「…2つ、ないかアレ…?」
手を顔の前に翳して、薄目に太陽を見ると2つある様に見える。視力は悪くない。車を使うにも眼鏡は不必要だ。
そうして自分の目がおかしくなったかと空を見ていた。
(…何、今の…?)
けたたましい叫び声を上げながら、鳥ではない巨体が太陽の間に通る。人間で言う腕が生えている個所から大きな翼を生やし、尖った嘴から声を出している生き物は見た事が無い。
「…もしかしてファンタジー系か?」
そこそこに持つサブカル知識から、今の状況がそれっぽいと判断した。取り敢えずは森っぽいから此処を出よう。
片手で持てる鞄を引っ提げて、知らない道を勘のままに歩いて行った。
キツイな、と思う。それは単純に疲れたというのもある。
舗装されてない道は歩くのが厳しい。靴も仕事用、コンクリートの上を想定された設計。残念ながら登山は想定していない。
歩き回る仕事とは言え。確か記憶では仕事終わり、その日一日を歩いたのだから、体力は大分消費している。其処に追加でとなるとキツイ以外の感想は出て来ない。
「…水が切れたな」
最近は熱いので定期的にドリンクは補給してある。しかし森から出るまででそのドリンクも底をついたが。
食料は小腹用にと買ったおにぎりが2個程。無いよりはマシだが心許ない。今日は給料日も過ぎたし奮発して外食に行こうと思っていたのに、これはあんまりだ。
(さっきの鳥人間みたいなのと戦うのかね…)
冒険者が居るかどうかは知らない世界だが、コネ無し経歴無しだと選べる職種も限られる。出来れば店で働きたいが、信用の無い人物を雇ってくれるのか。
嫌だなぁという気持ちが増大していく。そもそも海外ですら価値観の違いに悩むのに、世界
「帰りてぇなぁ…」
お話の中だけだから、外野として見るから楽しいだけで。
異世界にいざ来ると喜びは無く、帰りたいという気持ちしか浮かばない。せめて都合の良い力とか芽生えないか。そんな現実逃避をしていると、
「──!……家?」
突如。頭の中に具体的なイメージが湧く。それは見慣れた自室の光景だった。一瞬、帰還願望故に見えたものかと思ったが違う。
「…
奇妙な確信。内から溢れる自信に後押しされて、何も無い空間へと手を翳す。現れたのは大きな穴だ。中を覗いて見ると、見慣れた光景が目に入り込んで来る。
帰れる。この穴を通じてあちらに行けば帰れる。しかしそれと同じく別の確信もあった。この穴の向こうに行けば、自分は再び此処には戻れない。そんな確信が。
「まあ、充分都合の良い力があって良かった良かった」
異世界と元の世界とは行き来は出来ない。少し残念には思うが、夢であったと思えば良い。不思議な体験。それが出来ただけでも良かったと考えよう。
とはいえ。帰還の目処が立ち、余裕が出るともう少しは見たいなという欲望が出て来る。いざという時はこの穴にさっさと飛び込めばいい。力を得て少し大きくなった自信を抱えて、休憩で休んだ足を動かして行く。
「でっか…」
歩いて歩いて。近くに見えて来たのは大きな洋風の城。
城下町と言うのだろうか。城の下には沢山の建築物が見える。
通行証とかは無いが、門の前の憲兵が誰かを止める様子も無い。内心ドキドキとしながら門を抜けて、無事に城下町の中へと入る事が出来た。
見渡すと鎧を着た者。肌の露出が多い者。どデカい剣を携えている者とファンタジー感を覚える。
エルフは人間の都市には居ないのだろうか。それとも居ない系の世界か。まだ日は高い。夜になるくらいまでは探索をする事を決めた。
「──あ、貴方日本人?」
いざ一歩を踏み出すぞ。前に進もうとした自分へと後ろから声を掛けられる。日本。異世界なのにと少し驚きつつ後ろへと振り向く。
長く伸ばされた髪。顔立ちは整っているが、目元には隈が出来ている。服装は体のラインを誤魔化さない色気を感じる服。胸元は大きく空いており、たわわに実った胸と服装から豊満な肉体が嫌でも分かる。
