とあるセフレたちの週末 〜繋がりっぱなし交尾で貪りあう二泊三日間〜 作:若菜はかり
ずっと部屋にこもりっきりとはいえ、日がな一日激しい運動をしていては当然腹が減ってくるものだ。かといって、昨晩買い込んだ残りは酒の肴ばかりでエネルギー不足。食材はないこともないが、気怠い疲労感の中で二人とも台所に立つ気にはなれない。
そういうわけで日が傾くのを見計らい、俺たちは本日初めての外出をした。
目当ては、丼物も美味い近所のうどん屋。老舗らしい店構えのわりに値段は庶民的で、真衣が俺の部屋に入り浸るようになる前からよく使っていた店だ。あとは道中にコンビニがあり、ちょうど切らしたコンドームを調達するのにも都合がよかった。
「……う~ん」
「ん? どうした、早く食わねえのか?」
注文したざるうどんとカツ丼のセットが届き、俺が早速ありつこうとしていると、不思議そうな唸り声が聞こえた。
顔を上げれば、真衣がこちらをじっと見ていることに気づく。先に届いたはずの料理にも、まだ箸はつけていないようだ。
「えっと……合ってるか、あんまり自信はないんだけどさ」
そこで彼女はようやく割り箸を手に取りながら、伏し目がちに続ける。
「さっきから、なんかおかしいよね。亮太の雰囲気」
「俺の? どこが?」
咄嗟にとぼけてみたものの、その実、内心では鋭い指摘にドギマギしていた。
真衣にそう感じさせてしまった原因に、心当たりがないわけではない。そのことを俺自身がよくわかっているからこそ、ついこんなつっけんどんな態度が出てしまうのだ。
対して彼女はやはり、自信なさげに小首を傾げる。
「いや、どこって言われると具体的には答えにくいんだけど、例えば……」
少し考えた後、真衣は一口うどんを啜った。
いかにも涼しげで、見た目にもヘルシーなサラダうどん。
シャクシャクとレタスを噛み、さらにセットのミニ親子丼にも箸を伸ばそうとしたところで、どうやら考えがまとまったらしい。
「例えば、そう。さっきここに来るまでの感じとか。いつもだったら、もっと大学のことやサークルとかバイトのこと話すじゃん? でも、今日は割と無口だったよね」
「それは何というか……まぁ、多少疲れがあるせいだろ。それこそ何だかんだで、今日は朝からずっと動きっぱなしだからな、俺も」
「本当に? そのわりには、歩くのはいつもより速かった気がするけど」
彼女はそう呟いて、口角をニヤリと上げる。一本取ったり、とでも言いたげな表情だ。
それには応えず、俺は改めて目の前の食事に取り掛かった。真衣の方はそれでもしばらく俺の顔を見つめていたが、やがて諦めたように箸を動かし始める。
そのままほとんど無言の食事が続く。
途中、よく顔を見る女性店員が水を注ぎに来てくれた。そのどこか顔色を窺われるような気配に、かすかな違和感を覚える。
――ひょっとすると、喧嘩中だとでも思われたのかもしれない。
うどんを啜りながら、ふとそんなことを考えた。
その味がいつもより薄いように思われたのは、きっと気のせいだったのだろう。
「――ねえ、あのさ」
うどん屋を出て帰途に就く。その道すがら、真衣が俺の手を引っ張った。
「ちょっとそこの公園に寄っていかない? お腹いっぱいで、ちょっと苦しくて」
「ああ、わかった」
いつしか夕闇が迫っていたが、まだ八月の頭とあって空は明るかった。それでも俺たちは夜蛾のように、点きだした街灯の青白い光に誘われてしまう。灯下のベンチを目指したのは入口から近かったこともあるけれど、なによりそこが落ち着けそうだったからだ。
