※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 二部 光の公女   作:伊駒辰葉

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調教……もとい、教育が必要そうな葵の件。
エロシーンはありません。

※公開の日付設定をミスってしまいました……。


幼子のような 1

「ですけど、まだ、言霊は消えていません」

 

 相当、混乱しているのだろう。優一郎が震える声でそう告げる。立城は煙草に火を点けて深々と息を吸い込んだ。煙を細く吐きながらベッドの傍のテーブルにあった灰皿を引っ張り寄せる。

 

「まだ、水輝は諦めていないからね。元に戻ることを」

 

 ここにいても力の流れは感じることが出来る。水輝はなくしたものを取り返すつもりなのだ。立城はのんびりと煙草をくゆらせながら微かに笑った。

 

「あの子の標が、もともと水輝の中にあったものだってことに気づいたかい?」

 

 そう言いながら立城は葵がさっき現れた場所を見つめた。葵は水輝から分たれた存在だ。だが水輝そのものではない。分かれた瞬間に葵は葵として成立してしまっている。それは誰のせいでもない。

 

「はい。僕と佑の関係に近いですけど、違いますね」

 

 つられたように葵の居た場所を見つめて優一郎が頷く。立城は伸びた灰を灰皿に落としこんで煙草を唇に戻した。

 

「水輝は、それを取り戻そうとしているんだ」

 

 にっこりと笑って立城は言った。水輝は葵のことを自分から分かれた部品のように思っている。だが本当は違う。葵は分かれた瞬間に確かな存在としてこの世界に生まれたのだ。

 

「葵を引き裂いて標を取り戻し、君に多輝を殺すと宣言した水輝に戻ることは、可能なんだ」

 

 そして、本気になった水輝を抑える力が僕にあるかどうかわからない。そう続けて立城は煙を吐き出した。驚いたような顔をして優一郎が立城を凝視する。立城は顔を上げて首を傾げてみせた。

 

「もちろん、今の水輝に多輝を殺す気なんか無い。それどころか、多輝の事は大切に想っているだろう。だけど」

 

 戻ってしまえば宣言の言霊に縛られることになる。そう告げてから立城は短くなった煙草を灰皿に押し付けた。だから言霊はまだ残っている。可能性がなくならない限り、一度発した言葉が消えることはない。

 

「立城さん、すいません。僕は……」

 

 あなたのことを疑っていました。消沈した顔で詫びる優一郎に立城はにっこりと笑みかけた。

 

「いや、だって、ほら。疑われても仕方ない状況だったと思うし、実際、あの子を抑えきれなくて、茜ちゃんを危ない目にあわせちゃったし」

 

 そう言いながら立城は表情を曇らせた。順は恐らく庇おうとして立城を突き飛ばし、自分が避ける暇もなく葵の放った力に貫かれたのだろう。例えその力が立城に対して無効であったとしても、順には知る術はなかったことだ。

 

「あの……彼は危険ではないのですか?」

 

 恐る恐るの態で優一郎が問う。立城は口許に淡い笑みを浮かべてみせた。

 

「それは危険だよ。だから、僕が付いていてあげないと」

 

 それに、危険度で言えば佑のほうが実は上のような気がするし。そう続けて立城は少し眉を寄せた。佑は立城がしっかりと教育しただけあって、戦いの面に置いて恐ろしい強さを誇る。そしていざという時の瞬間的な判断と爆発力は並大抵ではない。しかも本人は無意識でやっているものだから始末に終えない。つらつらと思い出しながら立城は思わずため息を吐いた。

 

「君も気をつけたほうがいい。斎姫に佑を抑えるのは無理だから。無理なことを強いれば最悪の場合、壊れてしまうかもしれない」

 

 あの娘は手段を問わないし……。やっぱり育て方間違えたかなあ。そう呟いて立城は深々とため息を吐いた。それまで大人しく話を聞いていた優一郎がぎょっとしたように立城を見る。どうやら優一郎は佑を斎姫に閉じ込めたとすっかり安心していたらしい。閉じていた目を片方だけ開けて、立城は横目に優一郎をうかがった。

 

「今の水輝は多輝に対しては甘いくらいだから、大丈夫。佑は、水輝の言葉には逆えないから」

 

 今の水輝でいるうちは。そう付け足して立城はふと、横を向いた。その場に葵が姿を現す。葵はしきりに視線を泳がせながら立城に近づいた。

 

「食っていいか? あれ」

 

 そう言いながら葵が立城に抱きつく。立城はなだめるように葵の背を撫でた。

 

「食べるなら、これなんかどうかな?」

 

 葵をそっと起こして立城は額を合わせてある魔のイメージを送った。しばし黙っていた葵が難しそうに眉を寄せる。

 

「……不味そう」

 

 苦い顔をしてから葵がふと優一郎に目をやる。その場に固まっていた優一郎をじろじろと遠慮のない目で見てから、葵は立城の肩に頬擦りをした。

 

「そこのは無理だから、他の。綺麗な珠持ってるのがいい」

 

 まるで猫のように懐く葵を苦笑しつつ撫でながら立城は首を傾げた。

 

「好き嫌いをすると、身体に悪いよ。僕は好きだけどな」

 

 にっこりと笑った立城を泣きそうな顔で見つめてから葵が唇を尖らせる。それからふと、葵はいいことを思いついたとでも言いたそうにぱっと明るい顔をした。

 

「じゃあ、黒いのは? いっぱい垂れ流してる奴。ここにもいた、珠は持ってないけど黒いの」

 

 早口で言ってから葵が困ったように首を傾げる。どうやら上手く言い表せなくて苦労しているらしい。




葵はこの頃はまだ幼児のみたいな状態です。
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