とあるセフレたちの週末 〜繋がりっぱなし交尾で貪りあう二泊三日間〜 作:若菜はかり
【10:00】気怠い目覚めと、愛の睦言 ※
出し抜けに鳴り響いたアラーム音に、俺は重たい瞼をうっすらと開いた。
いつもなら枕元にスマホを置いている。だが今朝は見当たらず、室内を見回せばテーブルの上にあった。這いずるようにベッドから降りて、ひとまずはそいつを黙らせる。
つけっぱなしのクーラーの冷気に起きたばかりの身体が震えた。俺は全裸で、その事実が昨夜の――いや、つい数時間前、明け方まで断続的に続いていた行為を思い出させる。
と、そこまで考えが及んだところで、ふとした違和感に後ろを振り返った。
先ほどまで横になっていたベッドの上。いるはずの彼女の姿がどこにもない。
「真衣……?」
まさか先に起きて、何も言わずに帰ってしまったわけではないだろう。
ありえないはずの可能性が頭をかすめながらも、俺は恐る恐る名前を呼ぶ。
いくら耳をそばだてても返事は一向になかった。ただ代わりに廊下の方から、雨が地面を叩くような水音がかすかに聞こえていた。
そのざわめきに誘われてバスルームへと向かえば、案の定、音ははっきりとしてきた。明かりもついていて、擦りガラス越しには白い裸体が透けて見える。
「はぁ……なんだ、シャワー中だったのかよ」
ほっと安堵の息をつくとともに、俺はそのまま浴室の戸に手を掛けた。真衣もそうだったのだろうが、一刻も早く汗を流したいのはこちらだって同じだ。
「入るぞ」
「うん、どうぞ」
元より足音を忍ばせていたわけでもなかったし、近づいてくる俺には気づいていたのだろう。それにしたってまったく驚きもせず、澄まし顔で振り返った彼女はいつも通りのクールさだ。いっそ憎たらしいほどで、俺は曖昧な苦笑いを浮かべる。
「おはよう」
「おはよう。ごめんね、勝手にシャワー借りちゃってた」
「いいよ別に。それよりこっちも悪いな。上がるのも待たずに勝手に押し入って」
「ふふっ、今さらだね。そんなこと、いちいち気にする仲でもないでしょ?」
すっかりこちらに向き直った真衣は、俺のために後ずさってスペースを開けてくれた。熱い湯が吹き出すシャワーヘッドも渡してくれて、なんなら身体を洗うのを手伝うように、ボディーソープをとった手のひらで俺の腕をさすってくれる。
その間、彼女はまったく自身の裸を隠す気配はなかった。
ふくよかな美曲線を描く二つの膨らみや、その頂点で可憐に色づいた乳蕾も。
きゅっと引き締まったくびれも、一転してむちりと肉のついた太ももや腰回りも。
色素の薄い和毛が繁茂する三角地帯だって、もちろんそれは同じだった。
まるで自分の身体に恥じらうべきところなど一片もないかのように、嫌みのない自信を湛えて、何もかもを俺の眼前にさらけ出してくれる。それでもなお底が知れなく思えるのは、彼女の微笑みに妖しげな余裕さえ感じてしまうからだろうか。
とても同い年の女子が醸し出せるとは信じられない、爽やかながらも濃厚な色香。
いつもならばそれに当てられて、たちまち勃起してしまったはずだ。しかし、今の俺の下半身はぴくりとも反応しない。もうとっくに芯まで抜かれているからだ。
結局のところ、昨晩の俺たちはほとんど眠りもせずに未明まで絡み合っていた。一度綺麗にした身体もすぐに互いの体液でぐちゃ濡れにし、淫臭が色濃く染みついたベッドで飽きもせずに相手の身体を貪り続けた。途中で睡魔に襲われて幾度かの微睡みを挟んだものの、先に目が覚めた方から行為を再開した。そうしてもう空打ちするほどに精を吐き出し尽くし、ようやく満足して泥のような眠りを得たのだ。
