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「立城のこと、頼んだわ。あの人、無茶をしていると思うから」
まあ、いつもなんだけどねー。渋い顔で言って天輝ががりがりと頭をかく。
「あの……」
優一郎は言いかけて口を噤んだ。すると天輝が眉を寄せて優一郎に大股で一歩迫る。圧される格好で後じさりしようとした優一郎の肩をつかみ、天輝はにっこりと笑った。
「言いかけて止めるのって、嫌いなのよね」
凄みの利いた声に促されて優一郎は困惑しつつ口を開いた。
「立城さんに、コントロールされていた記憶は、戻ってらっしゃるんですよね? その……」
「別にいいじゃない? それで色んなことが丸くおさまってたんだから」
あっけらかんと言って天輝が手を離す。優一郎は困惑した面持ちでつかまれていた肩と天輝とを見比べた。
「そうですね。それでは祐の様子を見たいのですけど、同行お願いできますか?」
「ん。どうでもいいけど」
頷いて先を歩きながら天輝が低い声で言う。
「訊きたいことあるんなら、回りくどい方法じゃなくてさくっと訊きなさいよねー。まったく、これだから男ってのはねえ」
ぼやきにも似たことを言いながらドアを開け、天輝が部屋を出る。それを追いながら優一郎は苦笑を浮かべた。
「立城さんのこと、今でも好きですよね?」
「おお、直球」
はしゃいだ声を上げて天輝が振り返る。広々とした廊下を後ろ向きで歩きながら天輝はにっこりと笑った。
「好きよ」
そうひと言言ってから天輝がまた前を向く。外に面した廊下からは真っ青な空が見える。白い巨大な柱の合間に覗く空をちらりと見てから優一郎は天輝に目を戻した。少し先を行く天輝のウェーブのかかった髪が動きに合わせて揺れている。
「立城さんに、伝えます」
にっこりと笑って言った優一郎を肩越しに見返ってから天輝が苦笑する。
「言わなくていいわ。嫌われたくないから」
そう言ってから天輝が立ち止まる。大きな扉を開けた天輝はさっさとその部屋に入った。天蓋のついた大きなベッドには渚が横たえられ、その隣には祐が横たわっている。
「渚さんは、眠ってらっしゃいますね」
当分、目覚めそうにないな。これは。そう続けて優一郎は渚の顔を覗きこんだ。するとベッドの傍に立っていた天輝がやれやれとでも言いたそうに両手を軽く広げて首を振る。
「もー、ここに来てからずうっとそのまんまだから、女の子が世話したがらなくて大変よー」
そう言いながら天輝がそっと渚にかかっていた毛布をめくる。パジャマを身に着けた渚の股間は盛り上がっている。
「この状態なら、渚さんの城へ戻っていただいたほうが回復は早いんでしょうけど……」
まずは立城さんと話さないと。そう続けた優一郎に天輝がそうよねえ、と困ったような顔で頷く。
「何なら彼女たちまとめて元の場所に戻す? でもそれだと危険なんだっけ」
難しい顔をして天輝が首を捻る。どうやら渚はたびたび寝たままで射精するらしい。その度に汚れたパジャマを替えなければならないのだが、どうしても作業を他の者が嫌がるため、仕方なく天輝がその世話をしているらしい。その隣に横たわっている祐は壊れたままなのか、やはり眠るように目を閉じている。
「わかりません。そのためにも一度立城さんと話をしないと」
「判った。祐ちゃんはどっちにしろ、彼女がある程度回復しないと直しても無駄っぽいしね」
困った顔をして頭をかきながら天輝がため息を吐く。
「ええ。精神的負荷が増すだけですから……」
そう答えてから優一郎は決心して頷いた。
「こうなったら、直ぐにでも行ってきます」
「その方がいいかも。なーんか、嫌な予感するしね」
天輝がため息混じりに言ってから天井を仰ぐ。
「白。あっちに直行の道とかって開ける? ……なに、その渋り方は。冥界経由なんて時間かかって仕方ないでしょうが」
嫌そうに顔をしかめて天輝が不機嫌な声を天井に向ける。どうやら天輝は白琅渉と意識下で会話をしているようだ。
「茜さんを媒介にすることができます。さっき使った引き寄せの技のリバウンドを利用すれば」
「でも開かないと出られないのよ、ここ。……こら、白! おまんじゅう分けてあげないわよ!?」
天輝が声を張ると急に天井からいがぐりが降って来る。だが天輝は予想していたのか、落ちてきたいがぐりを素早く避けた。
「栗羊羹だって、芋羊羹だって、全部一人で食べてやるんだから!」
天井に向かって天輝が喚いた直後、ぴったりと閉じていた空間の果てに隙間が生じる。どうやら白琅渉は天輝の言い分を飲む気になったらしい。
「まず、茜さんのところへ行きましょう」
「おっけー」
頷いてから天輝が駆け出す。白琅渉の気が変わらないうちに、ということなのか、天輝は廊下をかなりの速さで走り始めた。慌てて追う優一郎を時折振り返る。
「けっこう、走るの遅いわね!」
笑い混じりに言われて優一郎は苦笑して自分の足元を見下ろした。今は女性の姿をとっているために、スカートを穿いていて走りにくいのだ。
「ちょっと、服装になれなくて」
そう言いながら優一郎はまとっていたスカートをパンツに変えた。おお、と笑った天輝にすぐに追いついて微笑んで見せる。こっちよ、と笑って天輝が廊下の分かれ目をいきなり曲がる。優一郎は慌てて方向転換して天輝に追いついた。
唐突に部屋の扉を開けた天輝に驚いたように、順の世話を焼いていた二人の女性がベッドから離れる。
「茜さん……」
痛ましさに顔を少し歪めつつ、優一郎は順に駆け寄った。すっかり汚れは拭き取られているが、順は眠るように目を閉じて横たわっている。浅いが呼吸はしっかりしているし、この分なら時間が経てば回復もするだろう。
「それでは、行ってきます」
にっこりと笑って優一郎はその場から転移した。視界が弾ける直前、天輝のお土産買ってきてねという声が届く。優一郎は白琅渉の開いてくれた空間の隙間から、一直線に立城のいる屋敷に向かって跳んだ。
あれ?
渚の状態はある意味でエロ?
ftnrですけども。