そんな怪しいのぺっしなさい 作:ぬるぬる
黒船がやってきた。
いや、実際のアースラの船体は白いのだが。
兎も角、外部からの影響により環境が変化しているので比喩としては間違っていないだろう。
すっかり抱かれる側の方に嵌ってしまい下校中の公園でユーノと待ち合わせしてこっそりトイレで致したり、登校中のバスですずかにされるがままの状況に悦んだりと楽しんでいた連日。
梅雨前の陽気の中、休日の今日も運動公園の山頂から林を封鎖して行われる朝練が終わる頃。
訓練の締めとして恒例となった、なのはvsアリサvsすずかvsユーノvs美由紀の仁義無きポロリ有りのバトルロワイヤル。
結果としては美由紀が勝利した。
なのはが魔力弾の飽和攻撃で撃墜し、撃墜マークとして相手の首筋にキスマークを残している間に、美由紀が頭をカチ割って殲滅というある意味恒例のオチであった。
ほぼほぼ不死身なせいか慢心が目立つなのはに説教しながら帰り、高町家で皆で朝食タイムとなるのが日常であるが、この日はいつもと違う出来事が起きた。
結界を解除してさあ朝ごはんだという段になって、ユーノが林を見つめている。
そして恭也直伝の(すっかり戦闘民族高町家に染められて、御神流は教えて貰えないものの武器の手ほどきは受けている)飛針を茂みに投擲。
美由紀は小石を、そのそばの遊歩道に親指で飛ばす。
ユーノの殺気を察知して何かが転がり出てくる。
当然ユーノの飛針は避けられるが、アクション映画のような華麗な回避を行い杖の様な物を向けてくる少年の額を、見事に小石が直撃。
スコーン!と音がしそうなくらいに見事な当たりで、その少年はのけぞり遊歩道で二度寝をする羽目になる。
なんだなんだ、新しいオスか。
とまるでアマゾネスのような肉食系女子たちが、あお向けに五体投地している少年を取り囲む。
ユーノ君は女の子。良いね。
そうして額を赤くして目を閉じている少年は中々可愛らしい顔立ちである。
髪型を弄ればパンツルックの女の子と言っても通じるかもしれない。
将来、熱狂的ハムファンな声から、月末ふみふみガチャで爆死する声に変化するとは思えない顔立ちである。
とりあえず、仕留めた獲物はおいしくいただくのが信条である。
というのは冗談としても、先制攻撃で気絶させた人間を放置するのも気が引けるのも人情である。
まるで狩りに成功したかのような陽気さで両親指と太ももをリングバインドで縛り、目敏くユーノが看過した少年の杖状デバイスを没収し、帰路に着いたのである。
クロノ・ハラオウンは覚醒した。
気付けばそこはどこかわからないご家庭のリビング、寝ているのは広いソファ。
身を起こせばパサリと額からタオルが落ちる。
まだ冷たい事とデバイスから知らされる時間を考えるに一時間程寝かせられていたようだ。
そしてここはどこだと思考が回るようになった時、声を掛けられた。
「あ、起きたんだ。ねえ、あなたは誰?」
可愛らしいおさげを、頭の両横でピョコリと赤いリボンで縛った少女が声をかけてきた。
彼女は……たしか……。
その存在を思い出してカッと顔が熱くなり体が寒くなる。
背中に展開された2対の魔力翼から打ち出される桃色の魔力光が輝く弾。
容赦無く絨毯爆撃を行い、仕留めた獲物の首筋に接吻をしている姿は、当に恐怖とエロスの化身である。
デバイスが簡易測定で読み取った、Sランク以上という魔力値を思い出す。
殺傷設定なら街どころかこの星の一部が消失するエネルギーを内包する彼女。
このゼロ距離射撃では成すすべもなくクロノを木端微塵に出来る存在が、額が触れるかどうかというアップで見つめている。
猫師匠に扱かれていなければ、数々の死線を非殺傷設定という縛りプレイの下公僕に徹して居なければ、今頃泣いて跪いて居ただろう。
だが、クロノは強い男だった。
例え目の前の
少なくとも物理的に蒸発させられる事はないと思考を巡らせていた。
そして、どうすれば
「介抱していただきありがとうございます。おかげで助かりました。私はクロノ・ハラオウンと申します」
下手に出た。
身分は明かさず、相手の投擲のせいで気絶する羽目になった事を触れず、友好的な雰囲気を作る事にした。
正直詰んでいる。
目の前の悪魔に少し離れた場所でソファに腰掛けている金髪、紫がかった黒髪の少女。
そして幸の薄そうな、救難信号を出したと思われるスクライア族の少年。
何れも魔力が多く、デバイスを持っている。
そして、少し離れた所にいる女性。
魔力は持っていないが隙がない。
いや、普通にしているだけなのだろうが一挙一動を観察されている。
これはどうしたものかと思っていると。
「それは良かった。突然茂みから出てきたと思ったら気絶しているんだもの。ビックリしちゃった」
嘘だ!