「その反応、やっぱり貴方も…」
「君は…?」
「えっ!?…い、良いの…?」
連れて来られたのは彼女行きつけの飲食店。お馴染みの客という事で、個室へと案内される。職業柄個室を借りるのは良くある事だとか。
此方のお金は持っていないだろうと、飲食代を出して貰う事になったが、それでは事実とは言え気が引ける。せめて何か返せないかと頭を悩ませると、小腹用に買ったおにぎり2個を思い出す。差し出すと始めは何かと思っていたが、それがおにぎりだと気付くと表情を変える。
「お、美味しい…!お米だ!日本のお米!」
奢られるお礼だとおにぎりを渡すと、恐る恐る鮭おにぎりと昆布のおにぎりを中から取り出し食べて行く。夢中になっておにぎりを食べる様子から、やはり異世界にはお米は無いようだと察せられる。
「似たような物はあったんだけど、微妙に違くて…」
主食はパン。お金を手に入れてからは探しはしたが、どれも似てはいるが別物。ペロリと2つのおにぎりを平らげた後、彼女にはお礼を言われた。
彼女の名前は篠宮結華。何年か前に1人で異世界に飛ばさてからは、その身を使って生活費を稼いで来たと言う。
肉体労働が多いこの世界。コネが無ければ女性がキチンとした職に就くのは難しい。魔物と戦うのは無理だと判断した彼女は、最後の手段として娼館に勤める事を決めた。
「そのせいで昔はチンチクリンだったのに、ほら、もうこんなに大きくなっちゃってさぁ。客受けは良いから助かりはするけど…ちょっと複雑でね…」
「そ、そうか…」
反応しづらい話だ。同郷で年も近いからか、かなりディープな話まで愚痴として聞かされる。同性ならばもっと気の利いた返しを出来るのかもだが、彼女居ない歴が長い自分には酷な話題だ。
只でさえ露出やボディラインがはっきりする服装で、目のやり場に困るというのに、話題までそれだと本当に居心地が悪い。
「あ、ごめん。言われても困るよね?そうだ、貴方は何時こっちに来たの?」
「えーと、つい2時間前くらいかな?」
「ええ!?嘘っ、本当に?」
持っていたたわわを下ろすと、話題変えとして貴方の経緯について尋ねる。時間は詳しくは分からない。スマホも使えないし。着けていた腕時計の周り具合から、大凡の時間を割り当てる。
スーツが綺麗なまま。異世界の街に慣れていない様子からも最近来たのだろうと予測していたが、これは予想外だったのか結華は驚いている。
「じゃ、じゃあ今日の宿も?」
「あー…決まってないね」
一瞬言おうかとも思ったが、どうするか悩んだので今は暈しておく。すると頭を抑えて、結華は考えている様子。
そして少し経つと話し始める。
「…お客さん取るから悪いけど部屋には泊められない。けど、お金ならあるから少し貸そうか?先立つ物が無いと苦しいよ?」
実感が籠もった言葉だ。衣食住。その全てにお金は掛かる。これまでの異世界生活から、その経験は嫌でもしたのか結華の顔は真剣そのもの。
利子は付けない。何時かは返してくれれば良いと同郷の誼からか、破格の条件を提示してくれているのが分かる。
「…ごめん。直ぐに帰るからお金は大丈夫なんだ」
「?直ぐに帰るって何処に?」
「自宅に帰るんだ」
「…自宅?………え?ちょ、ちょっと待って!?」
親切心からお金を貸そうとしてくれる彼女に不義理は働けない。話の流れから、元の世界に帰る手立てがある事を仄めかすと、遅れて理解した結華は狼狽する。
「か、帰れるの?貴方…?」
「こっちに来た時に、変わった力が使えるようになったんだ。それで」
「ス、ストップ!少し待って…!」
動揺を隠せず、貴方からの情報を整理する為に運ばれて来た料理にも手を付けず結華は思考の中へ。暫くしてその力を見せて貰う事は可能かと静かに尋ねてくる。
警戒するべきか。しかし短い時間だが彼女からは善性を感じた。その善性を信じて見せるのも選択肢としては間違いではない気がする。
