仮面ライダーカブト〜2人の特殊な少女たち〜 作:ワーム大好きマン
「クーポン券はお付けしますか?」
「お願いします」
スーパー店員の言葉に、私は反射的に返す。アルバイトの札を付けたギャルっぽい大学生らしき店員は、笑顔のまま店のクーポン券を買い物カゴへ入れる。
代金を払い終えると、その店員は買った品が入った重い買い物かごを軽々と運び、緑色のエプロンを突き上げる胸をカゴで潰しながら袋詰めする机へ運んでいく。
「ご利用ありがとうございました!」
買い物かごを置いた店員は私へ振り返り、こんもりとした胸の膨らみを揺らしながら疲労を感じさせない笑顔でお辞儀をすると、感謝の言葉を発する。
お団子に纏められた明るめの茶髪がトレードマークの彼女は、ギャルながら誰にでも親切心を振る舞う人格者の雰囲気を醸し出し、スタイルの良さもあって男からの人気は間違いなく高い。スーパーだけでなく大学でも人気者だと皆がそう思うだろうが、私はそうは思わない─────いや、思えない。彼女が人外が化けた存在だと分かってしまうから。
ギャルだけど、礼儀は弁えた大学生の化けの皮を被った化け物が、レジ業務へ戻るのを見送り、机に置かれた買い物カゴへ向かった。
カゴの品をエコバッグへ入れながら、不意にスーパーの窓を見ると、国民的人気な女優が写る防火呼びかけポスターと、女性アイドルグループが写る詐欺防止のポスターが貼られている。日本に住んでいれば誰もが知っている彼女らも人間ではない。私にしか見えない緑色に輝くハニカ厶状の目が、それを表していた。
化け物が美女の見た目で平然と溶け込んでいる今の日本を知りながら、何も出来ない無力感からか私は溜息をつき、品を入れたエコバッグを持ってスーパーを後にする。品物で重くなったエコバッグを自転車のカゴへ入れ、おばあちゃんから受け継いだ家に帰るべく自転車を漕ぎ出す。
スーパーから家までの道には色んなルートがあるが、今日は荷物が多いから、休める公園を通って帰る事にする。幼い頃から何度も通った道を漕いで進むが、沢山の食品が入ったカゴの重さと、8月終わりにも関わらず衰えない暑さが体力を奪う。今の私は白いワンショルダーブラウスと薄青いジーンズ姿だが、柔肌を見せている首元や右肩は汗まみれになっていた。
バカみたいな暑さに嫌気を差しながら公園に辿り着くと、自転車から降りて徒歩で進む。自転車を押して進みながら空いているベンチを探し、見つけると自転車を脇に止めて座る。
公園にはこの暑さにも関わらず、大勢の人が思い思いの過ごし方をしている。その中には人になりきった怪物が何体も紛れ込んでいる。
右隣のベンチでは若いカップルがアイスを食べながらいちゃついていたが、可哀想に。君にゾッコンらしいその女は怪物の擬態だ。あんな笑顔を浮かべているが、その本質は醜い化け物だ。そのショックを受けるのは果たしていつになるやら。
そう考えると左隣のベンチで自撮りし続けるカップルはお似合いだ。あのカップルはどっちも怪物が化けている。人に成り切った怪物が、あんなラブラブカップルを演じているのは滑稽だ。
日差しが照りつける芝生にも人の皮を被った怪物が何体も紛れ込んでいる。バトミントンをする高校生らしき少女、ダンスをスマホで撮っている制服姿のギャル、公園の風景をスケッチする大学生らしき女、ギターを弾いているパンクファッションの派手な女、お昼を食べている真面目そうなOLだって、人間に成り切っている怪物だ。表向きこそ美女だが、その本性はこの星を蝕もうとする殺戮本能に飢えた害虫だ。
