「ごっめーん。限界だったみたい。やっぱり遮蔽物の向こうはきついわ」
リモコンをこたつの上に放り出して天輝が軽く手を振る。
「いえ、ありがとうございました」
優一郎は手短に礼を述べて天井を仰いだ。
「白琅渉どの! 先ほどの女性を救うために、この場へ引き寄せの術を使う許可を!」
そう優一郎が声を張った瞬間、閉じられた空間の端にごくわずかに隙間が開く。優一郎は急いで順を引き寄せ、身を屈めて唇を塞いだ。唇を介して治療の力を送る。あらあら、と呑気に言った天輝が部屋の隅に控えていた白い女性たちにタオルと湯を用意してくるように命じる。
順の胸に穿たれていた傷が少しずつ塞がる。天輝が白い女性の持ち運んだタオルで順の流した血を丁寧に拭き取っていく。
「天輝さん、そして白琅渉どの、この場を血で穢したことをお詫びいたします」
そう言って顔を上げた優一郎は、順の傷がちゃんと塞がったことにほっと息を吐いた。
「大丈夫よ。それよりこいつ……」
順の身体を拭き清めながら天輝が眉を寄せる。その目は順の胸元に注がれていた。白い肌には赤い痕が幾つもついている。
「最中に襲われちゃったのね。お盛んですこと」
瞼を半分閉じてうろんな目で順を見下ろしながら天輝が笑う。
「罠、だったのかもしれません」
そう呟いて優一郎は難しい顔で考え込んだ。順のさっきの傷はあの青年から食らったものと見て間違いないだろう。だが例え龍神の力が殆ど底をついていても、順のことだ。強襲されても返す方法は幾らでもあった筈だ。なのにさっきの傷は真っ直ぐに順の胸を貫いていた。
ぐったりと横たわる順は目を閉じている。だが胸は上下していて、弱々しくはあるが呼吸はしていることが判る。
「あの、天輝さん、お願いばかりで申し訳ないのですが……」
茜さんも、預かっていただいてかまいませんか? そう続けた優一郎を天輝が困惑したように見る。
「あたしは構わないんだけど……あの男がちょっと……」
困ったような顔で天輝が首を傾げる。
「あの男?」
「ほら、こいつにやたらと執着してる、黒っぽい、インチキ執事、いるでしょ?」
指を一本立てて言いながら天輝が難しい顔をする。それを聞いた優一郎は天輝の言うあの男というのが和也のことを示していると理解した。
「それなら、彼に預ければ、茜さんの安全は確保できるでしょうか?」
「どうだろ……。魔がこれだけ溢れてちゃ、あの男も身動きとれないかなー……」
そう呟いてから天輝がまあいいか、と頷く。
「判ったわ。とりあえずこいつも預かるわ。って、この格好は幾らなんでもあれかな」
そう言って天輝は部屋の隅に控えていた白い女性達に手招きをし、順を客間に寝かせるように命じる。女性達は二人がかりで順を抱えると部屋を出て行った。
「天輝さん。直ぐに服を脱いでください」
「へっ? 何で?」
こたつに入って背を丸めていた天輝が不思議そうな顔をする。
「その身体を宿体にする限り、その方面で、僕に隠し事はできませんよ。パジャマとショーツを脱いで、股間を晒して見せてください」
「うう」
小さく呻いた天輝がため息を吐いてこたつを出る。猫の愛らしい柄のついたパジャマのズボンとショーツを一緒に引き下ろし、天輝はその場にころんと横になった。膝を立てて腿を開き、これでいいかと訊ねる。優一郎は股間を晒した天輝の足元に回った。
「茜さんから、あの方の気配を、ほんの僅かですが感じました」
天輝の股間はぐっしょりと濡れている。優一郎は遠慮なく天輝の股間を覗きこんだ。
「立城? だって、エッチしてたんでしょ?」
恥ずかしそうに顔を赤くして天輝がぼそぼそとした声で言う。
「ごめんなさい。ちょっとデリカシーが無かったようです」
そう詫びてから優一郎は濡れた天輝の陰部に手を伸ばした。天輝の膣口には細い張り型が挿入されたままになっている。これで機体側のバイブレーター機能を起動すれば、すぐに快楽が得られるようにしてあるのだろう。
「とにかく事実として、ストレス値が急上昇しているのは確かでしょう?」
優一郎は膣からはみ出している張り型の先端を握った。その途端に天輝が高い声を上げて仰け反る。
「抜きますよ」
声をかけて優一郎は張り型を抜いた。指を挿入して膣壁の状態を調べる。指に触れるぬめった膣壁はあちこちが裂けている。傷だらけの膣内を探られる天輝が眉を寄せて声を殺す。どうやら相当に痛むらしい。優一郎はいったん股間から離れ、天輝の上半身を抱き上げた。
「ばんざいしてください。胸も見ますから」
「ん」
泣きそうな顔をして頷いた天輝が大人しく両腕をあげる。優一郎はパジャマをめくり上げて顔をしかめた。天輝の乳首の先から人工の皮膚を突き破り、金属のばねがはみ出している。
「白琅渉さん。天輝さんを外に連れ出すことは無理ですよね?」
確認の意をこめて優一郎は天井に向かって言った。しばしの間の後、天輝がぼそぼそと言う。
「……いいって」
どうやら白琅渉は天輝を通じて応えたらしい。
「では、直ちに修理します。ちょうど、このタイプのボディにぴったり合う部品があるんです」
多輝と天輝の機体の構造は基本的には同じだ。そのことを思い出しながら優一郎は頷いた。天輝がのろのろとショーツとパジャマのズボンを身に着ける。
多輝と天輝が違うのは、多輝は宿体であるヒューマノイドの機体を自分で作れる上、その気になれば生身にもなれるという点だ。これに対して天輝は力がないために宿体はきちんと機械的に維持しなければならない。要するに天輝はごく一般のヒューマノイドと同様、定期的なメンテナンスや場合によってはオーバーホールも必要ということだ。
「白琅渉さん。もしかしたら不本意かもしれませんが、このような部屋を用意することはできますか?」
そう言って優一郎はヒューマノイドのメンテナンスや修理を行う工作室のイメージを詳細に思い浮かべ、それを城に向かって送った。しばしの間の後、天輝が眉を寄せてぼそぼそと言う。
「凄く不本意だけど仕方ないから用意するって。……何よ、その仕方ないってのは」
嫌そうな顔をして天輝が天井を仰ぐ。それから天輝はため息を吐いて優一郎を見た。
「あのね。あたしもなんだけど、祐ちゃんも修理してあげて? 彼女、ここに来てからずっと辛そうだから」
「とりあえず、あなたが優先です。祐は電源を落しておけばいいですけど、あなたはそうは行きませんから」
いくら今が夜だといってもあなたの存在は必要不可欠ですからね。そう続けてから優一郎は天井を仰いだ。上の階層のどこかからごとごとと何かが動く音が聞こえてくる。
「判った……。この上の階に部屋を用意したからって」
そう言いながら天輝が静かに畳のスペースを出る。放り出されていた靴を履き、歩き出した天輝の後を優一郎は急いで追った。
テレビのリモコンは今は懐かしいです。
(テレビがないのでw)