「分かった。まだ仕事前だから私の部屋でどう?」
「篠宮さんが構わないなら」
「OK、じゃあ食べたら行きましょうか」
その後は料理へと手を付けたが、結華は手早く食べ終える。それに合わせて貴方も手早く食事を終えると、再び結華に連れられ城下町の中を歩いて行く。
「お、ユイカ!今日の旦那かい?」
「そうなの、だから買い物は後でね」
「また来いよー!」
暫し歩くと。彼女の生活圏内に入ったのか知り合いに声を掛けられる機会が増える。職業が職業の為、知らない男を連れていても怪しまれはしない。ニッコリと笑顔を作り、会う知り合い1人1人に返事を返すと貴方を連れて歩き出す。
彼女が逞しく異世界で生きてきた。その一端を垣間見た気がする。
「この部屋が私の。入って」
「…お邪魔します」
篠宮結華が住む家は、アパートやマンションが感覚的には近いか。同じ生業をする女性達が借りる部屋。その一室が結華の自室。途中同僚からは昼から客を取るのかと揶揄われていたが、軽く流して返す。
必然女性が多いこの場所だと肩身が狭い。案内された部屋へと逃げるように入り込んだ。
「……凄っ。この穴から見えるのは?」
「自分の部屋ですね」
「………」
必要最低限の物しかない狭い部屋。空いている空間へとさっきの要領で穴を展開する。突然現れた穴。驚き、直ぐに貴方の話が本当だと理解すると結華は黙り込む。
「──お願いします。私も連れて行って下さい」
穴を観察しては考えるを繰り返し、少し経つと結華は床に頭を付けて貴方に懇願する。帰りたいのかと薄々は思っていたが、此処まで強くお願いされるとは思わず、動揺から反応が遅れる。
「タダでとは言いません。望むならば何でも致します。なのでどうか、私も貴方と一緒に…!」
返事が遅れたからか、結華は顔を上げると自身の服へと手を掛ける。職業柄か体を使っての交渉には戸惑いが無い。
寧ろそれで済むのならばと結華は服を脱ごうとする。
「じゃ、じゃあ…!」
偶々手に入れた力。そんなもので其処までして貰うのは気が引ける。服に手を掛ける彼女を止め、望むなら一緒に連れて行くと貴方は宣言した。強張った表情から、少し和らいだ表情へと変わる結華へと、一応の質問だけはしておく。
「…無い、と言えば嘘にはなります。けれどそれ以上に、私は故郷へと帰りたいんです」
長く、此方の世界で望む望まないは別として生きてきた。
先程の人々との遣り取りからも、ある程度は馴染んでいる様子。未練は無いのか。選択に後悔は生じないかを聞いた。
来たばかりの貴方は繋がりは皆無。しかし彼女には繋がりがあるだろう。
帰るならば、其処に踏ん切りは付けておかないといけない。少し考えてから、結華は未練よりも帰還の気持ちが強い事を再確認する。振り返った時に、少しは後悔をするかもしれない。けどそれ以上にもう一度両親に会いたいのだと結華は語った。
其処まで言うならば自分の様な外野がとやかくはもう言わない。夜になる前には帰還するつもりだと伝え、結華の反応を待つ。
「今直ぐでも大丈夫ですが、何か用事でも?」
「始めて見る異世界だから、もう少しは見たいかなって」
「成る程。じゃあ案内しましょうか?この町ならば詳しいですよ」
2つの太陽の場所から暗くなるまではもう少し掛かるだろうと予測。現地民である結華にも聞くと、その予測は間違いではないと返された。直ぐに帰らなかった理由、それを聞くと納得したのか結華は案内役を申し出る。
「良かったです。その理由が無ければ貴方とは会えませんでした」
「気まぐれみたいなものだから、感謝されると…」
力を見せてから結華は丁寧に貴方に接する様になった。
先程までの対応がされずに寂しくは思うが、彼女がそうしたいならそうさせるべきだ。
「こ、この肉は?」
「この絵に描いてある魔物の肉ですね」
(と、鳥人間!?お前…!)
