引き出物を渡しに出向いた立城を和也は恭しく迎え入れた。だが立城は引き出物だけを渡し、吉良瀬の屋敷には入らないままでその場を後にした。物言いたげな和也ににこやかに挨拶をして、立城は自分の屋敷に転移した。
随分と楽しい結婚式だった。そのことを思い出しながら立城は挨拶する使用人たちに笑顔で応えて自分の部屋に入った。軽く力をかけると佑を模していた姿が解け、元の立城の姿に戻る。
最初は代わりに結婚式に出るつもりはなかった。だがあの佑の姿を見て少し気が変わった。もう、佑は椅子に腰掛けることすら出来ない状態になっている。なのに腹部の膨らみだけは大きくなっていて、痩せ細った佑の身体は膨れた腹に圧迫されて砕けてしまうのではないか、という見目になっている。奈月の方もやはり具合は思わしくなく、桜は以前見た時とは裏腹に随分と落ち込んだ様子だった。もう噛みつく元気もないというのが正直なところなのだろう。
もうじきあの二人は限界に達するだろう。それももう間近だ。立城は微かに笑ってソファに身を投げ出した。クッションの効いたソファがやんわりと立城の身体を受け止める。
「思ったよりも早かったというべきか」
当初の予定よりは遅れてしまったけれど。そう呟いて立城は天井を仰ぎながらシャツの一番上のボタンを外した。姿を変えた時に同時に着替えはしたのだが、いつもの癖でボタンをぴったりと全部かけてしまったのだ。
水輝の子供は佑の腹で着々と育っている。あれはきっと随分と凄惨な生まれ方をするのではないだろうか。佑の腹を裂いて出るくらいのことはやりそうだ。それを思って立城は口許に手をあてがった。恐らく水輝もその程度のことは先に察知していただろう。なのに佑を放置しているということは、本当に佑のことはどうでも良くなってしまっていると見てもいい。奈月に関しても同様で、あのままでいれば奈月は本当にただの人形飾りになってしまう。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。か」
そう呟いて立城はくすりと笑った。あれだけ執着していた筈なのに、いとも簡単に捨ててしまうなど水輝らしいとしか言いようがない。その上、今は見事に行方をくらましている。だが対である茜のあの反応を見れば、水輝が立城を求めていることははっきりとしている。
その茜は今は葵と共に出かけている。どうやら漸く葵も力加減を覚えてきたらしく、次々に魔を殺傷しているようだ。葵に歌を覚えさせるのは難しいようだが、茜と組ませれば問題はない。しかも茜の膣内には常時張り型が仕込まれているために、どんなに離れていても様子は立城には手に取るように判るのだ。
だが恐らく、あの二人がどんなに上手く魔を減らしても間に合わないだろう。それが立城の出した結論だ。主龍神が消え、龍神が激減した今、魔は爆発的に増えるだろう。それを狩る手段や人材もなくはないが、絶対数が足りないのだ。
「根気良く変化を待つしかないよね」
やり方次第では葵と同じように魔を食らう魔が出来る筈だ。少しずつでも影響を与え続ければ種族の属性そのものが変化する可能性もある。
深々とため息を吐いて立城は目を閉じた。やがて結界を通って二人が屋敷に戻ってくる。嬉々として立城に抱きついたのは葵だ。茜はぼんやりとそんな葵の後ろに佇んでいる。
「立城! 今日は大丈夫だよな!?」
日に日に葵の言葉は増え、今は日常会話程度なら言葉の意味を問い返されることもなくなった。にこにこと嬉しそうに笑いながら葵はしっかりと立城に抱きついている。
「そうだね。最近頑張ってるから」
にこやかな笑みを浮かべて答えると葵がやった、と歓声を上げて飛び跳ねる。抱きつかれているために、立城も一緒にその場を飛び跳ねる羽目になった。
体中で喜ぶ葵を苦笑して引き剥がし、立城は茜を見た。だが茜は手にしていた刀を納め、黙って部屋を出るところだった。呼び止めるとぼんやりとした顔つきで茜が振り返る。
「なに?」
日々、言葉が増えて会話が楽になってきた葵とは対照的に、茜は日に日に口数が減っている。抱けばもちろん嬌声はひっきりなしに上げているのだが、それ以外の時は呼びかけに返答する程度で自分からは話そうとしなくなってしまった。
「君もつきあってね」
立城が笑みを浮かべたまま告げると茜がドアノブを握っていた手を下ろす。
「なんで?」
そう答えた茜の顔にはやはり感情らしいものはない。だが今日も茜が幾度も軽い絶頂感を味わっていることを立城は知っていた。軽く力をかけて膣にこめた張り型を動かしてやると、茜は小さな声を漏らしてその場にあっけなくへたり込んでしまった。茜の穿いていたジーンズの股間から腿の部分にじんわりと染みが広がっていく。
「えー。何で茜も一緒なんだ?」
こちらは不満いっぱいの顔で葵が言う。どうやら葵は待ちに待った立城との性交を茜に邪魔されたくないらしい。葵の思考を読んで立城は困ったように笑ってみせた。
「仕方ないね。茜さん。悪いけど今日は自分で処理してもらえるかな?」
そう立城が告げると茜はこくりと頷いてよろけつつも立ち上がった。静かにドアを開けて部屋を出て行った茜を見送ってから立城は少しだけ目を細めた。何故だろう。きっとなりふり構わずねだると思ったのに、茜は意外と簡単に退いた。それとも立城の持ち物だとしっかり自覚したのだろうか。
「たーつき!」
考えを巡らせていた立城に葵がはしゃいで抱きつく。言葉は増えてもこういうところは子供のようだ。立城は求められるままについばむように葵に何度も口づけをした。
ベッドに二人で倒れ込んだ頃、階下からピアノの旋律が聞こえてきた。ここのところ茜がよく弾いているのはショパンの幻想即興曲だ。淫らに喘ぐ葵を愛撫しながら立城は耳を澄ませてピアノの音に聴き入った。
葵は今は良いんですけどね……。