だからきっと、真衣の方も誘惑しているつもりなどなかったのかもしれない。ごく自然な立ち居振る舞いが彼女本来の魅力を引き出しただけ。
そのことに気づいてしまえば、なんの罪悪感も焦りもなかった。
「あ~あ、終わっちゃったね」
「そうだな」
「スッキリした?」
「ああ、もちろん。真衣の方は?」
「大満足。これでしばらくは大丈夫そう」
お互いの肌を泡濡れの手で洗いながら、ぽつりぽつりと言葉を交わす。
俺は昼過ぎからバイトが入っていたし、真衣も叔母夫婦の店を手伝う予定があった。試験明け二泊三日のセックス三昧と当て込んでいたものの、済んでしまえばあっという間だ。
一つ誤算だったのは、やはり昨夜頑張りすぎてしまったことだろうか。本当は今朝も時間ギリギリまで粘るつもりだったのに、今や極上の肢体に触れていてもまったくと言っていいほどに性欲が湧かない。代わりに心地よい充足感だけが全身に横溢している。
そうして身体を流し終わったところで、「髪、洗って」と真衣に頼まれた。
髪は女の命ともいうのに、そんな簡単に俺なんかへ預けていいものなのか。疑問ではあったけれど迷いなく引き受ける。それが俺なりの労わり方というやつだ。
背中を向けて椅子に座った彼女の髪に、泡立てたシャンプーを馴染ませる。女性の髪を洗うというのは初めての経験で勝手がわからなかったが、理髪店で店員がしてくれたときの感触を思い出しつつ、細心の注意を払って指を動かした。
「ふふっ。なんだ、自信なさそうだったわりに上手いじゃん」
頭頂部から生え際、耳の裏まで。隈なく泡を塗り広げて髪を梳いていく。真衣の髪は短い方だからまだ良かったが、これがロングヘアだとかなりの苦戦を強いられていただろう。
それでも彼女は満更でもなさそうに、時折頭を傾けながら褒めてくれた。頃合いを見て俺がシャンプーを流そうとすれば少し残念そうにもしたくらいである。
洗い終わりの垂れ下がった前髪を、真衣は慣れた手つきでかき上げた。
その横顔が鏡越しに見える。するとどういうわけか、胸が苦しくなった。
多分、欲情したわけではないのだ。だというのに彼女を抱きしめたくてしょうがない。
いつもの自制心も何故か今ばかりは役に立たず、無意識のうちに身体が動いていた。気づけば腕の中には真衣がいて、その耳元で俺は何も言い出せずに押し黙る。
沈黙はたっぷり一〇秒以上は続いただろうか。
先に口を開いたのは、やはり彼女の方からだった。
「どうしたの、急に? そんな怖い顔しちゃって」
細かな水滴がびっしりと浮かんだ鏡の中、真衣はいつも通り涼しげに微笑んだ。その隣には馬鹿に深刻そうな顔をした俺がむっつりと映りこんでいる。そんな俺たちの組み合わせがあまりにもアンバランスで、耐えきれず俺の口元もわずかに緩む。
「……今から真面目な話しようって思ってたんだよ。いちいちおちょくるな」
「なぁに、真面目な話って?」
勘の鋭い彼女のこと、察しはついているだろうにとぼけてみせるのがわざとらしい。
揶揄われていることは百も承知だった。それでもここで言わなければ、またいつ訪れるとも知れぬ好機を待たなければならなくなる。これではいつまでたっても埒が明かない。
そのくらいなら、と。
俺はもう一度唇を湿らせ、まさに清水の舞台から飛び降りる心地で言葉を紡いだ。
「……色々考えてみたんだけど、もうセフレって関係やめにしないかと思ってさ」
「やめる? 私とのエッチ、もう飽きちゃったってこと?」
「ち、違うって。そうじゃない。俺が言いたいのはもっと……」
気合と決意が空回り、言おうと思っていたことがなかなか言葉にならない。