真衣がベンチに腰を下ろすと、俺も少し間隔を開けて彼女の隣に座った。
「今日はごめんね。色々と変なことに付き合ってもらっちゃって」
ショートパンツから覗く白い脚をプラプラさせながら、真衣はそう言う。
「別にそんなことはねえよ。あれはあれで興奮したし、真衣だってそうだったろ?」
「ふふっ、まあね」
彼女は曖昧に笑って、明後日の方向へと目をやった。思い出して、今さらながらに恥ずかしくなってきたのだろうか。その頬は少し赤らんでいるようにも見えた。
そのまましばし、会話が途切れる。
居心地がいいとも悪いとも言えない。そんな沈黙の中、俺は暗がりの向こうに見えるブランコを視線でなぞりながら、会話の糸口を探していた。
「……逆に、こっちこそ悪かったな」
「えっ?」
「さっきのなりきりプレイ。そういう設定とはいえ、調子に乗って結構きつい言葉を使ったからな。一応謝っとくよ。……あと、尻にローター突っ込んだことも」
重々しく口にした謝罪に、こちらに向き直った真衣はきょとんとしていた。だが、やがて「ぷっ」と吹き出し、ケラケラと笑いだす。
「わ、笑うなよ」
「ごめんごめん……でも、何? 亮太ってば、そんなこと気にしてたの?」
「……そりゃあな。合意とはいえ、あんなレイプみたいなことしたんだし」
「ははっ、やっぱりそういうとこは真面目だね~。私なんか、むしろ感心してたよ。結構嫌な役回りだったのに、あんなにノリノリで演じてくれて。別に犯され願望とかあるわけじゃないけど、あんなふうに自分の身体を好きにされるのって正直興奮した」
口元に柔らかな微笑みを浮かべ、真衣はなんの屈託もなくそう言い切った。
それはきっと嘘偽りない感想だったのだろう。少なくとも嫌な思いをさせなかったのは確かなはずで、俺は一安心する。ただ、内容が内容ゆえに素直に喜ぶわけにもいかず、結局眉間に変な力が入ったまま「そうか」とだけ口にした。
「あっ、でも、お尻を急に弄られたのだけはビックリしたかな。痛くはなかったんだけど、自分でも全然触ったことない場所だったから」
「ああ……すまん。そこは反省する」
「んん~? まあ、亮太が興味あるって言うなら、今度試してみてもいいよ。私のアナル」
「……マジ?」
大胆な提案につい食いついてしまうと、真衣はニヤニヤしながら肩をすくめてみせる。
「マジのマジ。でも、最初はゆっくりと慣らしてからね。私もそっちの経験はないし、亮太のおちんちんはただでさえ凶器みたいなもんなんだから」
「おい待てって。本気なのかよ」
「逆に、これが冗談言ってる目だと思う?」
ベンチに背中をもたれた彼女は、余裕たっぷりの態度を示す。言われたとおりに目を見ずとも、この場限りのリップサービスではないことは明々白々だった。
「……わかった。実際にやるかどうかはともかく、今度までに色々と調べとく」
「うん、よろしく。……ってことで、亮太の様子がおかしかった原因は以上かな」
「そうだな……って言いたいところだが」
「ん? まだ他にも何かあるんだ?」
爽やかに小首を傾げ、真衣は俺の顔を覗き込んでくる。その整った顔立ちに気圧されたわけではないが、俺は言うか言うまいか、直前になっても悩みに悩んだ。
すると、いつまでたっても口を開かない俺に代わり、真衣が何気なく核心を突いた。
「もしかしてさ、私がさっきのプレイで元カレの名前出したことだったり?」
「えっ……そ、それは……」
まだ一言も話していないというのに、どうしてそれがわかるのか?
それとも俺が気づかなかっただけで、気取られるような行動をとっていた?
