敏腕エロマッサージ師、ワケアリさんが集まるマンションの管理人になる 作:ベリーナイスメル/靴下香
ありそうでないテンプレは突然に
人間、分不相応な金の手に入れ方をしてしまうとダメだなと思う。
宝くじの一等を当ててしまった人は、抜け殻のような毎日を送るようになってしまうなんてのは本当の話なんだろう。
いや、そんな話に比べればスケールはもっと小さいし、ただの言い訳なのかもしれないけど。
大学卒業を目前に控えても内定を貰うどころか何処の面接も受けないまま卒業してしまったのは、並べられた求人票の月給を、一週間程度で稼げてしまうバイトで常識をおかしくしまったせいだと言いたい。
「――ここがマンション、セルヴィスね」
スマホから案内を終了しますという音声が流れ、見上げたのは3階建て、総部屋数21のマンションがあった。
腐っても外国語大学卒業生、バイトを辞めたら、一年二年くらい海外へワーカーとして飛ぶのもありかなんて思っていた時だ、マンションの管理人を頼めないかと親父から言われたのは。
「人々に奉仕する、なんて名前の割には……いや、何も言うまい」
駅から徒歩15分、一番近い路線バスまでには10分、駐車場は近隣の青空駐車場と契約している築15年のマンションだ、はっきり言って立地条件から考えれば人気になる要素がない。
あるいは、家賃条件だけを切り取って奉仕精神を謳っているのかもしれないな、3LDKの部屋とワンルームタイプどちらを見ても格安と言えるだろう。
「まぁとりあえず他の人が見つかるまでって話だし、っと。こんにちは」
「え、あ……あ、あぁ。今日から来られるって言う?」
「ええ、八雲大地と言います。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそ。306号室の早瀬美香と言います、よろしくお願いします」
入り口の裏手から現れた女の人へと挨拶してみれば、何故か少し慌てたように頭を下げられた。
この先は確かゴミ捨て場、だったか?
確かにゴミ捨ての時間にしては少し遅いし、管理人としては注意した方が良いのかもしれないが。
「あぁ、そうバツが悪そうにしないで下さい。堅苦しく規則だなんだというつもりはありませんし、まだ管理人の実感もないですので」
「そ、そう、ですか。はい、えぇと……気を付けますね、ごめんなさい」
気さくにしたつもりだったけど、効果はあまりなかったみたいで、会った時から浮かんでいた暗い表情は晴れず、そのままぺこぺこと謝りながらマンションへと入って行かれた。
……うーむ。
「俺、怖い顔とか言われたことはないんだけどな」
イケメンとも言われたことはなかったが、少なくとも距離を置かれる容姿ではない、そこら辺はバイトのお客さんに保証してもらったことだし大丈夫だと思う。
最後まで目を合わせられなかったし、何か怯えられているような感じのままだった。
いや、誰かと関わるのが苦手って人なのかもしれないし、ただの管理人に愛想を振りまく必要もないのも確かだが。
「……美人、だったなぁ」
もしかしたらエロい目で見てしまっていたのかもしれない。
や、でもさ、中々なお胸とお尻を持っておられるというのに、Vネックシャツとデニムショーパンなんて薄着で出てきたらさ、ダメじゃない?
男って悲しい生き物なんだよなって、まさかそんなことを一発目から実感することになるとは思わなかったよ。
「でも、指輪してたし……うん、気を付けよう」
ちょっとプリンになっちゃっているけど肩甲骨あたりにまで届くキレイな茶髪と、いくつなんだろう若妻って言葉が似合う幼さに反した体つき。
旦那が羨ましいね、俺だったら毎晩絶対お励みすることを誓っちゃうよ。何ならバ先でお客さんとして来てくれていたら、ドロドロになるまで――っと。
「いかんいかん、さっさと管理人室へ行こう」
目の保養になった。そんな位の感想に落ち着かせながら、ロック解除ナンバーを押した。
管理人室は三階と同じ間取りとは聞いていたけども。
「一人暮らしで3LDKはちょっと広すぎるな」
荷物を片付けて簡単に掃除をしてみたは良いけれど、この広さをこれからしばらく一人でと考えるとげんなりしてきた。昼前に着いたのにもう夕方だ。
元々備え付けの備品として置かれていたのか、前任者が置いていったのかはわからない冷蔵庫にしても大きすぎるし、食器類も到底使い切れないほどある。
率直に言ってちょっとどころではなく持て余してしまうよね。
「バリアフリー、防音、システムキッチン……ここら辺の設備は、割とちゃんとしてるし。なるほど、立地以外は良い感じなんだな」
空き部屋が無いというのもわかる気がする。
一階はワンルームタイプ、二階三階は3LDK、その全てに入居者がいることでどれだけ儲けているのかなんてわからないけれど、元は取れているのだろう。
「とりあえずマニュアルは、っと。あったあった」
口頭でざっくりとこういう仕事だって言うのは親父から聞いているけど、それだけじゃあないだろう。
「んー……と言っても、そんな仕事があるわけじゃない、か」
マンション共有部分の点検やら掃除やら、この辺りは事前に聞いていた内容そのまま。
前任の管理人は歳も歳だったし、基本的に業者で済ましていたみたいだけど……経費を浮かせばその分俺の給料が増えるって約束だし、出来る事はやりたい。
差し当って掃除とかは俺でもできることだし、大掛かりな清掃や専門的な点検だけ業者に依頼して細々としたのは自分でやろう。帳簿を見たら週に二回廊下掃除をしてもらっただけでも中々の金を取られているみたいだし。
