アルの予想に反して、部族の民たちは極めて友好的だった。
彼女の周りにはすぐに人だかりができ、皆が口々に何かを話しかけてくる。言葉は全く理解できないが、その表情や声色には歓迎の色が満ち溢れていた。
「あら、あなたたち、なかなか見る目があるじゃない。そうよ、私こそが陸八魔アル。いずれはこのキヴォトスに名を轟かせる女よ」
アルは得意満面で胸を張り、女王のように振る舞う。相手に言葉が通じていないことなど、もはや彼女の頭にはなかった。
部族の女たちは、アルの白い肌や柔らかな髪に興味津々のようだ。代わる代わるアルの体に触れては、感嘆の声を上げる。中には、挨拶代わりとでも言うように、アルの尻をむんずと揉んでくる者までいた。
「きゃっ!?な、なによ、あなたたち!?」
突然のことに驚き、アルは素っ頓狂な声を上げる。しかし、揉んできた女は悪びれる様子もなく、にかりと笑いかけてくるだけだ。周りの女たちも楽しそうに笑っている。
(な、なんて大胆な挨拶なの……!これがこの部族の風習というわけね……)
アルは一人合点する。そうか、これは文化の違いなのだ。ならば、郷に入っては郷に従え。ここで騒ぎ立てるのはアウトローとしてスマートではない。アルは咳払いを一つすると、毅然とした態度でそのスキンシップを受け入れた。内心では心臓がバクバクと音を立てていたが、社長としての威厳を保つため、表情には決して出さない。
肌と肌が触れ合う距離の近さに戸惑いながらも、アルは人混みをかき分け、目的の人物を探した。交渉相手は、力を持つ者でなければならない。ならば、あの時のリーダー格の女戦士が適任だろう。
幸いにも、その女戦士はすぐに見つかった。集落の中心にある広場で、他の戦士たちと何やら話し込んでいる。アルを攫った時と同じ、圧倒的な存在感を放っていた。
アルは深呼吸を一つすると、胸を張って彼女の前に進み出た。
「あなたに話があるわ」
凛とした声で告げる。もちろん、言葉は通じない。女戦士は怪訝な顔でアルを見返した。
ここからが腕の見せ所だ、とアルは意気込む。言葉が通じないのなら、ジェスチャーで伝えればいい。アルはまず自分を指差し、次に「便利屋68」のロゴが入っていたジャケットのあたりを指でなぞり、ビジネスを意味するように手を組み合わせる仕草をした。そして、女戦士と自分を交互に指差し、握手をするようなポーズを取る。
「つまり、私とあなたでビジネスパートナーシップを結びましょう、という提案よ!」
ドヤ顔で言い切るアル。女戦士と周りの者たちは、顔を見合わせて首を傾げている。全く伝わっていないようだ。
それでもアルは諦めない。今度は、女戦士が部族の長であると仮定し、王冠を被るような仕草をしたり、皆を従えるようなジェスチャーをしてみせる。
すると、女戦士はようやく何かを理解したように頷き、それから残念そうに首を横に振った。そして、遠くの山を指差し、人が旅立っていくような身振りをした後、両腕で大きな輪を作って、アルに「待て」というような仕草をした。
身振り手振りの応酬の末、アルがようやく理解したのは、以下の三点だった。
一、彼女は酋長ではないこと。
二、本物の酋長は、今、狩りか何かで集落を留守にしていること。
三、酋長が帰ってくるまで、アルは客人としてここに滞在してよいこと。
「な、なんですって……!?」
交渉相手の不在という、まさかの事態にアルは愕然とする。これではビジネスの話も何もあったものではない。
(仕方ないわね……酋長が戻るまで、ここに滞在させてもらうとしましょう)
がっくりと肩を落とすアル。だが、持ち前の楽観主義がすぐに頭をもたげる。
(まあいいわ。これも異文化に触れる良い機会よ。この部族の暮らしをリサーチして、今後のビジネスに活かせばいい。そう、これも社長の重要な仕事の一つ!)