答えの見つからない問いが去来する中、彼女は簡単げに正解を明かす。
「だって亮太、私が『ハルキ君』の名前を出したら、顔色が変わってたもの。そこからだったよね? 私に元カレより亮太がいいって言わせようとして、しつこく寸止めを始めたのも。あんなに徹底して虐められたのは初めてだったから、少し驚いちゃったよ」
愉快そうな笑みさえ交えつつも、それはあまりに的確な指摘だった。何も言えなくなった俺は、ただ不細工に口をもごつかせることしかできない。そんな様子を肯定の意味にとったらしく、「やっぱりそうだったんだ」と真衣は言った。
「つまり亮太は、私が元カレの名前を出すのがすごく嫌だったわけだ。たとえ演技だってわかってても、いつもの冷静さを忘れるくらいイライラしたんでしょ? そうじゃなきゃ、あんなふうに女の子を屈服させるようなこと、キミは絶対にしないものね」
「……なぁ、やめてくれ。全部言葉にされると、余計に恥ずかしくなる」
「ぷっ、くくっ……何? もう降参?」
「降参もなにも最初から戦う気もねえよ。もう好きにしてくれ」
「ははっ、素直でよろしい。でもまさか、亮太にジェラシーを抱かれる日が来るなんて思ってもなかったよ…………うん? ジェラシー?」
先ほどの意趣返しのように俺をやり込め、満足そうに笑う真衣。
だが、ふと何かに気づいたように口元へ手をやると、やにわにこちらへと向き直った。
「何だよ? 俺の顔に何かついてるか?」
「い、いや、そうじゃなくて。ただの勘違いなのかもしれないんだけど」
そこで彼女は落とした視線を彷徨わせ、おずおずと確かめるように聞いてくる。
「……亮太ってさ、ひょっとして私のことで元カレに妬いてた?」
そのときの真衣の顔は、今まであまり見たことのないものだった。
湧き出る好奇心と、それと同じくらいの不安が同居した表情。
俺はなんと言って答えていいのかわからないまま、しぶしぶ首を縦に振った。
「……それって、マジ?」
「マジもなにも、今頷いただろうが」
「それはそうなんだけど、でも……」
もはや隠し立てすることも叶わないのは明らかだ。俺はこの際だと思って、胸の奥で渦巻くモヤモヤをすべて吐き出してしまうことにした。
「まあたしかに見苦しいもんだよ、男の嫉妬なんて。しかもとっくに別れたって知ってる相手にだぜ? こんなの気づかれたくもなかったんだが、つい意識しちまったみたいだ。それに第一、俺たちはセフレって関係なのにな。こんな気持ちになるなんて、俺って本当にどうかしてる」
真衣の過去にちらつく元カレの影と、それに対する黒い感情。
所詮はセフレでしかないというのに、つい執着心を露わにしてしまったことへの後悔。
そして、そんな情けない自分を曝け出すことさえできないという自己嫌悪もあった。
それらを口にしながら俺は、
(もしかすると、真衣との関係はこれで終わりなのかもしれないな)
と薄っすら感じていた。
身体だけの付き合いである彼女に対し、持つべき以上の想いを抱いている。これは言い換えれば、今まで辛うじて成立してきた関係性が大きく揺らぐことを意味していた。
もちろん楽観的に考えれば、二人の仲が『進展』する可能性もわずかに存在する。
しかし、それはない。
根拠はないが、確信に近いものはあった。
俺たちはこれまで、お互いのことを深く知ってきた。
けれど、それは結局身体だけ。それ以外のことは表面的にしか知らないのだ。
そんな俺たちが、今さら恋人同士になるなんて……。
おそらくこんなことを口に出せば、日頃は気さくな真衣にも一笑に付されてしまうだろう。それくらいなら、こうして正々堂々と醜態をさらし、審判を仰ぐ方が潔い。
そう思い、さながら介錯される覚悟でいたのだが――。
「……あれ、真衣?」
返ってくるはずの声が一向に聞こえず、俺は逸らしていた視線を隣に戻した。
するとその瞬間、俺の肩にポンと重みが乗る。ついさっきまで距離を置いて座っていたはずの真衣はいつしか俺のすぐ横にいて、無防備に頭を預けてくれていた。