二十歳も過ぎた男だというのに、なんと情けないことか。
土壇場に弱い自分自身に心底呆れた。だが、いつまでもそうしてはいられず、とりあえずは一度深呼吸をして今伝えねばならない気持ちを必死に整理する。
「つまりは、だな。童貞臭くて非常にダサい話なんだが……俺、こうやって身体の付き合いやってるうちにさ。本当に好きになってたんだよ、真衣のこと」
緊張に激しく弾む胸の奥から溢れ出すままに、俺は一世一代の告白を真衣にぶつけた。
そこに確かな勝算があったわけではない。この半年間、俺たちは次第に深い仲にはなっていたけれど、所詮は身体が目当てのセックス・フレンドである。湿っぽい恋愛感情を持ち込むには、あまりにもドライな関係性だ。
それでもあるいは、初めは肌を重ねるだけの付き合いだったのに、段々と気持ちも絆されていって……という可能性は無きにしも非ずかもしれなかった。
しかし、真衣の他に女性経験皆無な俺にそんな機微を感じ取る繊細さなどない。
だからこそ、元より捨て身の覚悟なのだ。
たとえこれで彼女との付き合いが終焉を迎えても本望……とまでは流石に言えないけれど、少なくとも悔いは残らないだろうという自信がある。
だというのに、肝心な真衣の反応がほとんどなかった。口端に曖昧な笑みを浮かべたまま、視線を落として何も言おうとしない。
俺はにわかに焦りを覚え、場を繋ぐように口を動かし続けた。
「急にこんなこと言ってごめんな。もちろん迷惑だってのもわかってる。けど、俺の気持ちだけは伝えておきたかったんだ。今のままの関係を続けるのも良かったけど、それだと真衣を都合よく利用しているみたいで、そのうち自分が許せなくなりそうで――」
結局のところ、俺は真衣とどうなりたいのか。
自分でも話の方向性を見失いそうになりつつも、息つく間さえ怖くて喋り倒す。
するとそのうち、顎を寄せている細肩がピクピクと震えているのに気がついた。彼女はいつしかすっかり俯いてしまっていたけれど、その口元が何かを堪えるように引きつっているのが鏡に映し出されている。
「……ええと、真衣?」
「ん? ふふっ……いいよ、気にせず続けて?」
「おい」
あくまでもシラを切る態度に軽く頭突きを食らわせると、それがきっかけになったのか、真衣はくつくつと抑えていた笑い声を漏らし始めた。
一方の俺は、途端に肩から力が抜ける。
いや、最初からわかっていただろうに。面白がられていることなんて。
単純な自分がつい前のめりになっただけで彼女はいつも通りなのだ。真面目に受け取ってもらえなかったことは恨めしいけれど、俺たちの関係なんて初めからそんなものだ。
そう思えば、ぎゅっと包み込むように真衣を抱きしめていることすら何だか気恥ずかしい。奇妙な空気を誤魔化すように、俺は身体を離しかけて――その腕を彼女に掴まれた。
「うん、どうかしたか?」
「どうしたもこうしたも。亮太こそ聞かないの? 私の返事」
――返事をしてくれるのか。
考えてみればごくごく当たり前のことではあったが、俺にはまずそれが驚きだった。
てっきり冗談と笑って流されるかと思っていたのに。あるいは彼女がこれからも今まで通りの関係を望んでいるのなら、そんな躱し方もあったはずだ。
にもかかわらず、今この場ではっきりと答えを聞かせてくれるという。
俺はごくりと唾を飲み込んだ。再び緊張感が戻ってくる。
「実は私もね、この半年間、キミと一緒にいて色々と考えてたんだ」
伏し目がちに、けれど時折鏡越しに俺の様子を窺いながら真衣は続ける。
