エピタイ通りなので若干はエロぽい?
あ、でも欠片ですかね、ここは。
声を殺してしゃくり上げる鈴に同情の目を向けてから透はえへん、と咳払いをした。挨拶をするようにと促されて透は目の前に並ぶ吉良瀬の重鎮たちに頭をさげた。彼らは相当に慣れているのか、それともまったく興味がないのか、股間をむき出しにして仰向けに横たわっている鈴には目もくれていない。ちなみにこの鈴という少女は優一郎が連絡用に、と寄越したヒューマノイドだ。吉良瀬の首脳陣とのこの会見の様子は離れたところにいる優一郎にも届いている、という寸法だ。
如月本家に連れられた後、今日までずっと慌ただしい日々が続いている。そして明日からも透のスケジュールはいっぱいに詰まっているのだ。
しかし何故、こうも偉そうな奴らは会見や会議、食事会が好きなのだろうか。うんざりしつつ透は型どおりに首脳陣に挨拶をした。透の前にずらり並ぶ老人たちの中には、時折ネットニュースなどで見かける顔もある。確か左端に座っているのは薬学の権威、真ん中付近にいるのは高名な数学博士、右端近くにいるのは電子工学系では有名な発明家ではないだろうか。
「うむ。では挨拶も済んだ事じゃ。式の段取りについて説明しようかのう」
透の傍に腰掛けていた要の祖父、泰蔵がおもむろに言う。すると部屋の隅に控えていた女性の二人が各人にパンフレットを配り始めた。透の手元にも一冊、美しいカラー刷りの冊子が手渡される。
前時代的……。透は今時、紙を贅沢に使ったパンフレットを手にして心の中でそう呟いた。こんなもの、端末がそれぞれにあれば必要は無いはずなのだ。よくもまあ、この時代にわざわざ少数を印刷してくれる会社があるものだ。そんなことを思いながら透は冊子をめくった。
吉良瀬財閥の所有する、とあるオフィスビルの最上階に透たちはいた。順のところに居たせいで、この手の環境に随分と慣れていたつもりだったが透は無意識に緊張していた。もしかしたらあれで順はけっこう砕けた環境で働いていたのかも知れない。広々とした部屋は隙がないくらいに調えられ、掃除も恐ろしいほどに行き届いている。秘書の女性の二人はどちらも堅いイメージのあるスーツに身を固めていて、会見の邪魔にならないようひっそりと部屋の隅に控えている。カーブを描く型のテーブル、座り心地のやけに良い椅子、そしてテーブルとテーブルの間で仰向けに横たわってしゃくり上げている鈴。どれもこれもが透からすると日常からかけ離れた光景だった。
あれよあれよという間に透と要の結婚式の日取りは決まっていた。今日の会見に要が呼ばれなかったのは、式場近くのウェディングドレス売り場でドレスを仕立てている為だ。何しろ結婚式といえば女性には何かと支度が必要になる。しかもおまけに式までもう日があまりない。そのためにこうして透だけが会見に呼び出されたというわけだ。
「やはりここは一つ、お色直しは三度ということで」
式の説明をしていた泰蔵の声を遮り、とある老人が指を三本立てて言う。うんざりしながらパンフレットを適当にめくっていた透は唖然として目を上げた。するとそこで今度は別の老人がいやいや、と首を横に振る。
「待て待て。我らが要ちゃんの結婚式ぞ。三度では足るまい」
唸りながら老人が首を横に振れば、今度は別の老人が言う。
「外向けの式じゃからのぅ。ゴンドラは金飾りにして、ドライアイスを炊いて」
「ゴンドラ? あの天井から降りてくるチンケな平船か? どうせなら豪華客船の形にしてはどうかな? この間、儂が乗った船はえかったぞぉ?」
十階建てでのぅ、と嬉しそうに説明する老人がいれば、元気よく挙手をして今度は別の老人が言う。
「要ちゃんが生まれてからのあるばむをスライド放映するのはどうかの!?」
「おお、それは名案だ!」
「いや待て。要ちゃんヒストリーについては儂に考えが」
一度、話を始めた老人たちはああでもないこうでもないと意見を交わしている。そんな彼らを唖然として見つめていた透は頭痛を覚えて額を押さえた。つまるところ彼らは、揃って要をいかにして豪華に見せ、しかも可愛く、その上に美人に見せるかという点のみに興味があるようだ。
こうしている間にも世界を魔が覆おうとしているのに、この老人たちは何故こんなに呑気な会話をしているのだろう。おまけに泰蔵までその話に混ざって目を輝かせている始末だ。確かに愛孫が結婚するのだから一大事なのは判るが、彼らは一応は吉良瀬財閥の首脳陣なのではないか。そんなことを考えながら何気なくパンフレットに目を落とした透は緊張した面持ちで書かれた字を読んだ。
そこには既に招待客の名が刻まれていた。その中には順の名前も連なっている。だが今現在、順の行方はようとして知れず、木村財閥は混乱に陥っているという。元々、木村財閥は一風変わった作りをしており、順が下につく者を強引に力で支配していたのだ。そのために順が欠けてしまうとまともに機能しなくなるという欠点がある。今は順の第一秘書が懸命に働いて何とか状態を維持しているようだが、それが崩れるのも時間の問題だろう。何しろ世界規模で大惨事が起こりつつあるのだ。
行方不明と言えば、水輝もどうやら姿を消してしまっているらしい。桜から入ったメールによると、吉良瀬の屋敷にいる奈月と佑の様子もおかしいらしい。桜は付きっきりで二人の看病をしている最中のようだ。様子を見に行ってやりたいのはやまやまだが、透の方もスケジュールが押していて簡単に訪ねることもできない有様だ。少しでも時間が空けば要のメンテナンスや式の準備に手を取られてしまう。
「で、優一郎。この前言ってた仁科姉妹っていうのは使い物になるのか?」
透はテーブルから身を乗り出し、鈴の股間に向かって小声で訊ねた。鈴だけではなく、ヒューマノイドには大抵、通信機がつけられている。そのスイッチやマイク、スピーカーは股間に設えられているのだ。ちなみに今日は透の片方の耳にはイヤホンがはめ込まれていて、鈴のスピーカーを通さずに優一郎の声を直接拾うことが出来るようになっている。
ヒューマノイドの股間にマスクとスピーカーを設置すれば、通信機!★