「へぇ、そっかそっか。亮太ったら、嫉妬してくれてたんだ。ふ~ん、へぇ~」
鼻歌を口ずさむような、彼女の楽しそうな声音が聞こえる。
一方、予想外の事態に戸惑う俺だったが、まさかさらに拍車をかける一言が飛んでこようとは夢にも思わなかった。
「じゃあさ。今夜これから、生でエッチしてみない?」
「……は?」
一体、何がどうしてそうなるのか。
まったく真意が見えないながらも、現金な俺はその誘惑に胸を高鳴らせてしまっていた。
***
「んっ、しょ……はぁ、涼しい」
クーラーをつけっぱなしにしていた部屋に戻ると、真衣はすぐに服を脱ぎ出した。Tシャツとショートパンツの下から露わとなったのは、セクシーな黒下着。反射的にちらりと見やった俺は、その美術品のような背中にもう一度だけ尋ねた。
「……なぁ、やっぱり本気なんだよな」
「やっぱりって、さっき歩きながら全部説明したでしょ? 私がいいって言ってるのに、まだ不安? 亮太だって、あれで一応は納得してくれてたじゃん」
「いや、それはそうなんだが……」
否定できないままモゴモゴと言葉を濁しつつ、俺もつられるように服の裾に手を掛ける。
その脳裏では、数分前までの会話がはっきりと思い出されていた。
『――アフターピル?』
思ってもみなかった単語に俺が聞き返すと、真衣は『そう』と言って頷いた。
『一応念のために持ってたやつなんだけどね。使用期限がもう今月までなんだ』
決して聞き捨てならない重大な告白だった。そのはずなのに、彼女はまるで期限が近づいた食材の使い道を思案するかのごとく、暮れなずんだ空を見上げる。
『前に愚痴っちゃったことがあったでしょ。私の一人目と二人目の彼氏。あんな人たちと付き合っちゃったら、自己防衛のために備えもしたくなるんだよね。ま、幸いにもその後は使うようなこともなく今に至るんだけど』
衆目を惹く端麗な容姿のみならず、芦原真衣はその内面までもが美しく磨かれた女だ。だがそんな彼女をして、『あんな人たち』と言わしめる男たち。彼らこそが真衣の絶望的な男運のなさを裏付ける、いわば黒歴史のような存在だった。
俺も事の次第を聞いただけでしかないが、それでも十分同情に値するほどだ。
まず初めての恋人は高校時代、部活の外部コーチだった年上の男。当時から大人びていた真衣は、どうやら同学年の男子には惹かれなかったらしい。落ち着いた大人への憧れが高じて告白し、見事成就。その後は周囲に隠れて交際を続け、愛を育んでいたという。
しかし、そんなあるとき事件が起きた。恋人が別の指導先で女生徒を妊娠させ、その両親から訴えられるや否や姿をくらませたのである。
そのときの真衣の心情といったら如何ばかりだっただろう。信頼していた相手に浮気という形で裏切られ、しかも男として最低限の責任すら果たさないクズだと気づかされたのだから。彼女がまだ身体を許していなかったのは不幸中の幸いだったが、そんなのは大した慰めにもならなかったはずだ。一時的な男性不信に陥ったというのも頷ける話である。
それから月日が流れ、傷心も幾分か癒えた高校最後の夏。部活を引退した彼女は、今度はクラスメイトの男子から告白された。
なんでも彼は男子バスケ部の主将で、以前から仲も良かったらしいのだが、前述のトラウマもあって当初は断っていたそうだ。それでも相手は諦めずに情熱的なアタックを繰り返したものだから、最終的に真衣が根負けする形で交際がスタートした。
『とはいっても、最初はなかなか恋人としては見れなかったんだよね~。一緒にいて案外居心地は良かったんだけど、あくまでもいい男友達って印象でさ』
およそ半年前、初めての宅飲みの席。真衣は苦笑いしながら懐かしんでいたが、実のところ相当気を許していたようだ。受験勉強で忙しい中でも時折デートに出かけたことを語る口ぶりからは、それが十分に感じられた。
あるいは初体験を済ませたのも、おそらくはこの頃だったのではなかろうか。
