※この作品はR-18です。

母さんと隣の男   作:松田義和

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第二章:夜の向こう側

 

ドアノブは、驚くほど簡単に回った。

ゆっくりと押し開けると、そこには薄暗い廊下。

照明はついていない。けれど、奥の部屋の隙間から漏れる、オレンジ色の照明だけがこの家の中をかすかに照らしていた。

 

靴を脱ぐ音を消すように、僕は慎重に中へ入った。

玄関に漂っていたのは、嗅ぎ慣れた柔軟剤の匂い――いや、違う、母さんの匂いだった。

 

部屋の奥から、小さな笑い声が聞こえた。

母さんの声だ。

それに続いて、くぐもった低い男の声。田原の声。

何を話しているのかは聞き取れない。けれどその口調は、馴れ馴れしく、まるで昔からの恋人のようだった。

 

僕は静かに、ゆっくりと廊下を進んでいった。

右側にあるリビングの扉は半開きになっていて、そこから照明の明かりが漏れている。

 

覗き込むと、視界の奥に母さんの姿があった。

部屋の中央に敷かれたマットレスの上に、彼女はゆったりと座っていた。

白いシャツに、黒いレギンス。だけどシャツの前は、三つほどボタンが外されていて、胸元が大きく開いていた。

 

田原はその隣に座り、母さんの髪に触れていた。

くしゅ、と手で撫でる。母さんはそれを拒まなかった。むしろ、微笑んで――受け入れていた。

 

僕の中で、何かが崩れた。

 

そのとき、田原が母さんの肩を押すようにして、ゆっくりと横に倒した。

抵抗はなかった。むしろ、自然な流れのように見えた。

彼女は静かに仰向けになり、髪が広がる。

 

「……ほんとに、いいのね?」

 

母さんが言った。

その声は震えていた。でも、それは恐怖ではない。ためらいと、甘さが混じったような声だった。

 

「最初に言っただろう。無理にはしないって。でも……俺は、もう我慢できそうにない」

 

田原の手が母さんのシャツの裾に触れ、ゆっくりと持ち上げていく。

母さんは目を閉じ、唇を噛んだ。

 

その光景を見ている自分が、信じられなかった。

なぜここまで来てしまったのか。なぜ止めなかったのか。

目を逸らすことも、声を出すこともできなかった。

 

部屋の照明が、母さんの肌を柔らかく照らす。

その肌に、田原の唇が落ちた。首筋から鎖骨、胸元へ。

母さんは目を閉じたまま、何も言わなかった。

ただその指先が、シーツをぎゅっと掴んだ。

 

僕はもう、逃げることもできなかった。

 

――その夜、僕はすべてを見てしまった。

 

⸻

 

物音ひとつ立てないまま、僕はそっとドアを閉めた。

息を殺し、何もなかったように家へ戻った。

 

でも、もう知ってしまった。

母さんは、隣の男に抱かれている。

 

そしてそれは、母さん自身が望んだことだった。

 

 

 

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