「ハンターは龍神でしたか?」
そう言って立城が嗤いを浮かべてみせる。
「NO……というしかないね。ま、ハンターだか龍神だか判んない、生きた例がココにいるしね」
明音は机から飛び降りて部屋の壁際にあったクロゼットを開けた。中から適当に服を引っ張り出して立城に放る。立城は困ったような顔をして首を傾げてみせた。
「裸のまんまじゃ落ち着かないっしょ。着たら?」
仏頂面で言って明音は顎をしゃくった。
「それで、汁がどうされたんですか」
明音が投げた服を身に着けつつ、立城が言う。それを聞いた明音はぎくりと身体を竦めた。素知らぬ顔をして明音は再び机に腰掛けた。
「べっつにー。あんなの、ココに入るためのこーじつだよ」
手を広げて笑ってから明音は短くなった煙草を握りつぶした。手の中で消し炭になった煙草を消して、手を払う。
「そういえば、紅茶を飲まれますか? ダージリンが欲しいとか仰ってませんでしたか?」
手早く服を身に着けた立城がにっこりと笑って言う。明音は何気なく頷いた。
「あ、うん。ダージリンは好きだけど……あれ? オレ、そんなこと言ったっけか」
思案顔で明音は呟いた。立城が静かに机に歩み寄り、手の中にティポットとカップを引き寄せる。
「あれ、仰ってませんでしたっけ? ダージリン、ダージリン、ダージリン」
口の中で呟きながら立城が茶を注ぎ分ける。明音はしばし考えてから、あ、と小さな声を上げた。
「あー、ダーリンねー。ダージリンじゃなくて、だーりんっしょ? そ、そうだよ。オレ、和也のトコに……」
そう。和也のところに戻るために男性に戻らなければならないのだ。自分の考えに明音は何度か頷いた。そう、そのためにここに来たはずだ。思い返しながら明音はこめかみを強く押さえた。
「重森さんはお元気ですか?」
「あ、ああ。うん。元気……だと思う」
差し出されたカップを受け取りながら明音は言葉を濁した。優一郎のところに送ってもらってから、和也には会っていない。そのことを思い出しながら明音はため息を吐いた。妙に下腹部が疼く。それを押し殺して明音は紅茶をすすった。
「あ。美味い……」
何度か瞬きをして明音はカップを見下ろした。立城は机に寄りかかって紅茶をすすっている。
「あれだけ誓ったのに。すっかり忘れてません?」
哀しげに呟く立城の横顔に明音は思わず見とれてしまった。そのことに気付いて慌てて目を逸らす。
「えーと、なんだっけ?」
空とぼけて明音は空笑いをした。すると立城が拗ねたような顔で横目に明音を見る。明音はええと、と頬を指先でかいてから諦めのため息を吐いた。
「わーかったよっ! 女言葉ね、喋ればいいんしょっ」
やけくそ気味に言ってから明音は渋い顔で紅茶をすすった。
「あの、乱暴な言葉使いをすればするほど、男性を再び纏える日が遠くなりますから」
もう十年分くらいは言ったかなあ。指折り数えながら吐き出された立城の言葉を耳にして、明音は思わず紅茶を吹き出した。慌てて詫びて口許を手の甲で拭う。
「じゅ、十年!? 冗談だよね!?」
思わず叫んでから明音は慌てて口を手で覆った。
「あとで優一郎くんに確認してみてください」
「ちょっと、マジでやめてよ! 戻れないと困るんだってば!」
もしかしたら和也はこうなることを知っていたのだろうか。やけに優しかった和也のことを思い出して明音は蒼白になった。
「いや、十年は言い過ぎたかもしれません。九年八ヶ月くらいかな?」
首を傾げながら呑気に立城が言う。明音は真っ青になって首を横に振った。
「大してかわんないから、それ! ああ、もう、何してるんだろ、オレ」
困惑しながら呟いて明音は机から飛び降りた。残っていた紅茶を飲み干してカップをテーブルにのせる。考えながら部屋をうろつく明音を立城はのんびりと眺めている。
「そもそもね。アンタ……っと。ええと」
眉を寄せて明音は諦めの息を吐いて言い直した。
「ええとね。たっくんに処女提供しようと思ってきたワケ。まあ、もう要らないかも知れないけど」
そう言って明音は肩をすくめてみせた。この器の持ち主は正真正銘の処女だった。男を知らないだけではない。自慰もしたことのない、性的快楽からは完全に隔絶された生活を送っていたのだ。
「ありがとうございます」
にっこりと笑ってから、立城が気遣うような表情を浮かべる。
「あの……先ほどのオレで十年、突破したと思います……」
「わーかったよ! あたしね、あたし! ああ、もう、ついでだから白状するけど、あたしはたっくんのこと、けっこうかなり、むしろ凄く心配なの! っていうか、有り体に言うと好きだから抱かれたいの!」
一気にまくし立てて明音はぜいぜいと肩で息を吐いた。くそう、と内心で呟いてからうなだれる。
「僕も愛してますよ」
そう言って立城がするりと明音に近付き、耳朶を優しく甘噛みする。それだけで明音の身体から力が抜けた。うわ、と小声で言って床に崩れかけた明音を片腕に抱き、立城が耳許で囁く。
「茜ちゃん」
「くっ、ん」
明音は身を震わせて吐息をついた。下腹部に焦れったいものが溜まる。
「ずるー……。ヤるだけの関係のくせに」
呟くように悪態を吐きつつも明音は立城に寄りかかった。
「愛があるからいいじゃないですか?」
にっこりと笑って立城が言う。明音は呆れた顔をしてため息を吐いた。どうせ最初から捕まっているのはこっちなのだ。そんなことを思いながら明音は立城の首筋に腕を回して自分から口づけした。
8月は何日までだっけ、と思いながら更新用の原稿をぶっこみました。
和也、ダージリン扱いw