※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 二部 光の公女   作:伊駒辰葉

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『まやかしの終わり』二部のスタートです。
始めがこれか……w と改めて思ってますw


一章
手作り料理でビビる


 どこかで見たような天井が見える。落ち着いた色合いの天井をぼんやりと見つめ、順は何度か瞬きをした。ここは一体、どこだろう。そう考えてからしばしの間の後に、ここが吉良瀬邸の客間だということに思い至る。

 

 やけに身体がだるい。順はため息を吐いて何気なく周囲を見回した。柔らかな日の光が窓から差し込む客間には今は自分以外の誰もいない。そのことを確認してから順は身じろぎして布団を口許まで引っ張り上げた。

 

 あれからどうなったのだろう。佑の光の結界に閉じ込められ、立城が現れ、水輝の悲鳴が聞こえた。身を裂かれるような悲愴な声を思い出して順は疲れた息を吐いた。その後、激しい衝撃が訪れた。あれは恐らく、水輝に加わった衝撃が時を置いて写って来たからだろう。通常なら避けられる事態だったのかも知れないが、内側を向いた結界に捕らえられ、力がまるで使えなかったことから起こった現象だろう。

 

 立城に抱かれたことまでは判る。本当は透か優一郎に、と思っていたのに結局は立城に処女を捧げる格好になってしまった。そのことを思い出して順は少し顔をしかめた。

 

 違うと叫んだ時の立城の顔がやけに印象に残っている。立城はまだ真也という名の弟のことを引きずっていて、だから紫翠の力を使って呼び戻そうとしているのだと思った。水輝はそのための便利な道具にされているのだと思ったのに。胸中でそう呟いて順は布団の中から腕を出した。

 

 天井に掲げた腕は細い。順の身体は女性のままになっている。身体のあちこちが痛むのは、無理な体勢で長く抱かれていたからだ。特に股間の痛みが酷い。順は自分の両腕をじっと見つめてから身体の力を抜いた。布団の上に腕が落ちる。

 

 どこからかふんわりといい香りが漂ってくる。順はふと客間の入り口を見た。音を立てないように部屋に入ってきた和也が肩を竦めて苦笑する。

 

「相変わらず鼻が利くことで」

 

 和也は小さなトレイに土鍋を乗せていた。ベッドサイドのテーブルにトレイを据え、傍の椅子に腰掛けた。土鍋の蓋を取ると美味しそうな雑炊が姿を現す。それを見た順の腹が音を立てる。

 

「ほら、少し身体を起こせるか?」

 

 順の身体を支えた和也が背中の下に枕を挟む。されるがままに上半身を起こして順は訝りの目で和也を見た。

 

「な、何で怒らないんだよ」

 

 思わず小声で訊いた順を横目に和也が笑う。

 

「オレは基本的に女には優しいんだ」

 

 きっぱりと言い切った和也を順は驚きの目で凝視した。蓮華で雑炊をすくって息をふきかけて冷ましてから、和也がそれを順の口許に運ぶ。順は困惑に顔を歪めつつも雑炊を口に入れた。

 

「んまい」

 

 優しい味付けの雑炊を飲み込んで順は素直に感想を口にした。すると和也が当り前だ、と言う。

 

「オレが作ったんだからな」

「こわー……」

 

 率直な順の感想に和也が少しだけ顔をしかめる。だがまたすぐに和也は蓮華にすくった雑炊を順の口許に運んだ。

 

「なんか優しくされると気持ち悪いなあ」

 

 照れくささに顔をしかめて順は言った。和也は失礼な、と笑っている。試しに男に戻ろうかと訊くと、和也は首を横に振った。

 

「ムリだろ。今のてめえの身体は思ってる以上に消耗してるし、力は吸い取られてるし」

 

 そこまで言って和也が急に順の口に蓮華を突っ込む。慌てて目を白黒させた順を和也が嗤いを浮かべて軽く睨む。順は蓮華を咥えたまま、頬を引きつらせた。

 

「オレに無断で余所の男に力をくれてやるなんざ、随分と偉くなったもんだなあ? ええ?」

「やっ! あの、それはほら! 仕方なくと言うか何と言うか」

 

 そこまで言った順を和也が殴る真似をする。条件反射的に身を竦めた順の頭を和也がぽんぽんと軽く叩く。きっと殴られて痛いことをされるに違いないと踏んでいた順は驚きにぽかんと口を開けて和也を見た。蓮華を空になった土鍋に入れて和也が順に向き直る。

 

「ヤツは強引に分裂させられたぞ」

「……マジ?」

 

 順は和也の顔を覗き込んで眉を寄せた。ああ、と頷いた和也が天井をさし示す。

 

「今は上の部屋で休んでる。女がついてるが、目覚めるかどうかは判らんな」

 

 さらりと言ってから和也は手を下ろした。順はつられて天井を見上げてみた。だがそこには何の気配も感じられない。どうやら探索する力まで弱くなってしまっているらしい。回復はするだろうが、時間はかかりそうだ。

 

「分かれた片方はあの男のとこに運ばれたらしい。どうなったかは知らんがな」

 

 順が訊ねる前にそう言って和也が肩を竦める。つまり、水輝は二つに分化され、片方はこの屋敷に、もう片方は立城の許にあるということだ。

 

 順は険しい顔をして口許に手を当てた。考え込む顔をした順を和也はじっと見つめている。しばし考えを巡らせてから順はふと和也を見た。

 

「そいえばアンタ、仕事はどうしたのさ?」

「どっかのバカが考えなしで倒れてくれたお陰でな。キャンセルだ」

 

 素気なく言って和也が肩を竦める。うわあ、と情けない声を漏らして順は頭をかいた。きっと今頃は世界のあちこちで魔がわき、幾つもの命が食われているだろう。それを想像してから順はため息を吐いた。

 

「心配するな。ある程度は他のヤツに押し付けた」

「それってヒトだよねぇ? ダイジョブかね」

 

 この世に生きるヒトの中には特殊な力を持つ者がある。魔を撃退する力を有する者も中には存在している。彼らはだが魔の数に比べると余りにも少なく、多くの者は魔の脅威にさらされているだろう。

 

 ま、いっか。軽く言ってから順は足にかかっていた布団を退けた。和也が嫌そうな顔をして布団を戻そうとする。だが順はその布団を足で退けた。

 

「休んでいろ……と言っても聞く気はなさそうだな」

 

 ペットの分際で。苦い顔でそう言ってから和也がため息をつく。順は苦笑して着せられていたパジャマを脱ぎ始めた。

 

「しーんぱいしなくても無茶はしないよん。ちょっと気になるからさあ。優一郎くんのトコ、送ってよ」

 

 手早くパジャマを脱ぎ捨てて順はベッドを降りた。痛みを堪えて部屋の端にあるクロゼットに寄る。手ごろな服を見繕って身に着け始めた順を見つめ、和也は呆れたようなため息を吐いた。

 

「あとで覚えてやがれ。この淫売」

「へーへー。いいから車回してよぉ。オレ、跳ぶ元気はないんだからさあ」

 

 どうやら和也は本当に女の姿をしている順に手を出す気はないらしい。くそったれ、とぼやいてから仕方なさそうに腰を上げる。順はそんな和也に苦笑してみせた。




和むカップル……?w
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