ふと、目の前をランニング中らしき女が通る。ローポニテールで纏められた長い黒髪が走る度に振られる彼女も化け物の擬態だ。
男を魅了する為か、短パンから血色の良い生脚が出ていたが、私の視線は走っているからかジャージの下で揺れる大きな胸に向かう。
化け物が化けた女はその大半が所謂巨乳だ。今日見かけた怪物の女も全員が胸元を大きく盛り上げていた。
私も奴らに負けない位に胸は大きいが、男の嫌らしい視線を毎日受けるし、足元も見えないし、夏なら汗疹で蒸れていいとこ無しだ。
しかも、奴らはあの大きさでブラジャーをつけない。男からすれば美女のデカい乳と乳首を服の上から見れて嬉しいだろうが、女からすれば垂れないのか不安にもなる。いや、怪物にそんな不安をするのはお門違いだ。
馬鹿げた不安を掻き消していると、犬の吠える声が聞こえてくる。その声が聞こえる方を向くと、お淑やかな雰囲気の母親と娘であろう少女が、激しく吠える犬に怯えていた。
「あら、どうしたのかしら。この子はあんまり吠えないのに」
飼い主らしき熟年女性はチワワらしき飼い犬を抑えながら、母娘へ謝る。飼い主には分からないだろうが、あの可愛いチワワが睨みながら吠える母娘はどっちも人間ではない。
母親のロングスカートを掴んで吠える犬に怯える小学校低学年らしき少女も、エメラルドの如く緑色に輝く瞳が怪物の擬態だと明らかにしていた。
あんなに愛らしい見た目と仕草をしていながら、その中身は人類を侵略する醜い怪物だ。穢れの無い純粋無垢なあの子達にも平然と紛れ込む化け物の醜悪さに嫌気がさす。
公園にはこの暑さの中でも元気に遊ぶ子供が何人もいたが、怪物はその中に何体も紛れ込む。
その中には全員が怪物に擬態された一家もいた。父親と楽しそうに遊ぶ息子、その様子を母親と眺める娘は典型的な一家の光景だが、それは化け物が演じているだけに過ぎないと気づけるのは私だけだ。
私が化け物の存在を見抜けても、どうする事も出来ない。緑色の怪物に人では敵わない。それこそ軍隊を投入して戦う相手だが、こんな話を信用してくれるわけないだろう。
怪物によって世界が壊されているのを知りながら、何も出来ない無力感に思わず溜息をつく。正にその瞬間、ソレは羽音を立てて飛んできた。
ルビーの様に紅く輝くボティ、金色に煌めく角、銀色に光る可愛らしい小さな足。それはカブトムシの見た目をしていながら、明らかに人為的に作られた存在。
原理は全くもって分からないがこのカブトムシ擬きは空を思いのままに飛び、カブトムシの証でもある角を上下させて何かを伝えようとしていた。
「私に戦えと言ってるのか?」
私がそう言うと、赤いカブトムシは小さな体を空中で上下に大きく振る。全身を使って意思を表現する仕草は子供のようで愛らしい。
「そりゃ、“彗星の怪物”をどうにかしたい気持ちはあるさ。だが、はしたない料理研究家の私に何が出来るって言うんだ?君が戦う力になってくれるのか?」
私の言葉を理解してか、カブトムシは頭の周りを飛んだかと思えば、目の前で静止する。その力が自分にあると自信満々に言っている様で可愛らしい。
「そうかそうか。君の言い分はいつか現実になる日が来るといいね」
私はカブトムシを掌に載せ、優しく撫でると家に帰るべく立ち上がる。掌から離れたカブトムシは私の出発を急かす。いきなり現れたのにすっかりペット気分のようだ。
自転車に乗った私が走り出すとカブトムシ擬きも並走して飛ぶ。夏の暑さを切り裂いて私とカブトムシ擬きは安らぐ家へ戻っていく。
だが、私は知らなかった。カブトムシ擬きの力を身を持って知る日は直ぐそこに迫っている事を。