そんな彼女に心臓の高鳴りが伝わってはいないか。滑らかな背中にぴたりと胸を寄り添わせ、間の抜けた不安を覚えながら俺は静かに審判を待つ。
「――そうしたらやっぱり、好きになってるんだよね。私も。亮太のことが」
そして耳朶を打った一言に俺の全身は総毛だった。
寒くもなんともないのに、身体がブルブルっと震える。
それは紛れもなく、歓喜の震え。
俺が信じられないという目を向けると、真衣は珍しく照れ笑いを浮かべた。それだけで答えは十分だったけれど、彼女はもう一度、気持ちを言葉にしてくれる。
「だから、私も亮太と同じ気持ちってこと。最初はセックスから始まった仲だけどさ、最近はそれだけじゃ物足りなくなってきてるの。今まで以上にキミのことを知りたい。その上でもっともっと好きになって、気持ちいいことも幸せなことも一緒に経験したいって、そう思ってる」
肩越しに回した手の甲に、真衣の小ぶりな手のひらが重なった。思いが滔々と語られるたび、その手指からじんわりとした熱が伝わってくるように思える。
その温もりはやがて俺の全身へ、心臓が送り出す血の流れに乗って広がっていった。
幸福感というのだろうか。それとも一種の達成感とでも言おうか。
ともかくもそれは、疲弊しきった俺を心地よい熱感で包み込んでくれる。
叶うことならば真衣も同じように感じていてほしいと思った。
だから俺は、彼女の手をなるべく優しく握った。彼女の方からもぎゅっと握り返してくれたのが、なんだか言いようもなく面映ゆく感じる。
「……なんか上手く言えないんだけど。ありがとう、な」
「ううん。こっちこそ」
何も気の利いた台詞が思いつかなくて、ただただ素直に感謝の気持ちだけを伝える。それに真衣は小さく首を振って応えると、おもむろにこちらへ身体を向けた。
ぽってりと潤んだ唇に目を奪われる。彼女の視線も同じく俺のそこへと向かっていた。
今度こそ鏡越しではなくて、直接見つめ合ったまま俺たちは口づけを交わす。
「好き……亮太、好き……」
「俺もだ、真衣……好きだ……真衣」
好き、好き、と。
息継ぎの合間、小さく呟き合いながらキスの回数を重ねる。
そうすれば昨夜、尽きるほどにぶつけあった熱情が再び燃えあがってくるのを感じた。
悠長にしていられる時間などない。そんなのは二人ともわかっていた。それでも絡み合う視線のうちに意思を通わせると、俺たちは立ち上がり浴室を出た。
濡れた肌を拭く時間さえ惜しみ、手を繋いでベッドへと向かう。寝乱れたシーツはしっとりと冷たくなっていたけれど、今はそんなこと何の問題にもならなかった。
***
「ねえ、どうして今朝になって急に告白してくれる気になったの?」
左肩を下にして身を横たえた真衣の背後から、むっちりと密度の高い、それでいて触れればマシュマロのようにほどける美丘を揉みしだく。その一方で甘いフェロモンを立ち昇らせるうなじに口づけていると、彼女はふとそんなことを聞いてきた。
「どうしてって、そりゃあ……自分の気持ちが改めて確認できたから、だろうな」
「んっ……改めて? なんかあったっけ、昨日」
左手で乳房を弄ぶのをやめないまま、もう一方の手をそっと股間へと下ろしていく。ふんわりとした茂みを探ると、柔らかくて熱を帯びた陰唇がねっとりと涎を滲ませていた。
その糸引く感触を愉しみながら、俺は自嘲の笑みを浮かべて彼女の耳元で囁く。
「金曜日からこっち、ずっとセックスしっぱなしだっただろ。特に昨日の夜は一晩中ヤリまくった。もう精液が一滴も出ないくらい吐き出して、それでも真衣が好きな気持ちが変わらないのを確かめたから、今朝告白しようって思ったんだ」
「ふ~ん、なるほどね。じゃあ、性欲抜きで私のこと真剣に考えてくれたってわけだ?」