「これは…?」
「詳しくは知りませんが、意思を持つ植物だそうです。見た目に反して味は悪くないですよ」
(食うのか…)
篠宮結華に案内をされながら、貴方は異世界を観光する。
異世界独自の代物。変わらずある塩や胡椒等の調味料。
走る食材。喋る食材。貴方は驚くが結華は慣れたものか、逃げる食材を素手で捕まえたりもした。女性1人で生きると、此処まで逞しくなるのか。
「あ」
「どうしまし…ああ、此処ですか」
観光中。気になった店の中へと入る。中には魔道具、魔法に関しての教材が並んでいる。ファンタジーと言えば魔法。
魔道士っぽいローブを着ていた人も居たし、期待はしていたが実物が見れるとテンションが上がる。
「私には才能が無かったので、簡単な物しか扱えませんが」
「え、使えるの?」
「簡単な物だけですよ?」
小さな火。明るい光。水や風。生活に使える魔法ならば扱えるが、戦闘用となると適性が無かったとか。指から光を出す結華へと、貴方は興味深そうに目を輝かせる。
「…興味あるなら買いましょうか?」
「いやいや、悪いって」
「観光先では記念に何か買うものです。記念品としてどうですか?」
「店員みたいだね…」
結局興味には負けて、魔法を扱う教本を購入して貰う。この本を読み、適性があれば呪文を唱えると魔法が使える。元の世界でも魔法が使えるかは知らないが、記念として持って行くのは悪くない。
それからも観光を行い、時間が来るまで異世界を満喫した。
「…もう大丈夫?」
「ええ、お別れはして来ました」
世話になった人に挨拶をして来た結華。そのままは説明していないだろうが、どう理由を付けたのかは少し気になる。
とは言ってもわざわざ聞く事でもなし。城下町から外へと出ると、人目の付かない所で穴を展開した。
「…手を握っても良い?」
帰れる。いざその時になると心細いのか貴方の裾を指で掴む。年齢を重ねているが、今だけは彼女が幼く見える。
差し出した手には彼女からの手の体温が伝わる。強く握り締めてくる手に返すように、貴方も強く彼女の手を握った。
「…リビングか?」
見慣れた光景が見える。多分だが元の世界へと帰って来たのだろう。結華は大丈夫かと握られた手の先を見ると、
(だ、誰?)
制服を着た少女が居た。篠宮結華は20代くらいの大人の女性だった。しかし手の先にはまだ高校生くらいの女の子が寝ている。服装もボディラインが分かる露出高めの服ではなく、制服。え、まさかと思いはしつつも困惑から次の行動へと移れない。
「…多田さん…?」
そうしていると、目の前の彼女が目を開いて貴方を認識する。意識がはっきりとしてくると、キョロキョロと忙しなく辺りを見回し、
「──にほ、日本ですよ此処!?多田さん私帰って来ました!!」
「う、うん…そうだね…」
立ち上がると貴方を引っ張りながらカーテンを開けて外を見る。目元からは涙を零しながら、感極まった様子。
この反応を見るにやはり彼女なのだろうと、曖昧な返事を返すしか出来ない。
「…どうしたんですか?」
「はい、鏡…」
「鏡?……えっ…!?」
涙を拭いながら反応の悪い貴方へと声を掛ける。貴方から鏡を渡され、其処に映る自分を見ると結華は絶句した。
結華自身も想定してなかった事が起きたのだ。
篠宮結華は高校1年生の時に異世界へと転移した。其処からは貴方に会うまで、体を売りながら生活をした。
その時の経験から肉体は男受けの良い方へと成長していき、かつての控え目な体格は消える。確かに失くした筈の制服も今は着ている。
若返り、肉体が戻り、服装も戻っている。恐らくは転移する直前の姿に戻ったのだろう。
「あの、こんなには流石に…」
「いざという時の為にだよ」
恐らく転移前の状況、時間に戻ったと2人は推測すると、先ずは結華を家まで帰す事に。途中までは車で送り、住所が近付くと結華を降ろす。2人の関係は特殊。説明したくても上手く説明は出来ない。変な疑いをかけられない為にも、知り合いが居なさそうなエリアまでにしておく。
もしもの時用にと、お金を持たない結華へと万札を何枚か渡す。結華は金額に尻込みしているが、異世界ではお金を出して貰った身。これでお相子だと伝えると納得はしてくれた。
(…誰も居ないかな…?──よしっ!)
