そんな怪しいのぺっしなさい 作:ぬるぬる
ー誰か、お願いです、力を貸して下さい…!ー
折角家で飼えそうって事でメールしたりで遅くなって、さあ寝るかと前戯してる所にまた、電波受信。
ええー。と渋面を作るなのは。
昨日はアリサ、すずかが泊まりに来ていたが今日は一人。
無視しても良いのだが、夕方発信元を探れば怪我したフェレットを保護しただけに無視するわけにはいかない。
アリサとすずかは屋敷から出るのに一苦労だろうし、ここは自分が。
そう考え二人にメールをする傍ら、ベッドの下からエロ本…では無く、小太刀の木刀を手にしてトレーナーとスカート、ソックスを適当に着て部屋を出る。
途中兄に捕まったが、シックスセンス的なエニシングで野生の勘でと伝えると、それなら妹が何か引き起こしそうという戦闘民族の勘で同行することになった。
フェレットなのか、公園なのか分からなかったので、おいでよホモだちの森と化してる公園は兄に任せ、なのはは動物病院へと舵を切った。
現場は異様な雰囲気で満ちていた。
人の気配がしない。
深夜の住宅街なのに人の気配がしない。
静か過ぎる。
何か超常の事件の薫りがする……。
なのはは何時でも硬質化した触手を展開出来る様に、そして右手に石くれ、左手に木刀を構えながら進んだ。
物音一つしない。
気取られない様に足音を殺しながら探索する。
病院へ近づくにつれ、破砕音が聞こえる。
足を早める。
鼓動が高鳴る。
視野が狭くなる。
すうっと呼吸を整え、再度気配を探り、不意打ちに備えながら駆ける。
次の角を曲がれば、という所で目の前のブロックが粉砕された。
咄嗟に後ろに飛び、帯状の触手を展開し盾にする。
目の前の芯材の鉄棒諸共粉砕されている。
そして粉砕した獲物は更に奥に突き抜けて行った様だ。
そして、あの昼に保護したフェレットを見つけた瞬間、駆け寄る。
「大丈夫?!」
「ううん、何とか…」
喋った…フェレットが喋った。
余りにも予想出来ない事態に取り乱すが、地鳴りと共に何かの気配がして、はっと正気に戻る。
「取り敢えずここから離れないと…」
「待って!この結界から出ると、被害が更に広がる」
「はあ?!そんなこと言ってる場合じゃ無いの。こんな見通しの悪い所で塀を粉砕するヤツと戦うとか分が悪すぎるの」
「いえ、これを使って下さい」
そう言われて渡されたのは首輪代わりになっていた赤い球。
「いやいや、これでどうやって戦うの?癇癪玉か何かなの?」
「このデバイスを起動して下さい!魔力に溢れている貴方なら僕よりずっと使いこなせるはずです!」
「デバ……?いやいや、魔力とか訳が判らないのおっ!」
問答をしている間に接近を許してしまったなのは。
大砲の弾の様に突っ込んでくる謎の獣を、触手で反らし、飛び込み、回避する。
直後、衝撃波を感じる勢いで背後の電柱と壁をなぎ倒していく。
「とにかく起動を!」
「ああ、もう!こうなりゃヤケなの!どうやって使うの!」
「起動パスワードを言いますから続けて!」
どごぉ!どかぁ!とまだ勢いを殺し切れてないのか、まだ塀や住宅を粉砕する音が聞こえる。
「我、使命を受けし者なり。」
「え?何その拗らせちゃった様な文言」
「早く!」
「ええっと、我使命を受けし者なり。」
破砕音が止んだ。
来る。
「契約のもと、その力を解き放て。」
「契約のもと、その力を解き放て。」
「風は空に、星は天に、」
「風は空に、星は天に、」
知らないはずの呪文。
石塊の代わりにこの赤い珠を握って、謎フェレットに続けて繰り返す。
なのに、次に何を言えば良いのか、このデバイスと呼ばれるこの子が何なのか、不思議と判り、声が追いつき、重なる。
「「そして不屈の魂はこの胸に。この手に魔法を。」」
「レイジングハート、セットアップ!」
突進して来た獣を、触手で受けようとした。
が、今まで謎だったぽかぽか発電所が、フルパワーでエネルギーを作り出し、桜色の奔流が辺りを囲み、光だけで獣を弾き飛ばした。
「あ、あ、漏れ出るだけでも凄いとは思っていたけど、まさかこれ程とは…」
「それで、これをどうすれば良いの?!かめはめ波でも打てっての?!」
「はっ、先ずは武器となる杖と身を守る防護服をイメージして下さい!」
「こんな緊急事態にデザイン考えろっていうの?!テンプレートで良いよ!」
「個々人によって適した物は変わります!理想の貴方を思い浮かべたら後はデバイスが汲み取ってくれます!」
