あれ!? 間接的にはあるかも!?
BL警報だしときます!
屋敷の真上に浮かんで明音は眼下の黒い屋根を見下ろした。ご丁寧に張り巡らされた結界はこの間よりずっと強固で繊細に作られている。そのすぐ上に立って明音は深く息を吸った。
白い髪が風にたなびく。明音はいっぱいに息を吸ってから大声で喚いた。
「ちょっと、入れてよ! アンタの汁、なんとかしてよ! 冗談じゃないよ、全く! オレは早くだーりんのトコに戻らなきゃなんないんだからさあ!」
明音は屋根に向かって喚いてから息を吐いた。今はまだ白龍の器を被っているから我慢も出来る。だが体内に残っている立城の精液のおかげでずっと身体が焦れたままなのだ。
『僕のが入ってようと入ってまいと関係無いと思うんですけど』
嫌がらせなのか、耳のすぐ傍に囁きが届く。明音はぞくりとしたものを感じて慌てて飛び退いた。肩で息をしながら舌打ちをし、明音は手の中に紅の宝珠を現した。腕を振ると紅宝珠が刀に転じる。
「入れてくんなきゃ暴れるよっ!?」
理由なんてなんでもいいっしょ、と喚いて明音は鞘から刀を抜いた。
『ちょっと、今は無理です。取り込み中なので』
真面目で、申し訳なさそうな声が耳許に届く。明音はため息を吐いて刀を鞘に戻した。あ、そー。と呟いてから刀を宝珠の形に戻す。手に握っていた宝珠を弾くと一瞬でその場から宝珠が消えて器の内側に戻る。
「そんじゃ、ここでバイバイねー。まあ? オレとはヤるだけの関係だっけか? そんなもん、切れようがどーしようがアンタにゃちっとも関係ないよねー」
乾いた声で笑ってから明音はスカートのポケットに手を突っ込んだ。よれた煙草の箱を引っ張り出して唇に一本挟む。指先に灯した炎で煙草に火を点けてから明音は深く息を吸った。
『かばっていただいたことはわかってます。本当にご迷惑おかけしました……。あと三分、待ってください』
おねがいします。嫌にしおらしく聞こえた声にため息を吐いて、明音は空を見上げた。秋晴れの空の端に薄い紅の光が見える。だが見えていた光はすぐに消え、また別のところに光が生まれる。一つ一つを断罪して回る暇もないほどに、断罪の証は点いては消え、また点いては消えを繰り返す。
「三分、ね。なに。あのコのコト、そんなに大事?」
宙に腰掛けて明音はのんびりと煙草を吸った。正直なところ、明音は立城を庇ったつもりはなかった。反射的に身体が動いていただけだ。それにあの光を例え食らったところで立城が傷ついたかどうかは判らない。そんなことをつらつらと考えながら、明音は空に生まれては消える紅の光を目で追った。
『ええ。でも茜ちゃん、あなたも愛してますよ』
真剣な声で耳許に囁かれ、明音はため息を吐いた。嘘吐け、と苦笑して耳を押さえる。立城の声が届いただけなのに、じん、と何かが染み込んで下腹部が疼く。
「オレはね。別にアンタをアイしてなんてないワケ。ヤるだけの関係、おっけーじゃん。アンタが吐いたセリフ、オレに聞こえなかったとでも思ってんの?」
からかうように笑ってから明音は宙に立ち上がった。唇から煙草を引き剥がして、火の点いた先端で空に見えた紅の光を指す。すると煙草の先端から炎が一瞬で光の下に奔った。
『ほら、僕はずるい大人ですから』
笑い混じりの声に呆れた顔をして明音は耳にあてがっていた手を離した。煙草の先で空に線を引くと、それに沿って炎が宙を疾走する。次々に紅の光の下を焼き払ってから明音は苦笑した。どうやら少しではあるが力は戻ったらしい。
「生憎と、信じる気にはなんないなあ。ほら、集中しないとイきそこねてんじゃん、そのコ」
あはは、と笑ってから明音は唇に煙草を戻した。まだ空の端では紅の光が点滅している。
『大丈夫です。これで』
ふと、嗤う気配が漂ってくる。その直後、肌がびりびりと震えるような感覚が伝わってくる。鋭く舌打ちをして明音は屋敷を見下ろした。一気に絶頂に上り詰めた葵は失神してしまったらしい。
「……ヤな大人だねえ、ホントに」
そう呟いてから明音は頭をかいた。
『それでは、どうぞ』
嬉しそうな気配を帯びた声に促されて明音は結界に生じた隙間を超えて転移した。ぶれた視界が一瞬で元に戻る。目を上げるとそこには失神した葵と立城が居た。やれやれ、とため息を吐いて明音は立城をまじまじと観察した。
「茜ちゃん……。無事でなによりです」
ベッドから降りながら立城がにっこりと笑う。そだね、と呟いて明音は周囲を見回した。いつの間にか屋敷は元通りの形に戻っている。あれだけ壊れていた部屋の中身も綺麗に直っている。それに立城の力もずっと増したようだ。
「悪いけどさ。部屋移んない?」
ぶっきらぼうに言ってから明音はさっさと書斎を後にした。困ったような笑いを浮かべて立城がついてくる。明音は特に深く考えずにさっきいた部屋の隣の部屋のドアを開いた。どうせここには立城と葵しかいない。多輝の使い魔も捕らえられてはいるらしいが、少し離れた場所に放置されているだけだ。
明音は部屋に入って顔をしかめた。やけに柔らかな印象のある部屋だ。内装は落ち着いてはいるが、さっきの部屋のように沈んだ色はしていない。白を基調に整えられている。大きな窓からは外の様子がよく見える。まあいいか、と内心で呟いて明音はさっさと部屋の奥に入った。
「そんで? アンタ、何時の間に王に戻ったのさ」
部屋の奥に進んでから明音は振り返った。後ろから歩いてきた立城が困ったように笑って首を傾げてみせる。
「戻ろうとして戻ったわけではありません」
苦い笑みを浮かべて立城が言う。ふうん、と呟いて明音は手近な机に腰掛けた。よれた煙草を指につまんで煙を吐き出す。
「で? あのコどーすんの。確かに討つのはヤバそうだったけど……」
そう言いながら明音はちらりと隣の部屋がある方を見た。ベッドで失神していた葵の気配は前よりずっと濃くなっている。
「あなたには、あの子は何に見えますか?」
「魔」
一言で言ってから明音は肩を竦めた。この間まではそれでも葵の中に僅かに水輝の気配を感じることが出来た。だが今はその気配はもう見えない。もちろん、力は十全に戻ってはいないから、推測だけど。そう付け足してから明音はため息を吐いた。
ちなみに順=茜です。
そんでもって今の順は別の龍神の皮を被った状態です。