※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 二部 光の公女   作:伊駒辰葉

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エピタイ通りです。
エロシーンはありません。


あれからの水輝と色んな事情説明文

 苺のケーキをじっと見つめて優一郎は深々とため息を吐いた。微笑みを浮かべてコーヒーを出そうとしていた斎姫がぴたりと手を止め、心配そうに優一郎の顔を覗き込む。

 

「優くん、多輝くんのことが心配?」

 

 斎姫の気遣う言葉に顔を上げて優一郎は苦い笑みを浮かべた。この寒い季節になっても苺はあちこちに出回っている。たまたまケーキに苺がのっていただけのことなのだが、優一郎はそれを見てついつい多輝を連想してしまったのだ。

 

 慌ただしい日々を過ごしているからなのか、あれからそれほど時間は経っていない気がする。なのに気が付くともう年末が押し迫っていて、山積みになっていた仕事も少しずつではあるが片付きつつある。優一郎は出されたコーヒーを飲みながらそっとため息を吐いた。

 

 清陵高校の地下にあるこの施設内では着々とヒューマノイドが増えている。これまでとは異なる特殊な装置を搭載したヒューマノイドたちは、出来上がったものから次々に魔が荒らしている現場に派遣されているのだ。

 

「ちょっとね。あそこに居れば安全だって解ってはいるんだけど」

 

 今、多輝は天の城と呼ばれる場所にいる。あそこならこの地上とは切り離されているし、滅多なことでは近づけないはずだ。そのことを思いながら優一郎はまたため息を漏らした。側に立つ斎姫が顔を曇らせ、不安そうに優一郎を伺う。

 

 あれから色んなことがあった。透と要は如月家のしきたりに則った結婚式を挙げ、正式に夫婦として認められることとなった。だが参列した優一郎はその式で随分な目にあった。何しろ周囲の如月の一族の者がのべつ幕なし攻撃してくるのだ。動きやすい服装という注意書きにはそういう意味があったのかと参列して優一郎は思い知った。当然、婿である透に一番攻撃が集中した訳だが、どうやら透は器用に全ての攻撃を受け流すことに成功したらしい。おかげで如月の当主である泰蔵も婿として正式に認めたようだ。

 

 その二人は今頃、南の島でハネムーンを満喫しているだろう。魔を排除する能力のある要がこの国にいないのは痛いが、その分を別のヒューマノイドが補ってくれてはいる。そして吉良瀬財閥と木村財閥が初めて手を取り合って新しい事業を興した。魔に対抗する手段を研究する機関、と表面的には銘打たれたこの研究所ではあらゆる実験が昼夜を問わず行われているという。

 

 そして優一郎自身も少しずつ時間に余裕が出来はじめた。ついこの間までは周囲の事情に振り回されて行動するのがやっとだったのに、気が付くとこうしてゆっくりと茶を飲む時間が出来ている。優一郎はショートケーキにフォークを入れながらまたため息を吐いた。

 

「魔、か……」

 

 ぽつりと呟いて優一郎は口の中にケーキを運んだ。考え事をしながら食べる優一郎の傍で斎姫が顔を曇らせる。気配を感じて顔を上げ、優一郎は大丈夫だと斎姫に頷いてみせた。

 

 魔と呼ばれる者たちはまるでわき水のように止めどなくこの世界に現れている。時には力の強い特異な魔も現れるようで、そんな魔に人は随分と殺されてしまったようだ。世界のあちこちではひっきりなしに騒ぎが勃発し、時には人同士の抗争に発展しているらしい。優一郎を始め、あらゆる者たちが魔に対抗すべく様々な手段をこうじてはいるが、焼け石に水というのが現状だ。

 

 だがそんな中で魔に対することの出来る能力を持つ者たちが独自のネットワークを築いているという話もある。彼らは密に連絡を取り合って情報を交換することで効率よく魔を退けているという。

 

 だがそれでも足りない。優一郎は難しい顔をして皿にフォークをのせた。そこでふと、赤い苺が目に留まる。反射的に多輝のことを脳裏に思い描いて優一郎は慌てて頭を振った。

 

「せめて水輝さんの動向が解れば……」

 

 そう言った優一郎を気遣う顔で見つめて斎姫が頷く。

 

「巧妙に、足跡は消されているわ。例の……紀早さん? あの後の足取りはわからない……。けど」

 

 北王子紀早。透を通じて入ってきた情報を思い出して優一郎は頷いた。紀早という少女のところにどうやら水輝が現れたらしいという情報を聞き、優一郎は急いで現場に向かった。だが優一郎が到着した時、問題の水神は既に息を引き取り消え去ってしまっていた。それでも周囲の者から幾つかの話は聞くことが出来た。

 

 水輝は水神と紀早の元にいる間、一切、口をきかなかったそうだ。それを聞いて優一郎は首を傾げた。紀早はどうやら水輝が喋れないものと思っていたらしい。そして水輝は二人の元にいる間、滝にずっと打たれていたのだという。

 

 話に聞いた場所を確かめるために優一郎は山に向かった。だが既にその山の水源は涸れ、滝や川は干上がっていた。辛うじて残っていた森の中には戦いの跡だけが残されていた。何かに押し倒された木々があちこちに散らばる中を優一郎は慎重に歩いた。だがどこを見ても水輝の気配は感じ取ることが出来なかった。

 

 何の意味があって水輝がそこに居続けたのか判らない。水神は最後まで誰かに詫びていたのだという。その繰り言の中には水輝の名があった。至らぬ儂を許してくだされ、青龍王殿。そう言い残して水神は飛沫となって消えた。




ちょっと長いエピソードなのでぶつ切りになります。
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