「後は住民の相談受付業務、ね」
と言っても精々水道の調子が悪いとかそんな感じの相談とかになるんだろうが。
時間を見つけて前任者にどんな相談があったのかとかどういう対処をしていたのか聞いてみるべきかね。
「……何真面目にやろうとしてるんだか」
ふと我に返った。
次の職が見つかるまでの繋ぎってつもりだし、親父もそのつもりだから次の管理人を探しているんだ、程々にやればいい。
「腹、減ったな」
我に返ればいい時間であることを思い出した、そりゃ腹も減るよ。
適当に宅配でも頼もうかとスマホを触った時に。
「うん?」
チャイムが鳴った。
当然だが管理人室へ訪れるということは何かしらの相談をしに来たということだろうが。
「一日目、なんだけどなぁ。むしろ俺が教えて欲しいくらいなんだけど。さて、誰が――っと」
玄関モニターに映っていた、その人は。
『す、すみません、えと、その……晩御飯、作りすぎて、しまいまして』
何かが入った小鍋の上にご立派なお胸を乗せた、早瀬さんだった。
漫画のような展開を喜びつつありがたがるべきなんだろうが、実際に起こってしまえばどうしたらいいのか分からなくなるというのが、偽らざる本音というもので。
「あー……えっと、上がられ、ます?」
「は、はいっ、その、おじゃま、します」
混乱したままの頭でありがとうございますと言えたのは良い。
が、鍋を受け取っても帰ろうとしない早瀬さんへ言えたのはそんな言葉だった。
部屋にあげてどうするんだって話なんだけど、いやでも帰ろうとされなかったし……どうしたらいいんだ。
「あ、やっぱり、うちと同じ間取り、なんですね」
「そのはず、ですけども……あ、あぁ、お茶淹れますね? 座ってて下さい」
「い、いえいえっ、わ、私がやりますので、管理人さんこそ座っていて下さいっ」
え、えぇ?
いくら同じ間取りでもわからんでしょうに。あ、止める間もなくキッチンスペースに行かれた。
「……さーて、どういう状況だ? これ」
今日から始まる管理人生活、その初日に同じマンションに住む若奥様がご飯を余らせたらしく持ってきてくれた。
改めてこれだけ考えるとなんともときめくシーンなのかもしれないが、戸惑いしかないよ。
え? これってあれか? ご飯を作ってきたんだら相談に乗ってくれとかそういう取り引き?
いやいや、相談に乗るってのは業務だしさ、別にお礼がどうのって話にはならないよね?
「えーっと……」
視線を早瀬さんに戻してみれば案の定と言うべきかお茶がどこにあるのかわからないらしく、あちこちを探している。
「う……」
そして言いたい、そんな恰好で前かがみにならないでくれと、ケツを突き出さないでくれと。
早瀬さんは深めのVネックシャツにデニムのショートパンツなんていう朝会った時と同じ格好をしていた。
もろに体つきが分かる格好だ、はっきり言わなくてもエロい。
「あ、ここ、かな?」
一番下の棚に入れていたお茶っぱ缶を取り出して身体を起こせば、シャツからおっぱいがまろび出るんじゃないかってくらい揺れたし……あぁもうこの人わざとやってんのか? だとしたら許すまじだよ。
「あ、あの? これ、使ってもいい、ですか?」
「え? あ、はい。ありがとう、ございます」
「い、いえいえっ! え、えと。一緒に、持ってきたのも温めたりしちゃって、いい、ですか?」
「も、もちろんです。自由に、使って下さい」
もしかして俺は早瀬さんと結婚していた? 俺はいつの間に結婚指輪を彼女の指にハメたんだ……ちんぽはハメてなかったと思うんだけど。
って違う、いやほんとどういう状況だよ、この人何考えてんだ?
そんな薄着でさ、襲って下さいみたいな恰好で若い男の部屋に一人で来るなよと。
旦那は知ってるのか? 知ってたらなんだ? 美人局的な? 手ぇ出したらドッキリ番組よろしく突入されの、慰謝料請求案件か?
「ふふっ」
「うぐ……」
こっちの気持ちを知ってか知らずか、どことなくキッチンに立っている早瀬さんは機嫌が良さそうだ。
それこそ朝に会った時やチャイムモニター越しに見た陰を感じる雰囲気は何処にもなくて、無意識にだと信じたいが、鼻歌に合わせてリズムを取って、そのたびに胸がぷるぷると震えている。
「まさか、ノーブラ? い、いやいや痴女だよそれは」
誘われてるのだろうか、貞淑そうに見えたその本性はとかエロギャップはいかんですよ。
それでも、ついつい盗み見てしまう。
揺れる胸、その先端はぽっちりとした膨らみがあって。
「……いかん」
気づけば痛いくらいに勃起していた。
我ながらこの性欲の強さは如何ともし難いな。
落ち着こう、落ち着きたまえ。
キッチンへと泳がせてしまう視線を無理やり切って、テレビを点ける。
卒業と同時に切り替えようと思っても切り替えられない部分はある。
特に三年生から卒業までは、バイトの事を含めなくても爛れた生活を送っていた身だ。良い女を見たらどうしてもこう、うずいてしまうというか、なんというか。
「ふぅ……」
そういうのは、卒業と同時に終わり。そう決めた、約束しあった。
何より早瀬さんは人妻だ、マッサージと言う名の言い訳が使えない以上、我慢できなくても我慢しなきゃただの犯罪になってしまうわけで。
「か、管理人、さん?」
「っ……は、はい」
声に振り替えれば、ダイニングテーブルの上にどこから見つけたのか鍋敷きを敷いて。
「お待たせ、しました。お口に合えば良いのですが……」
肉じゃがの湯気の向こうから、胸の谷間を強調しながらおずおずと言ってきた。