二人が疲れ果てて眠ったのを確認してから立城は静かにベッドを降りた。よほど満足したのか、眠る二人の顔は安らかで満たされている。静かに二人の身体に毛布を掛けてから立城は足音を殺して部屋を出た。
明け方近くの屋敷の中は驚くほど静かだ。何人もの使用人がいる筈なのに人の気配がやけに遠く感じられる。仄かな灯りに照らされた廊下を静かに進みながら立城は周囲を見回した。先日、葵がめちゃくちゃに壊してしまった屋敷の中は、今は何事もなかったかのように元通りの形に戻っている。
屋敷を含むこの辺りの地域は全てまやかしの筈だった。幼い頃をこの屋敷で過ごした佑も、そしてその佑を育てた立城も全てが現実ではなかった筈なのだ。だが、奈月のあのひと言がまやかしをまやかしでなくしてしまった。
水輝は佑を鏡に映された光だと表現した。そして立城を光に照らされた影と呼んだ。だがもう、佑も立城も実際に存在してしまっている。状況は水輝が思うよりもずっと先に進んでいるのだ。
その水輝は今はどこにいるのか判らない。ついこの間まではしっかりと感じ取れた水輝の気配は、地上の王の座に就いた立城にも感じ取れないほど周到に隠されているのだ。立城はそのことを考えながらふと足を止めた。自然と口許に笑みが浮かぶ。
今頃、水輝はどこで何をしているのだろうか。立城は水輝が吉良瀬の屋敷を出た時のことまでを思い出してみた。あれだけ執心していた佑と奈月に、急に冷ややかな言葉を浴びせた理由は何だろうか。しかも佑の胎には水輝との子供まで宿った後なのだ。これまでの水輝なら余計に佑から離れられなくなったのではないだろうか。
考えを巡らせながら立城はまた歩き出した。二人が眠る部屋から少し離れた部屋のドアを開ける。まだ日の射さない部屋の中は暗く、廊下の灯りに慣れていた目では殆ど何も見えない。目が慣れるのを待って、立城は静かに部屋の奥に進んだ。
広々とした部屋にはぽつんと一台のベッドが置かれている。その上に横たわっているのは一人の使い魔だ。多輝の使い魔である蒼は目を閉じて眠るでもなく、仰向けに転がってぼんやりと天井を見つめている。いや、もしかしたら蒼の目には何も映っていないのかも知れない。惚けたようなその顔をしばし見下ろしてから立城は苦笑した。この状態では蒼は何をすることも出来ないだろう。だが、蒼は元々は水輝が作った使い魔だ。それを利用すれば水輝の足跡は辿ることは可能だろう。
そこまで考えて立城はふと笑みを引っ込めた。しばし考えを巡らせてから、立城はくすくすと笑って軽く首を横に振った。きっと水輝は何か思うところがあって行動はしているのだろうが、そんなに簡単に謎が解けてしまってはつまらない。
あの人は意外とあっけなかったしね。そう胸中で呟いて立城は少しだけ目を細めた。慣れた目には暗い部屋の様子がはっきりと映っている。張り替えたばかりの白いシーツが闇に浮かび上がって見えるのは、日差しがなくてもここが真の闇ではないからだ。浅く頼りない呼吸をしている蒼の胸の微かな動きすら見て取れる。
正直なところ、立城はあんなに簡単に茜が手の内に落ちるとは思っていなかった。まるで狙い澄ましたように茜の膣には白琅渉の柔軟な栓が施され、そのために立城の力は茜の体内に留まったままになった。おかげで茜の記憶を操ることは造作もなかった。だが恐らく、そのことがなくても茜はいつかは落ちていたのだろう。何しろ先に言い寄ってきたのは茜の方だ。もしかしたら最初は何か意図があったのかも知れないが、記憶を封じられればそれも無意味だ。
何故だろう、と何度か考えてはみた。だが考えの末にたどり着いたどんな答えもしっくりこず、結局立城は茜に関しては深く考えるのを止めた。ただ、あっさりと茜が手の内に入ったことを少し残念に思った。もう少し楽しめると思っていたのに。そんなことを呟いてから立城は自分の考えに苦笑した。
人々から忘れ去られた、何もない場所にいつの間にか町が現れる。今はまだ魔の騒ぎで人々はこの辺りのことに気付いていない。だが、この地に暮らす人々もまたまやかしではなくなってしまった。彼らはやがてこの地を出ることもあるだろう。その時にきっと愕然とするに違いない。何故ならここは、ずっと時の止まった地だったからだ。
まやかしがまやかしでなくなったことは、もしかしたら何かの符号なのだろうか。ぼんやりと考えを巡らせながら立城は蒼の居る部屋を出た。静かに自分の寝室に入ってベッドに向かう。ガウンを取ってベッドに入ろうとしたところで、立城は困った顔で笑って視線を下げた。きっとまだ自分は生まれたてということなのだろう。異様なほどに旺盛になった性欲のせいで股間ではペニスがしっかりと屹立している。立城は逡巡してから裸のままでベッドに上がった。毛布と布団を畳んで足許に退け、その場に眠る茜を呼び寄せる。立城の力でベッドの上に引き寄せられた茜は、転移したことにも気付かず眠り続けている。
茜に呼びかけようとして、立城は口を開いたところで動きを止めた。声を立てずに唇をそっと閉じて茜を見下ろす。暗い部屋の中だと茜の纏う仄かな紅の光がはっきりと見て取れる。その光はかつて火龍神が纏っていた色よりずっと鮮烈で、なのにどことなく冷ややかに思える。灼熱の炎を表す色の筈なのに、と思いながら立城は薄い笑みを浮かべた。
茜は無防備に裸で眠り続けている。穏やかな寝息に合わせて上下する胸には柔らかな二つの膨らみがある。先端の乳首が少し隆起しているのは、きっとさっきまで激しく交わっていた余韻が残っているからだろう。茜の意識は眠っていても身体はまだ眠りに落ちていない証だ。立城は自然と茜の身体の上から下まで舐めるように視線を這わせた。乳房から腰のくびれに目をやり、次いで下腹部を眺めてみる。立城はしばし茜の腹部をじっと見つめてから、股間の淡い翳りに目をやり、白く手触りのいい腿からふくらはぎを見つめた。つま先までを眺めてからまた目を茜の腹部に戻す。
地の文が長々しいので読みづらいかも?
立城のモノローグが続きます。