※この作品はR-18です。

まやかしの終わり 二部 光の公女   作:伊駒辰葉

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新キャラ登場……というか、分離?
エロシーンはありません。


葵と立城

 立城はベッドに横たわる青年をじっと見つめた。青年を運んだ桜は気を遣っているのか席を外している。

 

 薄い青い髪をしたこの青年の造作は水輝にとてもよく似ている。いや、はっきりと同じ造作をしている。だが纏う色は水輝のものより薄い。今は瞼を下ろしていて見えないが、恐らく瞳の色も違うだろう。

 

 ベッドの傍に腰を下ろした立城はずっと厳しい表情をしていた。この青年には水輝とは別の名がついている。葵というのが青年の名だ。

 

 どうすべきか……。胸中で呟いて立城は傍のテーブルに肘杖をついた。額を指で押さえてため息を吐く。この葵が水輝から分たれた者だということは立城も気付いていた。水輝から無理やりに葵を分けたのは他でもない佑だ。

 

 佑は順を抑えるために送り込んだつもりだった。だが実際の順は奈月の傍にはついておらず、だからこそ佑はフリーの状態だった。しかも水輝はまずいタイミングで属性が入れ替わってしまったらしい。それを紫翠の残り香と勘違いした佑が力を放ったのだ。

 

 桜の力を借りてあの場の記憶は読んだ。既にその報告も受けている。立城は難しい顔をしてため息を吐いた。水輝は今、吉良瀬の屋敷にいるようだ。

 

 水輝を取り戻すか? いや、あそこには順と、そして彼が居る。考えを巡らせながら立城は苛々と指先で額を軽く叩いた。順は奈月のことは全力では護らなかったが、水輝に対しては違うだろう。あれは元々、青の龍神である水輝とは対偶の位置に居る者だ。水輝に何らかが起きるとなれば飛んで来るだろう。しかも順の傍にはあの正体の今一つ読めない和也がいる。

 

 それに、力を減らしていると言っても佑は侮れない。そう考えてから立城は嗤いを浮かべた。佑のことはとても大切に育ててきたつもりだ。茶道や華道、日本舞踊といった習い事だけではなく、佑には武術も教えた。立城はあらゆる作法を佑に出来る限り教え込んだ。

 

 大切に、大切に育てたのだ。そう、決して外に出ることのないものだったからこそ、十分以上の手をかけて育てた。

 

 だがあの奈月の言葉で佑はまやかしではなく、実体として現実に現れた。そして佑はまやかしの中で立城に教え込まれた通り、水輝を好いた。

 

「娘なんて、持つものじゃないね」

 

 苦笑して立城は頭を起こした。背もたれに寄りかかってじっと葵を見つめる。佑にとっての水輝は、自分を好いている水輝だったのだ。それ故に葵は水輝からはじき出されてしまった。

 

 だが水輝の属性を分けて事が解決するなら、最初から分けている。立城は腕組みをしてため息を吐いた。

 

 問題は……。そう呟いて立城は葵を見た。葵は着実に目覚めに向かっている。少しずつ眠りの奥深くに落ちていた意識が現実に昇りつつある。このまま少し待てば葵は目を覚ますだろう。

 

 光と闇。この属性を併せ持つ者は数多の龍神の中でも水輝と順くらいだろう。彼らは光と闇の境界を行ったり来たりしているのだ。それ故に精神が酷く不安定になっているように見える。だが実際はそれでバランスがとれているのだ。

 

 結局、搦め手で行くしかないか。そう胸の内で呟いて立城は深く息を吸った。

 

「桜」

 

 静かに呼ぶと背後に気配が現れる。立城は立ち上がって振り返った。

 

「はい、お呼びでしょうか?」

 

 恭しく礼をした桜が静かな声で言う。

 

「佑のもとに、潜入してもらえるかな?」

 

 笑みを浮かべて立城が言うと、桜が顔を上げて頷く。

 

「理由はいかが致しましょう? それとも彼女の目に留まらぬ方法でですか?」

 

 桜の面立ちはこれまでと変わっていない。だが顔つきだけが変化している。今の桜からは感情が感じられない。かつて使い魔として立城に仕えていた頃と同じ、静謐な桜色の双眸があるだけだ。

 

「格好の理由が存在するでしょう? あの娘は甘いから。気付かないよ」

 

 嗤いを浮かべて立城は首を傾げてみせた。桜が畏まりましたと恭しく一礼する。

 

「わたくしは潜入するだけで宜しいのですか?」

 

 そう言いながら身を起こした桜を見つめ、立城は微笑みを浮かべてみせた。

 

「とりあえずはね。あっ、言うまでも無いと思うけど、報告は欠かさないでほしいな」

 

 そう立城が告げると桜が判りました、と返事してから失礼します、と断りを入れる。桜は無造作に自分の胸に手を突き入れ、器から一つの宝珠を取り出した。紫色をした宝珠を静かに立城に差し出す。立城は片手に桜の宝珠を受け取った。

 

「報告は宝珠を通じて行わせていただきます。それで宜しいでしょうか?」

 

 呼吸一つ乱さずに桜が言う。立城は手にした宝珠を静かに見下ろした。

 

「まるで、僕の心を読んだかのようだね」

 

 地上の王。にっこりと笑って続けると桜がぴくりと眉を寄せる。だがすぐに桜は穏やかな表情に戻った。

 

「出来ましたら例の件、どうかご検討ください。わたくしにこの座はやはり重過ぎます」

 

 少し寂しそうな顔をして桜が言う。だがその表情の動きもほんの僅かだ。

 

「君も僕を買い被るんだね。座格の変化なんて、そう簡単にできるものではないよ」

 

 先の主龍神が正式に認めたものだからね。覆すには次代の主龍神にお願いしないと無理だよ。そう告げると桜が左様ですかと小声で言う。

 

「それでは失礼致します」

 

 一礼した桜の姿がその場からかき消える。立城は描かれた桜色の光の軌跡を見取ってからゆっくりと振り返った。

 

 ぴくりと葵の瞼が震える。立城は静かにベッドに寄った。軽く眉を寄せた葵が静かに目を開く。

 

「おはよう。僕のことがわかるかい?」

 

 嗤いを浮かべて立城は訊ねた。すると葵がゆっくりと立城を見やる。葵の目は薄紫色をしていた。ぼんやりと立城を見た葵が何度か瞬きをする。

 

「立城」

 

 掠れた声で言って葵が腕を上げて額を押さえる。

 

「まだ、無理をしてはだめだよ」

 

 にっこりと笑って言う立城に葵が手を伸ばす。立城の腕を力なくつかんだ葵が物言いたげな目をする。乾ききった唇がすまないと言うのを立城は静かに見つめた。




分裂とかってアメーバかなにかみたいですよねー(棒読み)
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