「再現力!!」
ボクは思わず天井を仰いで叫んだ。
目の前には、予約時間どおりにボクの部屋に訪れたメンズエステのセラピストさんが立っている。
いや、違うな。
着せ恋の喜多川海夢ちゃんが立っている!
肩にかかる金髪のロングヘア、ブラウスにネクタイ、チェックのミニスカート。
手にした学生カバンもそのままに、アニメどおりの制服姿。
首元の黒のチョーカーに、色白でしゅっとした顔立ち、ルビーのような深紅のカラコンまで、完璧だ。
……って、一瞬テンション上がってしまったけど。
昔のコスプレは衣装を全部自前で作ったりしてたらしい。
でも最近は、アニメキャラの衣装一式がセットで市販されてるっていうし、これくらいのレベルのコスプレは珍しくないのかな。
なんて思っていたら。
彼女はクスクスと笑い、「え、なにそれウケる! 五条君か!❤️」とちょっとツッコミながら、弾けるように吹き出す。
さらに「あははっ」と本気でお腹を抱えて笑っている。
ボクはちょっとあっけにとられる。
「あー、ゴメンね。なんかツボっちゃった」
涙目を指でぬぐいながら謝ると、改めてボクに向き直る。
「喜多川海夢です。今日はよろしくね! で、お客さんは、なんて呼べばいいかな?」
と挨拶する彼女はキラキラした笑顔でボクを見つめてきた。
え? なにその笑顔、眩しすぎる。
というか、立ち居振る舞いが、『喜多川海夢』っぽいというか、アニメで五条君をからかって、でもけっきょく謝る時の感じと重なってちょっとびっくりする。
「さ、さかもつです、こちらこそよろしく」
なのでちょっと噛んでしまった。
「さかもつさんね、オッケー。じゃあ、こんなところで立ち話もアレだし、部屋入って入って! ……って、あたしの部屋じゃないじゃん!」
と、喜多川さんはケタケタ笑ってボクの背中をバシバシ叩きながら部屋に入る。
すごい。
テンション高いときの喜多川海夢って感じがする。
それに、このセラピストさん、ぱっちりした瞳とか、整った目鼻立ちとか、地が可愛いというのは分かる。
ただそれ以上に、『着せ恋の喜多川海夢』感が、滲み出てきている。
「まさかこんな所で喜多川さんに会えるとは思ってなかったです。っていうくらい再現度高くて、今、ちょっと感動してます」
衣装だけじゃなくキャラのなりきり感もすごくて、ボクは本気で感想を言うと、ベッドの端に学生カバンを置いた喜多川さんが、こちらを振り返る。
「え? ほんと?! マジ嬉しいんだけど!」
ニコっと微笑んでみせて、喜多川さんはベッドに腰掛けると、その隣をポンポンと叩く。
ボクはわりと自然な感じで喜多川さんと並んでベッドに腰掛ける。
「着せ恋1期、年甲斐もなくリアタイしてどハマりしました」
ボクは言いながら、いつもより緊張感が緩やかだな、なんて感じる。
初対面なのに妙に距離感が近いのがメンエスの独特なところで、1時間とか2時間の間に身体を触れても抵抗感無いくらいに互いの距離感を近づけておかないといけない。
だからマッサージを始めるまでのやりとりは大事で、セラピストさんが客を安心させると同時に、逆に客がセラピストさんを安心させるためのコミュニケーションの時間でもある。
なにしろ、セラピストさん自身は物理的に非力な女性だから、彼女らが背負うリスクは大きい。
そのリスクを、安心してもらって軽減させることは、結果としてマッサージの内容に影響してくる。
といった具合で、セラピストさんも同じように客との距離感を推し量ってたりするので、和やかに会話しつつも、ちょっと緊張感が漂ってたりする。
だけど、キャラとしてボクは喜多川さんを知ってるので、その辺が緊張感を和らげてるのかもしれない。
「やっぱり?! あたしと一緒じゃん」
喜多川さんはリラックスした風で、脚を伸ばしてプラプラさせている。
人見知りしないというか、誰にでも気さくに声をかけてくる喜多川さんっぽさがこう、すごい。
