※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 二部 光の公女   作:伊駒辰葉

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エロシーンはありません。


呪詛のような 2

「多輝!?」

「まったく、あのバカ、なに考えてんだ」

 

 口の中でぼやいた多輝が乱暴に首にぶら下がっていたネックレスを引きちぎる。多輝は手に握ったペンダントヘッドを宙に放り投げて言葉を放った。

 

「星の力を秘めし鍵よ! 真の姿を我の前に示せ!」

 

 そう声をはった多輝の周囲に金色の魔法陣が現れる。なにをするのかを理解した優一郎は慌てて多輝を止めようとした。だが既に陣による結界が敷かれていて多輝に手が届かない。

 

「契約のもと、苺が命じる!」

 

 宙でペンダントヘッドが光を放つ。解放の言葉を放った多輝に応じてペンダントヘッドは杖の形に変化した。それを慌ただしく握った多輝がカードを一枚宙に放り投げる。

 

「我が命に従い、空を行く羽根となれ! 白銀!」

 

 口早に言って多輝がカードに杖の先端で触れる。その直後、多輝の背中には銀色に輝く羽根が現れた。

 

「ちょっと、行ってくる」

「僕も行く。邪魔はしない」

 

 多輝の行動に驚きはしたものの、優一郎は心の何処かで納得していた。そのことに気付いたのだろう。多輝が困ったように笑ってから頷く。

 

 宙に浮いたまま、水輝はじっと二人を見下ろしていた。羽根を使って空を飛ぶ多輝と、それを追う優一郎をまるで待っていたかのようだ。

 

「二段詠唱になってんだよ」

 

 水輝の前に躍り出た多輝がぼそりと告げる。横に並んだ優一郎は水輝と多輝とを見比べて驚きに目を見張った。水輝は右手に刀をぶら下げてまだ呪文を詠唱している。対する多輝はバトン状の杖を両手に握りしめ、鋭い目で水輝を睨んでいる。武器だけ見ると圧倒的に多輝が不利に見える。

 

「いや、そうか……」

 

 口許に手をあてがって優一郎は黙考した。多輝が言う通り、水輝は最初から優一郎が言霊で対抗してくると読んでいたのだろう。それ故に優一郎の言霊が挟まる形で最初から呪文を組んでいたのだ。

 

「しかし、あの二人は……」

「生きてるだろ。まだ」

 

 多輝が言った直後、唐突に水輝が右手を振る。多輝がそれを受けて杖で刀を受け止めながら叫ぶ。

 

「信じるって約束したんだ!」

 

 水輝がぴくりと眉を上げて苦笑のようなものを浮かべる。だが呪文の詠唱は止まっていない。杖に受け止められた刀を引き、水輝は素早く身を捻って肘を打ち出した。咄嗟のことで止められなかったのだろう。多輝が呻きを漏らして水輝の肘に打たれて吹っ飛ぶ。だがすぐに多輝は背中の翼を使って元の場所に戻ってきた。

 

「世を行く闇に生きる者よ、人の心を貪る悲しき性よ」

 

 歌うように呪文を口に乗せながら再び水輝が多輝に向かって刀を揮う。邪魔をしないと約束した優一郎だったが、反射的に多輝を突き飛ばしかける。

 

 だがそこに既に多輝の姿はなかった。素早く水輝の攻撃を避けた多輝が逆に優一郎の身体を腕でさらって宙返りをする。だが多輝が体勢を整える前に水輝が再度、刀を繰り出してくる。

 

「止」

 

 素早く指に挟んだ小さな紙片を翳して優一郎は言霊を放った。すると二人の周囲に紙の障壁が出来上がる。展開された障壁に刀を弾かれた水輝が軽々と身を引いて手の中に青白い炎を生む。

 

「祖は汝、汝は祖、世は我、我は世」

 

 水輝の呪文の節が次第に短く早くなる。障壁が炎に焼かれて散り散りに消える。その途端に多輝がカードを放って叫んだ。

 

「風よ! 汝の主、苺の意に従え!」

 

 多輝が放った魔法が突風となって水輝の身に降りかかる。さすがに詠唱を続けられなかったのか、水輝の呪文が少しの間、中断される。その隙に多輝が次のカードを宙に放り投げる。

 

「火よ! かの者を取り巻け! ファイアリー!」

 

 立て続けに魔法を撃つ多輝を優一郎は驚きの目で見た。これまでに見てきた多輝とはまるで別人のように行動が早い。しかも行使される魔法の力が何故か格段に上がっている。

 

「力の、流れを……」

「必殺、連続技! 地よ! 木々よ! かの者の動きを止めよ!」

 

 優一郎が懸命に力の流れを目で追っている事にも気付いていないのだろう。多輝が立て続けにカードを放り投げては魔法を放つ。最初は火が、次に尖った岩が、最後に木々が水輝を取り囲む。

 

 水輝が刀を下ろして静かに告げる。

 

「鍵よ。時は来たれり。我が意にしたがい解錠せよ」

 

 その瞬間、どこからともなく見知った気配が多輝の目の前に現れる。続けざまにカードを放ろうとしていた多輝の手が止まる。

 

「蒼!?」

「多輝!」

 

 宙に浮いて身体を丸めていた蒼が悲しげに微笑み、小声で詫びる。

 

「多輝様、申し訳ありません」

 

 そう言った直後、蒼の姿がかき消える。蒼を形作っていた青白い光が無防備になっていた多輝の胸に一直線に飛び込む。止める間もなく光を吸い込んだ多輝の手からバトンが落ちる。

 

「紫の錠は綻び、青の鍵は消える」

 

 目を見張って苦しげに身体を丸めた多輝を抱えて優一郎は水輝に鋭い目を向けた。水輝はだがもうこちらを攻撃してくる気はないようだ。多輝の魔法が途切れ、周囲から拘束の環が消えてもじっと宙に浮かんでいる。

 

「水輝さん……」

「我が名は紺碧の沙耶。我が持てる全ての力、我が座を雷龍神に委譲す」

 

 最後に静かに呪文をくくり、水輝は少しだけ笑ってみせた。先ほどからはっきりと見えていた力の流れがより強く濃くなる。

 

 青い力はずっと水輝から多輝に向かって流れ続けていたのだ。

 

「多輝……?」

 

 優一郎は不安を覚えて多輝にそっと呼びかけた。だが多輝は身を丸めて苦しそうに呻いているだけだ。

 

「じゃあな」

 

 いつものように気軽に言って水輝が片手を上げる。やがて水輝は目を閉じてゆっくりと宙を滑り落ち始めた。慌てた優一郎の腕の中で多輝が絶叫する。水輝から溢れた力が一気に多輝に向かって流れ込んでいるのだ。

 

 宙に浮かんだ龍神たちは誰一人なにも言わず、黙ってそんな三人の様子を見下ろしていた。やがて白い巨大な龍神がその場を後にし、それに続いて次々に白い龍神たちが空の向こうへと消えていく。最後に名残惜しそうに宙に残された二人を見返ってから薄青をした龍神がその場を後にする。

 

 力をなくした水輝が海に落ちる。それと共に優一郎の腕の中で叫んでいた多輝の身体が脱力する。優一郎はしばし雨の落ち続ける海を見下ろしてから、そっと瞼を閉じた。




苺ちゃん大活躍!
と、思ったら水輝に利用されました。
優一郎もですけども。

水輝のは三段か四段くらいの詠唱になってるんじゃないかな?
うろ覚えですけど!!w
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