「そういうことだな。何しろ今までが今までだし、俺自身も真衣を本当に好きなのか、実際はただ抱きたいだけじゃないのかってこと、よく見つめ直さなきゃならんかった。その分時間もかかった上に、こうして二人ともヘトヘトになっちまったけどな」
「ははっ、別にいいのに。でも、やっぱりそういうとこ真面目だよね、亮太は」
「そうか? なんか違うと思うんだが」
どうやら好意的な勘違いをしてくれているようだが、こんなのは結局、臆病者の逡巡であったに過ぎない。それに真面目と評されるほど人間ができているとも思えなかった。なぜなら今こうして話しながらも、俺は欲望のまま真衣の秘部をまさぐり続けていたからだ。
けれども彼女はそんな俺のがっつきすら好ましいようで、股を開くように片膝を立てて触りやすくしてくれた。肉ビラがくぱりと綻び、指先が自然と膣の浅瀬に沈む。そこを小刻みに掻き混ぜてやれば、空気を孕んだ愛液がくちゅくちゅと卑猥な音を立てた。
「んぅ……あぁ、そこ……っ」
「ならさ。逆に聞くけど、真衣はどうしてオーケーしてくれたんだ? こんな関係の相手、今までの恋愛経験からすると真っ先に彼氏候補から外れるだろ」
「えっ? いや、う~ん……そう言われれば、確かにそうなんだけどさ……あんっ」
まさか聞き返されるとは思っていなかったのか、真衣はらしくもなく言い淀む。
愛撫に身を捩りつつも幾度か頭をひねり、「う~ん」とか「ええと」とか唸っていたが、そのうちようやく考えがまとまったようで口を開いた。
「……正直言うと、明確な理由なんてないかな。気づけばもっと一緒にいたいって思うようになってたし、全然タイプでもなかったのに亮太ならいいかもってなってた。ちょっと大げさな話、今までの男性観を全部ひっくり返された――みたいな?」
「何だよそれ。はっきりしねえな」
「だったら、こっちも聞くよ。小動物系女子が好きな小坂井亮太クンは、どうして私みたいにデカくて、可愛げもそんなにないような女に惚れちゃったのかな? ……あ、さっき答えただろってのはナシね。あれは告白することを決めた理由だったから」
後頭部に目でもついているのか、喉元まで出かかった答えを直前で真衣に阻止される。
すると俺ははたと困ることになった。つい先ほどの彼女を真似て首を傾げてみるけれど、一向に別の答えが見当たらない。
――いや、好きになった理由が全くないわけではないのだ。
しかし、それらは例えば『一緒にいて居心地がいい』とか『話のレベルが合う』とか、あるいは単に『身体の相性がいい』なんていう諸要素でしかない。まとめて一言で言えるような決め手は、考えてみると案外思い浮かばないのだ。
「ほら、でしょ?」
俺の長い沈黙を真衣はギブアップの意として受け取ったようだ。してやったりといった調子でそう言うと、後ろ手に勃起したペニスをゆるゆると撫でさすり始める。
それは先ほどから彼女の豊かな臀部に突き刺さり、先端からカウパー液をトロトロと溢れさせているところだった。その上に繊細なタッチで弄ばれ、高まる期待と淡い快感に剛直の度合いは否が応でも最高潮に達していた。
「……こんなガチガチにしちゃって。もう大丈夫そうだね」
彼女自身の濡れ具合と、俺のペニスの硬さ。
それらを比べあった一言を合図として、俺たちは体勢を変えにかかる。
「私が上で動くよ。疲れてるだろうし、亮太はじっとしてていいから」
仰向けの俺に跨った真衣は片膝を立て、屹立の先端を自らの窪みにあてがいながら囁いた。直に触れたそこはやはり焼けるように熱く、餡のようなとろみを溢れさせている。
