えるナギサ様。
先生をお屋敷に招いた処から、夢のような一時を過ごしたことを緩やかに語りだす。頷く2人を尻目にどんどん白熱していき、ついに先生にアクセサリーを付けた所で急に止められる。顔を向けると絶句した様子の2人がこちらを見つめていた。
「ま…待ってほしい。先生の返礼品に羽根飾りを用意したのは解っている。そう、トリニティの歴史を鑑みてだ。しかし…今自身の羽根を加工してって言わなかったかい…?」
はて、何かおかしなことを言っただろうか。折角の品ですし、気合い入れて手ずから作成したのですが…
「んん、まぁ確かに?ネックレスの意味をちゃんと調べまして、返礼品にしたのはちょっと露骨な感じもしなくもないですが…それでも心を込めてですね?」
「ナギちゃんそこじゃなくて」
「ナギサ…トリニティにおいて羽根飾りが褒章や勲章として使われたことはあったとも…しかしだ」
大きく息を吸い、吐く。
意を決してセイアはしっかりと眼を見て語りだす。
「それはあくまで信賞に使うものだ。えーと何というかだな…自身の羽根から作る羽根飾りは違う意味合いになってだね?」
「自身の羽根を使う贈り物はね?自分自身を捧げる。貴方に全てを委ねるってことなんだよ☆」
「………………ふぇ?」
徐々に頬が赤くなるナギサ様。眼が泳ぎ、カップを持つ手が震える。
確かに先生にはこの身をさらけ出した。それは間違いないし、愛してもらったことが今でもうれしく想う。だが、自身が贈ったものにそれほどの意味を持つとは知らずに渡してしまったことが、途轍もなく恥ずかしい。知っていたのならなおのこと先生に込める想いも深めたというのに!?
いや!そうではなくて!
「わーぉ☆ナギちゃんてば大胆~」
「おおぅ赤くなったり青くなったり忙しいな」
「あのいや違い違くなく!?そのですね!?」
この後慌てるナギサ様が落ち着くまで紅茶3杯分の時間を要した。