瞬時に思考を切り替えたアルは、改めて周囲を見渡した。
そういえば、先程から気になっていたことがある。この部族の女たちは、やけに開放的なのだ。
広場の隅では、若い女たちが二人組になり、お互いの乳房を撫でつけ、気持ちよさそうに声を漏らしている。別の場所では、一人の女が木陰に座り込み、自らの股間に手を当てて恍惚とした表情を浮かべていた。それは明らかに自慰行為だった。しかも、誰に隠れるでもなく、堂々と。
その光景は、アルが知る常識からはかけ離れていた。しかし、アルはそれを特に奇異なことだとは思わなかった。
(ふーん、ずいぶんスキンシップが盛んなのね。きっと、これも彼女たちの文化なのよ。そう、きっとそう。私が知らないだけで、こういうコミュニケーションの形もあるのね。うんうん)
どこかズレた解釈をし、一人で納得して頷く。
本来であれば羞恥心や警戒心を抱くべき場面でも、アルの楽観的で少し抜けた思考回路は、「これも文化」「これも風習」という便利な言葉ですべてを片付けてしまう。
彼女たちの行動に性的な意図が含まれている可能性など、今のアルは微塵も考えていなかった。まさか自分が、その「スキンシップ」の次の対象になろうとしていることにも、全く気づかずに。
こうして、陸八魔アルの、危険で(本人だけが気づいていない)牧歌的な部族生活が始まったのである。
その日の夜。
アルは部族の女たちから盛大な歓迎を受けた。言葉は通じなくとも、歌や踊り、そして振る舞われる滋味豊かな食事は、アルの心をすっかり解きほぐしていた。
(ふふん、やはり私ほどの器になると、言葉の壁など関係ないのね。彼女たちも、私の偉大さが分かったに違いないわ)
すっかり上機嫌になったアルは、昼間と同じ小屋に用意されたふかふかの寝台に潜り込むと、満足のため息をついた。慣れない環境での緊張と、今日の出来事が心地よい疲労感となり、アルの意識はすぐに穏やかな眠りの海へと沈んでいった。便利屋の仲間たちのことも、ゲヘナでの厄介事も、今はもう頭の片隅にもない。明日は酋長が帰ってくるかもしれない。そうしたら、いよいよ本格的なビジネス交渉の始まりだ。そんな希望的観測を胸に抱きながら……。
アルが深い眠りに落ちてから、どれほどの時間が経っただろうか。
小屋の入り口の布が、音もなく静かにめくられた。月明かりを背に、するりと中へ入ってきたのは二つの人影。昼間にアルに話しかけてきた若い女たちだった。彼女たちは息を潜め、眠るアルの寝台へと忍び寄る。その瞳は、昼間の友好的な光とは違う、ねっとりとした熱を帯びていた。
一人の女がアルの枕元に膝をつき、その寝顔をうっとりと見下ろす。汗で額に張り付いた前髪をそっと指で払い、絹のように滑らかな頬を撫でる。もう一人の女は、アルの足元に回り込み、毛皮の掛け布をゆっくりと剥いでいった。
月光に照らし出されたのは、部族の衣装をまとったアルの無防備な寝姿。胸の革帯も、腰の葉のスカートも、眠っている間にずれて、普段は隠されている柔らかな白い肌が惜しげもなく晒されている。
女たちは顔を見合わせ、満足そうに頷くと、その白い肌へと手を伸ばした。
その手つきは驚くほど滑らかで、慣れていた。まるで貴重な宝物に触れるかのように、アルの体を優しく、しかし確実に探っていく。
するり、と胸の革帯の結び目が解かれる。支えを失ったアルの豊かな双丘が、重力に従ってふわりと左右に流れた。現れた薄紅色の乳首は、まだ眠りの中にあって小さく縮こまっている。女の一人が、その先端を舌先でつ、と舐めた。
「ん……」