「いやーなつかしいなぁ~、高校の時にアマプラで偶然見かけて、絵が可愛い! ってなって観てみたら、えー! ナニコレすごい面白いー! ってなって」
喜多川さんの感想にボクも思わずウンウンと頷く。
でも、言われてみればたしか、1期の放送ってもう、3年前くらいだったはず。
テレビアニメはだいたいが1クールで終わる作品が多くて、4クールで1年だから、1年間でけっこうな数のアニメ作品が始まっては、終わってまた新しい作品が始まって、を繰り返している。
3年前ともなれば、わりと旧作の部類に入る。
と思い返して改めて喜多川さんを見る。
そっかー、そうだよな。逆算すると高校生だよな……。
3年前かー、あの頃ボクは何やってたんだっけ……。
「んん? さかもつさんどうしたの? なんか泣いてる?」
喜多川さんがびっくりした様子で聞いてくる。
「いやちょっと、刻の涙を見ただけです……」
とボクよく分からないことを言ってそっと涙を拭う。
それからも――、
「じゃあ高校の時からコスを?」
「始めたのは大学入ってからかなー」
「ねね、さかもつさんは誰推し? アニメから入ったってことは……」
「もちろん喜多川さんですよ。可愛いとセクシーの両方を持ってるところと、何よりカッコイイところありますよね」
「カッコイイ?」
「1話の冒頭で、美容室でナンパされそうになって」
「『人の好きなものバカにすんなよってなるでしょ』」
「あれは、ちょっと刺さりましたね」
「わかりみ」
「というのもありますけど、五条君とのやりとりをね、ニコニコしながら愛でるというのもあります」
「あーソレ、お客さんからよく聞くヤツ」
「やっぱね、年くって、おじさんになると親目線みたいなのがですね……」
なんて、とめどなく着せ恋の話に興じていてふと気づく。
どういうわけか自分の口調が、いつもより丁寧な話しぶりになってるな。
喜多川さんと喋っていると、自然とそういう風になっていくような……。
とか考えていると、それよりも忘れてた事があった。
「あ、すみません。マッサージの事忘れてましたね」
と苦笑交じりにボクが言うと、彼女もハッとする。
「え!? あ、はい!」
ちょっと慌てた様子でボクを見て、反対側に置いてある学生カバンを見て、またこっちを見る。
「えっ、あっ、そうでした。90分のコースでよろしいですか? 料金はこちらになります」
と、口調が丁寧な感じに一変する。
それに、ややハスキーな地声。
ていうか、声も喜多川さんを演じていたのか。すごいな……。
なんて思いながら財布から取り出したお金を渡す。
「あ、ありがとうございます……」
ちょっとテンションを計りかねる弱めな口調で礼を言うと、喜多川さんは学生カバンを開いてお金をしまう。
少しごそごそしてから、突然ピタリと動きが止まると、おもむろにバっとボクの方に振り返る。
驚いた表情で、空いた手をワキワキさせる。
なんだか、急に挙動が面白い子になってきたぞ。
「あ、あの、今のは違うくて……」
もしかすると、素は真面目な子かもしれない彼女が、おろおろしている。
なるほど、彼女は『喜多川海夢』であることにこだわりを持っているのかもしれない。
ボクは思わずニヤけそうになる。
もうちょっと見ていたい気もしたけど、努めて笑顔を浮かべてボクは腰を上げる。
「喜多川さん、落ち着いて。ボクはシャワーを浴びてきたらいいんだよね?」
がんばれ喜多川さん、ここは仕切り直そう。
そんな思いで笑顔を向けると、喜多川さんも察したようで、思考が戻ってきたというか、じょじょに目線が落ち着いてくる。
「あはは、ごめんね。さかもつさん」
と、さっきまでのキラキラ笑顔を浮かべる喜多川さん。
そしてまた学生カバンを開けると、紙パンツを取り出して「あと、はいコレ」とボクに差し出して、「大事なヤツ」なんて言いながら笑って見せる。
さすが立ち直りが早い。これが若さというヤツだ。
ボクは極力普通な感じで紙パンツを受け取って浴室へ向かう。
