喜多川さんがボクの足元へ移動して、脚全体のマッサージを始める。
ボクはうつ伏せになってるので、足の裏が上向きになっていて、そこに喜多川さんは腰を下ろす。
足先を起点にして、足首からふくらはぎ、ひざの裏、太もも、脚の付け根にかけてマッサージしていく。
ボクの足の裏に彼女の股間が密着して、ビキニの薄い生地越しにじんわりとした温もりが伝わる。
メンエスではオーソドクスな施術なだけに、いちいちドギマギしたりはしないけど、柔らかい感触が心地よい。
そして、マッサージオイルを塗り広げながら、ほどよい圧で喜多川さんの手の平がボクの脚をほぐしていく。
いやぁ、喜多川さんとのお喋りは楽しいけど、こうやって無言でマッサージに没入していくのも良いなぁ。
などと、感じ入っていると、喜多川さんの学生カバンが目についた。
さっきまで喜多川さんが横に座ってたから気づかなかったんだ。
「あ、すごい。シオンたんのストラップ付けてるじゃないですか」
たぶんフエルトを組み合わせた手縫いっぽい。
シオンたんのデフォルメぬいぐるみみたいなのが学生カバンにぶら下がっている。
「ああ、うん、それね、ウン」
と、喜多川さんは微妙な反応。
「ちょっと見せてもらってもいいですか?」
言いながら、学生カバンに手を伸ばそうとする。
「ああぁ! ダメ、あんまし近くで見ないでぇ!」
慌て気味な喜多川さんの声が聞こえてボクは手を止めた。
続いて、喜多川さんの取り繕うような笑い声が聞こえる。
「いやぁ、まだちょっと出来がイマイチというか。遠目に見るくらいなら雰囲気出てると思うんですけど、ガン見されるとボロが出るというか……」
ちょっと『喜多川さんの中の人』が見え隠れする口調で言い訳する喜多川さん。
ボクにはそういうアクセサリの出来不出来はいまいち分からないけど、こういうときはまぁ、無理に見ちゃいけない。
それよりも、キャラがブレかけてる喜多川さんの様子が面白くて、つい茶化したくなる。
「そんなところまで喜多川さんを忠実に再現しているなんて、すごいです」
などと真面目な口調で言ってみる。
「ちょっと? そんなところってどういうところ?」
なんとなく察しているけど、あえてボクを非難するような口ぶりだ。
続けてボクを攻めるようなことを言ってくるかと思ったら、喜多川さんはちょっと静かになって、
「いやでも、それって嬉しい気もするかも?」
と、なんだか嬉しそうだ。
この人結構重症かもしれない。
ボクはちょっと笑ってしまう。
つられて喜多川さんも笑う。
「さかもつさん、リアタイ勢のわりに細かいところまで見てるね」
と、感心した声がする。
「細かいというより、印象に残ってるシーンが多いんですよ」といいつつ「たとえば、喜多川さんの今の水着姿を見てドギマギしてた五条君が、喜多川さんのコスプレへの前向きな姿勢に影響されて、真面目に取り組もうとするシーンとか」
物語って、その内容が面白くて没入していくのと同時に、自分自身の経験と重なる部分を見つけて、共感することで物語に没入していく部分がある。
ボクがシーンの説明をすると、察した喜多川さんがすぐに答える。
「あ、五条君が自分をビンタするヤツね」
自分の過去の経験と、登場人物の経験が重なれば、自然と感情移入できてしまう。
そうなってしまうと、その物語が、着せ恋が、自分の中に取り込まれる。
「そうそう。実際の仕事でしんどくなったとき、あのシーンを思い出すと、自分もやっぱりお客さんと丁寧に対応しなきゃ、って考えを改めるきっかけになったりするので、けっこう覚えてるんですよ」
「ソレ、わかりみある。っていうか、わかりみしかない」