機体のメンテナンスシーンが入ります。
即終わりますが。
白琅渉が用意したメンテナンス室は少し変わっていた。ぱっと見た目には優一郎が思い浮かべたものと同じなのだが、細部がやたらと凝っているのだ。例えばメンテナンス台の金具にはいちいち美しい彫刻が施されていたり、レンチやドライバーの金属部分にも模様が彫られていたり、挙句の果てには天井は硝子張りで室内を照らすのは柔らかな間接照明だったりする。
「天輝さん、正直に答えて欲しいんですけど。壊れるまで自慰するの、好きでしょう?」
メンテナンス台に横たわる天輝に優一郎はさりげなく問い掛けた。すると天輝がうっ、と言葉に詰まってそっぽを向く。優一郎はクロゼットを開けてきっちりと整理整頓された中から小袋に分けられたパーツを両手に抱えた。ご丁寧に袋の口はリボンで留められている。何だかなあ、と思いつつも優一郎は必要な袋を十以上抱えて台に寄った。
「局部パーツを着脱可能な方式に改良しました。壊しても簡単に交換できます。まず、これを装着してみてください」
そう言って優一郎は透明な袋に入ったパーツを天輝に差し出した。入っているのは乳首の部分だ。天輝が赤い顔をしてリボンを解く。天輝は指につまんだ部品を穴の空いたままになっていた乳房の先に取り付けた。
「おおー……。そっか。壊れたら取り替えればいいんだ?」
説明を受ける前に天輝は乳首のパーツを器用にはめ込んだ。どうやら天輝は水輝とは違い、触れば機械を壊してしまうという妙な性質はないらしい。
「はい。乳首とクリトリスは数百個のスペアをとりあえず用意しました。壊れながらの刺激を味わえるように特に改良されたものです」
淡々と説明しながら優一郎はもう片方の乳首のパーツを差し出した。天輝は困ったような顔でそれを受け取り、袋の口を開ける。
「あの、壊れながらの刺激って……ええと」
困惑した表情をしつつも天輝の顔は赤い。続けて左の乳首をはめ込んでから天輝は空になった袋とリボンをまとめて手近なテーブルにあったかごに放り込んだ。
「次は下半身のほうに移りましょう」
優一郎は傍の椅子に腰掛けて天輝の股間に繋がっているコードを外し始めた。壊れた局部を取り外された天輝の股間は機械が剥き出しになっている。両足を大きく開き、左右の足掛けに足を乗せた天輝があのう、と小声で言う。優一郎は目だけで何事かと問うた。
「ええと、直してくれてありがと」
頬を染めたまま、天輝がぼそりと言う。
「僕は、あなたのサブマスターですから」
そう言ってから優一郎は少し間を置いて再び口を開いた。
「眠っている間に、心理データなどの解析をしました。今後も今までのように自慰に耽り続ければ、問題無くこの状態の維持は可能です」
「そう。ありがとう」
笑顔で答えて天輝が頷く。どうやら天輝はマスターを変更する気もなければ、機体を変える気もないらしい。天輝はどんなに力がなくなっていても龍神の一人だ。その気になればサポートを受けて生身の器をまとうことも可能だろう。だが天輝はそれをする気はないのだ。
「それでは、下半身の局部パーツの構造について、説明します」
そう言って優一郎はパーツの入った袋の幾つかを天輝に手渡した。胸に部品を抱えて天輝が優一郎の説明に一つずつ頷く。組み立て方を解説した優一郎が促すと、天輝は自分でパーツの袋を開いて身を起こし、股間に部品をひとつずつはめ込んでいった。
「天輝さん。僕はやはり、一度立城さんと話し合ってみようと考えています」
部品を組み立て終えた天輝を真剣な顔で見つめ、優一郎はそう告げた。天輝がしばしじっと優一郎を見つめ返す。やがて天輝は少しだけ笑みを浮かべて首を傾げてみせた。
「そうね。それがいいかも知れない。あの人、みんなが思うほど万能じゃないし」
呟くように言ってから天輝がちょっとだけ俯いて寂しそうな顔をする。だがすぐに天輝は顔を上げて微笑んだ。
「立城さんとの記憶。見ました」
優一郎は俯いて小声で告げた。決して意図して見た訳ではない。だがデータ解析をするためにはどうしても天輝の記憶を見る必要があった。その中には天輝がかつて水輝として生きていた頃の光景が含まれていた。女性だった頃の水輝は立城や他の龍神たちと共に楽しそうに日々を過ごしていた。当り前に学校に通い、当り前に日常生活を送り、その中で泣いたり笑ったりしていた。まるで何も知らなかった頃の優一郎たちと同じように、日々を生きる彼らの姿がそこにはあった。
「ん。過ぎたことだしね。もう、戻ることなんて出来ないし……嫌ねえ、優一郎くんってば。そんな暗い顔しないでよ、もう」
明るい声で言って天輝が優一郎の頭をぽんと軽く手で叩く。優一郎はのろのろと顔を上げた。
「あなたは強い方ですね」
「まさか」
優一郎が言った言葉をあっさり否定して天輝が肩を竦める。
「強くなんてないわ。ただ、諦めが悪いだけ。好かれた自分を誇りに思ってるだけよ」
照れ隠しなのか明るく笑って天輝が優一郎の肩を何度も叩く。それに、と続けてから天輝が片目を閉じる。
「あれで多輝ってなかなかいい子だと思うわよ? あたし、親らしいことなんてちっともしてないけど、それは自慢」
ふふ、と笑って天輝が優一郎の顔を覗き込む。
「多輝をよろしくお願いします。必ず迎えにきますから」
決意を固めて言った優一郎に天輝が頷く。その後、天輝は悪戯っぽい笑みを浮かべて優一郎の額を指先でつついた。
「ちんたらしてる男って好きじゃないわ。相応しくないって思ったらめいっぱい多輝との仲、邪魔してやるからそのつもりでね」
気軽に言って天輝がメンテナンス台から飛び降りる。それと、と小声で続けてから天輝は肩越しに振り返った。
元々、天輝というのは水輝が割れた? 存在です。
なので、記憶は持っています。