眠っていたアルの唇から、無意識の甘い声が漏れる。ぴくり、と震えた乳首は、与えられた刺激に正直に反応し、ゆっくりと硬く形を成していく。女は満足そうに微笑むと、今度は乳房全体を手のひらで包み込み、慈しむように揉み始めた。指先が乳輪をなぞり、先端を軽くこねる。その度に、アルの体は小さく跳ね、吐息が甘さを増していく。
もう一人の女は、アルの腰に巻かれた葉のスカートに手をかけていた。乾いた葉が擦れる微かな音を立てて、最後の守りが取り払われる。月光の下に晒されたのは、まだ誰にも汚されたことのない、聖域だった。緩やかに隆起した恥丘には、まだ疎らな産毛が生えているだけ。その中央で、割れ目は固く閉じられ、純潔を主張している。
女はそこに指を這わせた。閉じた肉の襞をそっと押し開く。そこはまだ乾いていて、熱を持っていなかった。だが、女は焦らない。指先で入り口のあたりを優しく撫で、小さな蕾のようなクリトリスを探り当てると、そこをく、くり、と柔らかな圧で刺激し始めた。
「んんっ……ふ……ぁ……」
眠りながらも、アルの体は快感に正直だった。眉間に微かな皺が寄り、心地よさそうに身じろぎをする。意識はまだ夢の中を彷徨っているが、体だけが現実の快楽に目覚め始めていた。下腹部の奥がむず痒く、疼くような感覚。それは今まで一度も経験したことのない、未知の感覚だった。
女たちの手つきは、相手を気持ちよくさせることに特化していた。決して急がず、無理強いもしない。ただひたすらに優しく、丁寧に、アルの体が悦びを受け入れる準備が整うのを待っているかのようだ。
指はクリトリスを弄び続け、口は乳首を啄み、吸い上げる。二方向からの執拗な愛撫に、アルの体は徐々に熱を帯びていく。呼吸は浅く、速くなり、白い肌はほんのりと桜色に染まっていた。固く閉ざされていた秘裂からは、知らぬ間に透明な蜜が滲み出し、女の指を濡らし始める。
「んぅ……っ、ぁ……や……」
夢うつつに、アルはか細い拒絶の言葉を漏らす。だが、それは何の力も持たず、むしろ媚態を振りまいているようにしか聞こえない。女たちは構わず愛撫を続ける。アルの体が求めるままに、快感を与え続ける。
やがて、アルの下腹部が大きく痙攣し始めた。快感の波が、全身を駆け巡ろうとしている。絶頂の予感。体が内側から破裂してしまいそうな、甘い痺れ。
「あ……っ、あぁっ……!イ、く……!」
眠りながらにして、最初の頂を迎えようとした、その瞬間。
ぴたり、と全ての愛撫が止んだ。
「……え?」
寸前で快感の梯子を外されたアルの体は、行き場を失った熱を抱えてびくんと大きく跳ねる。熱い痺れがサッと引いていき、残ったのはもどかしいほどの疼きと、焦燥感だけだった。
(な……に……?)
意識の淵で、アルは混乱する。あと少しで、何かものすごいところへ行けそうだったのに。どうして。
女たちは、苦悶に表情を歪めるアルの顔を覗き込み、くすくすと笑い合った。彼女たちの目的は、アルを単に気持ちよくさせることだけだ。
彼女たちは再びアルの体に手を伸ばした。先程よりも少しだけ大胆に、少しだけ深く。アルの体が再び熱を帯び、絶頂を求め始める。そして、また頂きの直前で、ぴたりと手を止める。
「んっ……!ぁ、ああっ……!いや、なんで……っ!」
これを、何度も、何度も繰り返した。
与えられては、取り上げられる快感。その繰り返しの中で、アルの体は完全に快楽を学習し、より貪欲に刺激を求めるようになっていく。羞恥心や理性は眠りの奥底に追いやられ、ただ純粋な欲求だけが体を支配していた。
寝ている間に、何も知らぬままに、じっくりと、丹念に、極上の器へと変えられていく。