敏腕エロマッサージ師、ワケアリさんが集まるマンションの管理人になる 作:ベリーナイスメル/靴下香
「――う、ん……あ、れ?」
「あぁ、起きましたか?」
「かん、りにん……さん? へっ!? きゃあっ!?」
さて、10分と少しくらいだろうか? 盛大にイった早瀬さんの意識が戻ったのは。
身を起こしてきょろきょろと周りを見渡し、状況が理解できたのか思い出せたのか、身体を隠すために再び布団へと潜り込まれてしまった。
なんともまぁお可愛らしいことなんて思いつつ、ビンタの一発が飛んでこなかったことを喜ぶことにしよう。
「……どう、してですか?」
「トんでる間に好き放題しなかった理由ですか? それならマッサージで気持ちよくなってもらいたかったからであって、レイプしたかったわけじゃないからですよ」
少し悩んだのは内緒の話だけども。
いやだってさ、人妻とは言えエロイ巨乳の姉ちゃんが息を荒げて横たわってたら誰だってそう思うじゃん。
「でっ、でもそれじゃあっ!」
「おぉっと、落ち着いて下さい。かっこつけてはみましたけど、正直結構我慢してるんです。そんな俺に早瀬さんの裸はちょっとどころじゃなく効きますから」
「あ――う」
布団を跳ねのけて身体を晒した時のぽよよんっぷりが股間に悪い。
とりあえず何を話すにしてもまずは服を着てもらうことにしようか。じゃないとナニする時間がまた戻って来てしまいそうだ。
「心配しなくても、って言うかこんなことしなくても家賃の相談には乗ります。前の管理人がどうだったのかは知りませんけど……あーいや、前もこんなことを?」
「しっ、してないですっ! か、管理人さんが初めて、で! え、っと、その……」
「わかりました変な事聞いてすみません。とりあえず、服、どうぞ」
「……ありがとう、ございます」
ベッドの傍に丁寧に畳んで置かれていた早瀬さんの服を渡、そうとして。
「あー……早瀬さん?」
「は、はい?」
「下着、持って来てます?」
「え? っ!? ~~~~っ!」
着てもらおうがエロいことに変わりがないことを思い出した。
デリカシー的にどうなんだろうとは思ったけど、やっぱり恥ずかしいよねごめんなさい。
「……インナー、貸しますね。まだ着てない新品があるのでどうぞ」
「ありがとう、ございます……うぅ」
ともあれこれで、お話はできるだろう。
「改めて、ですが。お約束通り今月の家賃は割引します。どれくらいをご希望ですか?」
「えっ!? い、いえあの? 約束通り、って」
「抱いたら割引してくれ、でしょう? 俺、早瀬さんを抱いたじゃないですか」
「え、あ……えぇ、っと?」
あれだけ徹底してこれはマッサージですよと言っていれば困惑するのも無理は無いが、ぶっちゃけ俺の認識としてはセックスに他ならないわけで。
セックスをした、つまるところ抱いたというのなら約束は守られるべきだろう。
「あぁ、額を口にするのは憚られますよね。では一旦この場で早瀬さんに今月のお家賃分の金をお渡ししましょうか。そこから幾らか抜いてくれたら――」
「そ、そうではなくてっ! 私そもそも抱かれてませんしっ! な、なんでっ!」
「あーはい、わかりました。そうですね、そうなのかもしれません。ではこうしましょう、そこに立ってもらっていいですか?」
「え? ……わ、わかりました……で、ではこちらをどうぞ……!」
意を決したようにイスから立ち上がり、そのまま何処から取り出したんだウエトラをまた差し出された。
いやほんと、この人のセックス観念がどうなっているのか腰を据えて聞いてみたいよ。
「まったく、掘り返したくないですけどあんだけびしゃびしゃに濡らしていた人が持つものじゃないですよ、これ」
「あぅ」
「そういう意味でも必要ないですし、さくっとヤりたいってわけでもありません。立ってもらったのは、こうするためです」
「あ……」
うーん、女の香りだね。
抱きしめてみれば予想通り胸がむにゅっとつぶれて大変気持ちがよろしい。
「これで、早瀬さんをちゃんと抱けましたので。約束通り、でしょう?」
「もう……私、これでも大人で、夫もいるんですよ? こんなの、子供騙しもいいところ、です」
「でも、気持ちいいですから」
「……そう、ですね」
俺の背中に早瀬さんの腕が回された。
密着感が増せば気持ちよさも増して、やっておいてアレだけどこれも大概ムラムラしてしまうと後悔しそうになった時。
「本当に、気持ちいい……」
胸の中で早瀬さんが小さく呟いた。
回された腕の力は変わりない、ただ俺の胸に少しだけ顔をうずめて何処か縋りつくように。
「温かい、です」
「早瀬さんも温かいですよ」
順序が逆だと思わなくもない。
本当はこういうことでムードを高めてから、ベッドを共にするべきなんだろうに。
「どうして、ですか?」
「はい?」
「どうして、管理人さんはそんなに温かいんですか?」
「温かいって」
に、人間だから、とか?
