緑谷のち〇こでっけぇぇえ!!! 作:ドスケベ世界平和ヴィラン
AFOとの最終決戦。文字通りの死闘だったそれは、僕らの日常に消えることの無い傷跡を残していった。その影響は日本のみに留まらず、世界中に影響を及ぼした。脱獄したヴィランによる犯罪もまだ無くなった訳では無い。
それでも僕らは、徐々に日常を取り戻しつつあった。
復興を手伝いながら日々を過ごし、ようやくひと段落ついたところで雄英高校の授業再開の通達を受けた。セメントスやその他ヒーロー、建築業者さん達の助けもあり、雄英高校は最終決戦前よりもどこか一回り大きく改築されたような気もする。
とても濃密な一年、という言葉だけでは表せないほどの経験をした僕らだったが、高校生活はまだ半分も終えていない。雄英高校ではまだまだ学ぶべきことが沢山ある。
それはさておき、OFAの力を失った僕は無個性のデクに戻った訳なのだが。オールマイトを始め、相澤先生や根津校長、その他多数の推薦によって僕は雄英高校に残ることを許された。ヒーローになることを諦めるつもりは無かったが、また皆と一緒にプロヒーローを目指せると思うと込み上げてくるものがある。
Pi-Pi-Pi-Pi
「ん?誰からだろう」
明日から正式に授業が再開するという日。コンビニへ外出中、僕の携帯へ一本の電話がかかってきた。画面には非通知という無機質な表示がされているのみ。
「はい、緑谷です」
『おはようございます。私はヒーロー公安委員会所属の継宮と申します』
「公安の……何か御用でしょうか」
『急な話で申し訳ございません。公安の本部までお越し頂きたいのですが、本日はお時間ありますでしょうか』
「特に用事はありませんけど……わかりました、何時頃に伺えばいいですか?」
『ありがとうございます。それには及びません、既に迎えがそちらに到着しているはずです』
ちらりと辺りを見ると、駐車場に黒のセダン車が停まっているのが見える。まさかそこまで準備が良いはずが無い。そう思っていた時期が僕にもありました。
「緑谷出久さんですね、お話は伺っております。どうぞ」
「……」
『それでは、お待ちしております』
予見の個性を持っている人でも居るのだろうか。トントン拍子に車に乗せられた僕は、ヒーロー公安のある場所へすんなりと運ばれていった。
◇
「し、失礼します」
確かノックは三回だったはず。雄英高校の教室よりも遥かに小さいはずなのに、どこか重厚感を持った扉をゆっくりと開く。
「ようこそ、緑谷出久君」
「は、はい」
「改めて、ヒーロー公安委員会所属の継宮承人です。どうぞ、そちらにお掛けください」
浅黒い肌に短く揃えた短髪にワイルドな雰囲気ながらもその鍛えられた肉体にぴっちりとしたスーツを着た男、継宮は、僕に人の良い笑顔を向けながら目の前のソファへと着席を促す。
僕が知らないという事はプロヒーローでは無いのだろうが、只人とは思えないオーラを感じる。
「そう警戒しなくても、取って食ったりはしませんよ」
「し、失礼しました!」
そう声をかけられて、僕はガチガチのままソファにゆっくりと腰掛ける。湯のみに入ったお茶は淹れたてのようで、ほかほかと湯気を立ててそこに鎮座していた。
「ふふ、あれだけの修羅場をくぐっていようとも、まだまだ高校生。初々しくて良いね」
「すみません……」
「いやいや、謝ることなんてないよ。あの決戦の英雄がどんな人かと思っていたが、案外年相応で可愛らしい所もあるじゃないか」
「は、はぁ……」
それから数分間、好きなヒーローの話だったり、何気ない世間話が続く。
恐らく本題とは関係ないのだろうが、それらを通じて自分の緊張がほぐれていくような気がした。
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
「っ!……はい」
「君の今後に関わる大事な話ではあるが、まぁそこまで重く捉える必要は無いということだけ先に伝えておくよ」
「……」
言葉の意図を読み切れない僕は口を閉じたまま続きを促す。
「僕の個性は予見。サー・ナイトアイの物と似た物だと考えてもらっていい」
「……」
「ただ私のそれは彼のように未来をはっきりと見ることは出来ない。何となくそうなるだろうなと、勘のようなものを感じられる程度のものだ。その予感めいた物から、私が導き出した結論を君に伝えようと思う」
一呼吸置いた彼は、意を決したように口を開く。
「緑谷出久君。君にはその遺伝子をできるだけ多く、後世に残して欲しいんだ」
「…………?」
「……まぁ有り体に言えば、沢山の女性と性交渉をして、子供を作って欲しいという事だね」