そう叫べたらどれだけ楽だろう。
待機状態から変化させる一瞬を狙われた指弾。
反射的に張った物理障壁がなければ今頃額に穴が開いていたのは間違いない。
殺意のない殺傷行為を、非魔法的手段で平気で行うとか、この星恐い。
だが、ここで時空管理局だ!公務執行妨害容疑で拘束するから手を上げろ!
と言っても無駄であろう。
敵意を見せた瞬間蒸発させられる確信がある。
エイミィ達アースラクルーがモニタリングしてくれているだろうが、命を投げ捨ててまで依 頼者と、
ここまですっとぼけられる事に、米神がピクピクしている事を無視しながら、取り敢えずは話を進める。
「すみません。驚かしてしまいました。皆さんに話を伺おうと思ったのですが、鍛錬の邪魔をしてはいけないと思いまして。いざお話しする段になって立ちくらみがおきまして……」
正直言って目は笑っていない自信がある。
目つきが悪いと言われたことがあるが、それよりも絶対に目力が篭っているだろう。
「そうなんだ。小さいのにお仕事大変だね」
依頼者が追い打ちをかけてきた。
おい、絶対身分わかっているだろう、と眉間に皺がよる。
この管理外世界に高ランク魔道士達でドンパチやっている中、ノコノコ首を突っ込みに来る物好きは時空管理局ぐらいだと知っているだろうに。
そんなに背の変わらない、情報ではスクライア族の現場責任者である年下の少年が、事もあろうに物理攻撃でこちらをけん制したうえ背が自分より低いクセに子ども扱いしてきたのだ。
もう逮捕しちゃっても良いよね。ね?
ビキビキと頭の血管が切れて、暴発寸前の中。
突然クロノは背後から羽交い絞めにされた。
後頭部に当たるやわらかなふくらみ。
そして顔まで垂れてきたおさげ。
そう、美由紀がぎゅっと後ろから抱きしめ、膝にのせて抱っこしたのだ。
これには年少組もビックリである。
突然音も気配もなく、少し離れた所にいた美由紀が現れ、少年をだきかかえているのである。
そして頭をなでられた少年はマジギレ寸前だったが、鎮火された。
正直なのは達は煽りすぎたと思っていたので内心ホッとしていた。
そして、抱きかかえられかいぐりされている当の本人であるクロノは。
冷や汗が止まらなかった。
咄嗟に張ったとはいえAAA+の障壁を小石の投擲で貫通させ意識を刈り取る女である。
ふとしたきっかけで頭を捩じられ、あらぬ方向に向いてもおかしくない。
何より怖いのが視界に捉えていたはずなのに背後を取られ、抱きかかえられたのである。
恐い、怖すぎるよ。管理外世界。
そんな感情を抱いているとは露知らずの美由紀。
最近冷たい兄以外の久々の男である。
背は……将来に期待であるが、ユーノ達がプロテクトをこじ開け閲覧した情報によると、時空管理局という何でも屋の結構偉い役職に就いている人らしい。
理知的な思考から歳の割に大人であり、将来が楽しみである。
勿論兄が一番であるが、何か影を背負った感じが母性にキュンと来るのである。
そしてその光景を見つめるなのは達。
執務官の割にはなんだか頼りなくない?
ちょっとなのは、聞こえるでしょう。
そうだよ、いくらデバイスをお母さんのボイスで設定してたりしてても失礼だよ。
なんだか妙に突っかかるねユーノ君。何かあるの?
いや、すずか。特に無いんだけど今までに何日かかってるのかと思えば、ね?
あー。そういえばすっかりユーノも馴染んでたけど、そういえば他の星から漂流してきたんだっけ?
いやいや、頼りない税金泥棒の代わりに防護措置を取りに来たんだよ。
「聞こえているんだけどね。君たち」
現場検証の後速攻で飛ばし、残骸の回収の手続きにはじまり、ジュエルシードやこの星に関する情報情報収集で睡眠もろくに取れない日々の中、ようやく到着したにもかかわらず、あまりにもな言い草に流石に自制が効かなくなってきたクロノ。
今なら殺意の波動でS-まで魔道士ランクが上がりそうだと思える程である。
だが、美由紀に抱きかかえられながらじたばたする様は非常に和む光景である。
そんなクロノを見つめる小学生組の視線は優しかった。
と、余りにもグダグダな休日の午前中。
ピンポンと玄関のチャイムが鳴る。
そうして美由紀がはいはーい、とクロノを抱えたまま出て行きしばらく、誰かを連れて戻ってきた。
それは、クロノの母親であるリンディ・ハラオウンであった。