※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 二部 光の公女   作:伊駒辰葉

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久しぶり? に、泰蔵じじいが出てきます。
エロシーンはありません。


透と要の結婚準備? 1

 如月の屋敷について、要に家の者に紹介をして貰ったところから騒ぎは始まった。騒然とした家の者が慌ただしく動き始めるのを余所に、要は広々とした部屋を透に、その隣の広い部屋を巴とちなりの部屋にしましょうと言った。車から荷物を運び入れて落ち着こうとした矢先、要の元に一本の電話が入った。

 

 電話をかけてきたのは要の祖父だった。如月泰蔵。現如月家の当主、吉良瀬財閥の首脳陣の一人だ。直ちに泰蔵の元に透を連れてこい、というのが電話の内容だったらしい。それだけ言って泰蔵はさっさと電話を切ったのだと言う。どうやら家の者が泰蔵の元に要が結婚相手を連れてきた、と連絡をしたのだろう。まあ、事が片付いてから顔を出せばいいか、とのんびり構えていた時に異変は起こった。

 

 夜明け前、とりあえずは寝ようとしていた透の部屋の屋根から、大量の女が降ってきた。慌てた透を余所に忍び装束に身を固めた女性たちは、どこからともなく取り出したロープを透に巻き付け、睡眠薬をかました後、透を拉致してしまった。そのことに気付いた要がお待ちなさいと付いてきたのは予定外だったのか、それともシナリオ通りだったのか。座布団の上に正座させられた透は横目に要を見てため息を吐いた。

 

 ここは泰蔵の住処、如月の本家だ。

 

「おまえの家って忍者も飼ってるのかよ……。最初に話しとけよ……」

 

 畳敷きのこの部屋は百畳はあろうかというほど広い。遠くに見える床の間には『画竜点睛』とかなんとか力強い字で書かれた掛け軸がかけられている。そのやたらと広い部屋の真ん中に透は要と並んで座らされていた。

 

「いえ、あれはお祖父様の家の者ですわ。要は見張りですわね」

 

 さらっと言って要が納得したように一人で頷く。げんなりとした顔で透は額を押さえた。

 

 障子越しには朝の白い光が差し込んでいる。どこからともなく聞こえてくるのはししおどしの音だ。

 

「ま、確かに早いに越したことはねーんだが、要、身体の調子は大丈夫か?」

 

 ゆっくり寝て、起きてヤって、メンテした後にしたかったんだがな。呟くように言うと要がぽっと頬を赤らめてもじもじとスカートをもてあそぶ。それから要は嫌ですわ、もう。と恥ずかしがって透を肘で小突こうとした。透はそれを見越して片手で要の肘打ちを止めた。前に不用意に食らって吹っ飛ばされたことがあるのだ。

 

「あら。残念。避けましたわね」

 

 ぼそりと呟いて要が肘を引く。

 

「おまえの肘打ちの威力は馬鹿になんねーからな」

 

 そう言って透が笑うと要があら、と首を傾げる。

 

「肘打ちではありませんわ。これはじゃれているだけですのに」

 

 残念そうな顔で言って要が今度は左のこぶしを素早く透の脇腹めがけて繰り出す。透は慌てて片手で拳を止め、続いて飛んできた右の肘もしっかり受け止めた。ここのところの修行の成果がちゃんと出ている。この間までは二撃目はなかなか止められなかったのだ。

 

 要の言う、じゃれ合いをしているうちに、部屋の隅の襖が開く。ほっほっほ、と笑いながら現れたのは小柄な老人だった。水玉模様のパジャマに、揃いの柄のとんがり帽子をつけている。老人のために襖を開閉した女性が一人、部屋の隅に座して控えている。

 

「じーさん、至急の用だっつーなら、なんで俺宛てに電話しなかった?」

 

 この老人が泰蔵に間違いないだろう。透は真面目な顔で泰蔵に問いかけた。パジャマには似合わない日本刀を一振り握り、泰蔵が二人の前に正座する。

 

「ワシはこう見えても初心でのぅ……。いやいや、急に呼びつけてすまんかった」

 

 日本刀を自分の前に据えてから泰蔵は頭を下げてみせた。それからぱっと顔を上げてまじまじと透を見る。遠慮のない視線に舐めるように見つめられて透は居心地の悪さに身じろぎした。

 

「俺を捕らえたあいつらなかなかの腕だったからな。もし排除しようとしてたら、龍神としての力を振るうしか無かった。それも手加減なしで殺す気でやるしかな」

「いかんのう。女の子には優しくせねば。じぇんとるめんは女の子には手をあげてはならんもんじゃ」

 

 腕組みをして泰蔵が何度も一人で頷く。透は隣で呆れた顔をしている要をちらりと見てから正座し直した。

 

「だから、手はあげてねーだろ?」

 

 にやりと笑う透を見て、泰蔵がふむふむと頷く。

 

「おまえさん、人を殺せまい?」

 

 唐突に言われて透は眉を寄せて黙した。泰蔵はちらりと要を見てから透に目を戻した。何事かを言いかけていた要も口を噤む。

 

「人には役目があるからの。殺せんことを別に責めとる訳じゃあない。おまえさんには向かんだろう、というだけの話での」

 

 泰蔵の声はごく普通に語られているだけなのにやけに通る。かこーん、という長閑な鹿威しの音が時折、部屋の中に響く。

 

「向かなかろうがなんだろうが、時と場合によってはやんなきゃなんねーだろ? さっきはそういう状況じゃねーって判断できるだけの余裕があったから良いが」

 

 女たちが大量に降ってきた時のことを思い出して透は告げた。すると泰蔵がほっほっほ、と笑う。こうしていると泰蔵はどこにでも居そうな老人に見えるのに、やけに近付き難い雰囲気を持っている。




如月泰蔵は吉良瀬立城と同級生だった、という設定があります。
『魂の座』に出てきた……気がします。多分!
かなりの強者なのですが、女好きでどーしよーもないという!
さすがは要の血縁!
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