「多田さん!」
「ん?」
降りる前に辺りに誰も居ない事を結華は確認すると、貴方の首に手を回し、その唇へと自身の唇を合わせた。
目を開いて驚く貴方を見つつ、少し名残惜しいが素早く唇を離す。
「この続きはまた後で♪」
頬をほんのりと赤らめて、結華は車の中から出て行った。
油断していた所をやられた。異世界の時ならばまだしも、今は見た目も肉体年齢も16歳だ。バレたら捕まるのはこっちである。
しかし、役得であったのも否定は出来ない。意識すると元気になってしまう半身を、これ以上大きくしないように、頭を大きく振って煩悩を振り払う。
…仕事の事でも考えよう。そうすれば自然と気分が下がる。諸刃の剣である最終手段を行使しながら、家までの道程を進む。
「お母さん!!」
「ん?どうしたの結華。結構早く帰って来たわね」
「お母さん、お母さん!」
「ど、どうしたの急に抱き着いて…何かあったの?」
「ううん…!何でもない!ただこうしたかったの…!」
母を見付けると、我慢出来なくなり結華は抱き着いた。
後から来た父にも抱き着くと、結華は両親との触れ合いに心底幸せを感じた。
両親からすれば、出掛けて帰って来ただけの娘を迎えた。
結華からすれば、ずっと会いたかった両親に数年越しに再会出来た瞬間。無条件に甘えられる相手、その安心感を結華は再び感じる事が出来たのだ。
「…知らない番号だけど、もしかしたら」
『こんばんは!今大丈夫ですか?』
「篠宮さんか。どうだった?上手く帰れたかい?」
夜。風呂から出て冷たいジュースを飲む。明日が休日で助かった。この疲れは1日では抜け切らない。仕事の後に観光をしたようなものなので、落ち着くと一気に疲れが出る。今日は珍しく長湯をしたくらいだ。
スマホには何件か知らない番号から電話が来ている。これだけ連続となると、考えてからまたもや掛かってきた通話に出る。予想通りの相手に、椅子に腰掛けながら会話をした。
『ありがとうございます…!この御恩は一生を賭けてお返しします!』
「…其処までされると気が引けるっていうか…」
『お願いです』
「あ、はい…」
篠宮結華はかなり義理堅い性格をしているようだ。電話越しからでも強い意志をひしひしと感じる。篠宮結華は可愛い女の子だ。そんな彼女に慕われるのは正直悪い気はしない。
けれどそれでと何から何まで恩を着せるのも違う気がする。まあ一生というのは流石に言葉の綾だろう。ある程度恩を返したと思えば、彼女自身も納得してくれる筈。
『近い内に顔を出しますので』
遅いからと電話を切る直前。そう言われたが暫くは元の生活に慣れる為に行動した方が良いと思う。怒涛の1日が終わり、眠気が限界に達した貴方はそのままソファの上で眠りに就いた。
ピンポーン…。
あれから1週間。再び週末が訪れる。朝早くからチャイムが聞こえ、配達員かとモニターを覗く。
『利生斗さーん、私でーす!』
笑顔でモニターに映るのは篠宮結華の姿。可愛らしい服装をして、わざわざ来てくれたようだ。にしても、遠くないとは言え、随分朝早くから来たな。
「利生斗さん、おはようございます」
扉を開けると中にスルリと結華が入って来る。当たり前の様に近い距離が気になる。体同士が触れそうなくらいに、結華のパーソナルスペースは近い。
部屋の中へと入ると、あまり片されていない中を見渡し。掃除道具を取り出して片付けを始める。帰還して部屋の中を見てから思ってはいた事らしい。
「利生斗さんは休んでて下さい。私が全部やるので」
手伝おうかと近くのゴミに手を付けると、結華は不満そうな顔をする。これはあくまで自分がしてあげたい事の1つ。
どっしりと構えててくれた方が、彼女からしても嬉しいらしい。
「終わりました。次はご飯を作りますね!」