いったんこの場は、今の空気感を残してシャワーを浴びてこよう。
浴室に入るとき、ちらっと横目で喜多川さんを見ると、両手の平をパタパタと、顔に向けて扇いでる仕草が見えて、可愛い。
さっとシャワーを浴びて紙パンツを履く。
セクシー度の高いセラピストさんとかだと、今の段階で股間が元気になってたりするんだけど、今日は平常運転だ。
なにしろキャラが楽しくて、ボク自身がそういう気分になってないところが大きいだろう。
とりあえずバスタオルを腰に巻いて部屋へもどると、喜多川さんがベッドに片膝を乗せた姿勢でボクに振り向く。
ベッドにバスタオルを何枚か広げ終わったって感じだ。
「あ、おかえりー、ちょうどベッドの準備できたよ」
喜多川さんが出迎えるように近づいてくる。
ふと見回すと、玄関の照明は落とされてて、部屋全体が薄暗くなってるけど、ベッドまわりだけ明るい感じに調整されてる。
すっかりメンエスって雰囲気だ。
なのだけど。
ただ、喜多川さんは制服姿のままなのが、逆に浮いてみえた。
「このままで施術ですか?」
浴室からベッドぎわまで、たいした距離でもないけど、誘導してくれる喜多川さんに聞いてみる。
傍らの喜多川さんは、にんまりとした笑顔を浮かべる。
「そんなわけないじゃん❤️」
なんて言いながら、ボクをベッドに腰掛けさせて、喜多川さんはボクの目の前に立つ。
彼女は胸元に手をそえると、ゆっくりネクタイをゆるめ、ブラウスのボタンを一つずつ外していく。
3つくらいボタンを外したところで、ブラウスを押し広げるように白い肌が現れ、黒地に黄色い花柄があしらわれたビキニが姿を現す。
プロフィール上Gカップのバストが、薄い生地をパツパツに押し上げ、こぼれんばかりの谷間が揺れる。
コスプレばかりに目がいきがちだけど、やっぱりスタイルが良い。
じゃなくて!
これって!
「第2話の採寸シーンじゃないですか!」
ボタンをすべて外し終えて、喜多川さんは嬉しそうにブラウスをヒラヒラさせる。
「やったぁ❤️ 気づいてくれた?」
嬉しそうに身体を左右に振る喜多川さん。
動きに合わせてブラウスが舞う。
そのブラウスの向こうで巨乳がぶるんぶるんと揺れていて、もちろんそれも興奮するけど、
「気づきますよ! ていうか嬉しすぎる! ボクの好きなシーンですよ!」
こっちのほうが断然興奮する。
ボクの反応に満足げな笑みを浮かべる喜多川さんは動きをとめて、着くずしたブラウスでビキニ姿を隠す。
さらに目を細めて、流し目でボクを見つめてくる。
「でも、着たままの方がよかった?」
なんて煽ってくるものだから、「いえ、2話でお願いします。めっちゃ興奮します!」と速攻で答える。
喜多川さんはカラカラと笑う。
「食い気味に答えるとか! さかもつさん、がっつきすぎ❤️」
そう言ってブラウスをすとんと落とす。
さらにチェック柄のスカートをゆるめて、これもするっと脱ぎ落すと、両サイドが紐状に分かれたシルエットが特徴的なボトムが現れる。
それをボクは食い入るように見てしまう。
アニメのシーンの再現、というのもあるけど、むしろ『喜多川さんの生着替え』に興奮してしまっていた。
『2.5次元』というのがこういう感じなのだろうか?
コスプレの再現度が高いうえに、エロさがプラスされると着替えシーンだけでもこうも興奮してしまうのか。
なにしろ、喜多川さんがブラウスを脱ぎ始めたあたりから、すっかりボクの股間は勃起していたので、今は若干前かがみでベッドに腰掛けている。
脱いだ制服を片付けて、改めてボクの前に立つ喜多川さん。
薄暗い室内の照明が、柔らかな身体の陰影を際立たせる。
なんだかぐっとエッチな雰囲気になった気がしてきて、喜多川さんの表情にも色っぽさを感じてしまう。
「じゃ、このかっこうでマッサージしていくね❤️」
と言う喜多川さんのキラキラ笑顔ですら、なんだか妖しい色香を感じてしまう。