「ええっと、取り敢えずこれっ!」
取り敢えず頑丈そうな制服をベースに。
右手にフレイルの様に先に重心を載せた杖。
左手に小太刀。
しかし実際は、防護服は制服ベースに青い縁取りに手を広げてもなお届かない大きな黒い翼と蠢く触手達。
右手は杖だって言ってんだろとばかりに先に赤い宝玉の付いた金属質な杖。
アルミパイプより軽い。
これで奴を撲殺するには骨が折れそうである。
左手の小太刀は触手が出張って来たのか黒光りする光を放つ太刀になっていた。
「うえ、太刀二刀流とかやったこと無いんだけど。それにフレイルじゃ無くて普通に杖じゃない。どうやって殴れと」
「いや、デバイスは魔法を補助し、制御する物なので物理攻撃には…」
「あ、魔法とかいってたね。どうやって使うの?」
「使いたい魔法を思い浮かべれば、インテリジェントデバイスであるレイジングハートが最適な魔法を選んでくれるはずです、っと、来ます!」
悠長に観察している間にも態勢を立て直した獣は、それしか知らぬとばかりに再度突進して来る。
正直言って恐い。
未知の技術で未知の敵と戦う。
なのはは恐怖した。
しかし、なのはが対処出来なければ被害が拡大することも理解していた。
やらねばならぬ、ヤらねばならぬ、殺らねばならぬ。
理性で本能を抑え、対峙する。
太刀で流して杖で仕留める。
魔法を使えと言われたのである。
杖で、魔法で止めを刺さねばならない。
訓練を欠かした事はない。
兄と姉が羨ましくは有ったが、それでも父からの指導で手を向いたことは無い。
触手達は誰よりも長く過ごしてきた。
そう、肉親よりも。
それこそ1本毎の違いがわかる程に。
自分の手指の延長で動かせる程に。
この小太刀から変化した太刀には父の教えと、自身の触手と努力が宿っている。
血と汗と涙と涎と愛液と性液と腸液と。
…何か急に俗っぽくなった気がする。
だが、これが私だ。
高町なのはの全てなのだ。
いざ!
「…ゃく…はやく!」
「えっ?何?」
「チャンスです!半身に別れたせいでジュエルシードも露出してます!早く封印を!」
「え?ええっと……リ、リリカルマジカルジュエルシードシリアル21封印!」
回想の間に無意識の内に切り払っていた様である。
その証拠に向いている向きが違い、今も不覚を取らない様に構えている。
兎も角封印せよとの事なので、警戒しながらも近づき、杖を向け、頭に浮かんだ呪文を唱える。
これで終わったかと思いきや、触手の内1本がパクリと咥え、呑み込んでしまった。
その瞬間胸の奥が熱くなり、収まる頃には、初めて会った時のような黒いスフィアが現れ、なのはの周りを滞空していた。
「えっと…これにて一件落着!」
「いやいやいや、これは不味いですって!本来はレイジングハートの格納領域に収納されるはずなんですよ!」
「ほ、ほら、何か厳重な感じしない?」
「剥き出しで何処が厳重管理ですか!大体何で触手なんです?!翼は余剰魔力プールだとしても!ってか何でレイジングハートだけなのにデバイスが2つ?!それに魔力光が桃と暗紫の2色?どういうことだ、こんな事例は……」
思いっきり罵倒するだけしておいて自分はとっととトリップだと……?
刀を持っているので抑えているが内心ビキビキである。
心の中で、剣の乱れは心の乱れ。御神の剣は護りの剣。山奥での滝修行。禅寺での光の無い部屋での座禅。私の剣は守る為の物だ。殺生の為では無い。落ち着け、おちつくのだ。ひっひっふー、ひっひっふー。
悩むフェレットと殺気が漏れ出る小学生。
と、急に灯りが灯り出した。
そして遠くから聞こえるサイレンの音。
やべぇ、サツだ!
はっと正気に戻るなのは。
取りあえず杖を待機状態に戻し、太刀を小太刀の木刀に戻してもらおうと思ったら、黒檀状の刀型キーホルダーになってレイジングハートの隣にぶら下がっていた。そしてスフィアレイジングハートサイズになり、穴が空いて紐に通されていた。
未だに復帰しないフェレットを掴み上げ、住民と鉢合わせしない様に駆け出すのであった。
その後兄と合流する際に小太刀の所在を尋ねられたが、また触手が頑張ったと話すと、あゝ、という目で見つめられた。
内心くそう、と思わないでは無かったが合っているので、引き下がる。
そして二人にフェレット確保の連絡を入れ、再度就寝の準備をするのであった。