「………………はぁ!?!?!?」
「ま、まぁまぁ。そういう反応をするのは分かるが一旦落ち着いて……」
継宮の口から飛び出たとんでもない発言に、思わず目上の人に対して思いっきり素の反応をしてしまった。
「どどど、どうしてそうなるんですか!?」
「……順を追って説明しよう」
湯呑みを煽った継宮はゆっくりと語りはじめる。
「オールマイトを知っているだろう。彼は英雄としてヒーロー活動のその人生全てを捧げてきた。その代償と言ってはなんだが、彼は女性と交際するといったことを一切してこなかった。まぁ彼はOFAの継承という形で子を成したと言っても過言では無いかもしれないがね。ただ、君の場合はその例から漏れる。AFOとの決戦後、君は個性を失ったにも関わらずヒーローとしての志や経験を十二分に持ち、まさに次代の英雄となった男だ」
「そしてこのままいくと、悲劇が起こる……可能性がある」
「個性の性質上詳しくは話せないが……私の予見によると、緑谷出久が女性との性交渉をしないまま雄英を卒業するとAFOと同等か、それ以上の悪がこの世に生まれる可能性がある」
「っ!?それは一体どういう……」
「私の個性は様々な可能性を予見することが出来る。誰が何をすればこの結末に至る、といういくつかの道筋が見えるんだ。そして何の因果か、君が多数の女性と性交渉し子を成した場合、その悲劇が起こる可能性がゼロになったんだ」
「……意味が分かりません」
目の前の男が発した言葉の意味を、頭をフル回転させて理解しようと試みるも、吐き出されるエラーの数が尋常ではなかった。
「まぁこれは願わくばの話だ。君のような学生、ましてや世界を救った英雄にこれ以上負担をかけるのは私としても心苦しい。君が何も無くこのまま生活したとして、その悪が生まれる可能性はほぼゼロに等しい」
「なら……!」
「ただ、ほぼゼロ。ゼロでは無いんだよ。私は公安の一員として、今後日本の平和を脅かす存在が生まれる可能性が僅かでもあるなら、私は見逃すことは出来ない。分かってくれ」
「っ……」
思い詰めた表情を浮かべる僕に、彼は優しげな表情で語りかけた。
「さっき言ったように、そこまで重く考えなくて良いさ。言ったろ?お願いだって。君が望まないことを無理強いするつもりは無い。断ったからと言って、罰を与えるつもりもない。ただ、受けてくれるならばこちらは全面的にサポートする体制は整っていると伝えたかっただけさ」
恐らく彼が言っていることは本当のことなのだろう。継宮の言葉の節々からこちらを気遣うような雰囲気を感じられた。
それでも、僕はこの提案に首を縦に振ることは出来なかった。
「……すみません。僕には、そんなこと出来ません」
「だよねぇ」
「……?」
「いやぁ流石に私も無理があると思ってたんだよ。今日はわざわざ来てもらったのに、嫌な思いさせちゃってごめんね?」
「は、はぁ」
男はすっと立ち上がり、僕に向かって告げる。
「今日君は誰にも会っていないし、何も聞いていない。公安に来たのは、事後処理の一環という名目。そうした方が多分君としてはありがたいよね」
「……」
「誰かに話しても特に問題は無いけど、私たちのせいで君に面倒がかかるのは避けたい。何か困ったことがあれば、ここに連絡してくれ。いつでも力になるよ」
手渡された名刺を受け取り、そのまま僕は元居たコンビニへと返された。
多数の女性と関係を持つことによって、今後生まれるであろう巨悪の可能性を無くすことが出来る。
その言葉が、寮への帰り道で永遠に胸にチクチクとした痛みを残し続けていた。
◇
「ふぅ……」
件の少年、緑谷出久が退室して数分後。継宮は喫煙所で煙草を吹かしていた。
「……上手くいかねぇもんだな」
禁煙推進の煽りを受け、その数を減らしている喫煙所が彼の唯一心休まる場所でもあった。
そんな場所で彼は携帯を取り出し、部下へと電話をかける。
「あぁ俺だ。例の計画、進めていいぞ。……あぁ、なるべく奴にはバレねぇようにな」
僅か数秒の通話だったが、何か大きな事が動き出したことはまだ誰も知る由もない。
「……悪ぃな緑谷君。俺はあんなやつが生まれる可能性がほんの少しでもあるなら、それを潰さねぇと気がすまねぇのよ」
数分後、緑谷出久と関係のある女性全てに一本のメールが届けられた。読み終えると同時に破棄される特殊なプログラムが組み込まれたそれは、データの海へと消え去り証拠は一切残らないだろう。
それでも、それらを読んだ彼女らの心中には、その話がしこりのように残り続けていた。
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