彼女自身がやりたいならば自由にさせよう。冷蔵庫にある物から調理を始めていく結華。自炊はしても簡単に作れるものばかりなので、久し振りの手料理はどんなものかと少し期待して待つ。
「出来ました。作り置きもしておいたので食べてください」
「いただきます」
ご飯に合うしっかりとしたおかず。まさか此処までの腕前とは思わなかった。元々上手かったのか、それとも経験から上手くなったのか。
自分が作った料理を食べる貴方。それを見る結華の表情は心底嬉しそうである。
「利生斗さん、午後も時間はありますか?」
食事が終わり、洗い物をしながら結華が尋ねる。今日1日は出掛ける予定は無い。明日は少し買い出しに出るがそれだけだ。それをそのまま伝えると、結華は短く返事を返した後、黙々と作業を進める。
「…ちょっとお手洗いを借りますね」
エプロンを外し、許可を取ると結華は消えて行った。
暫く時間が経ち、結華の声が聞こえる方へと目を向けると。
「どうですか?若いからまだ似合いますよね?」
制服。恐らくは中学校の頃のだろうか。ブレザーとスカート。随分長いなとは思ったが、この服に着替えていたからか。貴方に似合うと言われると、結華は綻んだ笑顔を浮かべて貴方に近付いてくる。
「お礼をしたいんです…受け取ってくれますか?」
若い顔立ちには似合わない、妖艶な表情。慣れたように首には手を回して貴方を抱き寄せる。娼婦としての経験からか、カリカリと服の上から男の象徴を掻かれると気持ちが良い。
「沢山ご奉仕しますね…」
貴方も男。好意を向けて来る女性が居れば揺らいでしまう。貴方の目つきから、了承を取れたと認識した結華は唇へと唇を合わせる。
「んっ、ちゅ、れろ、ちゅる、」
慣れてない口付けに、結華がリードするように舌を動かして行く。口内を舐め回し、歯にも舌を這わせて貪欲に舌を絡めて来る。
自分よりも背が小さく、肉体年齢では若い女の子に弄ばれているようで、少し興奮した。
「…おっぱい、揉みます?」
唇を離すと、銀色の橋が掛かる。余裕はあるが、熱い視線は常に感じる。既に硬くなっている肉棒を片手で弄りつつ、次の行為への誘導を行う。
「はあん、凄い、気持ち良い…!な…何で…?」
性欲に任せて乱暴に胸を揉みしだいているだけ。なのに結華はおかしいくらいに身を捩っている。好きでもない男。商売の為に体を触らせていた時とは違う。心からこの人としたいと思わせる相手。そんな相手とは始めて経験をする。
故に結華も知らなかったのだ。こんなにも、好意を持つ相手からの愛撫が気持ち良い等と。
「ふうっ、ふうううっ!??……はぁ、はぁ…!」
素人のぎこちない愛撫。高まった肉体はそれだけで快感を蓄積していき、結果、ショーツをグショグショにするくらいにイキまくってしまう。
「…ごめんなさい利生斗さん。もう、もう挿れてください…!欲しくて欲しくて、早く挿れないとおかしくなりそうなんです…!」
快楽に蕩けた顔で、未だ残る余韻に体を震わせつつ、結華は貴方にしがみついた。本番をするならばと、近くのソファまで結華を連れて、彼女をその上に寝かす。
「はぁ、はあ、早く挿れて、利生斗さんので貫いてください…!」
ビチョビチョに塗れたショーツを外し、片足に着けたままにする。ガチガチに勃起した魔羅を取り出すと、結華が期待からゴクンと生唾を飲んだのが見える。初めて故に少し梃子摺るが、ゴムを何とか着けようとして…
「ま、待って!今だけは着けないで!」
「いや、でも避妊は…」
「…治ってるんです、私のハジメテ」
「!??」
慌てて結華はゴムを着けようとする手を止める。何故かと困惑しながら貴方は問う。彼女も経験上、避妊の大事さは知っている筈。寧ろ彼女の方が厳しそうなくらいなのに。
開いた足を擦り合わせ、もじもじとしながら結華は話す。
若返った事で、異世界で失くしたハジメテが戻った。となると乙女心としては好きな人に、想う人に捧げたいと思うのも道理だ。