彼女は明言しなかったが、そうでないとその後の展開の辻褄が合わなくなるからだ。
『……けど、ね。その彼の態度が段々とおかしくなってきたんだ。私に対する愛情というより、執着が強くなったような感じ? 私が他の男子と話したとか、一人でどこかに出かけたってことに異常にこだわるようになって。それで、私自身も少し距離を置くようにはしたんだけど……』
と、そこまで話したところで真衣は急に口を噤み、気まずそうに目を伏せた。あとはボソボソとした口調で、『彼が大学受験に失敗したのを機に別れた』とだけ言ったが、それだけでない何かがあったことは明らかだった。
第一、相手に何も問題がなければ、受験の失敗くらいで恋人を見捨てる真衣の姿が想像できなかった。短い付き合いだが、彼女がそんな薄情者ではないことくらい今ではわかる。
この話を聞いた当時の俺は、しかし何も言ってやれなかった。
まだ童貞だったころで、そもそも色恋沙汰の経験もない。そんな男がいくらわかった風に言ったところで、的外れな助言になるのがオチである。ならば沈黙を守り、ただひたすら耳を傾けるのが精々俺にしてやれることだと思ったのだ。
――とまあ、それが俺の知る真衣の不幸な恋愛遍歴のすべてだった。彼女が避妊に人一倍厳格なのもその過去ゆえと承知しており、俺も全面的に協力していた。
だからこそ、そんな彼女が急に生セックスに誘ってきたことには強い違和感がある。たとえアフターピルがあるとはいえ、その使用期限が迫っているという理由だけで完全にゼロではないリスクを冒すとは考えにくい。
『……どうしてなんだ?』
『うん?』
『どうして、生でしようなんて気になった? 今までのお前だったら、絶対にそんなこと言わなかっただろ。さっきコンドームから漏れたかもしれないからピルを使うってのはわかるが、だからって――』
『じゃあ逆に、亮太は私と生でしたくないの?』
『……いや、それは』
真衣の問いに、俺はつい言葉を濁してしまう。ぐずぐず言ってはいるが結局のところ、本音ではその提案に乗りたかったのだ。なんとも情けない限りだが、一人の健康的な男子である以上は致し方ない。
『ほら、やっぱり。亮太もしたいんでしょ? 私も一回試してみたかったから、同じだね』
『試すって……そんな言い方は』
その軽すぎる物言いに俺は眉を顰める。だが真衣は一向に気にせず、くすりと笑ってさらに続けた。
『もちろん、私だって誰にでもこんなことする軽い女じゃないよ。今まで一緒に過ごしてきて、亮太相手なら大丈夫だって信用してるからお願いしてるの』
『……っ。なんだよ、それ』
まるで理解できないといったように肩をすくめながら、俺は顔を逸らした。
だが、本当は心の底から嬉しかった。気を抜けば口元もニヤけてしまいそうだ。
俺たちは想いを通わせた恋人同士ではなく、ただ性的快楽を分かち合うため友好関係を築いているに過ぎない。そんなつながりの中でも、真衣は俺に信頼を寄せてくれた。
その期待に応えてやりたいと、素直に思えた。
おそらくそこには俺自身の欲望や屈託も乗っかっているだろうが、彼女だってわからないはずがない。それすら込みで求めてくれるのだと、次の言葉が語っていた。
『今日は一日中頑張ってくれたからね。だから、そのお礼をさせて。嫌な気持ちにさせた分も私にぶつけていいから、二人で一緒に初めての生セックスしよ?』
そう言って真衣が重ねてきた手を、俺はぎゅっと握りしめた。
互いにじっとりと汗ばんだ手のひら。だがそれは、夏の夜の暑苦しさだけによるものではなかっただろう。俺たちはそろって腹の奥底で疼くような熱を感じていたのだ。
今夜はきっと長くなる。俺はそう確信していた。
***
とうに太陽は沈み、それでも夏の残照がカーテン越しに差し込む部屋の中。
昼間の行為の痕跡が色濃く残るベッドの上で、俺たちは生まれたままの姿になった。
「……何? そんなに私のこと、ジロジロ見て」
