※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 二部 光の公女   作:伊駒辰葉

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このエピソードで二章は終わりです。
エロシーンはありません。


共食いは出来るかな?w 1

「葵、さっき僕が食べてって言った相手、覚えてるよね?」

 

 立城の質問を受けた葵がぴたりと動きを止めて鼻をひくつかせる。ゆらりと歩き出した葵は夢遊病者のような足取りで少し歩き、部屋の中ほどで足を止めて何かを探すように周囲を見回した。低く呻きながら何度か目を細め、葵が中空を仰ぐ。

 

「いってらっしゃい」

 

 立城が笑顔で告げた次の瞬間、葵の姿がかき消える。黒い軌跡を残して葵が消えた場所を優一郎がじっと見つめている。

 

「いったい、何を?」

 

 不安を露にして訊ねる優一郎に立城は笑みかけた。

 

「ちょっとね、あの子の特性を活かせないかなあとか」

 

 くすくすと笑いながら言って立城は葵が消えた場所を見やった。葵は魔の性質を色濃く持っているが、それだけではない。食ったものを力に転化することや、他者に分けることが可能なのだ。

 

「魔にも、共食いを禁忌とする性質があったみたいだけど」

 

 その性質が崩れたら、どうなるかなあとか。悪戯っぽい笑みを浮かべて言う立城を唖然とした顔で優一郎が見る。だが龍神も今では共食いのような真似はしている。その最たる例が水輝と順だ。彼らは龍神の中でも力ある存在だが、同時に他の龍神を食うという性質がある。いや、少なくとも前の水輝にはあったと言うべきかも知れない。今の水輝は恐らくそれをすることは出来ないだろう。

 

「気づいてなかったかもしれないけど。主龍神の消滅によって、津波のように魔が湧く時が迫ってたからね」

 

 そう言いながら優一郎の脇を過ぎ、立城はベッドに腰を下ろした。

 

「地上に溢れた後に共食い属性を獲得していた可能性もあるけどね」

 

 優一郎が振り返って立城をじっと見つめる。指に挟んでいた紙片をポケットに戻してから優一郎は静かに顔を上げた。その顔にはさっきまでの驚いたような表情はない。立城は微笑みを浮かべて優一郎から流れてきた感情をそっと受け流した。

 

「君のほうの用件はなんだったのかな?」

 

 とりあえず優一郎の一番の不安は取り除かれたはずだ。多輝を失うことが何よりも怖いと感じている優一郎は、これまで懸命に護ることだけを考えてきたに違いない。だが今はもう、言霊だけが浮いた格好になっていて、優一郎に宣言をした水輝はいなくなっている。

 

「今後どうすればいいか、僕に何ができるのか、お話ししたいと考えています」

 

 生真面目な顔で言った優一郎に微笑みかけて立城は足を組み合わせた。お茶でもいれようか、と言って立城は中空に手を差し伸べた。瞬く間に紅茶の満ちたポットと二つのカップが手の中に現れる。立城は左手に握ったカップに紅茶を満たし、優一郎に差し出した。おずおずと優一郎がそれを受け取った後、今度は自分の茶を注ぐ。

 

「立城さんは葵さんを水輝さんに討たせることを容認されるのですか?」

 

 白磁に淡い色彩で花の模様の描かれたポットをベッド脇のテーブルに乗せ、立城はのんびりと首を傾げた。両手にカップを包んで優一郎は物問いたげな顔をしている。

 

「返答の予測はついているのでしょ?」

 

 微笑みを浮かべて立城は静かに紅茶を啜った。熱い茶の香りを十分に満喫してから、再び茶をすする。

 

「動くべき時が来たらご連絡ください。僕は誓いを果たします」

 

 そう言って優一郎が静かにカップを傾け、熱い茶を飲み干してから息を吐く。にっこりと笑って優一郎はテーブルに空っぽになったカップを乗せた。白いカップの模様はポットとお揃いだ。カップの底には一片の花びらが描かれている。

 

「桜?」

 

 ふと、カップの中の模様を見止めたらしい優一郎が呟く。立城は笑みを浮かべて静かにカップを傾けた。薄い桜色をした花びらは、紅茶のような色の濃い茶が入っていると飲み干さなければ見えない。

 

「可愛いでしょう?」

 

 笑顔で言ってから立城はふと、部屋の中央に目をやった。その場に音もなく現れた葵が口許をコートの袖で拭いながらしっかりとした足取りで歩いてくる。葵が現れた瞬間に僅かに漂った腐臭は瞬く間に消え失せた。

 

「おかえり、葵」

「ん」

 

 片手を上げて立城に返事をしてから葵が優一郎に寄り、素早く手を動かす。優一郎の胸のポケットから無断で紙片を抜いた葵は面白そうにそれを眺めた。

 

「欲しいのかい?」

 

 立城が訊ねると葵が苦笑して首を横に振る。葵は元通りに優一郎のポケットに紙片を戻し、軽く胸を手の甲で叩いた。

 

「お前、強いな。びっくりした」

 

 嬉しそうに言って葵が何度か優一郎の肩を叩く。戸惑ったような優一郎の視線を受けた葵が首を傾げてから、あ、と呟いて口許を手で隠す。ごめん、と呟いて顔を背けてから葵はしきりに自分の腕や手を鼻に近づけて匂いを確かめ始めた。

 

「そんなに匂うか? 落としてきたつもりなんだが」

 

 眉を寄せて葵が自分の匂いを確かめる。

 

「いえ。葵さん、匂いは落ちていますよ」

 

 先ほどよりはずっと警戒心のない顔で優一郎が笑みかける。すると葵は嬉しそうに笑って優一郎を指差し、立城に頷いてみせた。




共食い出来れば楽。くらいの感じだと思いますw
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