だから、ハジメテを破るならば生でが良い。娼婦として売る為に、義務的に奪われた時とは違う思い出を残したい。そう思うが故に結華は恥ずかしがりながらも、貴方へと事情を話した。
「其処です…はい…」
初めてという事で貴方は戸惑った。しかし訴えかけるような懇願するような視線が、その迷いを取り払う。
結華に導かれるまま、先端を結華の中へと挿れる。先端だけでも離さないかのように絡み付いてくる結華の中。
「──っつう…!!」
我慢はあまり出来ない。結華にOKを出されるとそのまま奥まで突き入れる。途中ブツンと何かを破る感覚がした後、貴方に強く抱き着きながら結華は涙を流した。
「…初めて、初めては利生斗さんだぁ…」
それでも前の痛みに比べれば何倍もマシ。直ぐ目の前にある貴方の顔を見ながら、結華は中にある肉棒の感覚を噛み締めていた。あの異世界での出来事は悪夢みたいなものだ。今居る此処が現実。ならば自分の本当のハジメテは貴方だ。
そう思うと結華の心には喜びと幸福感が溢れて来る。
──ビュルル!
「ごめん…!もう出た…」
「利生斗さんも初めてですよね?なら、仕方ないですよ」
引き抜こうとするがガッチリとホールドされた状態からは逃げ出せない。結局は我慢出来ずに射精してしまい、生で中に出す事になってしまう。
「…安全日ですけど直ぐに掻き出した方が良いですね。お風呂借りても良いですか?」
「ごめん…」
「良いんですよ。私の我儘のせいですから」
交わりは一度終わりになり、結華は股を抑えながら風呂場へと急いだ。その後は貴方も風呂に交代で入り、汗を流した。
「んっ、んっ、ろうでふか?」
その際に中途半端になったお詫びとして、口を使って精処理をしてもらった。現役高校生の生フェラ。経験から直ぐに弱点を把握すると、あっという間に2回も射精に導かれてしまう。
まだ処女膜は破れたばかり、洗う時も痛かったので今回は本番行為は無しだ。その代わりとなった口奉仕だったが、懸命さと卓越した技巧。これだけでもかなり満足の行く行為だった。
「…次は好きなだけ使って良いので…」
口で貴方の精を味わったが、やっぱり繋がっての交合はしたかったようで。結局一緒にお風呂に入り、湯船に浸かりながら申し訳なさと悔しさを滲ませる。
結華の裸体は見えるが、何度もフェラで抜かれれば性欲も落ち着いてくる。行為後は静かで穏やかな時間を過ごした。
「卒業したら近くに引越します。その時は宜しくお願いしますね」
「え?」
「今の状態だと偶にしか来れないので」
週に一度くらいならば此処には通える。しかしそう何度も通い詰めれば迷惑になる事くらいは理解出来る。異世界では大人にならざるを得なかったが、逆に元の世界ではまだ子供である。他者への説明は非常に難しい為、会いたくても気安く会いには行けないのだ。
だから卒業までは我慢する。その後は一人暮らしを始めて、この近くの大学へと通う。そうすれば今よりは会いやすくなるだろう。
「言いましたよね。一生を賭けて恩を返すって。…私本気ですから」
「アハハ…」
篠宮結華は義理堅く、そして情が深い。一度気を許した相手には深く心を開く。もう半ば諦めていた事を、貴方は難なく実現させてくれた。対価も求めず、常に自分を気遣ってくれた。篠宮結華の貴方への想いは強い。ただそれだけの話である。
多田利生斗
営業している社会人。25歳くらい。自宅に帰るだけの能力を持つ。
篠宮結華
高校1年生の時に気が付くと異世界にいた。戦う力等無く、結果的に生きる為に体を売る事に。良い人にも悪い人間にも会った。素の性格は今の主人公に接している丁寧な態度と言葉遣い。しかし異世界ではそれだと鴨にされやすいので、少し荒っぽい口調と態度になった。主人公には好意と恩義と様々な感情が混ざっている。主人公に尽くすと幸せを感じる。