何となく気恥ずかしさを感じ、視線を落とす。その行方に気づいた真衣の一言に、俺は取り繕うこともなく本心のままに答えた。
「いや、なんと言うか、その……綺麗だなって思って」
「ふふっ、何それ。今さら童貞君みたいなこと言うんだね」
呆れたように笑う。だが、そんな彼女だって人のことは言えなかった。
「そういうお前だって、俺の身体見てただろうが」
「あ、流石にわかっちゃう? いやぁ、気づかれないようにしたつもりなんだけど」
真衣は自嘲するように肩をすくめる。けれども舐めるような視線はそのままで、俺の方だって小馬鹿にされたわりには顔を逸らさなかった。
今さら言うまでもないが、互いの裸なんてもう見飽きるくらい見てきたはずだ。なのに向き合った俺たちは手を出すことも忘れ、自然と相手の身体に見入ってしまっていた。
まるで最初の頃に戻ったよう、と言えば言い過ぎだろうか。しかし、既視感に近いものはあったし、いつしか奇妙な空気が漂い始めていたのもまた確かだ。
「……なんだろ、いつものエッチよりちょっと緊張するかも」
「だよな、俺もだ。大した違いなんてないはずなのに」
「亮太はどう思う? やっぱり生だと、ゴム着けてるときとは違うのかな?」
「さあ、どうだか」
そう言いながら後ろ手をつく。突き出すような形になった股座に、真衣の熱っぽい視線が絡むのを感じた。
「……もう、いいよね」
「ああ、いいぞ」
陰茎は既にいきり立ち、反り上がった角のようになっている。
身を乗り出しながら尋ねてくる彼女に、俺はあえて「何が?」とは問わなかった。
「じゃあ、お言葉に甘えて……んっ」
俺の一言に彼女はすっと目を伏せ、そのまま身体を前傾させて腹ばいになる。そうして胡坐をかいた股間に頬を寄せると、鼻先を肉竿の根元に埋めて大きく息を吸った。
「はぁ、ん……ここ、亮太の匂い、すっごく濃い……」
クンクンと子犬のように可愛らしく鼻を鳴らし、蒸れた陰部の匂いを嗅ぐ。そんな彼女の頭を撫でてやると、潤んだ双眸が甘えるように俺を見上げてきた。
「あは。私、この匂いだけで濡れてきちゃいそう……ねえ、フェラしてもいい?」
「いいけど、俺だけしてもらうってのもな。真衣のことも気持ちよくさせたいし」
「そう? なら、舐め合っちゃおうか」
にこやかにそう言うと、真衣は「よいしょ」と身を起こした。四つん這いのまま後ろを向き、こちらに尻を向ける。意図を察した俺が仰向けで横になれば、股間を顔の上まで持ってきて、そのままゆっくりと腰を下ろしてきた。
いわゆるシックスナインといわれる体勢。今までも何度か試したことはあるが、今日はいつにも増して、眼前に差し出された割れ目が美味そうに見える。
「じゅ、ぷ……じゅぽっ、れろ……ちゅ、じゅる……ちゅぽっ」
黒々とした逆三角形を描く濃い目の陰毛と、対照的にツルンと剃り上げられたIライン。肉厚な桃色の秘唇はしどけなく綻び、蜜に濡れた赤みが早くも顔を覗かせていた。
その淫らな花園に目を奪われている隙に、真衣は一足早く口淫を開始する。
いきなり喉奥深くまで咥え込み、目一杯窄めた唇で扱き上げてくる。彼女の巧みな性技は味わうごとに過去最高を更新するものだから、まったく飽きるということがない。
俺は背筋を駆けのぼるたまらない愉悦に震えた。しかし、こちらだけが一方的に快楽を享受するというつもりもなく、対抗するように彼女のクリトリスへ吸い付いた。
「んっ、ふうぅ……じゅ、ちゅる、れろぉ……ぐぷっ、ちゅぷ……っ」
膨らみかけの媚芯を唇で啄ばめば、真衣は一瞬声をくぐもらせる。それでもすぐにストロークを再開し、より一層の情熱をこめて肉茎に奉仕してくれた。下腹部の上では潰れた柔乳が首を振るたびにバウンドするが、まったく気にも留めていないようだ。
俺もまた口で彼女の恥割れを愛でた。舌先で包皮をめくって小突起をほじくり出し、ちゅっちゅっと吸った。同時に指を一本膣内に差し入れて、腹側の襞を撫でる。