いやぶっちゃけちょっとムラムラしてるからそのせいかもしれませんけど。
「さっきだってそうです。私、いつそうなってもって思ってました。けど、管理人さんはシなくて」
「いや、まぁ……はい」
いつそうなってもって思われてるだろうなーって諦めみたいなのが見え透いていたから、とは言えないよなぁ。
「ううん、それどころか……その、はしたない、のですけど、そうされたいとも、考えちゃいました。すごく、気持ちよくて、今だってちょっとふわふわしちゃってるくらいで。だって言うのに何故かすっきりしてて……こんなの初めてなんです、わからないんです」
……ありがち、ではある。
幸せな結婚をしても、幸せで満たされた性生活を送れるとは限らない。
ありふれた問題であり、それこそ夫婦で話し合って解決しようとしていくことしかできない部分だ。
もちろん俺は結婚なんて経験はないから、お客さんの言ってた事をそのまま受け取っているだけではあるが。
「俺も、わかりませんよ」
「そうです、よね」
「いえ、わからないけれど知ってます。知ってるだけなんですよ、俺は」
腕の中にある早瀬さんの顔が持ち上がって、潤んだ瞳が向けられた。
初対面もいいところの人に何を言ってんだって話ではあるが、何でだろうね。
「何を、知っているんですか?」
それは言ってしまえばベッド上での最適解とでも言うのか。
烏滸がましい話ではあるが色々なお客さんを相手にして、その場その時で相手がどうして欲しいのかを見抜く力みたいなものは身についたと思う。
だからと言って、それが人間として正しいのかどうかはわからないわけだが。
「セックスは、気持ちいいものだってことですよ」
「はうっ!?」
「いや失礼しました、ちょっと明け透けでしたね。理想論なのかも知れませんが、性行為って言うのは気持ちよくて満たされるものなのだと思います。だから――」
――あぁ、そうか。
だからあのお姉さんはちゃんと俺も気持ちがいいセックスを、なんて言ったのか。
「だから?」
「あのまま最後までシても、お互いが気持ちよくなれないと思いました。だから、ヤらなかったんです」
「……お互いが気持ちよくなければ、性行為じゃ、ない?」
「そうなんじゃないかなと思います。重ねて、理想論なのかも知れませんが」
バイトとはいえプロだ、だから自分が気持ちよくなってやろうなんて考えてはいけないと思っていた。
いつの間にか我慢が我慢じゃなくなって、当たり前になって、相手をどこまで気持ちよくできるかだけを考えていたから。
……まったく、随分と俺の性癖はひん曲がってしまっていたらしい。
これが失って初めて気づくこともあるってヤツか? 勘弁してくれよ。
「そう……ですか」
「社会人なりたての若造が言うことじゃあないかもしれませんね、すみません」
「いえ、そんなこと、ありませんよ。私も、そうであればいいのにって思いますから」
不意にお互いの身体が離れた。
少しだけ離れて見た早瀬さんの顔は何処となく寂しそうというか、悲しそうで。
「あの、やっぱりこのまま割引きしてもらっちゃうのは気が引けるんです」
「遠慮しなくてもいいですよ?」
「遠慮してるわけではないつもりですけど……えっと、とにかく気が引けちゃうので、ですね」
何を言われるのやら、表情はいつの間にやら恥ずかしそうって感じではあるし、悪いことではなさそうだけれども。
「管理人さんは、お付き合いされている女の人、とか?」
「いませんけど……」
「でっ、でしたら、ですね! よろしければ、なんですけれども!」
「は、はい」
え? もしかして不倫のお誘いとか? どこのエロ漫画!?