そして、体重をかけるようにゆっくりと腰を下ろされると、
「うっ、くぁ……っ」
「あぁ、はぁん……亮太の、奥まで入ってくる……っ」
俺の欲望の塊はじゅぷりという音を立てて彼女の膣に呑み込まれていった。
まるで刀身が鞘に収まるようにその流れは自然だった。ただ心地よい摩擦感だけが互いの粘膜を痺れさせ、俺たちは揃って随喜のため息を吐く。
そのまましばらく真衣は動かなかった。
あるいは、動けなかったというのがより正しいのかもしれない。
ぴったりと隙間なく嵌りあう凹凸はそれだけで心地よく、心も身体も満たしてくれる。きっと彼女だって俺と同じように感じていたはずだ。
「……亮太」
一瞬感極まったように裸体をぶるっと震わせて、真衣は俺の名を口にした。
その声はひどく切なげに聞こえた。実際、彼女はそうしないと耐えられないかのような必死さで俺に覆いかぶさると、すがるように唇を求めてきた。
俺もそれに応える。伸ばした舌から先に触れあい、俺たちは貪るようなキスをした。
「んぁっ……ちゅ、る……れろ……ちゅぷ、ん……亮太ぁ……」
唾液が絡み、淫らな水音が脳内を満たしていく。時折聞こえてくる、鼻にかかったような喘ぎ声が狂おしいほどに愛おしい。そんな自分がもう後戻りできないほどに真衣を好いてしまっているのだと、今さらながらに実感させられる。
このまま抱き締めあい、いつまでも繋がったままでいたい。
快楽が目的ではなく、ごくごく純粋にそう思わされるが、俺が背中に腕を回すよりも先に真衣は身を引き始めた。
「あは。つい、キスしたくなっちゃった」
笑みの裏に名残惜しさを滲んでいるかのようだ。離れた唇の間に銀の糸が架かる。
それがぷつりと途切れると、彼女は実に可愛らしい言い訳を残し、再び上半身を起こした騎乗位の体勢に戻っていった。
「じゃあ、動くね。私もそんなに激しくはできないと思うけど、頑張るから」
「おう。でも、無理はすんなよ」
俺は余裕ぶって真衣を気遣うふりをしてみせた。だが、言葉の端からは今から味わえる肉悦への期待感が見え隠れしていたのだろう。そんな本心を見透かしたように彼女は口角を上げると、グンと腰をしならせてグラインドを開始した。
「あっ、ん、はぁ……っ」
この半年もの間、二人で幾度となく繰り返してきた体位である。その甲斐あってか真衣はほんの二三度の往復でリズムを掴み、たちまち流れるような腰遣いを披露し始めた。
だがその一方、俺はなんとも情けない声を漏らす羽目になる。
なにせ肉幹を根元まで咥え込まれたまま、急にフルスロットルで動かれたのだ。自分の意志で腰を振るのとは違い、予想がつかない分だけ刺激には敏感になってしまう、
「うっ、あ……おおぉ……っ」
「ぷっ、くくっ。どうしたの? そんな可愛い声出しちゃって」
そんな俺に彼女はわずかに息を弾ませながらも、いつも通り爽やかに尋ねてきた。
無論、その間も腰は動かしたままだ。いやむしろ、こちらを暗に追い詰めようとするように前後運動にひねりを加えて、巧みに肉棒を責め立ててくる。
「……いや何も。控えめに言ってたわりに、最初から飛ばしてきたから驚いただけだって」
「そう? 今すごく気持ちよさそうな顔してたけど。本当は感じ過ぎて、喘ぎ声も我慢できなかったんじゃない?」
「よく言うぜ。いつものお前じゃないんだし、そんなわけあるか……うぅ、くっ!」
いかにもな澄まし顔に対抗して、俺も口元をニヤリと歪めてみせる。
しかし、その瞬間を狙われた。グルンと円を描くように真衣が腰を一回転させたのだ。
