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「直ぐに行きます」
そう告げて優一郎は自分の胸に手を突っ込んだ。手早く宝珠を操作している間に天輝が喚く。
『だから! 閉じてるからいつもの方法じゃ無理なのよ!』
どうやら天輝はどこかを走っているらしい。慌ただしい早口ではあるが、声が不規則に弾んでいる。
「大丈夫です、僕にはバックドアがありますから」
『ばっくどあってなに!? ああ、もうそんなこといいから、とっとと走りなさい! 死にたいの!?』
どうやら天輝は通信とあちらの会話をごちゃごちゃに混ぜてしまっているらしい。女性に変貌した優一郎は長い髪を背中に払って立ち上がった。切迫した表情で斎姫が優一郎を見上げる。
「斎姫。僕に掴まって」
促すと斎姫が慌てて机から下りて優一郎の腕につかまる。それを確かめてから優一郎は言葉に力を乗せた。
「多輝、疾く、そなたの元へ駆けつけん」
一瞬で視界が弾ける。だがいつも転移する時のようにすぐに視界が再構成されない。虹色の空間の中に現れた優一郎は口許に笑みを浮かべて斎姫の肩を抱き寄せた。じりじりと何かが焼けるような音がどこかから聞こえてくる。どうやらそこで力が引っかかってしまっているらしい。
「その程度、覚悟の上! 消えろ!」
優一郎が放った鋭い声が力となって虹色の空間を駆ける。斎姫の機体を通じて放たれた優一郎の力は増幅され、障壁となっていた空間を打ち砕いた。
突如、視界が開ける。一面が真っ青な光景に軽い目眩を覚え、優一郎は頭を振った。どうやら少し座標がずれてしまったらしい。二人が現れたのは宙に浮かぶ城から少し離れた場所だった。眼下には海が、そして天空には青い空が広がっている。
「とりあえず、突破はしたみたいだね。斎姫、急ごう」
そう言って優一郎は斎姫をしっかりと抱きしめて宙を飛び始めた。するといきなり強い風が横手から吹き付け、あやうく斎姫を落としそうになってしまう。慌てた優一郎は何とか斎姫を両腕に抱き、風の来た方を見た。
青く輝く巨大な蛇のようなものが宙をうねってターンをし、一直線に城に向かって飛んでいく。空を行く巨大な龍神の姿に思わず目を奪われた優一郎ははっと我に返って何度か瞬きをした。咆吼をあげた龍神が真っ青な光を城に放つ。そして高速で空を駆けた龍神はそのままの勢いで城に体当たりをした。その瞬間に大きな振動が起こり、優一郎と斎姫の浮かぶ宙までが激しく揺れる。
「多輝! そなたの元に直ちに駆けつけん!」
優一郎は斎姫をしっかりと抱きしめて声を放った。その直後、二人は空に浮かぶ城の中に現れた。
城の中は騒然としていた。白い城壁のあちこちは砕け、外の様子が丸見えになっている。廊下や部屋には白い身体がいくつも横たわり、血を流している。天輝の怒鳴り声がどこからともなく聞こえてくる。そんな中で優一郎はベッドに横たわっていた多輝に懸命に呼びかけた。
「多輝! 起きてくれ! 僕だ! 優一郎だ!」
多輝の身体を揺すりながら優一郎は必死で叫んだ。その瞬間、けたたましい音がして城が揺らぐ。その拍子に優一郎はよろけてその場にへたり込んだ。
轟音と共に部屋の壁が砕ける。優一郎の視界を青いものが覆い尽くす。次の瞬間、多輝の横たわっていたベッドは優一郎の目の前から消えた。何かがこの部屋を根こそぎ削ってしまったのだ。
「優一郎くん!? 無事!?」
慌ただしい天輝の声に答えることも出来ず、優一郎はその場に立ち尽くした。何かにえぐり取られた部屋は天井から床にかけて大きな穴が空いている。
「優一郎くん! しっかりしなさい! 返事をして!」
間近で天輝に怒鳴られて優一郎は我に返った。斎姫はその場にへたり込んで呆然としている。のろのろとそんな斎姫を見てから優一郎は天輝に目をやった。
天輝は額から血を流していた。その手にはしっかりと一振りの刀が握られている。優一郎が正気に戻ったことに気付いたのだろう。天輝はすぐにその場を駆けだし、壊れた壁から外に向かって身を躍らせた。そんな天輝の後に白龍が何人も続く。
「天輝さん、手伝いましょう。任せてください」
既に飛び立った天輝には恐らく聞こえないだろう。それは判っていたが優一郎は嗤いを浮かべて呟くように言った。不安そうな顔で見つめる斎姫を置き去りにして優一郎は壊れた壁に向かって歩いた。
空には何体もの龍神の姿があった。白い蛇のような龍体に混ざって淡い青の龍体が見える。あれが天輝だろう。そして多くの龍神が飛ぶ先には巨大な青い龍神が一体、待ち構えていた。
次々に白い龍神が海に落ちていく。青い龍神の撃ち出す強大な力の前に多くの龍神たちが殺される様を優一郎はじっと見下ろした。
「強い。だけど」
優一郎は手の中に翠色の宝珠を現した。宝珠が瞬く間に剣に姿を変える。その剣はこれまでに優一郎が見てきた小さな短剣ではなかった。細い剣を携えて優一郎は鋭い目で青い龍神を捉えた。
ふわりと足場が揺れる。それまで城を形作っていた白い龍神の長が唐突に目の前に現れる。白琅渉という名の女性が落下しかけて慌てた声を上げた斎姫の足許に視線をやった瞬間、その場に見えない床が現れて斎姫の身体を受け止める。
優一郎がキレました。