これが大層良かったのだろう。真衣の腰が跳ね上がるようにカクついた。それを空いた手で抑え込みながら、俺はさらに愛撫を続ける。段々とフェラチオが疎かになっていく様子から、彼女が感じ始めていることが見て取れた。
「……あぁん、気持ちいい……っ」
たまらず口を離した真衣がうわ言のように呟く。それを聞いて嬉しくなった俺は、今度は指を抜いて、秘所全体に大口開けてむしゃぶりついた。
膣からトロトロと染み出す真衣の味が、舌全体に広がる。その甘酸っぱく、かすかに乳酪の風味をまとった花蜜が俺を酔わせた。もっともっと寄越せと言わんばかりに舌をのたうち回らせれば、彼女も本来の目的も忘れ、身体をビクつかせながら大きく喘いだ。
「んっ、ああぁ……それ好き……亮太に舐められると、おまんこ馬鹿になる……っ」
まさに言葉通り、愛液はまるでダムが決壊したかのように溢れかえっていた。その氾濫ぶりといったら、いくら飲み干そうとしても口の端から滴り落ちてしまうほどである。
俺も今日一日でかなりの回数をこなしたが、それは真衣とて同じだ。だというのに枯れることもなく、交わろうとするたびに女体はたっぷりと濡れてくれる。そこに一種の感動と神秘を覚え、俺は俄かに彼女が愛らしくなった。
「……ごめんね。さっきから私ばっかり気持ちよくなってる」
そのまま無我夢中になってクンニを続けるうち、真衣は軽く達したらしく身体を硬直させた。ぴゅっと短く潮を吹き、腰をわなつかせる。それを休憩がてら見届けていると、やがてすまなそうな声とともに肉棒が咥え込まれるのがわかった。
さながら湯に浸かったような心地よい温かさと、ねっとり絡みつく唾液のぬめり。弾力に富んだ唇が竿肌を滑り、舌先が亀頭冠をちろちろと這い回る感覚に鳥肌が立つ。
さらに根元と陰嚢に手を添えられれば、陰部全体が優しく包み込まれたようだ。そんな状態で射精をせがむように扱かれては、たちまち声の抑えもきかなくなった。
「あぁ、くぅっ……いいぞ、真衣。こんな腰が抜けそうになるフェラ、油断したらすぐにイっちまいそうだ……!」
どんどんと差し迫ってくる射精感に背中が浮き、男根が膨張する。そんな肉体の反応と漏らした弱音が興を添えたのか、真衣がペニスを吸い立てる音はまた一段と高くなった。
しかし、それが続いたのもわずかに数秒のこと。俺が下半身を無意識に強張らせる中、彼女は唐突に口を離し、ホースを絞るように陰茎の根元をきゅっと握る。まるで数時間前の仕返しのような寸止めに、俺はたまらず抗議の声を上げた。
「お、おい。今ここでやめるなって」
「ふふっ。必死におちんぽビクビクさせて、そんなに射精したかったんだ? でも、まだダメ。今夜は残り全部、私の中に注いでもらうんだから」
情けなく腰を突き上げる俺になんとも蠱惑的な一言を残し、真衣は気怠げに身体を起こす。そうしてベッドの上で仰向けになると、膝裏を抱えて両脚を大きく開いた。
半ば天井を向いた秘裂からはグズグズになった赤貝のような媚肉が覗いていた。そこは俺の視線を浴びて嬉しそうに蜜を吐き出したが、同時になお物足りなさそうにヒクつき、己の空白を埋めてくれる何かを探し求めているようでもあった。
「……入れてよ、亮太。私の穴、そのおっきくていやらしいので塞いで?」
「はぁ、あぁ……真衣!」
中性的な美女が蕩け顔を浮かべ、待ちきれなさそうにウズウズと腰を揺らす。そんな姿に悩殺されないわけがなく、俺はすぐさま真衣に覆い被さった。
下腹部にくっつかんばかりに反り返った屹立を押さえこみ、先端を陰裂に添わせる。初めて性器同士で直に触れ合ったそこは灼けるように熱い。真衣も同じ感想を抱いたらしく、
「あぁ、んんっ……キミの生おちんぽ、すっごく熱い……」
と、トロンとした目つきで呟いた。
「入れるぞ、本当に」
「うん……来て」
真衣が両手を広げて俺を求めてくれる。その胸に飛び込むように腰を進めれば、俺たちはいつもと変わらぬ滑らかさで一つになった。
そう。いつもとほとんど同じはずなのだ。
なのに、隔てるもののない交わりは確かに何かが違っていた。