「私を、お手伝いさんとして雇って貰えませんか!?」
「……あー」
そういう。
「お、お料理得意、かどうかわかりませんけど好きです、し! 家事は、間違いなく得意です! か、管理人さんに恋人ができるまでとかで、だ、大丈夫、ですのでっ!」
「落ち着きましょうか、落ち着いて下さい」
「は、はいっ!」
スンってなった、ちょっと期待しちゃったよね。
けど、まぁうん。
「助かります、ぜひお願いしていいですか?」
「ほ、本当ですかっ!?」
「ええ。一人で住むにはここ広すぎますし、来て早々これからの家事大変すぎるなとか思っちゃいましたし」
「な、ならっ!」
急ぎはしてないけど、日中は就職活動で忙しくもなるだろうし、帰って家事をどうのってのが無くなるのは助かる。
バイトの給料もほとんど手を付けてなかったし、腐るほどとまでは言えないけど余裕はある。
「給料は月の家賃相殺ってことでいいですか?」
「はいっ! それで大丈夫です! ありがとうございますっ!」
ありがとうはこっちのセリフだと思うんですけどそれは。
ぺこぺこと勢いよく頭を下げて来られたら、インナーを着てもらってなおブルンブルンと揺れる大きな胸がちょっと目の薬もいいところで……これが続くのは眼福と思うべきか生殺しと思うべきか。
まぁいいや。
「ではこちらが合鍵です」
「えっ!?」
「あぁ、念のためというか不安解消のために言っておきますけどここに大金とか個人情報とか、見られたり盗られて困るものは無いですのでご心配なく」
「そ、そういうことを心配しているのではなくっ!? い、いえ言われたら逆に落ち着かなくなってしまいますというかっ!」
それは失礼しました。
けどそれじゃあ何にびっくりしていらっしゃいますやら。
「では何を?」
「う……」
今度は顔を真っ赤に俯いて、ちょっとますますよくわかりませんね。
「な、なんでもありません……」
「そう、ですか? いえ、なら良いんですけど。あぁ、俺の連絡先もお伝えしますね、いつ来るとかそういうのわかれば教えてください。スマホ、持って来てます?」
「はぅ……は、はいぃ……」
おずおず、もじもじと取り出されたスマホと連絡先を交換する。
なんで急に挙動不審になってるのやら、よくわからん。
ともあれこれで健全な関係には落ち着いただろう。
マンションの住人的な部分を考えれば特別扱いをしていることは確かだけれども、こんなことを言い出す人なんざ早々いないだろうし。
「あ、あの……」
「はい?」
ぼんやり大丈夫だろーなんて考えていた時、やっぱり早瀬さんはもじもじしながら。
「お好きな、料理とか、教えてもらってもいい、ですか?」
「……生姜焼き、とか?」
「生姜焼きですね! わかりました! 楽しみにしていてくださいねっ!」
「あ、ありがとう、ございます?」
答えを聞いた瞬間、なんだかすごく嬉しそうな? 笑顔を浮かべて。
「きょ、今日はありがとうございました! こ、これからもよろしくお願いします!」
「は、はい。こちら、こそ」
スキップでもしそうな勢いで、部屋から出て行った。