きつく締まった壺襞に竿肌をザラリと撫で回され、俺の背筋は電撃が走ったように反り返った。とっさに腰が跳ねそうにもなり、喉の奥から声にならない呻きが零れる。
しまったと思ったときにはもう、彼女の得意気な表情が俺を見下ろしていた。
「気持ち良いね。初めての恋人セックス」
「……っ」
その問いに俺は咄嗟に答えられない。せめて表情には出ないようにしたつもりだったが、火照っていく頬の赤みまでは隠せなかっただろう。なにしろ部屋は明るかったし、真衣からの距離ならきっと見逃すこともなかったはずだ。
けれども、彼女はあえてそこまでは指摘しようとしなかった。そして先ほどよりも次第に呼吸を荒くしながら、また元のように滑らかに腰を遣い出す。
「あんっ、あっ、あっ、あっ……」
半開きの唇からは淫らな吐息が忙しなく紡ぎ出されていた。そこにぐちゅぐちゅと肉の交わる音が重なり、晴れやかな午前の空気は湿っぽく淫靡なものへと変わっていく。
どうやら察するに、真衣は俺をイジることには満足したようだ。代わりに軽口は慎み、今度は自身が気持ちよくなるためだけに意識を集中させているようにも見える。
後ろ手をつき、上体を仰け反らせた反動を使って彼女は下半身をリズミカルにくねらせた。その光景に昼間のディルドオナニーを思い出す。さながら俺のペニスを玩具に見立てているようで、快楽を余すことなく堪能しようとする腰つきはどこまでも身勝手かつ貪欲だ。
とはいえ、今回は俺もその恩恵にあずかることができる。
生身で直接触れ合った粘膜がもたらす快感は言うまでもなく。それに加えて、俺に跨ったままに踊る不埒なダンスが何よりもって眼福だった。こんなものをタダで見させてもらってもいいものか、という気にさえなってくる。
「あぁ、真衣……っ」
俺は魅力的な踊り子に声援を送る観客のように、思わず真衣の名を呼んだ。
それほどまでに素晴らしかったのだ。艶めかしく腰を揺らす、愛おしい彼女の姿は。
バスケットボールを通じて鍛え上げられた肢体は、思わず見入ってしまうほどに均整が取れていた。それでいて筋肉がつきすぎてもおらず、女性的な柔らかさをも兼ね備えている。男好きする身体といえばそれで話が終わってしまうが、きっと同性から見ても理想的なスタイルなのは違いないだろう。
小ぶりなメロンほどの乳鞠がグラインドに合わせて奔放に跳ねまわる。浮いたあばら骨と腹筋の輪郭が、躍動の中で妙に艶めかしい陰影をつくっていた。
それは一種の芸術品じみていて、無意識のうちに視線が吸い寄せられてしまう。とっくに精力など枯れているはずなのに、それでもなお沸き立つものを抑えられないのは俺が本心から真衣を愛せているからだろうか?
「んっひぃ、あ、やっ……はあぁ、んぅっ! ……あぁ、ヤバ。亮太のおちんぽ、やっぱり気持ちいい……。いいところに当たりすぎて、腰止められなくなっちゃうよ……」
肉体的にはこの上なく気持ちいいけれど、そろそろ彼女と正面から見つめ合いたい。
そんな一抹の寂しさにも似た気持ちをふと抱いたころ、ちょうど一息入れた真衣が体勢を変え、前傾姿勢で俺の顔を覗き込むように両手をついた。
その表情はすっかり油断しきっていた。
いつもは凛々しい目尻はトロンと垂れさがり、両頬は熟れたリンゴのように赤く色づいていた。半開きになった唇もツヤツヤと潤んで、俺の名を愛おしそうに呼んでくれる。
「ねえ、亮太。気持ちいい? 私だけ感じてるわけじゃないよね……?」
答えなどわかりきっているだろうに、彼女は少し不安げに尋ねてくる。
こんなにも可憐で愛らしい子が俺の恋人になってくれるのだ。
そう思うと改めて実感が湧き、俺の胸は温かな幸福感で満ちていった。