エロシーンはありません。
……あれ? ヘンタイシーンはあるんですけど、エロシーンじゃないです。
「あー……」
間延びした声を上げて頭をかき、習慣的にシャツのポケットを探ってからため息を吐く。煙草なんてないっての、と呟きで自分に突っ込みを入れてから順は遠くの景色をぼんやりと見つめた。
「えーと、何でオレ、んなとこに来てんだろ」
遠くにかすんで見えるのは海と長い長い橋だった。順の座る丘の上にそよそよと優しい風が吹く。やけに生えそろった下草をじっと見つめてから順は改めて前方の光景に目をやった。
「とりあえず落ち着けオレ。そして状況を把握……」
うんうん、と頷いて順は腕組みをして考え込んだ。しかしどうも足許がすかすかして落ち着かない。むう、と呟いて順は情けない顔をしてスカートをつまみ上げた。
「ええと確かあの人が急に出てきて」
とりあえず自分の格好を無視して順はぶつぶつと口の中で呟いた。
確か自分は茜として立城の元にいたのだ。あの時はすっかり腑抜けにされていて、記憶に蓋をされた状態だった。そこまでを思い出して順はうんうんと頷いた。
「そうなんだよねー。これだからりゅーじんの身体ってこまるよねー。目覚めて直後はムラムラきちゃうんだもんなー」
当時の自分をせせら笑いながら順はそう言った。だが別に聞く者がいる訳でもない。丘の上にいるのは自分一人だ。そのことは判っていたが順は一人で喋り続けた。
「たっくんとーえっちしてー、葵ちゃんともえっちしててー」
来る日も来る日もセックスばかりしていたような気がする。挙げ句の果てに立城は妙なコスチュームを茜に施した。力のこもったあのコスチュームもまずかったのだ。何しろあれは常時欲情し続けるよう、立城が力をかけたものだった。
「まあおかげでオレは気持ちよかったけどー……っと、そうじゃなくて」
ほんわかと快感のことを思い出しかけてから、順は慌てて頭を振った。
あの時、蝙蝠が飛んできたのだ。ピアノを弾きながら歌っていた茜は窓をノックした蝙蝠に惹かれて外に出た。蝙蝠はふわふわと空を飛び、茜は頼りない足取りでそれを追いかけた。
蝙蝠が森の中に入る。それを茜はぼんやりとした顔で追い続けた。やがて蝙蝠は森を抜け、川を渡り……そしてまんまと立城の結界を超えてしまった。茜はそのことにも気付かないまま、蝙蝠の後を追った。
そこに和也がいた。茜は最初、和也が誰か判らなかった。記憶に蓋をされていたのだから当然なのだが、そのことが和也にはいたく気に入らなかったらしい。
「ははは……」
事の顛末を思い起こしながら順は引きつった笑いを浮かべた。いま思えば和也の怒りは当然なのだ。何しろ順は立城のところを訪ねる前に和也のところを逃げ出してしまっているのだ。
怒り狂った和也が茜を組み敷き、後はいつもの通りだった。深々とため息を吐いて順は頭をかいた。徹底的に痛めつけられたことで茜は徐々に記憶を取り戻し、気が付いた時には身体が元に戻っていた。
だがその時にはもう手遅れだった。男性に戻った直後、慌てて水輝の元に駆けつけようとした順を失神させたのは和也だ。
「で、気付いたらこーなっていたと」
ほのぼのとした光景をぼんやりと眺めて順はやれやれとため息を吐いた。和也にしてみれば、順をこれ以上危険な目に合わせまいとしたのだろう。それにあの時の水輝の状態を考えるとあの世界だけでなく、冥界や天界も相当のダメージを食らっていたと見るべきだ。勿論、各界の管理者である黒妖牙と白琅渉は怒り狂っていただろう。だがその怒りをぶつけるべき水輝は消えている。
少なくとも表面的には。そう呟いて順はがりがりと頭をかいた。
「だからって女の服のままで移動させるこたあないと思うんだよね、オレは」
サイズがまるで違う身体に戻ったからだろう。やけに上半身を覆うブラウスはきついし、スカートはすかすかして気持ち悪い。
「よし、脱ごう!」
そう宣言して順は勢いよく立ち上がり、着ていた服を脱ぎ始めた。幸い、立城の施したコスチュームは和也が壊してくれている。順はスカートを取り、ブラウスを脱ぎ捨て、身体に巻き付いていたブラジャーの残骸と、ペニスを窮屈に抑え込んでいた小さなショーツをずり下ろした。
「きゃあああ!」
「ほえ?」
唐突に聞こえてきた悲鳴に順は振り返った。腕に編み籠をぶら下げた少女が顔を真っ赤にして悲鳴を上げている。順は慌てて違う違うと手を振った。
「いや! あの、これはね! って、ちょっとお!?」
順が言い訳するのも聞かず、少女が踵を返して走り出す。順は少女に差し伸べようとしていた手を力なく下ろし、傷だらけの自分の身体を見下ろした。
「……こんなに怪我してるんだから、可哀想とか、大丈夫ですかとかさあ」
ここは龍宝珠界。異世界に放り込まれてもなお変態扱いされた悲しみにため息を吐きながら、順は足に絡まっていたショーツを放り投げた。
苦労性の順!!!w
似たもの親子です。